作品タイトル不明
修学旅行編 2
課題もそこそこにお昼になったので、班の五人で再び集まり使い魔に乗って山のふもとへと降り、皆と合流して西の生植物園の宿の食堂でご飯をとることにする。
王子は良いとして(むしろ一緒で頼もしい)、せっかく景色の良い場所で奴とずっと一緒に行動をするというのは我慢ならなかったが、そういえば五年間隣の席だったと気づいてまた更に苛立った。いったいどこまで私達は一緒なんだ。
「わぁ、綺麗~」
崖から落ちる滝が眺められるガラス張りの食堂は、この宿の三階にある。
案内された室内に着けば先生が好きなところに座っても良いと言うので、私は窓際の景色が見渡せる場所へ一目散に走った。走ってはいけませんと治癒のプリスカ先生に叱られたが、一番乗りで確保できたので悔いはない。
しかし貴族女子達は意外にも景色に興味がないのかこちらに来ることはなかった。遠くから、まぁ良い眺めですわねと言って落ち着いている。
逆に私達平民はというと騒がしく、次に我先にと窓際へ来たのはサタナース、隣の教室のボルター、セイル、などの男子生徒達だった。ベンジャミンやニケも揃って私の前の席に着き、キャンベルとカーラも私の隣の席に座った。
ロックマン達は貴族女子達に囲まれたまま遠くの席に着き、そのまわりをまた貴族男子が囲んでいる。
こうして見ると見事に貴族平民でうまく分かれたものである。
「景色が最高だな!」
「やっほ~!」
「山じゃねぇんだから響くかよばーか」
サタナース達男子のアホな会話を耳に入れながら、食事が来るまで友人達と雑談をすることにした。
「どうだった? ナナリーはマージンの木だっけ」
髪の毛の先をくるくると指に絡ませて遊ぶベンジャミンが、テーブルに肘をつきながら聞いてくる。けれど近くにサタナースがいるのに珍しく騒がないので何でだろうと不思議に思っていれば隣のカーラから『なんかね、ロックマン様に助言されたんだってよ』と小声で教えられる。
助言? 助言ってなんだ。
「そうそうマージンの実、皆に分けようかなってたくさん袋に詰めてきたよ。今食べてみる? すっごい美味しかったから」
「うそっ美容に良いんでしょ? 食べる食べる~」
「ナナリー私も私も」
「私もちょうだい」
はいはいと、友人達との学校外でのやり取りに和んだ。
この食事が終わったあとは、生植物園の中を散策する予定となっている。その散策も班でということなのでこの食事の時間がいかに尊いものなのか、わかってもらえるだろうか。
散策のあとは地面から温かいお湯が湧き出ているという湯浴み場があるそうなので、そこでまた友人達と一緒に過ごせるはずだ。それまでは頑張ろう。
さっそく前菜が運ばれてきたので、木の実を食べていたとはいえお腹が空いていた私はむしゃむしゃと野菜を口に運ぶ。バウトという鳥のスープも美味しく啜った。
学食も美味しいけれどここはそれ以上に美味しいねと話していると、もう少し辛みが欲しいですわね、量が多すぎるな、と貴族達の席からちらほらと会話が聞こえる。高級な舌を持つ彼等は少々採点が厳しいらしい。だが学食に文句を言っているのは聞いたことがないので、私達の舌がおかしいのか貴族の生徒達が学食の味に慣れて分からなくなってしまったのかは謎である。
「なぁ、ここ出るらしいぜ」
後ろの席に座っていたサタナースが、食べている途中にも関わらず私達の席の間に割り込んでくる。
怪訝な表情で今は食事中だと伝えるもまるで聞いていないのか、私とカーラの間に椅子を移動させてきた。
うずうずと話したそうにするので何が出るんだと聞けば、出るって言ったらこれしかないだろうと両手を顔の下でぶらぶら下げてベロを出す。
得意気な顔をするサタナースの目頭に、私は二本指を立ててえいっと突き刺す。
「イテェっ!!」
