軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢二年目編・9

お菓子の甘い香りが漂う店内。

周りには花の髪留めやお化粧を纏う、お洒落な女の子がたくさんいる。

丸く白いテーブルに頬杖をついては、友人達との談笑を楽しむ、そんな可愛い女性達の姿。

目の前にある焼き菓子を手にしては口へ運び美味しそうに頬を撫でる姿は、子どものように幼くて幸せそうだ。

私はお茶の入った、これまた可愛らしい花柄の陶器の杯を両手に持つ。

そしてそれを口元に持っていきながら、向かいに座る友人二人を眺め見た。

「んもう! ナル君ったら最近ちっとも私に構ってくれないのよ!」

「まぁまぁ落ち着いてベンジャミン。サタナースだって一人になりたいときがあるのよ。それにもともとそんな感じじゃない、性格的に。でしょ? ナナリー」

天高くある太陽の光が降り注ぐ午後。

ハンカチーフを噛みしめて顔を真っ赤にしているベンジャミンの赤い髪は、重力に逆らいメラメラと浮いている。もはや泣く一歩手前というのを通り越して怒っていた。

ハンカチーフを噛みしめる姿に貴族の女子達を思い出すが、恋をしていると皆布を噛みたくなるのだろうか。

そしてその彼女の背中を優しく擦って隣に座るニケが、お茶を飲んでいた私にそう同意を求めてきた。

今日は女三人で優雅に街の喫茶店でお茶をしている。

私も大人になったなと感じるのは、こうして魔法三昧遊び三昧ではなく大人しく慎ましやかに舌でお茶とお菓子の味を堪能している時だ。

お茶の詳しい種類も流行りのお菓子の名前もよく分からないがまぁいい。

野生動物のようだと密かに言われていたらしい(ニケから聞いた)学生時代と比べれば、今の私はそれとはまったく似つかわしくない完璧な大人の女性になれていることだろう。

「サタナース、ねぇ」

さて本題に戻るとしよう。

ベンジャミンが近頃サタナースに距離を置かれていると嘆いているのだが、ニケの言う通りサタナースは確かに元々そんなにベタベタする性格でもない。

それに目を離せばすぐフラフラとどこかへ消える癖もある。

授業中に教室を抜け出していたことも度々あったし、一つの所にじっとはしていられない性分なのだろう。

サタナースの色々な行動を振り返り、私はニケにウンと頷いた。

「でもでもそんなこと私だって承知よ! 私が言ってるのはそういうのじゃなくって!」

「何?」

「知らない女の人と仕事に行ってたりするの!」

「……え?」

「最近なんてずっとそうだし、一緒に行こうって誘っても用事があるからって断られるし」

事の経緯は分からないが、事態は私とニケが考えていたより深刻そうだった。ベンジャミンが荒れている理由もそれなら頷ける。

しかしそんなことを言ってもまだこの二人は。

「付き合っては、いないのよね? サタナースとは、まだ?」

「…………まだ、よ」

ベンジャミンが俯いて口をとがらせた。

それが問題なのである。

二人はまだ恋人関係ではない。これが恋人関係にあるのならサタナースに「恋人差し置いて何やってんだお前は」なんて言って大きくツッコめるのだが、そうではないのなら無暗やたらと踏み込むことはできない。

