作品タイトル不明
110.大天使ステラちゃん、置き土産
私が改めて今日のどうしてここでお城を探検することになったのかをデイヴィスに説明してあげると、デイヴィスはこめかみを押さえてなんだか頭が痛そうにしていた。
「ステラ……? 改めて確認するけれど、それじゃあそれから一人で城を⋯⋯?」
「もう! 一人じゃないよぅ! オアゲとね、それから途中でボンボンとも出会ってね、一緒に探検していたのよぅ!」
デイヴィスは、いつものちょっぴり下がり眉の困ったみたいな笑顔じゃなくって眉間に皺を寄せてる。
アヤドさんが小さなお声で「ホンマ浮かれちゃってまあ」ってボソッと言うと、下を向きがちだったデイヴィスの頭がさらに項垂れたみたいに見えた。
「それは、置いておいてだ」
デイヴィスはコホンと仕切り直しをするみたいにひとつ咳払いする。
それからは真面目なお顔になって、真剣な声色で私とアヤドさんに向かって言った。
「僕は元帥の思惑がやっぱり気になる。僕のことを彼が利用しようとしているなんて考えたくはないけれど、可能性があるのなら気を付けるべきだ」
「そうですね、坊。今の情報だけでは疑いの域を出ませんけど、このまま親元にお返しするだけでええってわけでもなさそうです。ステラ様とはちょっとの間だけでも行動を共にして、様子を見させてもらいましょうか」
「ああ、真実が分かるまでは心配だからね」
「しんじつ……! それって名探偵ケイニーの出番かな!?」
私はやっと分かる単語がデイヴィスの口から出てきて、嬉しくなって二人のお話を遮っちゃった。
『真実』は、名探偵ケイニーさんの推理散歩シリーズでよく出てくる言葉なんだ。
「ケイニー?」
「うん、名探偵の犬さんなの」
「犬……?」
「うん! ケイニーはね、名探偵の犬さんなの! 飼い主さんと一緒に推理をして、『真実』を追い求めるのよぅ! 今度デイヴィスにもケイニーさんのご本を貸してあげましょうねぇ」
「そ、そうか。ありがとうステラ。けれど今は元帥の……」
私がいまいちケイニーさんのご本のことにピンと来ていないらしいデイヴィスにどうご説明してあげようかなぁって思っていると、ふいに私の後ろからお声がした気がした。
「……だぞ……」
「ボンボン?」
ボンボンが、何かを言ったみたい。
まだデイヴィスのことが怖いらしいボンボンは私の後ろにいて、そんなボンボンを振り返って見てみると、またぶすむくれたお顔をしているみたいだった。
きっと、お話が難しくなったりして、また置いてけぼりにされているように感じてボンボンは拗ねちゃったみたい。
「二人でばっかり楽しそうに話して、つまらないんだぞ……!」
「ボンボン。ボンボンにも今度ケイニーさんのご本────」
「もう! いいんだぞっ! ステラは、ステラは僕とももう遊んでくれないんだぞ! 僕の家にも来ないんだぞ! ステラなんて、ステラなんてもう知らないんだぞ……!」
「ええっと」
ボンボンはまたかっとなって一人で大きなお声を出してる。
私はまたボンボンが落ち着くまでボンボンを現行犯逮捕したほうがいいかなあと思ったんだけど、今回はデイヴィスのそばで控えていた男の人が動き出すほうが早かった。
男の人は「落ち着きなさい」って言いながらデイヴィスとボンボンの中間くらいの場所に入ってボンボンに向かって手を伸ばす。
掴まれる、と思ったのか、ボンボンはさらに後ろに後退して、逃げ出すみたいにお体を反転させた。
そして駆け出す直前、一瞬だけ視線を私に向けたボンボンは、最後の悪あがきみたいに一歩だけ前進して私に手を差し出してくる。
ぐっとボンボンが唇を噛んだのが見えた。
「やるんだぞ!」
「え?」
大声で言って私の肩口に強い力で何かを押し付けたボンボンは改めて駆け出していく。
ボンボンの手が離れたところから何かが零れ落ちて、私はついそれが落ちる前に自分の手で受け止めた。
ジャラッとした、硬質のそれに視線を落とす。
「首飾り?」
ボンボンに押し付けられたのは、ボンボンと出会ったときにボンボンが身に着けていた豪華な首飾りだった。
私がもう一度視線を上げたときには、ボンボンはもうこちらに背を向け廊下の角を曲がっていくところだった。
デイヴィスを庇って前に出ていた男の人はボンボンがデイヴィスから離れていったからかボンボンを積極的に追おうとはしていなかったけれど、アヤドさんからの目配せを受けて一度頷くとタッタと軽い足さばきでボンボンの去って行った方へと追いかけていく。
私の手には、ボンボンの首飾りが残ってる。
突然のことに私が固まっていると、デイヴィスが私のすぐ目の前までやってきて私の手元を覗き込んだ。
お顔をしかめてる。
「困った子だな。ステラ、僕が返しておくように使用人に頼んでおくよ」
「……んーん、いい」
私はちょっと考えてからデイヴィスの提案を断る。
それになぜだかデイヴィスはたじろいだ。
「ど、ど、どうして?」
「パパに返しておいてもらおうかねえ」
「そ、そうか! うん、それがいいね。うん、うん、そうしてもらうといいよ」
「坊……」
私の言葉になぜか焦ったりほっとしたりしているデイヴィスを、アヤドさんがじとっと見てる。
ボンボンは私にこの首飾りをあげるって言ったけれど、私はやたらと装飾でごちゃごちゃしたこの首飾りは特にいらないよなあって思った。
だけど、今日お城でボンボンと出会って、オアゲも一緒に探偵さんごっこをしたり、探検をしたりしたのはとっても楽しかったから、この首飾りを持ってパパにそんな色々をお話してあげたいなって思ったんだ。
最初この首飾りをしていたボンボンは偉そうで怒りんぼだったけれど、途中で首飾りを外してからのボンボンは身も軽そうに、楽しそうにしていたなって思い出した。
何となく、手に持っていた首飾りを両手で目の前まで持ち上げてみる。
今日の探検の思い出が詰まっている気がして、左右に広げた首飾りの輪っかに自分の首を通した。
「ちょっ、ステラ!?」
「重たぁい」
「付けるのかい!?」
「うん」
「ええええ!」
首飾りを付けようとすると私に向かってデイヴィスが慌てて手を伸ばしたけれど、私が首飾りを自分の首に着ける方が早かった。
デイヴィスはそんな私を見てお口をパッカリ開けて驚く。
アヤドさんは肩をぷるぷる震わせて笑ってるみたいだ。
私は、デイヴィスもこの首飾りつけたかったんだねって思って、デイヴィスにデイヴィスもこの首飾り付ける?って聞いてみたんだけれど、デイヴィスは今度はすごく苦そうな嫌そうなお顔になって、アヤドさんは声を出して笑い始めちゃったんだ。
「ふふ、ええやないですか坊。ステラ様、よう 似合(にお) うてはりますやん」
「確かに似合ってはいるが……、いるが……!」
「あはは」
「笑うな、アヤド!」
私はデイヴィスがそんなお顔をするのも、アヤドさんがそんなデイヴィスを見て笑うのもよく分からなかったけれど、二人が楽しそうでよかったなあって思ったんだ。