軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢になれるまで・3

学校に来て半年。

授業はなかなか充実していて、勉強を沢山したい身としてはとてもありがたかった。

一人の先生が教えるのではなく、専門分野ごとに違う先生が教えてくれているので分かりやすいし、なにより深く質問してもその分野を知り尽くしている人達だから、答えが返ってこないことがない。

いゃぁ、ここに入学して良かった。

「おはようニケ」

「おはようナナリー。……あなた髪の毛グシャグシャよ」

もう女の子なんだから!と、ニケが白を基調とした洗面台の前で、髪をとかしてくれる。

まだ寝巻きの私と比べて、彼女はもう服に着替えていた。黄色のワンピースが目に眩しい。

「ありがと」

鏡に映る彼女の顔を見ながら、お礼を言った。

このニケという女の子は、私と同じ寮の部屋で暮らす一般の女の子だ。ブロンドの髪が綺麗で、可愛いと言うより美人さん。けれど本人は可愛いと言われたいらしくて、普段から二つ縛りであった。

でも見た目はどうであれ、そんな所が可愛いなと私は思う。

彼女とは最初こそ会った時はお互いぎこちなかったけれど、半年も経てば自然と打ち解けていったし(同じ部屋だし)、今では学校内の一般の子達ともほぼ友達状態だった。

やはりなんというか、一般ゆえの結束みたいなものもあって、教室は違えど志は一緒、みたいなところがある。

志は言わずもがな『打倒・貴族』。

皆胸に手を当ててただその一点の星を見つめている。

「なに、まーたニケがお母さんやってるの?」

同じ部屋のもう一人の子ベンジャミンが、赤い波打つ美しい髪を撫で付けながら、洗面台にやってくる。

結構露出度の高い服装な彼女。足を惜しげもなく出しているベンジャミンの腰には、緑の布が巻き付けて垂らされていて、見た目だけ見るとお姉さん、という感じの女の子だった。足が細くて綺麗。

