軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.大天使ステラちゃん、再会する

シドたち三人が、シスターへアイデアのプレゼントをして、シスターはとっても喜んでくれたみたいだった。

それから、ソラがしていたアイデアの説明を聞いていたパパが、シスターに一緒にアイデアを実現しませんかって提案をする。

シスターがそれに前向きなお返事をくれようとしたそのとき、少し大きな音を立てて、救護院の側の扉が開いた。

「シスター! いらっしゃいました!」

扉が開くのと同時、白衣を着た受付の女性が慌てたようにそう言って入ってくる。

現れた女性を見て、ハッとしたシスターが確認するようにパパを見ると、パパは即座に「そちらの優先を」と言って一歩下がった。

にわかに慌ただしくなり、シスターが訪問者を迎えに行くために立ち上がる。

シスターの腕の中から出たあとも、余韻に浸るように立ち尽くしていたシドたちのところに、私は駆け寄った。

「シド、レミ、ソラ。ファウスティナさん、喜んでくれたみたいでよかったねえ」

三人の顔には、少しだけ涙のあとがあった。

私を見ると、三人とも少しはにかんだように笑い、しっかり頷いてくれた。

「ステラ、ありがとな」

「ありがと、ステラ。今の私たちがシスターに喜んでもらえるプレゼントをできるなんて、想像もしていなかったわ」

「ステラ」

シドとレミに続き、私を呼んだソラもやっぱり笑顔だった。

ソラは笑顔も似合うなあってやっぱり思って、私は嬉しくなっちゃう。

「ソラの説明とっても上手だったよ!」

私が言うと、シドもレミも「そうだよ! ソラありがと!」とか「上手だった」って口々にソラを褒める。

それからシドは、ソラが照れるのが新鮮だってからかうように言った。

ふと、視線を感じる。

見れば、レミが私を見ていた。

「?」

私が首をかしげると、レミは少し真剣な顔になっていて、私の耳元に口を近づけてきた。

最初にしたような、小声のこしょこしょ話だ。

「ステラ、帰っちゃう前に、改めてダニーやマルクスの話を聞きたいんだけど──」

パンッパンッ

レミが言い終わらないうちに、手を打つ音が聞こえた。

反射的に音のしたほうを見ると、シスターがたくさん人を連れて戻ってきていた。

「バード侯爵家のご子息、デイヴィス様が視察に来てくださいました。みなさん、お礼を言いましょう」

「「あ り が と う ご ざ い ま す!」」

シスターが言った言葉に、扉の周囲にいた子どもたちが大きな声で返す。

私とレミの目は、現れたたくさんの人の中、その最前に立ち、シスターの案内を受ける少年に釘付けだった。

「あれ……」

私は、バード侯爵家という名前と、彼の容姿に覚えがあった。

金の髪をした落ち着いた雰囲気の少年は、今はルイと同じ九歳くらいだろうか。

すっと伸びたその背は、記憶よりも少し高くなった気がする。

理知的な瞳が周囲の子どもを眺めるように順に見まわし、それから私とレミのいるところまでくるとピタリと止まった。

少年の碧い瞳がゆっくりと見開かれていく。

それに合わせるように、隣にいるレミの口がカパっと開いたのが分かった。

それから、大きく開けたお口から、レミは大声を発した。

「で、で、で、出えーーーーっ!?」

ひっくり返ったようなレミの大きな声に、少年を取り囲んでいた大人たちが緊張し、少年も子どもたちも驚き、そして私は首を傾げた。

「ででで?」

+ + +

シスターが慌てて少年に謝ると駆けてきてレミをなだめ、レミ自身も驚いたように両手を口に当てて塞ぎ頭をブンブン振る。

そんな状況に私がついていけない中で、少年は周りの大人に断ると、一人の青年だけを連れてこちらに歩いてきた。

少し早歩きでやってきた少年は、息が弾んでいた。

「ステラ・ジャレット嬢だよね。僕のことを覚えているだろうか」

穏やかそうな顔は少し興奮したように上気して見える。

