軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢二年目・海の国編12

気がつくと、海王様がいる場所、海の城の中に戻って来ていた。

上を見れば、先程と変わらず海王様が椅子に座っている。

「マイティア、愚かな」

「何故です父上! 僕は本当に」

「人の子らよ、息子を許してやってはくれないか。想いの行き場がないだけなのだ」

ハウニョクという大魚と共に、皆城の中に移動していた。状況から察するに、海王様が私達をこの場に飛ばしたようである。

ベンジャミンやウェルディさんは、ポカンと口を開けて周りを眺めていた。あらがいようのない反応である。

海王様はハウニョク、と私達の後ろにいる大魚を呼び、「みなを連れて陸へ戻るのだ」と穏やかな声で話した。

一方マイティア王子は、海草に縛られて身動きが取れなくなっている。

「ナナリーあれって?」

「海王様」

「あれが!? 大きすぎじゃない!?」

ニケは私の背中に隠れて海王様を見上げる。驚くのも無理はない。魚とは言え半分人間なのだ。大きさも相まり、巨人を目撃したのと大差ない。

ゼノン王子が早くハウニョクの中に行けと、美人の人魚を見つけては目を輝かせているサタナースや、背中にいるニケに声をかけ誘導する。

「ナナリーも早く来い」

私も急げと言われて海王様に背を向けるが、この一連の騒ぎはナンニョクという怪魚とマイティア王子が起こしたものだ。海王様は親切にしてくれて、自由にしてくれて、それに助けてくれた。

私はおもてを海王様に向けて、ペコリとお辞儀をする。

「ときに、娘よ。このわしをおじい様と、呼んでみてはくれまいか」

お辞儀をしたあとは口の中に乗り込もうと、ハウニョクの唇に足をかけた。

だが海王様にそう言われて動きを止める。

「海王様をですか?」

意図はさっぱりだが、もう大魚の口へ入るところだったので、矢継ぎ早に言われた通り口を動かす。

「お、おじい様! さようなら! 助けてくれてありがとうございました!」

「おじいさま?」

アイツは私の言葉を復唱する。

私の横にいたロックマンは、それから何か考える素振りをしたあと、胸に手を当てて海王様へお辞儀をした。

深々とだ。

それに対し海王様は笑うと、その気配にロックマンが姿勢を上げる。

「手、かして」

「なに?」

「そっちじゃなくてこっちの手」

左の手を掴まれ、薬指から指輪を抜かれた。

「それなんで私に?」

「これ? 簡単に言うと君の居場所が分かるから」

「へぇ。ドルセイムの知恵ってそんなことにも使えるんだ」

「あれ君、これがそうだって知ってるんだね」

そんな道しるべみたいな使い方も出来るのか。

海で使えるのかは分からなかったらしいが、とりあえず気休めにと私に渡したのだと言われる。じゃあなんだ、ロックマンも知らなかったということか。

なら海でも使えることを教えてやろうと鼻を高くして説明すれば、ここに来れた時点で知ってる、と枝のように伸びた鼻をへし折られた。

「そんなことより早く中に入ってくれないか」

ロックマンに誘導されるがままに、歯が生えている内側に座り込む。大魚の口の中はまったく臭くない。

ハウニョクの口が閉じると中は当然暗くなったが、サタナースが持っていた手の平ぐらいの大きさの石が光り、皆の顔が見えるようになる。

「サタナースその服どうしたの」

「これか? すっげぇ大変だったんだぞ」

サタナースの服は所々破けている。

聞けばここに来るまでに他の生き物に襲われたり、ハウニョクの口から出されて肉食魚に食べられそうになったりしたらしい。サタナースだけ。

どうりでこいつの服だけ、やけにボロボロになっているわけだ。

「でもあのおまじない、効かなかったんだね」

「え?」

「箱開けたんだろう?」

組んだ膝に頬杖をつきながら、ロックマンにそう聞かれる。

海水で満たされていたハウニョクの口の中。だが徐々に水は減っていき、首や頬にはりついた髪先からはポツポツと水滴が落ちていた。

「私、開けてないよ」

「……ん?」

今何て言ったとばかりに、私の言葉に眉間へ皺を寄せるロックマン。

耳が悪いのだろうか。何度でも言ってやろう。

「開けるわけないじゃん。まだ勝負は終わってないんだから、たとえ軽いまじないでも開けてやるもんですか」

部屋の窓辺に置いてある緑の小箱を思い浮かべる。

確か私はあれを貰った直後、売り言葉に買い言葉でコイツに『寮に帰ったら開けるから!』なんて啖呵を切ったような。

確かにそれなら開けたのだと思われても無理はない。あの時その場所で、開ける気満々でいたことには違いないのだ。

しかしいつもは会わなくて良いけれど、一生会えないとなると話は違ってくる。

一生会えなくなるのなら、せめて勝負をしてこいつに勝ってからあの箱を開けるのが一番いい。

「やっぱり君は馬鹿だ」

頬杖をついていた手を口元にあて、ロックマンは馬鹿にしたような笑いでもなく、本当におかしそうに笑ったのだった。

「火の魔法使いはやはり嫌いだ」

「陛下?」

ハウニョクと共にナナリー達が去った、深海の宮殿。

「大切な娘達を、容易く連れ去ってしまう」

海王はまぶたを閉じ、静かに微笑んだ。