軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17.大天使ステラちゃん、やらかす

「私も、贈り物したいなあ」

私は悩んでいたの。

チャーリーに抱っこされておうちに帰った私は、軽いお昼ごはんを食べた。

お祭りの出店で焼かれている食べ物が気になって、甘辛いタレのかかったお肉を食べたり、甘くて卵焼の香りのするふわふわのおやつを食べたりしたから、そんなにお腹がすいてなかったの。

もちろん、お祭りの食べ物はチャーリーと半分こして食べたのよ。

出かけた時に食べるものは、チャーリーと半分こするのが私たちのお約束なの。

私だけ食べて、お仕事中のチャーリーが食べられないなんて可哀そうだもんね。

後でチャーリーが怒られちゃだめだから、初めてお出かけした日の夜に私からパパに、お仕事中でも食べていいって許可をもらったけど、パパは「うまくやったものだな」ってチャーリーに悪い笑顔だったのは今でも不思議。

お祭りであれもこれもって食べてたら、思ったよりたくさんになっちゃって、せっかくお昼ご飯をご用意してくれてる料理人さんに悪いことをしたなあって思ったけど、料理人さんは笑って許してくれた。

お祭りの後、お部屋で過ごすワンピースに着替えて食堂に行った私は、料理人さんにちゃんと全部お話ししてごめんなさいしたの。

そしたら、料理人さんは「お祭りの日に食べすぎるのは、あるあるですね」って笑って、それから教えてくれた。

お祭りの日に食べるのは、夜の鶏の香草焼き以外にも、体にいい野菜や薬草を使った薬草粥を食べるんだけど、お祭りでたくさん食べても大丈夫なように、やさしいお味で、量も調整しやすい料理なんだって教えてもらった。

すごい、お祭りの日に食べるものは、ちゃんと考えられているんだなあって感心しちゃった。

お昼ご飯の後、チャーリーや若い執事さん、それに昼と夜の門番さんがおやすみの帰省のためにお出かけして行った。

私は、“お出かけ”って思っちゃうけど、チャーリーたちにとっては“おうちに帰る”んだなあって思ったら、やっぱり寂しくて、お見送りはやっぱり笑顔いっぱいじゃできなかった。

「お嬢様、必ず今年も、我々は揃って帰ってまいります」

チャーリーたちは、気合い十分って感じで、私に帰省の挨拶をしてくれる。

街の外に帰るチャーリーたちは、お見送りのとき、いつもこんなことを言うの。

私は、街から出るおでかけは王都に行くくらいしかしたことがないから、もしかしてチャーリーたちの旅程が危険なんじゃないかって心配したけど、「着いてからが問題なので」って言われてもっと分かんなくなっちゃった。