女子寮に入った私は、ひと部屋三人で過ごしている。

寮の中では貴族と一般は区別されていて、私とニケを抜いたあとの一人、ベンジャミンももちろん一般の女の子。

でも区別されているからと言って部屋の内装も違うということはないらしく、ただ一般と貴族を同じ部屋にはしていないだけらしい。

正解だと思う。

「ナナリーは勉強より、絶対女子力つけたほうがいいわよね」

ベンジャミン、うるさいぞ。

「それより二人とも、大食堂の朝ご飯、早く食べに行かなきゃ時間ないわよ」

「嘘っもうそんな時間?」

ベンジャミンの言葉に、私はニケの手から頭を離す。

まだ梳かし終わっていない、とニケから不満げに言われたけれど、触ってみればなかなか心地の良いサラサラヘアーになっていたので充分だった。

完全な黒じゃない私の焦げ茶色の髪は、お陰さまでツヤッツヤ。

持つべきものは女子力溢れる友達だ。

「んーおいしい」

三人で歩いて、大食堂に着く。

そこは食堂に「大」がついているだけあって広い所だった。朝食時には色々な学年が入り交じっていて、最高学年から最小の私達までと多いから丁度いい。

料理はバイキング形式で、好きな物を皿に取ってから自由に席へ着く。テーブルは横長で六、七人は座れるくらいで、それがいくつも規律よく並んでいた。

私達は野菜や主食を皿に盛ると、大食堂の扉の近くの空いている席に座る。

天井は硝子になっていて、島の空がよく見えた。

開放感があって良い。

「ベンジャミン! それ私が持ってきたやつ!」

「早く食べないからこうなるのよーん」

「こンのやろう!」

「ちょ、汁飛ばすんじゃないわよ!」

兎鳥の揚げ焼きを鋭利な食器でブスリと刺す。私の好物だ。

兎鳥と言うのは、長い耳の生えた水色の鳥の名前。

毛色が水色の理由は、あまりにも人間や他の生き物から狙われるため、敵から見えにくいように空の色と同化するように進化したため、なのだそう。

兎鳥もたいへんだ。生きるためにこんな色になって。

でも肉汁たっぷりで美味しいのがいけない。

「服についたじゃないの!」

「わ、ごめん」

「あぁ~ん服がぁ」

ベンジャミンの緑の腰巻きに、兎鳥の肉汁が飛んだ。綺麗に横に真っ直ぐチョンチョン、とついている。我ながら芸術的に付けられたものだ。

しかし、どうしてくれる高かったんだぞ、と鬼の形相で迫ってくる彼女にしてみればそんなことはどうでも良い。段々声も萎れてきて元気がなくなってきた。

これはいよいよキレるのも時間の問題かもしれない。

「なんでこんな所に、そんな汚したくない服装でくるのよ。汚したくなきゃどうでも良い服を着て来なさい」

「なんてこと。ニケが冷たいわ」

「う~、でもベンジャミンごめんね、あとで綺麗に汚れの落ちる魔法の勉強しとくから!」

「プッ。そこまでやんなくていいわよ」

この学校に制服はない。あるのは学生証だけ。

一般の皆はもちろん自前の服であり、個々好きな格好をして過ごしている。ニケはいつも丸襟の短めなワンピースで、私も一枚布の服装にベルトを巻くだけの似たような格好ばかり。ベンジャミンはおしゃれさんゆえに毎回服が違う。

ベンジャミンには色気もくそもないわ、と言われているけれど、勉強をする上では色気もくそもそれこそ必要ないので、気にはしていない。してないもん。

だいたい、まだ私達は12歳なんだし見た目を気にしてどうする。

まぁ貴族の場合は違うらしいが。

家の品格に関わるらしいし。

けれど彼女、ベンジャミンにはもう好きな人がここで出来たようなので、それもあって外見を気にしているのだとは思う。

「あっ、ナル君だ!」

「またサタナース? ほんと好きねぇ」

銀髪の男の子が食事台の脇を通る。ベンジャミンは瞳を輝かせて興奮気味に名前を呼んだ。彼女の前に座っていたニケは、それを見て呆れた声を出す。

ベンジャミンが好きな人と話すのは、そのナル君という男の子だった。どうやら彼女の一目惚れらしく、目と目が合った瞬間に運命を感じたのだそう(ニケ談)。

ベンジャミンがお熱な銀髪の男の子。その子の名前はナル・サタナース。

私と同じ教室の一般の子だった。

「今までは普通の攻守魔法を教えていたが、今日は魔法型による攻守魔法を覚えてもらう」

そう先生が言った瞬間、教室の中は一斉にざわついた。

「魔法型って、あの六つの血、っていうやつですか?」

「そうだ」

今日は実技ではなく普通の筆記授業だと予定表に組み込まれていた私たちは、いきなりのことに戸惑う。

「魔法には系統がある。今からこの『六色の悪戯と知恵』という教科書を配るから、指示した項目を開いて」

先生の浮遊の魔法で、何十もある教科書が一斉に生徒全員の机の上に飛んでくる。蝶々のように紙をバタつかせて、ひとつ私の前にやって来たそれは、パンと冊子を閉じてゆっくりと机の上に降りた。

私は目の前に来た教科書を見る。

表紙には虹色の橋の絵があった。でも手前に悪魔だか何だか分からないキモい物体が描いてあるせいで、不気味にしか見えない。コレもうちょっとどうにかならなかったのか。表紙に触れたくない。

しかしそう思っても勉強はしなくちゃならないので、さっさと項目を開く。

先生が指定した所を開けば、『六つの血』という表題が目に入った。

「この六つの血。皆も聞いたことはあるだろう。この血とは魔力のことだが、俺たちの魔力は血、そのものだ。知ってるな? 自分の血が生きている限り、無くならない限り、魔法が使えなくなるなんてことはない。そして教科書にある火、風、水、氷、地、雷の六つ。この中のどれか一つは、君たちに備わっている魔法型だ」

先生が手を伸ばすと、指先から雷がバチバチと光を放っているのが見えた。

「先生の魔法型は雷になる。よって、その魔法型でしか扱えない攻守魔法は、先生の場合、雷だ」

先生の説明を要約すれば、つまり魔法型と言うのは、自分の必殺技が決まる武器みたいなところ。

今まで習ってきた攻守魔法は、どれも相手の動きを封じたり、剣を作り出して相手に飛ばしたり、はたまた防御の壁を生成したりと、あたりさわりのないもの。言ってしまえば勉強をすれば誰でもできてしまう。

