軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第152話「信頼と覚悟」

#第152話「信頼と覚悟」

クラン『白嶺』のオフィスを後にした俺たちは、その足でクラン『暁の牙』へ向かった。

少し久しぶりだが何度か訪れた場所だけに少し慣れてきたようにも感じる。

オフィスに入ると、田嶋さんがこちらを見て目を輝かせた。

「本当に……ルナさん!?」

次の瞬間、テンション爆上がりになっている。

「サインお願いしますっ!」と駆け寄る田嶋さんの頭に、黒澤さんの手刀が炸裂した。

「田嶋、落ち着け。客人だ」

「いたた、何するんですか黒澤さん、痛いっすよ!」

黒澤さんが軽く頭を下げてきた。

「すまんな。うちのは少し前からルナの大ファンでな」

ルナは苦笑しながら「光栄です」とだけ答えた。

ひと段落ついたところで、俺はエリナさんに言われた話をそのまま黒澤さんに伝えた。

――朝倉さんを簡単に信用するな。いろいろな人に意見を聞き、自分で判断しなさい。

エリナさん自身、公務員側の立場ではあるが、全面的に信頼しているわけではない――という内容だ。

黒澤さんは静かにうなずいた。

「そうか、俺もいつかはお前に言おうと思っていたのだが、エリナからそこまで聞いたなら特に言うことはないな。全くその通りだ。おそらく、お前はこれから更に強くなり有名になるだろう。利用しようとする人間は必ず出てくる。だから今から慎重に動け。場合によっては俺を頼れ」

その言葉に俺もひよりもルナも小さくうなずく。

「あと、ルナを見て学べ。ルナはすでに有名人だ。いろいろなところで配慮しているだろう。例えば普段からダンジョンの場所を変えているなどな」

「ルナ、そうなのか?」

「まあ、そうだな。勧誘が面倒ってのも理由の一つだが誰に利用されるか分からない。常に警戒は必要だと思っている。モンスター討伐よりもそっちの方が面倒だ。少なくとも配信する時はかなり注意している。フェイクのために遠出している時に配信することも多いかな」

そのあっけらかんとした言い方に、黒澤さんも苦笑した。

「エリナはお前のことを思って言葉を選んでる。だがな、実際はもっと恐ろしい世界だ。板挟みになって精神を病む奴も珍しくない。およそレベル6を超えると発言力も増す。そうなると利用しようとする連中が群がるんだ」

黒澤さんの声は、いつになく低かった。

「芸能人と同じだと思え。有名人の知名度や金を利用したいと思ってビジネスに誘う奴、マルチ商法などに誘う奴、金の使い道の相談に乗ると見せかけて怪しい投資案件とかに誘う奴などはざらにいる」

「そして狙われるのは本人だけじゃない。家族や知人にも及ぶ。交友関係から責めれば落ちやすい奴もいるからな」

「“父親からは企業側につけと言われ、妻に公務員側につけと言われて鬱になって潰れた奴”もいる。鬱にまでならなくても板挟みになって苦しんでいる奴はかなり多いと思うぞ」

重い言葉に、俺もルナも息を飲んだ。ハンターになったらお金を稼げて有名人にもなれる。輝かしい世界かと思ったらとんでもない。それを利用しようとする人間がたくさんいるらしい。

思えば芸能人もかなり稼いでいたはずなのに歳をとってから破産した人、生活保護を受けている人とかもいたな。もしかしたら周りの人にいいようにされたのかもしれない。

「そういった面倒が嫌で、せっかくレベル7まで上がったのに半ば引退しているような奴もいるな、行方不明になった奴もいる。たまに動画が出てくるから生きているのは間違いないけどな。結局のところ、強くなるほど面倒なしがらみが増えるんだ。綺麗ごとじゃすまない」

「……そんな世界なんですね」

「それだけじゃない。場合によっては立場の違うハンター同士のいざこざもある。仲間の中に一人でも敵意を持つ奴がいれば、連携が崩れて命を落とすこともある。証拠はないが、実際に“消えたクラン”もある。実質的に殺されたのではないかと噂されている奴もいる」

「……怖い話ですね」

「だから、一緒に戦うのは本当に信頼できる仲間だけにしろ。命を預けるんだ。信頼できん奴を入れるな。合同討伐も信頼できるクランだけにしろ」

その言葉は、心に深く刻まれた。

この世界は強さだけで生き残れる場所ではない。信頼、判断、覚悟――それらが揃って、ようやく立っていられるのだ。

思わず俺は矢継ぎ早に聞いてしまった。

「黒澤さんはどうなんですか? そんな世界で嫌にならないのですか? もうやめたいとか思ったことはないのですか?」

そこで田嶋さんが遮るように言い出した。

「あれ、レンは黒澤さんが何故クラン『暁の牙』をやっているのか聞いたことなかっすか?黒澤さんはダンジョンで息子さんを亡くしているんだ」

「だから黒澤さんはそういった不幸になる人を少しでも無くすための活動もしているんだよ。若手を積極的にクランに誘っているし面倒もよく見ている」

「ああ、聞いたことがあります。黒澤さんのクランは良いクランだって声が多いですよね」

「軽くだけどパトロールとかもやっているよ。少しでも助かる命があれば何とかしたいからね。俺たちは黒澤さんに育ててもらった恩もあるけど、その理念に賛同しているからこそこのクランに残ってるんだ」

「おお、それ凄い絆ですね」

「だからレンもレベルやお金の目標を立てるのもいいかもしれないけど何らかの基本理念を持つといいかもしれないよ。そういったものを持っている人間はなんだかんだ言って強いから」

「なるほど、理念ですか……」

「もちろん安易に新興宗教とかに嵌ったら駄目っすよ」

「もちろん、そこは大丈夫です」

俺は笑った。少し場の雰囲気が柔らかくなった気がする。さすが田嶋さんだ。

そして黒澤さんは最後に静かに言った。

「レン、今ならまだ引き返せるぞ。まあレベル5あたりで止めるのも一つの選択だ。その辺りならばそれなりに稼げて、しがらみも少ない」

俺は少し考え、首を横に振った。

「いえ、俺はやります。強くなります。ひよりとルナと一緒に。世界一を目指します!」

黒澤さんはびっくりしたのか、しばらく黙って俺を見つめ、やがてわずかに笑った。

「世界一か、大きくきたもんだな……そうか。ならば、もう覚悟はできてるな。早く強くなれよ、上で待っているからな」

(辞めるとまでは言わないとは思っていたが、さすがに世界一になるとか言い出すとは思わなかったぞ。単なる馬鹿なのか、それとも揺るぎない自信なのか? これはちょっと負けてられんな)

ハンター業界が恐ろしい世界だと分かった。上に行くのは大変だけど上に上がったらそれはそれで大変な世界。

でも俺は決めている。このハンター業界でのし上がるんだ。怖いからと言って立ち止まるわけにはいかない。