軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢二年目・海の国編11

「避けたか」

チッ、と軽い舌打ちをした挙げ句腕を組んで海水中に浮かんでいたのは、ロックマンだった。そのすべらかな金髪を揺らし、赤く光る瞳は鋭く私達を射抜いている。

夢でも幻でもない。いつからそこにいたのか、息も水中で出来ているようだ。気配も感じなかった。

しかも背景にドデカイ謎の生物を背負っている。私を海に引きずりこんだ怪魚とは違い、それは普通の魚の形をしていた。なんだあれは。

しかも今の発言と状況からするに、この海底に突き刺さる鋭利な槍は十中八九あの男の投げた物に違いない。

さっきも色々危険を感じてはいたが、それを上回る命の危機を感じた。

なんて奴だ。助けに来てくれたなんて思いたくもないし思うのも癪だけれど、というか助けに来た人間に対し巻き込まれても良いみたいな具合で槍を投げられた時点で、だいぶおかしい気がしなくもない。

「私に当たったらどうしてくれるわけ!?」

「当たったほうが悪い」

ああ言えばこう言う。

だが完璧主義者で狙った獲物は寸分の狂いもなく仕留めるアイツにしては、珍しく標的から随分ずれた所に槍が刺さったものだ。水中だし魔法も使えないなか鈍ったのだろうが、それが良かったのか悪かったのか少しホッとしている。

目の前でこの魚人間が槍に刺される姿を見るのはあまり良い気分でもない。

「誰だ人間、邪魔をするな。大魚のハウニョクまで連れてどういうつもりだ」

『マイティア王子、ハウニョクはその人間の娘を陸に戻すためにこの者とやって参りました。海王様もそれを分かって、わたくしを海の王国にいれたのでしょう』

「うるさい!」

ハウニョクと呼ばれた怪物的な大魚は、ロックマンをその大きな目ん玉でギョロリと見つめた。

「うるさいのは貴方のほうだ。そろそろそこのちんちくりんを返してもらえないかな」

「ちんちくりんって言うな!」

「君もうるさい」

ロックマンはそう言うと、私よりも滑らかな動作で泳ぎ隣にやって来た。

悔しい。

泳ぎが得意なんて聞いてない。

今度は泳ぎで敗北である。

「下がれ人間。この娘は僕の番として迎えるんだ。邪魔をするのなら、それ相応の理由があるのだろうな?」

「これ僕の妹なんで。帰って来ないと僕の両親も悲しみますから」

「なら貴様には関係ない。ただの兄ならなおさら首を突っ込むな」

「じゃあ奥さんだって言ったら諦めるの?」

肩をふわりと抱き寄せられた。

何故そんな突拍子もない話になるのか疑問である。というか宣言通り必ず来てくれたことが無性に、なんというか、こう、うん、悔しい。

「その程度で揺らぐ想いなら、いっそなくしてしまえばいい。君の探している姫ではないことを分かりきっているのなら、大人しく下がってくれないか。――貴方に危害を加えるために来たのではないので」

さっき思いきり危害を加えようとしていたような。

「何が妹? 誰が奥さん? 嘘をつくならせめて姉でしょ!」

白々しい嘘をつかれたうえに、下っ端扱いはいただけない。嘘でもそこは譲れないものがある。

いやそもそも姉と呼ばれても鳥肌ものだし、嘘はいただけない。まぁこの場合は嘘も方便ということで、嘘も悪いことだが時には身を守るために必要なことだとは分かっている。だからなにもそこまで嘘潔癖症ということではないので、勘違いしないでくださいと誰にでもなく自分に言い訳をした。

「どこまで馬鹿みたいに意地を張ってるの君。馬鹿だね」

「だいたいあんた何でここにいるの!? どうやって……」

肩に置かれた手を叩いてロックマンから離れる。

二回も馬鹿と言われたことはこの際流そう。

「ナナリー!! 大丈夫!?」

「うわ粘液でベトベトじゃねぇか」

「でも息が出来るなら良いじゃない」

巨大魚の口があんぐり開いたかと思えば、中からそんな会話を交わしながら私の方へ泳いでくる三人を見つけた。

その後ろからは続いてゼノン王子とウェルディさんが出てくる。

「美人な人魚なんて見当たらねーじゃん!」

「ナルくん最低」

「良かったナナ――きゃ!」

皆私を助けに来てくれたようで、私は目一杯友人らに抱きついた。こんな海の中まで危険を犯してやって来てくれる友人はそうそういない。本当は危険な目に合わせやしなかったかと不安に思っていたが、皆を見ると不謹慎だがそんな考えは吹っ飛んでしまい、ただただ嬉しかった。

ウェルディさんにも抱きつこうとしたら「私に抱きついていいのは隊長だけなのよ!」と言われたので握手だけにとどめる。彼女にもありがとうと言いたい。

「ふざけるな! やっと番になれそうな者を見つけたんだ! 姉上の代わりだろうとなんだろうと、僕はこの娘を」

まだ諦めそうにないマイティア王子を見て、ベンジャミンがナナリーは変なのに好かれやすいわね、と感慨深げに言う。あまり共感はしたくないうえに、あの魚人間は別に私のことを好きではないので勘違いだと彼女に話した。

姫が私に似ているらしいと説明をすると、結局男は顔なのねと残念そうな軽蔑した目を王子に向ける。

「もう失うわけにはいかないのだ。その娘を連れて行くと言うのなら、僕は魔法を行使する」

マイティア王子が人魚式の呪文を唱えようと、厚い唇を大きく動かした。魔法を行使するとは、すなわち仇なす魔法を使うということだろうか。そんなことをされたら流石に敵わない。ゼノン王子だってロックマンだって魔法を使えないのに。

仲間? になっている大魚はそれを察してか、マイティア王子に向かって泳いでいく。

けれど次の瞬間。

「っなんだこれは!? 魔法がっ……父上!」

辺りは白い光に包まれていた。