でもこの魔法型によって振り分けられる属性でしか出来ない魔法がある。その属性の血液を持っていない限り、どんなに頑張ってもその魔法は使えない。私がもし雷の魔法型だとして、水の攻守魔法を覚えようとしても、雷の魔法型である限り、水の攻守魔法は使えない。なんの意味も無いということだ。

そんな魔法型だけれど、まさか学校に入学して半年足らずで習うことになろうとは。魔法が魔法だけに、あと一年くらいは習わないのかと思っていたのだが。

「まだ君たちは、自分の魔法型が何だか分かっていないだろう」

先生の指先はまだ光を放っている。

そう、私たちは自分の魔法型をまだわかっていない。

親や大人達は魔法型を調べる方法を知っているけれど、子供達にそれを教えてはいけない決まりになっている。まだ扱い方も知らない子供には危険であるから、らしい。

普通に村の学舎にいたら、教わるのは18歳くらいになってからになる。魔法型を重要視していない職業に就く人なんかは、そんなに知る必要もないからだ。それに知らなくても困ることはないし、いらない武器は持たなくても持っていても構わない。普通の攻守魔法が使えるだけで十分だと考えている。

でも私達のようにここに来る人間は違う。魔法の絶対的な力を必要とし、学ぶ意欲もある。破魔士になろうとする人間や、貴族の人達なんかはもっと必要としているだろう。魔物と戦うことがあるのだから。

私は受付のお姉さんになりたいだけだけど。

「ねぇ先生、水と氷って一緒ではないの?」

今日も高級感のある赤いドレスを着たマリス嬢。

彼女もけっこう勤勉なところがあるので、ロックマンのことさえなければ好感が持てる。なのに今でもロックマンの隣にいる私を名指ししては、皆で貶して馬鹿にしてくるから困ったものだ。

私が好意を持っているなら別だが、好意を持ってもいないのにそんなことをされていたら、嫌でも嫌いになる。

「似たようなものに感じるだろうが、一緒じゃない。分かりやすく言えば、最初から固体を出せるか出せないかっていう違いだ」

マリス嬢の質問に、先生がそう返す。

とりあえず別物ってことなのだろう。

「じゃあ一人一人、今から魔法型を調べる」

その声に教室の中はまたざわついた。でもさっきとは違って、ちょっと楽しそうな声も混じって聞こえてくる。

うしし、私も実はちょっと楽しみにしている。

だって自分の魔法型なんて、私にとっては未知の領域と言っても良いくらいだから。

「最初はサタナース、前に出てきてくれ」

「俺ですか?」

「一番前の席で端と言ったら、最初にあてられるのが常だろう」

サタナースと呼ばれた一般のあの男の子が、戸惑いながら席を立つ。

確かに一番前の席の、特に右側はよくあてられる。席では最も嫌われている場所と言われても過言じゃない。村の学舎にいた時は大体中間辺りの席だった私だけど、席替えでもうまくあの席は避けることが出来ていた。

でもたまに先生の気分で『あー、じゃあ今日は真ん中からな』なんてことがあったから油断は出来なかった。

「じゃあいくぞ」

「はい」

「利き腕を伸ばして仰向けに手を広げろ。それから中指を折り込め」

サタナースが教壇の前で先生と向かい合っている。

「折り込んだら集中しろ。そうしたら、セーメイオンと言え」

「セー?」

「セーメイオン。印という意味だよ」

サタナースの肩に手を置いた先生は、大丈夫だ、と言うと肩から手を離した。

「セーメイオン(印の華)」

皆が見守る中、彼がとうとう呪文を唱える。ゴクリと誰かが息を呑む音が聞こえてきそうで、私も見ていて思わず手を握った。

「? なんだろ」

先生が教えた通りの動作をした彼の周りには、次第に変化が見えてくる。

教壇にあった教科書はひとりでにパラパラと紙がめくれて、窓も開けていないのに 皆の髪の毛が風で揺れたりしていた。

それから暫くすると、サタナースの手の上に小さな竜巻が出来ていた。

「先生、俺って」

「サタナースの魔法型は風だってことだな。だからお前は、風を使った攻守魔法をこれから勉強していくことになる。頑張れ」

「はい!」

初めて魔法型を知れたことに感動したからなのか、それとも自分が風の魔法使いだということに感動したからなのか、サタナースの目が輝いている。

自分の手を握ったり開いたりと興奮していた。

「今やり方を見たからと言って、その場で真似してやらないように。サタナースはたまたまこうして大人しく出来たが、中には魔法が暴走して爆発した、なんてこともあるからな」

