軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第108話「協会ロビーでの遭遇」

#第108話「協会ロビーでの遭遇」

(ハンター協会ビルの1階フロアにて)

「司くん、勝手に進めたらまずいって。石動さんに相談した方がいいよ!」

「うるさい! あと1か月でメンバーを1人、レベル4にしないとダメなんだ。――レベリング人材の依頼を出す!」

御影司は焦っていた。あと1か月という期限内に結果を出せなければ、すなわちクランのメンバーから1人のレベル4を出さなければクランリーダーを解任されてしまう。

――それだけはプライドが許さない。そこで何とか金をかき集め申請窓口のある協会ビルへ向かったのだ。1か月という期間では普通の方法では無理、レベリングしかないとの判断だった。

隣で紗月が眉を寄せる。「さすがにそれは駄目だよ、相談してからに…」と再び言いかけたところで、エントランスに人だかりができた。

司と紗月も自然とそちらの方に目が向かう。するとそこには超有名人の高階エリナがいるではないか。2人共に有名人との遭遇に心が躍った。

「司くん、見て! エリナさんだよ! ハンター憧れの“レベル7”に到達した初の女性!」紗月は興奮気味に司に話しかけた。エリナは紗月にとっても憧れの人だ。

「本当だな。ちょっと挨拶していくか」

「えっ、何を言っているのよ。司くん、だめだって、いきなりは失礼だよ――」

紗月の制止も空しく、司は高階エリナへとすたすたと歩み寄った。

「初めまして。クラン『エクリプス』のリーダーの御影司です。レベルは5ですが、近いうち必ず追いつきます。父は御影グループの社長で――」

「あっそ。頑張って」

「だ、だから失礼だってば。司くんが失礼しました、メンバーの紗月と言います。よく言い聞かせます」

「何言ってる、挨拶くらい問題ないだろ。うっとおしいな」

エリナは面倒くさそうにその2人を眺めていた。まあこんな2人はどうでもいい。それよりも早くレンたちがこないかなと考えていた。

今日はレンの定期報告の日、レンたちが朝倉オフィスに行くはずなので協会ビルの1階フロアで少し待っていようと判断したのだ。もちろんしばらく経って来なければ先に行って待っていればいい。

そんな押し問答の最中、ロビーに新たな二人が現れた。

それはレンとひよりだった。

エリナが軽く手を上げる。「レン、来たのね。一緒に行きましょう」

「はい。今日もお願いします」と二人が返事を返す。

それを見た司の表情がさっと変わった。司にとってはエリナがレンと親しげに話しているのは許せない話だ。どうなっているんだという怒りがこみ上げた。

そしてレンに向かって怒鳴るように言い放った。

「ちょっと待て。レン、お前、エリナさんとどういう関係だ!何でお前程度の人間がそんな親しげなんだよ」

「うん? ああ、なんだ御影か。関係って言われても……普通に知り合いだ。それ以上でもそれ以下でもない。まあ間違いなくお世話にはなっているな。エリナさんはいい人だよ」

次の瞬間、司はエリナの方に向き直り吐き捨てるように言った。

「エリナさん、こいつは“ゴミ漁り”って言われてた低レベルの奴です。相手にしない方がいい。俺の方がよほどふさわしい」

ロビーの空気が一瞬で凍った。それはそうだ。

ハンターにとってはレベルと実力が全て。なのに格上のエリナの知り合いに対してとんでもない物言いをする馬鹿な若者がいる。誰もがあれはやばいと思った瞬間だった。

下手をすれば血の雨が降るかもしれない。場がざわついた。よほどの人間でもない限りエリナを止めることなどできない。

エリナは司に一歩だけ近づき、目線を落とさずに言い放った。

「あなた、えっと……名前は忘れたわ。まあ覚える必要もないわね。確か、ようやくレベル5になった“程度”の人間、しかも見た感じレベル5の実力もなさそう。そんな程度の人間が私に向かって何を言ってるの?偉そうに」

「……え?」

「レンは、あなた程度の人間と違って“将来有望な若者”よ。全く比べ物にならない。――今すぐに私の目の前から消えて」

言葉は淡々としているのに、有無を言わせぬ圧があった。それを見た周りはまだざわついている。

司は唇を噛み、「くそっ……紗月、行くぞ」と捨て台詞を残して踵を返した。

(さすがにここでエリナを敵に回すのはまずい――司にもそれだけは分かった。そこで撤退を選んだのだ)

「もう、だから言ったのに……なんでそんなことを」紗月はそう言い残し司と共に去っていった。

言い争い程度で済んだことに周りはほっとした。最悪、あの若造が殴り殺されるのではないかと危惧していた人間もいたぐらいだ。

そうして余韻が落ち着いたところで、レンが頭を下げる。

「すみません。あいつ高校時代の同級生なんです。交友関係も特にないし、今は完全に赤の他人ですけど」

「気にしないで。あんなのどうでもいいわ」とエリナは答えた。

ひよりが小さくため息をついて、レンの袖を引いた。

「――行きましょう」

三人は人いきれのロビーを抜け、高層階の朝倉オフィスへ向かった。

エレベーターのドアが閉まる音がして、ざわめきは遠のいた。