隣でシスターに「どうしたの、レミらしくない」となだめられていたレミは、口を両手で塞いだまま、いよいよその目を大きく見開いて私と彼とを凝視した。

そんなレミを不思議に思いつつ、私は彼の正体に思い至って、嬉しい気持ちで答える。

「ピアノの発表会の子! バード様のお子さんの!」

私の答えに「当たり」と明るい声で返した少年は、かすかに微笑みを浮かべた。

それからやっぱり少し弾んだ声で言う。

「ジャレット嬢、君と話がしたかったんだ。いいだろうか?」

その言葉に、嬉しくなるけど、私はレミとのお話が先だったなあと思い出してレミのほうを見た。

だけど、私にはレミの後頭部しか見えなかった。

いつの間にかレミは腰をしっかり折って頭を下げ、両手の平を上に向けて突き出していた。

「どーぞ! どーぞ!」

言いながら、言葉に合わせるようにレミは手を前に出すように動かしている。

わあ、レミ元気いっぱいだあ。

「じゃあ、先にお話ししてくるね?」

レミにそう答え、少年に向き直った私だったけど、思わぬところから声がかかった。

「あきませんよ、デイヴィス様。視察すましてからです」

少し訛りのある言葉で少年をたしなめたのは、少年の隣に立つ青年だった。

それに対して、少年は澄ました顔で返す。

「固いことを言うな、アヤド」

アヤドと呼ばれた青年は、少年の教育係なのかな。

そのまま二人が静かに言葉の応酬を重ねるのを見ていると、私に影が差した。

失礼いたします、と断って現れたのはパパだった。

「これは、バード家のデイヴィス様。ステラの父のゲイリー・ジャレットです」

それから、パパはデイヴィスと簡単に挨拶を交わし、話をまとめてくれた。

「ステラはここの子たちとも打ち解けているようですし、よろしければ視察のお手伝いをさせましょう」

「ゲイリー殿、ご提案感謝する」

パパの言葉に鷹揚に頷いたデイヴィスは、隣のアヤドさんを見上げる。

「どう思う、アヤド」

「……ええんとちゃいますか」

観念した様子のアヤドさんがフーと小さくため息を吐いた。

「お願いできるだろうか、ジャレット嬢」

「もちろんです! ステラとお呼びください」

「では、僕のことはデイヴィス、と。それから、自然に話してくれればいい。僕たちは子ども同士だろう?」

「ほんとう? ふふ」

デイヴィスは穏やかな雰囲気どおり、優しくて柔らかい人柄みたい。

そういえばバード様たちも「優しい子だ」って言ってたなって思い出してきた。

敬語じゃなくていいのが嬉しくて私が笑うと、デイヴィスも口元に微笑みを浮かべた。

デイヴィスともお友達になれたら嬉しいなって、案内のために歩き始める。

そんな私たちの後方、レミが「笑って……!?」と驚愕に出した声は、すでに少し離れてしまっていた私には聞こえなかった。

+ + +

私が先導し、デイヴィスとアヤドさんがその後ろ、さらに後ろに控えるようにチャーリーが歩く。

「君はステラの付き人かい?」

歩きながらチャーリーを振り返ったデイヴィスに、チャーリーはかしこまって胸のあたりに手を当て、「ジャレット家フットマンのチャーリーと申します」とお辞儀した。

それを見たアヤドさんが「ご挨拶いただくなら立ち止まってにしやんと……」と小言を言うのを、デイヴィスは軽く手を振って制した。

歩き始めた私だったけど、肝心なことがわからなくてデイヴィスに聞く。

「視察? は何を見るの?」

「今日は単に暮らしぶりの確認に来ただけだよ」

スッスッと、歩き方も整ったデイヴィスは私の隣に並び、軽い口調で答えてくれる。

「そっか~。えっとね、シスターのファウスティナさんは忙しくなったけど、みんなは前より良くなったって言ってたよ」

私が今日みんなに聞いたことを教えてあげると、デイヴィスは相槌を打つように軽く数回頷いた。

「そう、ステラはここにはよく来るのかい?」

「んーん、初めて」

答えた私の言葉の後、後ろでアヤドさんの「初めてなんかーい」という、少し悔しげな声が聞こえた気がした。