軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢になれるまで・4

二年経った。

魔法型による魔法の授業にも、随分慣れてきた。

成績も今のところ凄く良いし、定期的に行われる実技試験では先生に『さすがヘルだな!』とお褒めの言葉をたくさん貰ってウヒャヒャと浮かれていた。私は褒めて伸びる 質(たち) だと常々思っているので、もっと褒めてくれれば口から氷だって吐ける。

定期的なこの魔法試験は、いつどんな時でもみんなが気を抜かないようにと実施されていた。

成績はちゃんと数字になって貼り出されるので、自分が上位に食い込んでいるのかは一発で分かる。

そして今回はただの筆記試験で、実技のほうはなかった。魔法陣の定義だとか、図解だとかそんな問題で、いつも予習復習を欠かさない私には出来ない問題じゃなかった。むしろ簡単。

あっちの学校に通っていた時は常に一番を取っていたし、こっちでも意地と努力と根性でてっぺんを取ってやるのだと意気込んでいた。

これならハーレの職員になれる日も近い。余裕、余裕、余裕。

「また二位!?」

とか、言いたいところなのだけど。

「どんまい。でも二位なんて凄いじゃない。じゃあ私は教室に行ってるわね~」

励ましの言葉を私にかけると、ニケは綺麗な二つ縛りのブロンドを揺らして、隣の教室に消えていった。

「そんなぁ」

溜め息を吐く。

ハラリ、と肩から私の気持ちを代弁するように、水色の髪の毛が落ちた。

なんと試験の結果、私の成績は一番ではない。別にハーレの職員になるには、上位に入れば良いって言われているから、必ずしも一位にならなくちゃいけないってことはないのだけれど。そんなのは私の意地が許せないし、目指すんだったら一番を目指すって決めたんだ。

それに『あら、お貴族様じゃござぁ~せんか。あらあら庶民の私より成績が悪いの? あっ、いけない。悪いん、で・す・の?』と庶民を馬鹿にする貴族に一矢報いる目標もある。

忘れてはいけない。打倒・貴族。

でも、どんなに頑張ってもなぜか一位にはなれていない。万年二位状態になっている。

毎日頑張って予習復習もしているし、分からない所は分かるまで追究して、ニケやベンジャミンにも『いっそのこと勉強と結婚すればいい』とワケの分からない結婚のアドバイスを貰うくらい必死にやっていた。

でも、それでも一位になれないのはやっぱり勉強が足りないのかもしれない。……なんてこの前朝食の時にこぼしたら、ベンジャミンからは『それ以上寝台の上で氷を作ったら私の火で炙るわよ』と脅されたので今のままで頑張ることにした。

「二位、二位」

廊下に貼りだされた試験の結果の紙。順位は全員分貼りだされている。 十位までなどという、なまっちょろい発表ではない。三教室合わせた150人分の結果。

私は順位表の前で項垂れる。周囲に放ちだす私の負の禍禍しい気配に、他の生徒が私を避けて教室に入っていった。

「あ~あぁ」

いつまでも貼り紙の前で項垂れていても仕方ないので、早々に教室の中に入る。中に入ればいつもと変わらぬ光景が広がっていて、あぁそういえば私の成績もいつもと変わらなかったなアハハ、と自暴自棄に陥った。

「ナナリーおはよう」

「サタナース、おはよう」

「昨日マリルと遅くまで 盤上遊戯(ティキトーラ) してたんだけどさ。すっげぇ眠い。寝たい」

階段を二十段登って自分の席に行く。手前にいた金髪の障害物をバシッと避けて椅子に腰を落ち着けた。

前の席にいたサタナースが私の席の前までやって来る。

ティキトーラをやる仕草をして目を瞑る仕草は、まるで一仕事終えたどっかのオヤジみたいに見えた。

同じ教室で同じ一般庶民の彼。

銀色の髪は癖っ毛なのか、あちこちが跳ねている。濃い青の瞳は眠たげで、眉毛と目がいつもより離れていた。服はヨレた黒いシャツを着ていて、変わらず質素なワンピースを着ている私としては、一緒にいて凄く落ち着く。