またそれが分かっているので、ベンジャミンも悶々としている。

魔法で白状させることもできるが、それをすれば二人の仲が今以上に悪化するだろう。信用もなくなるしあまりよろしい手でもない。

二人の間に亀裂が入ろうとしている時点で信頼もなにもあったものではないが。

「女の人と仕事に行ってるって、なんで分かったの?」

「ドルモットの店の前に、キャンベルの実家の酒場があるんだけど」

「キャンベルの?」

キャンベルは学生時代の友人だ。

「キャンベルが今たまたま実家に帰省しててね。お店を手伝ってたらしいんだけど。なんでも、仕事の話をしながら、お店の中に二人で入って来たんですって」

「キャンベルは声掛けたって?」

「かけないかけない」

ベンジャミンが手を振る。

「なんか怪しいって思ったから、変装してばれないように接客してたみたいよ」

「女の人って、こういう時凄いよね」

「ええ」

そんなに怪しいと思わないだろう普通。

キャンベルのとっさの行動に、ニケと二人で顔を寄せ合いヒソヒソと言葉を交わす。

「え、でもちょっと待って」

私はベンジャミンに向けて両手を出し、待ったをかけた。

今日三人で集まった理由を思い出す。

今回は友人とお茶をする目的もあったが、本当の目的は別にある。

もともとはベンジャミンの知り合いのお店が人手不足ということなので、一晩だけそこで助っ人として働くことになっていたのだ。

そこは酒場で、お勘定と料理を運ぶくらいで接客の一から十までを叩き込まれるほどでもなく、そこまで身構える必要はないとのことなので、お酒が苦手でない私は二つ返事で了承し、一応賃金ももらえるということで所長にも了解をもらっていた。ニケも団長に許可を取ったようだが、仲間内には伝えてはいないらしい。

それもそうだろう。酒場の客には女性もいるだろうが、少なくとも男性客を相手に会話をするのも仕事の内となる。見る人によってはその場所で働いている女性をいかがわしい目で見ることも多いため、おいそれと知り合いや友人ましてや職場の人間などにあまり教えたくはない。

それにしてもキャンベルの実家の酒場でそんなことが。

もしかしてと、私はテーブルへ手を置く。

「まさか手伝うのって、キャンベルのお店の手伝い?」

「フフフ。あ、た、り」

片目をパチっと瞑り舌を出すベンジャミン。

なるほどそういうことか、と私は苦笑いをした。

要は偵察に行くということだろう。

キャンベルもいるので一人ではないものの、やはり不安なので私とニケも一緒にということになったようだった。

「じゃあ記憶探知で、サタナースとその人が何を話していたのか見て見る?」

「それは……ちょっと抵抗あるかも」

やはりできれば魔法を使いたくないはないようである。

「でも今夜来るとは限らないでしょう?」

「ううん絶対に来る」

「そんなに言い切っちゃってもう」

ニケは困り顔でお茶を飲みほした。

当の本人は確信があるのか自信満々にそう言い切ると、だって、と話を続ける。

「今日は週一の男性割引の日みたいだから。来てるのはいつもその日なんですって」

「男としてそれでいいのかアイツ……」

情けない奴だがサタナースらしくもある。しかしそんなことをしている時点で、相手の女性への気持ちは愛や恋なんていうものよりほど遠いのではないか。嫌われること間違いなしである。

そう思ったことをベンジャミンに伝えれば、しかしそれが問題ではないのだという。

じゃあ一体何が問題なのだと聞けば、相手の全てを知りたいというわけではないけれど他の女と酒場で密会、しかもそういう雰囲気のあるところで会っているというのが気になって気になって夜も眠れないのだと言う。

男性割引の日だけ店に行くというそのセコい性格でさえ受け入れてくれる理解のある大人の女性だったら私太刀打ち出来ない、といつもより弱気なベンジャミンが顔をのぞかせた。

「いつもみたいに堂々と言っちゃえば……でも出来たらこんなに悩んでないもんね」

「ナナリー……」

「よぉ~し!」

私は景気よく膝を叩いて拳を握った。

ニケにおじさん臭いからやめなさいと言われる。

「今日は真相が分かるまでとことん付き合う! キャンベルのお店まで行こう!」

「ありがとうナナリー! ……ニケ? どうしたの?」

「ううん、なんでもない。ちょっとね」

途中から下を向きあまり乗り気でなさそうな様子のニケに、ベンジャミンが頼んでおいてあれだけど無理しなくていいからと声をかければ、違うの、とブロンドの髪を揺らして声をあげた。

「でもいつもドルモットの店だし来ないよね……」

「ニケ?」

一人で口をもごもごさせながら呟いているニケの顔の前で手を振るが、まったくこちらは眼中に無いようである。

しかししばらくすると何かが吹っ切れたように顔をあげて「私も協力する!」とベンジャミンの肩を叩き元気に立ち上がったのだった。