軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2.ゲームでは新任教師のチャーリー(チャーリー視点)

俺はジャレット家でフットマンをしているチャーリーだ。

年齢はおそらく十四。

表向きはフットマンだが実際は旦那様からステラお嬢様の警護として雇われている。

そもそも俺は、こんな風に金持ちの家に雇われるような出自の人間じゃない。

親の顔も記憶がないほど幼い時に人売りに売られた俺は、怪しい稼業の男達に買われて裏の仕事ばかりをしていた。

俺と同じように買われた奴らはみんな捨て駒のように扱われたが、幸い俺は生まれつき体が丈夫で運動も飛び抜けて出来たために、その組織の中でも生き残ることができたし、要人の調査や情報収集などの仕事へ回された。

俺が十ニ歳になったある時、俺が組織から指示されたのは、とある要人を殺すことだった。

暗殺だ。

組織の奴らは淡々と仕事をこなし情報を持ち帰る俺を、信用ができるやり手だと判断したらしい。

しかし、俺は人殺しなんて絶対にしたくなかった。

生きていくためには俺が何かされたわけでもない他人を殺さなければいけないのかと、いっそ俺が死んでやろうかとそんなことまで考え、しかし、決行当日が来てしまった。

俺がバディに付けられたのは、組織でも中堅の四十代ほどの男。

これまでも組織の利益のために数々の暗殺を実行してきた極悪人であり、実力者だ。

そして、暗殺の対象の人物こそが、このジャレット家の主人、ゲイリー・ジャレットだったのだ。

+ + +

「いやあ、ステラのために警備を強化したばかりだったが、そのおかげで命拾いしたよ」

俺は彼を目の前に、震えることしかできない。

目の前には標的であるゲイリー・ジャレットその人が立っていた。

傍らには老齢の執事服を着た男。

そして彼らを守るように立つのは、驚異的な強さを持った二人の全身を黒に包んだ警備兵だ。

標的であるゲイリー・ジャレットと、その妻のディジョネッタ・ジャレットがいるはずだったこの部屋は、今は俺の取調室と化していた。

静まり返った深夜、自室で寝ている標的を暗殺するため、俺達は人目につかない廊下の窓へ外側からロープをかけて上り侵入した。

標的の部屋へ行こうとした時、今自分達が入ったのと隣の窓がガシャンと割れ、何者かが恐ろしい速度で飛び込んできた。

かと思う間もなく、暗闇の中で真っ黒な塊のようなそいつらが、俺たちへ飛びかかるように殴りかかってきたところで俺の意識は途絶えた。

「ステラが驚いて起きてしまったらしい。全く、私の天使を脅かすとは、どうしてくれようか」

恐ろしい覇気を出すゲイリー・ジャレットから、俺のバディだった男は尋問に抵抗したので処分されたと聞かされた。

俺に話をさせるためにそう説明したのか、もしくは本当にそうなったのか。

そんなことを考えつつも、こんなことをして捕まってしまったのだから、もう俺の人生もおしまいだ。

「なんでも話す」

俺に組織に義理立てするような愛着は微塵も無く、少しでも助かるべく口を開いた。

拷問などかけられる間もなく知っている情報を洗いざらい吐いたところで、「パパ……?」と随分可愛らしい声が廊下のほうから響いた。

先に調べていた情報では標的のすぐ隣の部屋には彼の娘のステラ・ジャレットが寝ていたはずだ。

心細くなって部屋から出てきてしまったのかもしれない。

「メイドは何をやっている!」

焦ったように部屋の扉を開け廊下へ出たゲイリー・ジャレットは、「ステラ!」と声を出した。

「パパ、ごめんなさい。わたし、パパがしんぱいで」

「そうか、ありがとう、ステラ。私の天使。…あ! こら! そちらに行ってはいけない!」

「パパのおへや!」

すぐそばで話し声が聞こえると思っていたら、娘のステラ・ジャレットは父親のゲイリー・ジャレットの部屋の目の前まで来ていたらしい。

ステラ・ジャレットはいたずらのつもりだったのだろう、開いたままの扉からあろうことかこの部屋へ入ってきてしまった。

俺と目が合ったステラ・ジャレットはパアッと目を輝かせた。

月明かりだけに照らされたその部屋の中で、彼女だけが真昼の青空の下にいるように明るい顔をしている。

気づけば恐ろしい黒ずくめの男二人の姿はなく、老齢の執事一人が俺の前に立っているだけだ。

「わたしの!? わたしのひつじさん!?」

ステラ・ジャレットは俺を見て花開くような笑顔で意味のわからないことを言った。

