作品タイトル不明
第349話 行商人再訪と、チーズと、牛と
そして、桜の蕾がかなり膨らんで、あと2、3日もすれば咲き始めそうだな、という頃に、エルフの行商、グルターレ商会の面々がやってきた。
村の入口で、どんどん荷物が下ろされて、村人たちが集まってくる。
「お久しぶりです」
ニコニコと笑みを浮かべて挨拶をするのは、カスティロスさん。
今回も胡散臭いお祖父さんの方はついてきていない。
久々のせいか、荷馬車の数が多い。護衛の面々は変わらないようだけれど、行商人として同行しているエルフが増えたようだ。
それだけ、村での商売に期待してるってことだろう。確かに、うちの村には、商店らしいものがないから、仕入れも買取も、遠出になる。それも獣人たちだから可能なんだろうけど。
エルフの臭いに耐えながらも、獣人たちは品物選びに夢中だ。特にママ軍団は生活用品の辺りに集まっている。ドワ―フたちは、獣人の男たちに混じって武器を手にしては、あーだこーだと言い合っている。
私は主に食べ物系を並べているところをゆっくりと歩く。
なかなか見慣れない物があって、面白い。
「サツキ様は、何かご入用ではございませんか?」
カスティロスさんが、私の隣に並びながら問いかけてくる。
買わせる気満々ってところだろうか。
「これって何です?」
私が指さしたのは、見慣れない大きな魚の干物。見た目は新巻鮭みたいだけど、同じものだろうか。
「これは、ラサロっていう魚です。エルフの里近くに流れる川を遡上してくるんですよ」
遡上ってことは、やっぱり鮭に似ているのかも。
「これは薄く切り身にして炙ると、いい酒のつまみになるんですよ」
「あー、わかります」
ちょっとの塩とか、醤油をちょろりと垂らしたりとか。白米で食べてもいいんじゃないの。スーパーで買った鮭と食べ比べしてもいいかも。
それを想像しただけで唾が出て、即、購入してしまった。
他にも変わった果物や根菜類を手にしていると、目の端に入ってきたのは抱えるくらい大きなチーズの塊。いわゆるハードタイプと言われるヤツだ。
前に会社の同僚たちとイタリアンを食べに行った時に見た、ラクレットチーズを思い出す。とろりととけたチーズを茹でた芋やブロッコリーと垂らしていたっけ。
それに、大きな丸いチーズを器に、茹でたパスタをその場であえたカルボナーラ。
あれも、美味しかったなぁ……。
ふと、チーズがあるということは、乳牛がいるということに思い至る。
しょっちゅう飲むわけではないけれど、あると使いたいのが牛乳。一応、あちらで爆買いして、『収納』に保存してはある。
でも。
――もし、牛を飼ったら、新鮮な搾りたての牛乳が飲めるんだろうか。
搾りたてなんて、あっちでも牧場にでも行かないと飲めないけど、こっちでなら、出来ないこともない?
「カスティロスさん、例えば、ここにない物でも、取り寄せみたいなのって、出来ます?」
「ええ。我々の手に入る物であれば、何でも」
自信満々に答えるカスティロスさん。
「例えば、生き物でも?」
「ええ、生き物でも」
「じゃあ、牛とか、そういうのも取り扱ってます?」
「少しお時間をいただければ……確か、最寄りのケイドンの街の近くに牧場があったはずです。そこで買い付けることができたはずです」
そんな近くに牧場があったのか、と今更知った私。
牛乳を買うだけだったら、軽トラで頑張れば日帰りできるか。
でも、いきなり私が行って売ってもらえるかは、微妙。
そもそも、エルフたちは、2,3か月に1回くらいしか来ないし。
「牛、飼います?」
悩んでいる私のところに、ハノエさんがニコニコしながらやってきた。