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作品タイトル不明

第185話「日本の対応と新たな体制」

#第185話「日本の対応と新たな体制」

アメリカ、ロサンゼルスでの世界会議を受け日本政府もついに本格的な対応に動き出した。

様々な議題があるが一番大事なのは日本国民を守ること。真っ先に議論されたのはダンジョンの監視体制の強化だ。そしてすでに1つの結論は決まっている――都市部のダンジョンは、24時間体制での監視が必要ということだ。

仮に新宿ダンジョンで3階層のモンスターが氾濫するようなことがあれば首都壊滅もあり得る。数十万人~数百万人単位の被害が出る可能性もある。それだけは絶対に避けなければいけない。

もはや猶予はない。横須賀ダンジョンのような“イレギュラーな事故”が再び起きれば、特に都市部で起きれば、今度こそ取り返しがつかなくなる。

政府はすぐにAIによるリスク分析を導入した。

周辺人口、自衛隊基地からの距離、都市インフラへの影響度など数十項目に及ぶ要素を入力すれば、真っ先に守るべき優先ダンジョンが分かると言うものだ。それであっという間に全国のダンジョンに優先順位をつけていった。

そして、そのシステムを開発したのは御影グループの鷹見の率いるチームだった。鷹見はすでにこういった問題が起きることを予想して動いていた。ダンジョンが何らかのタイミングで活性化するかもしれない。その場合に守るべき優先順位を付けておく必要があると考えていたからだ。

すでにそのシステムの提案を受けていた財閥企業系側の議員の1人がそれを得意満面に紹介しすぐに導入された。

鷹見が率いるチームはまず政府に試作モデルを提示し、その後の試行錯誤でわずか一週間程度で実用レベルまで作り上げた。

政治家たちが右往左往する中、企業が先に動き道筋を付けた格好である。やはり行政はどうしても動きが遅い。成功しても評価されず失敗は大きく減点される。となると、どうしても失敗を恐れるのだ。こういったところは成果主義の民間が早く強い。

AIによる危険度判定はAからEまでの五段階。

人口密集地や基地から遠いダンジョンなどを考慮し危険度が高くなる仕組みだった。もちろん他の要素もある。国民にはとても言えないが政府要人などが多くいる地域は人口が少なくても自然とランクが上がる。やはり政府要人も人間だ。自分も助かりたい。そのシステムはありがたいと感じていた。

まあ、それこそ鷹見の狙い通りなのだが。あっさりと導入された背景にはいろいろな事情がある。

そうして、そのシステムからの回答がすぐに並んだ。例えば新宿ダンジョンはAランク、その中でもトップクラスになる。

会議の結果、AからCランクまでは24時間体制、DとEランクは人が少ない夜12時間体制でのチェックに決定した。

DとEは昼間の監視を一般ハンターの普通の討伐に頼る方針。率直に言えば昼は何もしない。昼間はそれなりに人が出入りするだろうから何とかなるという読みで人が少ない夕方から明け方の夜だけは人員を配置する。危険だが人員不足を考えると仕方がないと判断された。もちろん人員に余裕ができれば割り振るがまずはA~Cのダンジョン優先で動く形だ。

24時間体制となれば、6時間ごとの4交代制が基本となる。

1階層にはレベル2以上のハンターが最低3人、2階層にはレベル3が最低3人、3階層にはレベル4が最低3人――これだけで一巡だ。

つまり1クールで約10人以上、1日では延べ40人以上の人員が必要になる。

予備を含めると、1つのダンジョンあたり100人以上規模のハンターを確保する必要があると思われた。

日本国内の危険度A~Cランクのダンジョンは50を超える。

単純計算で5,000人以上のハンターが必要となり、そのうち少なくとも2,000人程度はレベル4以上が必要だろう。

だが現実には、レベル4以上のハンターは全国で約1万7千人しかいない。

その半数はすでに上位層を目指して活動しており、今回のような業務をするとは思いづらかった。更には引退者も多い。

数だけ見れば余裕があるように見えて、実際にはギリギリの綱渡りだと思われた。あとは実際に稼働させて確認していくしかない。

問題は報酬の割り振りもある。誰もが危険な監視任務を喜んで引き受けるわけではない。政府は1つのダンジョンで1日あたり100万円を上限とする報酬案を出した。延べ40人で1人あたり単純に割れば2万5千円と言う数字になる。

もちろんその人間を割り振る管理者やシステムなど他の費用も必要になる。

現実的にハンターに渡るのは1万円程度になりそうだ。その程度の金額でやってくれるかどうか?

そしてその程度の金額でも単純計算でダンジョン1つで年間3億6,000万円にもなる。国全体で見れば、数百~千億円規模の予算が必要になるだろう。

財務官僚たちが頭を抱えるのも当然だった。しかもいつ起こるとも分からない災害に備えるものだ。監視員という普段は暇で仕方がない仕事に割り振る金額としてはあまりにも大きな痛手だ。

ダンジョン予算として国民が納得してくれるのか?気になるところだが仕方がない。

さらにもう一つの難題――どう公表するか、どの程度の規模で進めていくかも問題だ。

ダンジョンの監視体制を発表し、全国のダンジョンの全てでいきなり1~3階層に人員を配置すれば、国民は不安に包まれるだろう。

「何か起きたのか?」

「横須賀ダンジョンと同じ事故が他でも起こり得るのか?」

SNSではすでに憶測と陰謀論が飛び交っていた。政府としては火に油を注ぐような真似はできない。情報が明らかになれば、最悪、暴動なども起きるかもしれない。

結局、特別な公表はせず危険度Aのダンジョンから段階的に体制を整備していく形に落ち着いた。自然に増やしていくことでなし崩しにする予定だ。

人員的にも余裕があるかやってみないと分からないという事情もある。余裕がなければ、最悪はレベル5以上の人にもお願いする必要が出てくるかもしれない。でもこのランクになると対応する人がいるかどうかも不明だ。

そしてこの混乱の中、情報を得て利権を狙う企業やクランも動き始めていた。

管理する側としては1人ずつの申し込みを捌くのは面倒。信用調査も必要で信用がおけないハンターは入れたくない。1クールをクランのような団体が埋めてくれるのは理想的だ。

クラン側としても「ハンター派遣の中核を担うクラン」として契約を勝ち取れば、莫大な利益が見込めるかもしれない。名前も売れる可能性がある。

共にメリットのある話。

すでに情報の早い、いくつかの企業系クランが動き出した。また公務員側から情報を受けた草クランも動き出し、水面下の競争が始まっていった。

このように大きな動きがあった割に、まだ世間的には比較的静かだった。散発的に情報開示を求めるデモが起きている程度。

しかし、この新しい“監視体制”の導入が、日本のダンジョン社会を大きく変えていくかもしれなかった。