作品タイトル不明
第250話「揺れる世界」
#第250話「揺れる世界」
レンたちが五階層の攻略に集中し、アイドルユニット「トライ・スピア」が自分たちなりに努力していた頃――
世界もまた、大きく動き続けていた。
ダンジョンの氾濫は日本ではまだ数例にとどまっている。しかし、世界全体で見れば事情は違う。
世界に確認されているダンジョンは 2万以上もある。多くの国では日本のようなハンターを常設させる常時監視システムを取ることができず氾濫が発生していた。
日本でも三階層を任せられるレベル4が足りないぐらいだ。国によってはハンターが全く足りない。
特に途上国では深刻な事態となっていた。「ハンター制度」が日本ほど整っている国などごく一部。
それまでは一階層~三階層のモンスターを討伐することでなんとかダンジョンのエネルギー値を押さえダンジョン氾濫を押さえいたが、その常識も覆されダンジョン氾濫を押さえることが困難になった。
今後、更にダンジョン氾濫を押さえようと思ったらハンターを各階層出口に常設するしかないだろうがそれは全く無理。現状ではハンターを増やすしか方法はないが、そんな急には増やすことができないのだ。
なのでハンターが足りない国はハンターを他国に要請している。しかし他国もそれほど余裕がないので厳しい。
日本を初めとして一部の国ではなんとかハンターを常設して常時監視システムをなんとか稼働させているが、それでもハンターは足りない状況なのだ。他国に貸せるはずもない。
国際協調の話は表向き進んではいるがどの国も自国の被害を抑えるだけで精いっぱい。
“余裕がない”というのが世界の現状だった。
そんな中、日本政府は苦しい状況ながらも1つの決断をした。自衛隊を海外に派遣し、他国のダンジョン氾濫を抑えるという行動に踏み切ったのである。
さすがにハンターを常時派遣する余裕はないが、氾濫したモンスターの討伐ならば手伝おうということだ。
日本の軍は自衛隊ということで、戦争のために他国に行くわけにはいかないがモンスター相手ならば戦争ではないという理屈での派遣だった。
これは世界に対して日本の存在価値を示すためのものである。
かつての日本は経済大国として一目置かれていたが今では技術力でも経済力でも存在感は薄れつつあった。
特別仲の良い国も少なく、国際社会での立ち位置は微妙。一応はA国と安保条約を結んではいるものの、いざとなればどこまで助けてくれるかも分からない。
ここ最近の流れを変えるための“アピール”。
それが今回の海外支援だった。単純に言えば日本の協力国を増やすためだ。一応は最大の協力国であるA国と共に動く形にはなっているがA国以外の味方も増やしたいという考えがある。
同時に日本は武器の輸出も開始した。途上国の中にはダンジョンから氾濫したモンスターに対抗する武器が心配な国もあるからだ。
もちろんこの自衛隊の派遣や武器輸出に関して国内では大きな反発が起きた。
「自衛隊を海外に派遣するのは憲法違反では?」
「現状で武器輸出なんて許されるのか? 法律違反になるのでは?」
「戦争へ向かう第一歩だ」
反対意見は毎日のようにニュースを飾り野党も強く政府を追及した。AIを使った戦争を煽るフェイク画像やデマで批判するものも出てきた。ネットを使った情報戦が活発になった。
それでも首相・高泉と閣僚たちは何とか押し切った。共通の敵であるダンジョンの脅威に対抗するためという大義名分のもと、世界協力の枠組みを進めたのだ。
高泉首相は連日のように国民に語り掛けた。
「今回の自衛隊の派遣、そして武器の輸出は戦争のためではありません。他国を救うための行動です。世界の国々は大変なことになっています。ここで比較的余裕がある日本が動かなければ、日本がダンジョン問題で窮地に立った時にどこも助けてくれないでしょう。今は動くべき時なのです」
そうして自衛隊はダンジョンが氾濫したと聞けば世界各国に派遣され、活動を開始した。
様々な国で氾濫するモンスターを鎮圧していった。ある国では救国の英雄のようにもてはやされ、その映像が日本でも流れた。
しかし当然、全ての国が歓迎しているわけではない。日本の軍事的行動を快く思わない国も多い。
例えばA国と世界を二分しているC国などは強く反発。
C国寄りと言われる野党議員は「実は戦争の準備なのでは?」「一歩間違えば自衛隊が戦争に巻き込まれる」「輸出した武器がダンジョン対策に使われるとは限らない。戦争の後押しになる可能性がある」などと批判し、緊張感の中での動きとなっていた。
そして、ひとたび派遣した自衛隊に犠牲者が出れば政府は一斉に叩かれるだろう。輸出した武器が横流しさるような事実が出てきても批判を受けるだろう。
そんな綱渡りの中で、それでも日本は動いた。
世界は変わりつつある。ほんの少しでも判断を誤れば、道を踏み外すだけでなく、人類が滅びへ傾く可能性すらある。
首相・高泉、そして防衛大臣・大泉は日本だけでなく世界を救う必要があるという信念のもとに動いていた。
そうして、これまでの社会ルールでは対応しきれない時代、新しい秩序が必要な時代に世界は静かに突入していった。
それを日本だけでなく世界の人類全てが少しずつ知っていくことになる。