軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

77.大天使ステラちゃん、帰宅と来訪者

マルクスと、チャーリーと、女性使用人さんのレイチェルと一緒に、馬車で数日。

私は無事、お家のある街まで戻って来たの。

街の入り口に着いたときにチャーリーが連絡をしてくれたらしくって、お家に帰ったときにはパパもママも、使用人さんたちもみんながお家にいて、私たちのことを迎えてくれた。

マルクスとは楽しかったねって言って、お家の前でバイバイして別れる。

ご旅行は二週間くらいだったはずだけれど、なんだか、もっとずっと長く離れていたみたいな感じ。

向こうでも一緒だったヘイデンやイソシギが門のところで荷物やみんなへのお土産を受け取ってくれて、門番のヒノサダと、もう一人の門番お久しぶりのナベテルが『おかえりなさい』を言って玄関まで付き添ってくれて、なんだかすごくホッとする。

女性使用人さんでレイチェルのお姉ちゃんでもあるヴァダは、私やレイチェルを心配してくれていたみたいで、私たちの顔を見ると泣いちゃいそうなお顔で笑って、それから順番にぎゅっと抱きしめてくれた。

最近またぎゅっとしてくれることの多くなったヴァダは、お体がぽかぽか温かくって、ヴァダにぎゅっとしてもらうと私は安心して、お目目がトロンとなって大きなあくびが出るの。

そんな私に笑ったヴァダと別れると、今度はお医者の先生やダニーとポーギーがおかえりを言って迎えてくれる。

お医者の先生は私の体調に変わりがないかって聞いてくれて、私がそれに一つずつ全部答えると、お医者の先生は最後に元気で良かったって言って、頭を撫でてくれた。

それから、ダニーとポーギーが待ちきれないみたいに私のところへ来て、帰ってくる私のために庭師のおじいちゃんがお庭で採れた薬草を煎じた特別なお茶を用意してくれていることや、料理人さんもお菓子を準備してくれてることを教えてくれて、それを今から持ってくるからねって、二人で競うみたいにキッチンに駆けて行ってくれる。

パパとママがお部屋で私を待ってるから、そこで待っててねって言う二人は嬉しそうで、私は大きな声で「うん!」って返した。

いつものみんなが私たちの帰宅を歓迎してくれるのに、私は帰ってきたってお気持ちがむくむくと大きくなってくる。

そうしてなんとなく、玄関ホールをぐるっと見渡してから両腕を大きく広げて、胸いっぱいに空気を吸った。

吸った息をふーーんって、鼻から勢いよく吐いて、そうしたら、私は私のお家に帰って来たんだぞーって、いっぱいの笑顔になったの。

庭師のおじいちゃんのお茶を一口飲めば、スッキリとした渋みのあとに、柔らかくてお茶の甘さが鼻に抜ける。

それから、パパが目の前に差し出してくれる料理人さん特製の焼き菓子を頬張れば、小麦のいい香りがして、甘くてほろりとほどけるそれに、お口の中がとろけてほっぺが落ちちゃいそうになった。

ご旅行でしばらく会えていなかった私とパパとママは、まずは家族の『みずいらず』をしようってパパが言って、今はパパとママと私の三人だけでパパのお部屋に移動したの。

お部屋に入ってすぐ、パパとママはお部屋の真ん中にある応接テーブルの二人掛けのソファーに並んで座った。

私はソファーの横にある、小さなスツールに座るようにと言われたけど、私はもちろんパパとママの間に座ることにしたのよ。

ソファーに座る二人の足を掴んでよじ登ると、二人の間の隙間にぎゅっと詰まった。

その体勢からお尻を左右に揺らしてぎゅっぎゅと隙間にねじ込むと、パパとママの間に私の体がめり込んでいった。

これで完璧だ。

パパとママが笑う。

私は顔を上に向けてパパとママのお顔を交互に見ると、さっそくご旅行の間にあったことを、勢い込んで話し始めたんだ。

「あのね、それでね!」

「うんうん。ゆっくり話してごらん。パパもママも、ステラの旅行のお話を聞くのをすごく楽しみにしていたんだ。思い出したものから順に、これから毎日時間をかけて、全部を教えてくれたら嬉しいよ」