先生の声に、サタナースの隣の席の子が急いで机の下に手を引っ込めた。

やるつもりだったのか。

「ほら、順番に前に出てこい」

次の生徒を呼ぶ。

それからは先生が言ったように順番で一人一人魔法型を調べていった。

あのマリス嬢は火の魔法型だったみたいで、手のひらの上には真っ赤な情熱の炎が燃えていた。なんかピッタリだと思う。でもドレスが燃えないように気を付けて、と心の隅で思った。

王子であるゼノン様の魔法型は雷。呪文を唱えた瞬間白い閃光が教壇を破壊して、一瞬騒然となった。けれど誰も怪我はしていないのでとりあえず良かったと思う。教室の崩れた部分は先生が修復の魔法をかけてくれたし、元通り。

そして隣の席のアイツは火の魔法型だった。しかも手のひらに炎が灯るとかではなく、大きな龍の形をした炎が出現して、教室の天井をずんぐりと這った。滅茶苦茶熱い。暑がっている皆を見ているアイツの目はすごく楽しそうで、マジでぶん殴ってやろうかと思ったくらいだ。

「アルウェス、終わりにしろ」

先生はすぐに指をパチンと鳴らすようにロックマンに言う。

指パッチンは魔法解除の基本で、それをすれば自分の出現させた魔法は止む仕組みになっていた。

しかし、なんて野郎なの。

あんなものを初段階で出せるなんて。

「きゃー! アルウェス様は私と同じ火の魔法型よ! 運命だわ!」

「私もよ!」

でも悔しがるどころか、彼と一緒の魔法型であるマリスや他の女の子達にとっては嬉しいことみたいで、手を叩いて喜んでいる。

ちっ、最近は何だかそれも微笑ましく見えてきたもんだ。私に文句を言うのは別だけど。

またそんな彼女達を見た他の女の子達は、ハンカチーフをサッと取り出して悔し噛みしている。

あれはもはや一芸の域に達している。

「次はナナリー、前に出てきて」

隣のロックマンがやったということは、ついに私の番になってしまった。

先生が呼ぶ声に返事をしたのは良いけど足がちょっと重い。鉛を履いているみたいに重い。

だってあんな龍みたいなもん出されたあとにやるとか、なにそれ。別に今は勝敗を決めている時間じゃないけれど、確実に何かが負けようとしている。

今まで習ってきた魔法は、別段凄さを競うものじゃなかった。威力だって皆同じくらいだったし。防御だって。

でも今回のこれは確実に個人さ「おいナナリー、突っ立ってないで降りてこーい」

「……はい」

だって、今回のこれは確実に個人差がある。

「ナナリーどうした? 具合でも悪いのか?」

「いえ」

いつまでも席から動かない私を、先生が再度呼んだ。

心の中でハァと溜め息を吐いて、階段を降りようと立ち上がる。

私が席から動くまで階段で待っていたロックマンが、すれ違い様「もしかしてビビってない?」とか言ってきたので、

「よ、余計なお世話だボンボンがァァ!!」

叫びながら走って階段を降りた。

あの胸糞野郎め。いつかギャフンと言わせて、ついでに泡も一緒に吹かせてやる!

「じゃあナナリー、利き手を」

「はい!」

私は鼻をフン!と鳴らして意気揚々と腕を伸ばした。

「セーメイオン(印の華)」

やる前にヒソヒソと庶民の~だか、どうせショボい~、とかうっすら聞こえてきたけれど集中集中。

先生が喋ってた生徒にチョークを豪速で投げつけていたから問題ないし。ありがとう先生。(学校内での先生の権力は強い)

呪文を唱え終えた私は、じっと自分の手を見ていた。

何が起きるのか分からないから、落ち着いて息を吐く。

「………」

しかし十秒くらい経っても特に変化が起きない。

え、ちょっとまってよ、私魔法型がないとかないよね? ね?