「ベンジャミンとはどう?」

「分かってるだろ。俺はなぁ、ボンキュッボンで年上のお姉さんが好きなんだよ。だから同年代は無理だね」

「別に好かれたいとは思ってないけどなんか腹立つな」

胸に手で山を作るサタナースに青筋を立てる。

つくづく第一印象っていうのはあてにならない。大人しそうな子だと思っていたのに、話せばまぁ中身は女を敵に回しそうな、残念な奴だった。それでもベンジャミンはサタナースを好きみたいだから、人間っていうのは分からない。

そもそも、ベンジャミンに『悪い虫がつかないように見張ってて』と言われたのが、このサタナースと話すきっかけだった。

同じ一般庶民ということもあるけれど、ベンジャミンに有力な情報を与えるために話をかけたり、二人の仲立ちをしていく内に友達になっていった。

一人で行っていた移動教室も今じゃ一緒に行ってくれているし、持つべきものはやっぱり友だと思う。

あぁ、普通の学校生活。幸せだ。

「ふごっ!」

しかし突如横から頬を殴られる。

幸せをぶち壊すメリッという音が、拳と共に食い込んできた。

「あ、いたの? ごめん気づかなかった」

ジンジン痛む攻撃されたほうの頬を手で撫でる。

状態を立て直してキッと隣を睨み付ければ、欠伸をかいてこっちに腕を伸ばしているロックマンがいた。

もう一生涯、欠伸をするな息をするな外道が。

今日も黒のズボンにブーツ、上は白いシャツと黒色のベスト。至る所に程好い感じの金の刺繍入り。黒いロングコートは、教室の後ろの衣類掛けにかけてあるのが見える。

くそう、金持ちのボンボンめ。

「わざとだ! ちょっとはレディに優しくとかないの!?」

さっきまで机に伏せって寝ていた癖にいきなり起きて何すんだコイツ!

私は指をさして、世間じゃ甘い美形顔と言われている憎たらしい顔に詰め寄った。これのどこが甘いんだか。

胡散臭さしか感じない。

「お前もさっき背中蹴ったよね。自分がやったことも忘れたのか馬鹿氷レディ」

「レディも馬鹿氷もやめろ」

お互い睨み合う。ここ数年でガンをつけるのが上手くなった。嬉しくも何ともない。

奴との関係は未だ変わらない。いや、変わるもんか。

年が上がるごとに私達の間の犬猿感は強くなってきている。会えば言い合い、どっちかが手を出せば勝負開始、それが教室だろうとなんだろうと売られれば買い、買えば売られると所構わずやり合う。周りを破壊しない程度に。

「今度こそ全身凍らせてやる!」

「ふーん、やれるものならやってみな」

私の手には冷気が宿り、ロックマンの手には炎が宿った。

教室の中にいる皆はまたか、と楽しそう? に見ている。楽しそう、というかロックマンを応援する声が『アルウェス様! 馬鹿氷にお負けにならないで~っ』という侮辱感満載なもの。

見ている女子の大半は救世主がロックマンで、私が悪者に見えているんだろう。

フッ、良い茶番劇だ。

救世主が悪に負けるということも、たまには教えてあげなければ。(もう悪党)

「おい二人ともやめな「サタナース邪魔だ。どけ」

仲裁に入ろうとしたサタナースの声が、横から入ってきた人物によって掻き消された。

私はロックマンから一瞬目を離してサタナースのほうを見る。

「あ? なんだ黒焦げか」

割って入ってきた声に、サタナースはつまんなそうに呟いた。

「いい加減名前で呼べと言ってるだろう。それにそこは俺の席だ。邪魔だ、どけ」

「へぇ、王子様っていうのは偉そうにするのが仕事なんですか?やれやれ」

「お前のほうが偉そうにしているじゃないか! そこは俺の席だと言っているんだ!」

今にも喧嘩が始まりそうな私達の前で、新たにやり合おうとしている人達がいる。

ロックマンはそれを目にすると、私の腕を素早く掴んで、急激に熱を当ててきた。二人に気を取られて反応が遅れた私は大人しくそれを受けてしまい、熱に悶える。

あつっ! 火傷する!!