「何が出るっていうのよ。だからうちの教室の女の子達に嫌われるんだからね、まったくもう」
顔を手でおさえて悶えるサタナースを尻目に、私達はもくもくと食事を再開する。
「でも出るって何が?」
「決まってるじゃない、幽霊よ。ゆ、う、れ、い」
「ええっそうなの? そうなのナルくん!?」
キャンベルの言葉に、きゃあこわ~い、とベンジャミンが口元に手をやるが実は彼女、そういう類いはまったく怖くないのである。寮でも他の部屋の友人達が湯浴み場から変な音がして怖いと助けを求めて来たときに、確かめてあげる、と誰よりも早く先陣をきって湯浴み場へ突入していたのはベンジャミンだった。
幽霊? いても怖くないわよ。というそんな彼女である。
女子達の間では周知な事実のため、きゃあこわ~い、が私達友人には棒読みにしか聞こえていない。ニケなんかは明後日の方向を見ている。
「そ、そうなんだよ、男に殺された女の幽霊が出るって――」
「「ちょっと黙ってて」」
カーラと二人でサタナースの口に手を当てて塞ぐ。
私達が大丈夫でも他の子達が大丈夫ではないのだ。今も不安げな表情でこちらを伺う生徒が何人かいる。こいつは無駄に声がでかいのだ。
後ろにいたボルターとセイルにサタナースを引き渡して、やっと運ばれてきた主食にありついた。
*
――ピークルル。
大耀鳥が黄色の大きな翼を広げて、この青い空の中を気持ちよく飛んでいた。
「じゃあ右から順にまわろうか」
「私は左からのほうがいいと思います王子」
「右からのほうが観光には適しているんだ。ね、王子」
「いいえ左からのほうが混み合わなくてゆっくり見れますよ、ですよね王子」
「お前達なぁ……」
お昼ご飯も食べ終わり、静かな佇まいの宿の入口で。
私とロックマンはガルルと猛獣のような顔つきでお互いにおでこを突き合わせて威嚇をしあう。しかし猛獣のような顔をしているのは私だけで、ロックマンは真顔で睨み付けてきているという感じだ。
ゼノン王子に意見を求めると呆れた顔でため息をつかれる。
我々が面倒なことをしているのは重々承知であった。
「アルウェス様がわざわざヘルに高さを合わせているぞ」
「顔に出さないけど絶対に楽しんでるよな」
班の五人でまわるのでどちらからまわるかを相談していたが、ロックマンと私の意見が分かれてしまい難航していた。ラスは私の言う左を支持してくれ、もう一人の男の子はロックマンの言う右を支持している。結局綺麗に分かれてしまったので、残りの一人であるゼノン王子にどちらにするのか決めてもらうことになった。
「山ではナナリーの意見を参考にしていたからな。今度は逆にしてみるか」
「だってよ、ヘル」
そう言ってロックマンの肩に手をかけて勝ち誇り顔をする貴族男子と、当然とでも言うような態度で目を瞑る奴に唇を尖らせる。確かに山では私が行きたいところを優先してくれていたので、それ以上わがままは言えない。
ここはしょうがない、潔く身を引こう。
しかし右の何が嫌かって、王子とロックマンが揃っているこの状況で、女の子達の横入りは絶対に免れないのだ。そうなったらそうなったで固まって行動することは皆無に等しい。アルウェス・ロックマンという生粋の女性好きはそんな女子達を無下にはしないしさせないことは容易に想像できる。実に悔しい。
「でもさぁ、僕達は僕達で行ってもいいんじゃないかな。さっきも別行動だったし」
「そうかなぁ……でも皆で」
「三人と二人で別れるのも班行動ってことで。ね?」
ラスは気にかけてくれているのか、私の手をすくい取って一緒に行こうと言ってくれる。
「君達。『班で』って言ったよね」
「ちっ……」
しかし背後に炎をちらつかせたロックマンに正論で怒られたためそれは叶わず、私達の班は右からまわることに決定したのだった。
舌打ちはせめてもの抵抗である。
つづく。