もしそうだったら教室中から笑い者の種にされる!

「ナナリー・ヘル! あなた髪の毛!」

「?」

そんな声に、私は顔を上げて皆の方を見た。

見れば、あのマリス譲が私を指差して目を見開いている。いつもの睨みつけたり侮辱を孕んだ視線とは明らかに違う。何をそんなにびっくりしているんだろう。

しかも髪の毛?

髪の毛がどう……、

「ん?」

使っていないほうの手で髪を掬うと、そこには水色の髪の毛がある。サラサラツヤッツヤの髪の毛が。

水色?

誰の?

「まぁ、魔力ってのは自分達の血に宿っているからな。たまにこうして髪色が変わったりするやつがいる」

先生はお気楽に言う。

私はその言葉を数秒後、ゆっくりと理解した。

私の、髪が、色が、かわ、変わって、いる?

「なんで!?」

落ち着いて、私。ひとまず冷静になろう。

人指し指と親指で髪を摘まんで、目の先に持ってくる。やっぱり見間違えではない。変わってる。

「さっきも言ったが、本当に稀にあるんだよ」

「わ、分かってますけど」

たまにいるって、過去他にもいたのか。

………いやしかし、だ!

確かにそういう例はあるって聞いたことがあるけれど、教室の皆はそんなことなかったし、何よりこの髪の毛どうすりゃいいの!?

魔法を解けば元に戻ったりする!?

「ちょっ、でも先生! これ治らないんですか!」

「色を変える魔法で髪を染めないとなんとも。魔法が覚醒したのと一緒だからな。今更元には戻せない。嫌か? 水色。綺麗だからいいじゃないか」

そりゃもう見事お綺麗に毛先まで染まっている。

ていうか私の魔法って結局なんなわけ!?

髪を染める魔法って何型よ!! 美容型か!!

しかし急に、教室の温度が冷たくなる。

「なに……?」

キラキラと真白い光が教室中に落ちてきた。皆は上を向いて、なんだなんだ、と手を伸ばす。

私が伸ばした手のひらの上には、その中の一つが落ちてきた。

手のひらよりも少しだけ小さい塊が、私の手の上でフワリと浮いて留まる。まるで元の場所に戻ってきたみたいに。

「これって雪の結晶? 綺麗」

誰かがそう呟いた。

「なるほど。ナナリーは氷だな。この中じゃ氷はお前だけになる。隣の教室がどうだかは分からないが、やっぱり少ないか」

後ろで先生が頷いている。

えっ、少数派!?

「魔法型が氷の先生もいるから大丈夫、大丈夫。心配するな」

そうだよね、ちゃんと教えてくれるよね先生。いくら少ないからと言って御座なりなことしないよね先生。

私は指をパチンと鳴らして魔法を解く。

すると結晶は降らなくなった。でもやっぱり胸まで伸びている私の髪の毛の色は、水色から元には戻らなかった。さらば私の美しき焦げ茶色。

項垂れる私の背中に手を当ててくれた先生は、階段まで私を手ずから誘導してくれる。別の捉え方をすれば、ようはさっさと席に戻された。廃れている私の今の心は、後者の考え方しか出来ない。

へいへい、戻りますよ。水色氷女は。

「え? お前瞳の色も変わってる」

「うそ!」

「嘘だよ」

「嘘かよ」

「嘘」

「なんなの!?」

席に戻れば隣のロックマンからそう言われる。冗談だと思ったが、なんでかあんまり冗談に聞こえなかった。

それにしても、鏡を見たいのに鏡がないから確認ができない。

ていうか瞳の色まで変わっているだと!?

私どうなってんの!?

黒い色に愛着はなかったし、むしろニケみたいなブロンドとかに憧れていた部分はあった。ベンジャミンの赤い髪もいいなぁとか思ってたし、ゼノン王子みたいに一点の曇りもない綺麗な黒い色も、同じ黒髪仲間としては羨ましかった。

だからね、でもね。

水色はさすがにない。

椅子に座った私は利き手で拳を作って決意を固める。

少ないということは、また別の意味で捉えれば珍しい魔法型っていうことになり得るんだ。

こうなればいつまでもクヨクヨしていても仕方がない。

この氷の魔法型を極めて、成績一番になってやろうと思う。