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作品タイトル不明

第196話「朝倉とエリナの密談」

#第196話「朝倉とエリナの密談」

朝倉のオフィスにてエリナは向かいの席に静かに腰を下ろしていた。エリナの要請で予め人払いは済んでおり広いオフィスにいるのは2人のみの状況。

窓の外から光が射し込んではいるが重苦しい空気は変わらない。

テーブルの上には資料の束――その一番上に書かれているのは、「陣馬高原ダンジョン事案」とあった。

「……モンスターの氾濫を押さえたのはレンたちで間違いないわよ。本人たちから直接聞いたわ」

「そうか。やはり、そうだったか。まあそれしか考えられないよな」

朝倉は深く息を吐いた。すでに薄々感づいてはいた。だが、確証を得て顔に緊張が走った。

今回、陣馬高原ダンジョンの氾濫が起きたということで再び管理システム側が大騒ぎになった。再び信じられないことが起きたからだ。

今度は大災害になるかもしれないということで緊張が走った。少なくとも八王子市内など人が多い方面へのモンスターの移動は避けなければいけない。もちろん都内方面への移動は論外だ。

すぐに自衛隊に連絡が入った。しかし自衛隊も、ある程度の準備ができていたとは言え出動までにやや時間がかかった。まずは八王子市近くへ先回りしそこから巡回、自衛隊が現地に到着したのはモンスターが氾濫してから約1時間以上が過ぎた後のことだった。

しかし自衛隊が到着した時にはモンスターがすでに圧倒的な力で倒された後。しかし、どう考えてもおかしい。自衛隊でようやく沈黙させることのできるモンスターを倒せる戦力など日本にはないはずだ。

しかもモンスターが出てきてからわずかな時間、一方的にモンスターが倒されているようにも見え、そこまで激しい戦闘が起きたようにも見えない。とんでもない戦力であるのは間違いなかった。

何が起きたのか?自衛隊だけでなくハンター協会でも各自が情報収集に走ったが何も分からず。混乱だけが広がっていた状況だった。

もしかして今回だけはモンスターが弱かったのか?それにしてもモンスターを倒したのは誰だったのか?情報が錯綜して有力な手掛かりは得られていなかった。

「それで、どうするつもり?」

「正直、まだ考えがまとまっていない。ただ――大臣と総理には報告せざるを得ない。これは国家レベルの問題だ」

朝倉としても対応には困っていた。おそらくはレンたちが氾濫を納めたのであろう。その予測は付いていたがその情報をどうするのか?ずっと悩んでいたのだ。

「で、政治の道具にするつもりなの?」

「いや、さすがにそれはない。少なくとも大臣と総理は分別のある人間だ。レン君たちを表に出せば利用しようとする者が次々に現れる。そうなれば混乱は避けられんことは理解してくれるはず。私としても、それだけは全力で阻止する」

「つまり、大臣と総理にだけ情報を共有して、必要な時だけレンたちに依頼する――そういう形?」

「ああ。いわば“秘密部隊”のような扱いになる。だが彼らに義務を課すつもりはない。あくまで要請ベースだ。基本は自衛隊に任せることになる」

「まあ無難なところね」

エリナは腕を組み、少し鋭い目で朝倉を見つめた。

「それで、使役モンスターの情報公開はどうするの?」

「現時点では非公開を継続する。FS2までしか遷移していない以上、確証のない状態で公表するのは危険だ。それに、この情報が外に出れば、レン君たちの自由は一瞬で奪われるだろう。戦力としてあてにする以上、それは非常に困る。だから俺は彼らを守るつもりだ。もちろんこの情報も大臣と総理には上げざるを得ないがな」

「まあ、仕方がないところね。でも大臣と総理にはしっかりと釘を刺しなさいよ。情報が漏れたら大変なことになるのは目に見えているわよ」

「ああ、もちろんそうするつもりだ」

「分かっているでしょうけど、朝倉さん。あなたがもしレンたちを裏切るようなことがあれば、私もあなたの側を離れるからね。それがたとえ結果論だとしても、いくら事情があっても許さないから注意してね」

朝倉は苦笑を浮かべながら頷いた。

「もちろん、その覚悟でやっているだが、政治の上層部までは完全に制御できん。それは理解してくれ」

「理解できないわ。絶対に問題を起こさないようにしてね」

「ふぅ、相変わらずエリナ君は手厳しいな」

エリナとしては朝倉にしっかりと釘を刺したつもりだ。どんなに最善を尽くしてもどうしようもないケースもあるのだがそれさえも許さないという決意表明。こうなると朝倉としても細心の注意を払わざる得ない。

「あと、上に伝えないという選択肢は?」

「無理だ。調査の手はもう伸びている。どうせ突き止められるのなら、最初から上層部に伝えて封じ込めた方がいい。上に伝えておけば逆に捜査を妨害・攪乱することもできる。調査がレン君たちにたどり着かないようにすることも肝要だろう」

「まあ、それはそうね。伝えるのは現時点ではプラスでしょうね……もちろんそこから情報が流出しないという条件付きだけど」

「きっちりと伝えるが、それは大丈夫だろう。日本にとって彼らは切り札になりうる。仮に情報が流出すれば、国内だけでなく他国までもが動く可能性がある。そうなればさすがに抑えがきかない。大臣も総理も馬鹿ではない。今回の情報は絶対に漏らしてはいけない。それぐらいは理解するはずだ」

エリナとしても朝倉がレンたちの情報を流さないように考えていることには安心した。もちろん全面的な信用はできないが現時点で打てる最善策で進めていると感じたからだ。ならばこれ以上、特に言うこともないだろう。

そこでふと、朝倉が苦笑いを浮かべた。

「まさか、彼らがここまで“日本の切り札”になるとは思ってもみなかったよ」

「そうね。最初に会った頃は、まだレベル2だったかしら。普通ではやらないようなことをしている、変な子だとは思ってはいたけどまさかね」

「ああ。これからも、順調に成長してもらいたいものだ」

朝倉は深く息を吐き、窓の外に視線を向けた。

その横顔を見ながら、エリナは静かに言葉を添えた。

「私も、レンたちの成長を見届けるつもりよ。そして、彼らが潰されないように――守ってみせるわ。彼は日本の希望になりうる存在でもあるからね」