「ご旅行先はとても素敵なところだったのね。ステラのお話、ママももっと聞きたいわ」

話しても話しても、お話したいことはたくさんで、きっと今日だけじゃお話し足りないと思っていたら、パパが全部聞くよって言ってくれる。

私はそれに安心して、楽しかったことから順に、パパとママにたくさんお話した。

「あっ、そうだ! パパにね、アリスのパパからお手紙があるんだよぅ!」

「うん? お友達になったっていう子のお父様かい? なんだろう」

「えっとね、帰ったら、パパのところでお買い物をするねって言っていたよぅ」

「そうか、ありがたいな」

パパに伝えなきゃと思っていたことを思い出した私が、チャーリーに預かってもらっていたアリスのパパからのお手紙をもらってこようと思うのと同じタイミングで、部屋のドアをノックする音がする。

パパがお返事すると、ノックをしたのはお手紙を持ってきてくれたチャーリーだった。

「ご家族でご歓談中に失礼いたします。お早めにお目通しいただくべきかと愚考し、お持ちいたしました」

「いや構わないよ、ありがとう。タイミングもばっちりだ」

チャーリーがパパにお手紙を渡すと、パパは微笑んでチャーリーを褒めてくれたみたい。

チャーリーは私がしたいなって思うことが言う前に分かっちゃうみたいで、いつだってすごいんだ。

「あのね、パパ。アリスのパパは、えっと、侯爵様なんだよぅ。だから、お買い物は王都のお家でするから来てねって、言ってたかなあ」

「っ! そ、そうか……!」

私の言葉に、ぎょっと目を見開いたパパは一瞬固まったあと、手に持った受け取ったばかりのお手紙を表、裏と、まじまじと見た。

私が続けて「アリスに会いに、私も一緒に来たらいいよって言ってくれたんだぁ」と言うと、パパはそれにも少し驚いたあと、ふっと一つ息を零してから、くつくつと肩を震わせる。

それから、笑ったお顔でママを見た。

ママは「ほら、ステラはお友達づくりの天才ですもの」と微笑んで、それにパパは一層嬉しそうに笑ってコクコク頷いた。

「はは。それで? ディーはどうする? ステラのお友達のご家族に、一緒にご挨拶に行くかい?」

「うふふ、 私(わたくし) は今回はご遠慮いたしますわ」

「そうか残念」

パパとママはなんだか楽しそうにお話をして、それから、馬車旅で疲れたでしょうって、ご旅行の続きのお話はまたご飯の時に聞こうねって言ってくれた。

アリスのパパは偉い侯爵様をしている人だし、私のお迎えのためにパパはお仕事を抜けてきてくれているはずだから、きっとこのあとアリスのパパからのお手紙のこととお仕事で、パパは出かけて行っちゃうんだと思う。

私はまだ話し足りなくて、久しぶりに会うパパとママの間にまだまだ挟まっていたくて、私はまだ元気だよ、お話しようよって言いたいかもなあって思って、体の両側にあるパパとママの服の布をぎゅっと握った。

それに気がついたパパとママが、「ああ」「ステラ」と私を覗き込んで優しい笑顔になる。

それから、私がまだ一緒にいようよって、言おうかどうか迷っている間に、さっきお手紙を渡してお部屋から去っていったはずのチャーリーがもう一度お部屋に戻って来たの。

「度々失礼いたします。ただいま、ステラお嬢様にお客様がいらっしゃっておりまして……、実は、お嬢様が旅行に行かれていた間にも何度か訪ねて来られていたようなのですが……」

「私に? 誰かなぁ 」

「レミさまです」

「レミ!」

その名前に、私はパッと嬉しくなる。

レミにも、お土産も、お話したいこともたくさんある。

私は、それならレミもこのお部屋に呼んで、お仕事に戻っちゃうだろうパパの代わりにママとレミとお喋りしたいって思ったんだけれど、そう言った私にチャーリーは眉を下げて、レミがどうしても私と二人がいいって言ってるんだって教えてくれた。