すぐ後を追いかけ入ってきたゲイリー・ジャレットと、目の前の老齢の執事は苦い顔をしていたのをはっきりと覚えている。

まさか、その一言のおかげで命拾いをした上に、この家に雇われることになるなんて、俺は想像もしていなかった。

+ + +

それから俺は老齢の執事、執事長のヘイデンさんから教育を受けていた。

あの場で娘を悲しませないようにか咄嗟にゲイリー・ジャレット、旦那様が言った「まだ内緒だったんだけどね」の一言のせいだった。

俺はステラお嬢様付きの使用人になるため、夜な夜な教育をされている最中の使用人見習いということになった。

「ヘイデンみたいな、わたしだけのひつじさんがほしいってずっとおもってたの! ステラうれしいぃ〜パパだいすきぃ〜」

大喜びするステラお嬢様に抱きつかれて目尻を下げに下げた旦那様を見て、もしかしたらもしかするかもしれない、と、その時の俺はすぐさま後ろ手に縛られたまま床に頭を付けて「お嬢様のために立派なひつじになります!」と”ひつじ”の意味もわからないままそう叫んだ。

彼女が言いたかったのは”執事”であり、あの時の俺の行動によりステラお嬢様が大喜びしたことが、旦那様が俺を取り込むことにする決め手になったのは後に知った。

娘のステラがあれだけ喜んだことを無為にするわけにはいかない、と。

俺の教育は苛烈を極めた。

着る服、住む部屋、食べる食事は比べるまでもなく上等な物になったが、訓練や課される課題は、組織にいた頃が児戯に思えるほど過酷なものばかりだ。

昼は執事長のヘイデンさんが、一体どうやって時間を捻出しているのか驚いてしまうほどの仕事量をこなしながら、鬼のように俺に仕事を叩き込む。

「趣味でやっている仕事も含まれますので、旦那様から無理な量の仕事を頼まれることはありませんよ」

いつか彼が言っていた意味は徐々に分かってきた。

彼は家の仕事以外にも、ステラお嬢様が興味を持たれた事柄と、それに関わる人物全ての周辺の情報を集め探っているようだった。

少しでも彼女を危険から遠ざけるのだと言っていた時の彼は、年齢不相応な怜悧さを持っており、恐ろしくすら思えるほどだった。

夜は夜で体術を含めた訓練をさせられた。

教育係はあの夜に俺達をボコボコにした黒ずくめの二人組だ。

彼らは普段は門番としてこの家に雇われているらしく、夜な夜な黒ずくめの恰好で警備をしていることは、旦那様とヘイデンさん以外には知られていないらしい。

門番をしている他の者達はヘイデンさんのつながりでこの家に雇われた者らしく、情報を集め、この家を影に日向に守っているらしい。

俺にも同等の強さになってもらうと叩き込まれた体術や、彼らに鍛えられた体は、俺がいた組織のやつらなら手練れが十人いようが勝てると思えるほどになったが、この二人にも、ヘイデンさんにも決して勝てるビジョンは浮かばなかった。

教育を受けて心も体も屈服させられた俺だったが、本当の意味でこのジャレット家に仕えたいと思ったのは俺がお守りするステラお嬢様あってのことだ。

今ではあの時、彼女が俺を助けてくれたのも運命なのだと思っている。

教育を受けたからこそ分かる。

俺はあの夜ステラお嬢様に出会っていなければ、組織もろとも闇へ葬られていたことだろう。

実際に、あの後俺がいた組織も、依頼をしていたらしい旦那様の商売敵も、その存在ごと消された。

あれから二年が経ち、間もなく四歳になられるステラお嬢様は、今日も俺に笑いかけてくださっている。

俺に毎朝元気な挨拶をし、俺がする一つ一つのことに感謝し笑ってくださる。

どんな時だって、ご家族や俺や使用人のことを大事に考え、時には自分のことよりも優先してくださるお嬢様。

俺の幸せは優しいステラお嬢様の笑顔を守り続けることだと確信している。

今俺は、昔では考えられなかった幸福の中にいるのだ。

一生彼女のためにこの身を尽くすことができる喜びを噛み締め、今日もヘイデンさんと二人、ステラお嬢様の部屋の扉を叩く。

【チャーリー】

(ゲーム「学園のヒロイン」登場人物紹介より)

表の顔は学園の養護教諭だが、暗殺を生業とする裏組織の一員という裏の顔を持つ。二十三歳。

幼い頃に組織に拾われ、暗殺者としての才能を開花させる。

学園長がその組織と懇意であったため、依頼主である彼との連絡役として学園へ潜入していた。

主人公と出会うことで、隠していた暗殺稼業に対しての苦しみ、悩みを解きほぐされて徐々に主人公のために生きようと考え始める。

ミステリアスな年上の男性。