お見送りして、お部屋の窓辺で、お外から聞こえてくる楽しそうな声や、踊りのためにか演奏され始めた音楽を聞きながら、私は悩む。

パパやママには、お小遣いでお土産を買うことはあるけど、使用人さんにも、チャーリーにも、贈り物はほとんどしたことがない。

贈り物、とっても嬉しいなあ。

私は、拭いてもらって綺麗になった下駄が飾ってある机の上を見る。

透明なケースに入れて飾ってある下駄は、窓から入った光で表面のリリーと百合の刺繍が浮かんで、とっても綺麗。

白くて、柔らかい布地に、全体的に丸っこいフォルム。

鼻緒だけが赤くて、置いてあるだけでもすっごくすっごく可愛い。

ポーギーに渡してもらったときのことを思い出す。

「内緒で贈り物って、どうやったらできるんだろう」

私も、みんなに贈り物がしたい。

下駄のお返しもあるけど、それより、パパにも、ママにも、使用人さんたちにも、チャーリーにも、いつもありがとうって気持ちをこめて贈り物がしたいの。

私は、行きの乗り合い馬車で見た、女の子の髪飾りや、ご夫婦のされていたお花をモチーフにしたネックレスやタイピンが思い浮かんだ。

鎮花祭の出店には、お祭りの日ならではの、お花の飾りやアクセサリーがたくさん並んでいた。

「ちょっと、だけ」

魔が差してしまったのは、ポカポカの窓辺で考え事をしていたせい。

私は、すごく眠たかったけど、みんなに内緒の贈り物がしたいなって、そればっかり考えて眠気を振り払って、ひとりで、こっそり街に向かってしまったの。

いつもより使用人さんの少ないおうち、お祭りの夜だけ門番を任せる人が来る前の少しの時間。

その間に、私は誰にも言わずに、街に出ることができてしまったの。

前にママにもらって使わなかった、お小遣いの入ったポーチを下げて。

+ + +

どうしよう。

私はもう、どうしていいか、分かんなくなっちゃってた。

運転席から、くぐもっていて会話の内容はわからないけど、男の人の会話の声が聞こえる。

運転している人たちがいい人で、話を聞いてくれる人たちだってことを祈るしかない。

私は、黙っておうちを出てきちゃったことを、すごく後悔してた。

動いている荷馬車の中、隣で不安がってるこの子は、私が守らなきゃ。

これからどんなことが起きるか、そのときどんな風に動くのがいいのか、私はとにかく考えなきゃって思ったの。

ぎゅっと、握り合っている手に力を込める。

+ + +

私が内緒のお土産のために街に出てしまってから、しばらくの間は何も問題なく街を歩けていた。

今日はお祭りで、人も多いから、小さな子だけで遊んでいたりもして、私がひとりで歩いていても誰も不思議に思わなかったみたい。

一人で出かけるなんて、初めて。

マルクスやルイのいる日に、私たちで出かけるって言えば良かったかもって思ったけど、許してもらえるか分かんないし、理由を聞かれたらバレちゃう。

それに、私は鎮花祭の日に贈り物を用意したかったの。

私は、大通りは無理だと思って、大通りに入る手前、噴水広場に続くほうの道に向かった。

その道は、大通りに比べたらずっと人が少なかった。

