作品タイトル不明
第177話 古龍、フォレストボアを貢ぐ
ビャクヤの背に乗り、立ち枯れの拠点の入口へ向かう。ユキとスノーは、さすがに古龍との対面ができるほど肝が据わっていないけれど、ビャクヤは違った。もしかしたら、ノワールに慣れたからかもしれないけど。
「五月!」
ぶんぶんと笑顔で手を振る古龍。見た目アラサーのイケメンなのに、振る舞いはちょっとお子様っぽい。それを人はギャップというのかもしれないが、私は騙されないぞ。
「どうも。あの、フォレストボアのお肉は?」
見た感じ、彼の周りには何もない。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
そう言って、いきなり目の前に現れたのは……大きくて立派な木のテーブルに載った肉の塊。食肉加工場の冷凍庫とかでぶら下がっているような、牛の塊みたいな大きさだ。違いがあるとすれば、これは、凍ってはいない。
「え、え、え!?」
「人は、ちゃんと解体しないと食えんのだろ? ほれ、血抜きも出来てるし、脂の乗りもいい。こいつは旨いと思うぞ」
彼も『収納』のできる何かを持っているということなのだろう。てっきり、フォレストボアの姿のままだろうと思っていたので、重ねてびっくり。
古龍曰く、昔、何度も聖女と一緒に、魔物討伐に行ったのだとか。そこで同行していた冒険者や騎士の野営の様子を見て覚えたらしい。
「え、ドラゴンの姿で?」
「そんな訳あるか。ちゃんと人の姿で、解体の仕方を習ったのだ」
どれくらい昔の話なのかは想像もつかないけれど、その当時からこのイケメンの格好だったのか。
いやしかし、それ以前に、解体の仕方を古龍が覚える?
「当時の聖女が肉が好きでな」
大物が獲れると、同行していた連中で肉祭りになったのだとか。
……聖女のイメージが、若干違う。なんか、こう、楚々としたイメージで、むしろ菜食主義っぽいのだったんだけど。
「五月は嫌いか?」
「いえ、肉、好きです」
そんな高級な肉とかは食べたことはないけれど、よくテレビのグルメ番組で高級そうなお肉は何度見たことか。それを思い出して、思わず、ゴクリと喉を鳴らす。
「どうする? ここで焼くか?」
まだ、古龍を結界の中に入れる気はない。しかし、ここは浄化できている場所ではないし、ここでの食事はちょっと嫌だ。
『五月様、あちらの方はどうでしょう』
ビャクヤが顔を向けたのは、山の先の方。フタコブラクダの頭の先に広がっている土地。ここはうちの敷地ではないものの、瘴気の跡はない場所だ。ただ、季節柄、草がぼうぼうに生えている。
「なるほど、では、あそこの草を刈ってしまおうか」
そう言ったかと思ったら、指先一つで、バッサリと草が刈られて開けた土地になった。
「……」
「よし、じゃあ、肉もあっちに持っていくか」
私が唖然としているのをよそに、嬉々としてテーブルを片手で持って、歩いていく。そう、片手で、テーブルの足を1本だけ持って。
なぜ、斜めってないの!?
あれでなぜ肉が落ちない!?
『五月様、行かないのですか?』
「え、あ、うん、そうね」
慌てて古龍の後を追いかける私なのであった。