「あづいわ!!」

「まぁまぁ王子。サタナースとは友達なんですから、仲良くしたらどうですか」

イヤァア! と叫ぶ私の声を差し置いて、奴は目の前の二人に笑って話しかけた。

抵抗しようと手を氷結させてるけど、相対してるのかジュウジュウと蒸気が上がるだけで、完全に相手の手を凍らせることが出来ない。

お陰でもうそんなに熱くないから別に良いのだけど、いつまでもロックマンが手を離さないし、炎が相手の手から出続けているので油断できなかった。腕を引っ張ってもびくともしない。

ちくしょう。今年は腕力を鍛えるのも視野に入れることとするか。

「友達ではない!」

「そうだよ心外だよ。アルウェス君、君は聞き分けが良いから良いけどコイツは駄目だよ。黒焦げだもん」

「黒焦げから離れろ!」

お怒りになっている黒髪黒目のゼノン王子。

サタナースが彼に黒焦げと言っているのは、半分やっかみみたいなもので、その実、ゼノン王子の黒髪黒目が羨ましいからであった。

自分の髪に大層不満があるらしく、黒髪サラサラ髪の王子を見ては項垂れている。癖っ毛も良いと思うんだけどな。

しかしいくら気に食わないとは言え、王子相手に敬語も使わずタメ口叩いてるサタナースはある意味強者だと思った。ロックマンでさえ王子には敬語なので、サタナースに注意するのかと思いきや、意外にもそれについては特に何も触れていない。

良いのか、それで。

「一番前の席と交換してくれよ~」

「ふざけるな。恨むなら自分の運の悪さを恨め」

けれど、なんだかんだと言っても端から見れば随分仲が良さそうだし、お互い若干楽しんでいる節もあると思うので、落ち着いて見ていられる。

喧嘩するほど仲が良いってやつなのかもしれない。

「そういえば黒焦げ、今回お前四位だったな。スゲーじゃん」

「あぁ、お前のほうは確か最下位だったな。ある意味すごいぞ」

未だ席を退かないサタナースは、我が物顔で机に手をつくと、ゼノン王子に称賛の声を贈る。

急に話を変えられたゼノン王子のほうは、眉間にシワを寄せるも反応を返した。

王子は頭が良くて魔法の腕もあり、この前全員の前で習得した魔法をお披露目する時間の時にも、雷の超魔法を見せてくれた。天候を操り、広範囲に雷の閃光攻撃を落とす魔法で、私達は透明の防御の壁の中で感心したのを覚えている。

あんなのにやられたら一発で終わるだろう。

「でも俺より、この二人のほうが凄いと思うが」

ゼノン王子は私とロックマンを見てくる。サタナースは確かにな、と言った。

やめろ、その話をするんじゃない。

コイツが隣にいるってだけでもムカつくのに、試験の話をされたら更に堪らない。私の中の意地にかけて、一位になっていつか『貴族の人って庶民より出来がわるいんですのね? オッホッホッ!』って言ってやるはずだったのだ。

特にロックマンに対しては、いの一番に言ってやろうとしたのに!

「アルウェスは毎回一位で、ヘルは毎回二位だろう? 魔法もそうだが、頭良いよなお前達」

腕を組んで、今度は王子が称賛の言葉を投げ掛けてきた。ゼノン王子は他の貴族とは違い、あまり平民庶民だ何だのと気にしていない点が好感を持てる。第三王子だからなのか、将来は王国の騎士団に入り上に立つのだと聞いている。国を守るのが仕事になるわけだから、平民だなんだのと一々区別するのも面倒だと言っていた。

さすが王子様は言うことが違う。格好いい。

けれど私の腕を掴んでいるロックマンの手が、徐々に凍りついていく。パキパキと音を鳴らして身体を包もうとしているそれに気づいたロックマンが、慌てて手に宿す炎を強め始めた。

「お前っ、危ないだろ!」

ヘルは毎回二位。

そんな言葉がもう定着してしまっている。言わずもがな、『毎回一位』なのはさっき王子が言っていたように、ロックマンだった。

そしてその度に、私は『毎回二位』という錘を背負って泣きを見ている。

これじゃいくら私が他の貴族より成績が上でも、貴族でさらに公爵であるロックマンよりも下である限り、当然あの文句は言えない。

「~っぅう! 凍っちまえ!!」

今なら私もハンカチーフであれが出来ると思う。

キィィー!悔しい!!