お供えをする人たちはみんな大通りを使うからだと思う。

まだお昼過ぎの街はそれでもいつもよりにぎやか。

お祭りの出店もたくさん出ていたから、私は、お店の人が優しそうなところを選んで商品を見せてもらう。

三つくらい見て回って、最初のお店に戻る。

このお店が、一番作りが丁寧で、種類もたくさんあったから。

お店の店員さんも、私と目が合った瞬間びっくりしたみたいにしてから、にっこり笑ってくれて優しそうだった。

「お嬢さ、お嬢ちゃんは、プレゼントをお探しかしら?」

店員さんは、ハスキーな声のお姉さん。

背が高くて格好いいけど、優しそうって思った通り、膝に両手を当てて中腰になって、私と同じ目線で話しかけてくれる。

「うん、大切な人たちに、ありがとうの贈り物をしたいの。パパと、ママと、おうちで働いてくれている人たちに」

「ん゛んッ!」

お姉さんは、むせちゃったのか、口を押えて顔をそらしちゃった。

お顔が赤くて苦しいのか、涙も出ちゃってるみたい。

心配で顔を覗き込もうとしたら、手で制されて、「大丈夫、よ。優しいのね、ゆっくり見て行って」って言ってくれた。

私は、一人ずつ思い浮かべて手の指を折っていく。

途中、両手で足りなくて、ぐーにした指をまた一本ずつ立てていく。

パパ、ママ、チャーリー。

執事長のヘイデン。

ダニーとポーギーに、お医者の先生と、お着替えを手伝ってくれる女性の使用人さんと、料理人さん。

庭師のおじいちゃんと、ママのお付きの女性の使用人さんと、若い執事さんと、四人の門番さん。

それに、リリー。

私もお揃いで、十八個欲しいな。

みんなでお揃いにできて、鎮花祭らしいもの。

「お姉さん、この小さいのはなあに?」

ガラス玉を半分に割ったような、綺麗な小さいものがカゴにたくさん入ってる。

見せてもらうと、ひとつひとつ模様が違うけど、ガラスにお花や葉っぱが閉じ込められてるみたいでなんだか素敵。

「飾りボタンよ。袖口のボタンの代わりにつけるの、こんな風に」

お姉さんが、着ているシャツの袖を見せてくれる。

見やすいように、目の前に腕を出してくれながら、「加工すれば髪飾りや飼い猫の首輪の飾りにもなるわねぇ」と、なんとなく棒読みで教えてくれる。

白いシャツの袖口に、お花が咲いたみたいで、光が当たるとキラキラして、私は夢中で見ていた。

そしたらお姉さんに、「お口が開いてるわよ」って笑われちゃった。

袖を見せてくれたお姉さんにお礼を言って、パパにはこれ、ママにはこれって、たくさんたくさん時間をかけて選んでいたけど、お姉さんは全然怒ったりしなかった。

それどころか、お店の横に小さいテーブル代わりの箱と、組み立ての小さな椅子を置いてくれて、「ここに広げて選んだらいいわよ」って、すっごくニコニコで見ていてくれた。

選び終わった私に、お姉さんは代金はいいなんて言うから、そんなの絶対だめだよって、ちゃんと一緒にお金を数えて渡した。

お姉さんは本当に優しくて、「これは商品じゃないから、サービス。それならいいでしょ?」っていたずらっぽくウインクしてくれて、手作りの巾着に、買った飾りボタンを入れてくれたの。