「お嬢様はお戻りになられたばかりですし、今日はお引き取りいただくようお伝えすることもできますが……」

「うーんと、ううん。あのね、私、レミと遊んでくるねえ!」

私は少し考えてから、レミと二人で遊ぶことに決めた。

よく考えたら、パパとママとは今日の夜にもまた会える。

私、もうすぐ六歳のお姉さんになるから、こういう時にはちゃんと我慢ができるんだよって、パパとママに見せたいんだ。

私はパパとママに『みずいらず』またしようねって言って、ブンブンと手を振ってからお部屋を後にする。

部屋を出るとき、さっきお話はここまでにしようって言ってたはずのパパが、一番名残惜しそうにしていた気がした。

「もうすぐあの子も六歳ですもの」

「……まだ五歳だ」

「日々成長しているのよ」

「……そうだね」

二人がそんな会話をしていたのは、部屋を出た私には聞こえなかったけれど、そのあとパパの『ステラの六歳の誕生日は、盛大に祝うぞォ!!』ってお声は、お部屋の外にいてもはっきり聞こえるくらい大きなお声だったんだ。

チャーリーに案内してもらった先にはちゃんとレミがいた。

お客さん用のお部屋で、レミは一人、その姿はなんだか心許なさげに見える。

「レミおまたせぇ」

「ステラ!」

私は待ちくたびれちゃったよねって思って声をかけたんだけど、私が来たことに気がついた途端勢いよく顔を上げたレミは、ひどい顔をしていた。

いつも元気で活発なレミが今は見るからに困り眉で、顔色も悪い気がする。

「レミ、お顔の色が悪いみたい」

「ステラ、あの……っ」

「大丈夫だよぅ、お医者の先生に診てもらおう?」

「ち、違うの……、私、あの…………」

レミは、慌てた様子で椅子から降りると、前のめりに私のところまで駆けてくる。

お元気が無さそうだからお医者の先生に診てもらったほうがいいと思うんだけれど、レミは違う違うって首を振って、それから、私の隣に立つチャーリーを見上げて何か言いかけては口ごもるのを繰り返した。

「ご事情は、やはりステラ様と二人でないと話せませんか?」

「えっと……その……はい。ごめんなさい」

「……どうなさいますか? ステラ様」

「うーんとねえ」

レミは、私がご旅行から帰ってくるまで何度もお家を訪ねてきてくれていたみたい。

それに、レミに会う前にチャーリーが教えてくれた話によると、レミは訪ねてきた時いつもひどく焦った様子で、でも使用人さんたちがお話を聞こうとしても毎回『ステラと二人で話す』って言うばっかりで、帰って行っちゃってたんだって。

「レミのお話が聞きたいからね、だから、チャーリー、お部屋に二人になりたいんだけれど、いいかなあ」

「……承知いたしました。レミ様、聡明なあなたのことです、危険なことをするわけではありませんね?」

「は、はい! 」

「お嬢様は旅程を終えられたばかりでお疲れです。そうお時間を開けずお声がけをさせていただきますので、ご了承くださいませ」

「わかったわ!」

チャーリーがレミに二つ、三つと確認をして、レミがそれにコクコク頷く。

それからチャーリーは私に向かって、今日は短い時間にして、遊ぶのは明日以降にしましょうねって言ってからお部屋を出て行った。

「おまたせだったねぇ。どうしたの? レミ、本当にお医者の先生のところに行かなくて大丈夫かなぁ?」

「ありがとうステラ、大丈夫よ。ごめんなさいね押しかけて……」

「いいよぅ」

私が、私もレミに会いたかったんだよ、お土産もあるよって言うと、レミは困り眉のまま「あんたって、ホント優しい子なんだから……」って、感極まったみたいに目を潤ませた。

それから、キュッと表情を引き締めると、意を決したようにそれを口にしたんだ。

「ステラに、力になってほしいの。私、思い出して……、助けたい人がいて……。でも私一人じゃどうしようもないの……。私の知ってること、ううん、私の“記憶”を、話すから……。お願いステラ。信じられないかもしれないけど、でも、信じてほしいの。こんなこと、あなたにしか話せないの、ステラ……」

レミは、私の手を取ると、包み込むようにぎゅっと握った。

その手はわずかに震えていて、私は状況についていけないまま、びっくりして、目の前で俯くレミのつむじを見ていたんだ。