「ありがとう! お姉さん!」

「いいえ、良い 鎮花祭(はなしづめ) の夜を」

巾着に入れた飾りボタンをポーチにしまって、優しい笑顔で見送ってくれるお姉さんに、手を振って別れる。

少し歩いて振り返ったら、お姉さんが陳列していた残りの飾りボタンをしまっちゃったけど、もしかして私が戻したときに順番がバラバラになっちゃったりしてたのかも。

悪いことをしちゃったかなあ。

私はこの時、ひとりで内緒で出かけてることも忘れて、ちょっと楽しい気分になって、調子に乗ってしまってたと思う。

ひとりでもお買い物できちゃったから、自分のことを、ちょっとすごいって思っちゃったんだ。

「うひゃい」

すぐにおうちに帰ろうって思って歩き始めた途端、路地から飛び出してきた女の子とぶつかりそうになった。

びっくりして変な声は出たけど、私はなんともない。

それより、私を避けた女の子が勢い良く転んじゃった。

「だ、大丈夫?」

「ごめん、なさいっ、行かなきゃ!」

女の子は、私に目線も向けなくて、すごく急いだ様子で立ち上がって走りだそうとしてる。

その顔は青ざめていて、額に転んだ時についたかすり傷ができていて、血がにじんでるのか赤くなってる。

息を切らせて、でも今すぐにでも駆け出しそう。

「どうしたの? 逃げてる?」

「え」

追われてるか何かに巻き込まれてるって思ったから、私は聞いて、目を丸くしたその子をひとまず隠さなきゃって思って手を引っ張った。

「こっち!」

「キャッ」

女の子はびっくりしてるけど、私より少しだけおねえさんの女の子は、私でもぐいぐい引っ張っていけた。

お店が並ぶあたりまで戻ったら、お店の並ぶ裏に、出店の人たちのものだろう、馬を外された荷馬車が整列して置いてある場所がある。

一番手前に置いてあった荷馬車の幕を上げて、女の子と一緒に中に入る。

「ここなら簡単に見つからないと思う」

コソコソ声で言えば、女の子はコクンと頷いて応えてくれた。

一応、幕をめくられてもわからないように、私たちは小さいからだを活かして奥の荷物のすき間に入る。

着替えっぽい服なんかが入っているケースを少しだけずらせば、そこにできたスペースに、私たちは身を寄せ合って隠れた。

「あなた、乗り合い馬車の……」

女の子から、潜めた声をかけられて、気づいた。

「朝の、髪飾りの子?」

女の子は、朝の乗り合い馬車で一緒になった、ママさんと一緒のピンクの髪の子だった。

ひそひそ、お話を聞いてみると、女の子はやっぱり追いかけられていたらしい。

そして、事件にも巻き込まれていた。

女の子の名前はミシェル・ペトルチアって言うんだって。

私も自己紹介しようとして、やっとひとりで内緒で抜け出していることを思い出した。

それから、おうちの名前は出せなくて、「ステラよ」って、小さい声の自己紹介になっちゃった。

ママさんと一緒にお祭りを見て回っていたミシェルは、大通りで食べ物を買ってもらって、それを食べながらお手洗いに行ったママさんを待っていたんだって。

お店のすぐ横の飲食スペースで、お店の人もいたし、お祭りの日のお手洗いはすごく混むからママさんはミシェルを待たせて行っちゃったんだって。

それからしばらくして、材料取りにお店の人がどっかに行っちゃって、そのとき、目の前の屋台から泥棒している人がいるのを見ちゃったんだって。

商品を、ごそっと掴んではカバンに入れていて、泥棒は大きな男の二人組で、誰もいないと思ってたみたい。

盗みながら改めて周りを見回した泥棒の一人が、ミシェルが向かいの飲食スペースにいるのに気づいて、目が合って、ミシェルは危険を感じてすぐそこの路地に飛び込んだんだって。

その時、髪飾りは失くしちゃったって言ったミシェルは悲しそうで、私もつらい気持ちになる。

気づいた泥棒がミシェルを見たまま、もう一人に呼び掛けていたから絶対追いかけてきてるって、ミシェルは言ってた。

「おでこ、痛いね。血が出てる」

「無理に避けたからね。おでこ以外は平気。ステラに怪我させなくて良かったわ」

ミシェルは何でもないみたいに言ってくれるけど、おでこからは血がどんどん滲んできてる。

何か、何かないかと思ったけど、ハンカチも持ってきていなくて、お財布代わりのポーチしかない。

「あ、これ」

ポーチを開けてみたら、猫とうさぎの柄のついた可愛い薬包紙が見えた。

キモノからお着替えするときに出して、なんとなく出かけるときにポーチに入れていたやつだ。

お焚き上げに使わなかった、庭師のおじいちゃんの薬草が半分、入ってる。

「あの、これね、お薬になるの。少しでも、効くかもしれないから」

私は、薬包紙ごとぐしゃぐしゃとすりつぶすようにして、粉になった薬草を、指に取ってミシェルの傷口に付けようとした。

血が出てる傷を直視できなくて、指も震えちゃう。

そんな私の手を、ミシェルが両手で包んで止めてくれる。

「ありがとう。ステラの手に血がついちゃうから、私がやるわ」

私みたいな小さい子が、持ち合わせの薬草をつぶしただけの粉を顔の傷口につけようとしても、ミシェルは許してくれた。

その上、自分で付けて見せてくれたの。

そのときの私は悪い人が私たちを探してるかもしれないってことが今更怖くなってきていて、とっても不安で、血が怖くて、痛いだろうなって思ったら悲しくて、ちょっと震えながら薬包紙を広げて、こぼれないように支えているだけでいっぱいいっぱいだったの。

ミシェルは、右手でお薬を塗りながら、左手は薬包紙を支える私の手をさらに支えるみたいに持ってくれていて、そこからじんわり伝わる熱が、やたら冷える荷馬車の荷台の中で、すごく頼りになったの。

薬が効いたのかはわたしにはわからなかったけど、ミシェルの血は止まったみたい。

ミシェルは、私を安心させるためにか「痛くない、傷がなくなったみたい」ってびっくりした顔をして見せてくれた。

暗い荷台の中で、血も拭き取れないから傷の様子は確認できないまま、私たちはお互いの手を握って息を潜めて、どれくらいそうしていたか。

私は、我慢していた眠気が襲ってきて、気づいた時には寝てしまっていたの。

目が覚めた時、隣には、私と同じように眠ってしまっているミシェルがいて、私たちのいる荷馬車は、どこか道をガタゴト進んでいる最中だった。