作品タイトル不明
修学旅行編 1
150人もの生徒を乗せた馬車が山のふもとに到着した。
ドーランの西にはハリョウ山と呼ばれる、一年中花が咲いている山がある。雪が降っても雨が降っても照りつける日差しが暑かろうと関係なく咲いている。朝方まで雨が降っていたせいか花や草には露がついているが、陽の光にあたりキラキラと綺麗に輝いていた。
今、私達は課外学習という名の登山をさせられている。学校から使い魔で飛んで登ればすぐに頂上にはつくのだが、先生が断固として足での登山を押してきたため、皆息をゼェゼェ吐きながら足を動かして歩いている。先頭をきる先生達の背中には生徒達の恨み辛みの視線がザクザクと刺さっているに違いない。
私も体力には自信があるのだが、ずっと歩いていると少々息があがってくる。教室内で班を作り(強制的に決められたもの)その班で移動しているので、同じ班である人達と励まし合いながら登るのが理想なのだが……と私の班を眺める。
班は席順で決められており、近い者同士が同じ班にいた。私の場合は隣の席の男と前の席の三人が同じ班にいるのだが、その中に女の子は一人もいない。前の席であるゼノン王子とは同じ班であり、彼は汗一つ流さず黙々と前を歩いていた。時おりこちらを振り向いては大丈夫か?と声をかけてくれるのでそれに笑顔で頷きながらその後ろに付いていっている。
「も、もうダメですわぁ~」
「先生っなぜ使い魔では駄目ですのー!?」
マリス嬢の班は女の子が班の半数以上ををしめているせいか、だいぶ後ろについている。だが無理もないだろう。なぜなら登山するというのに普段と変わらない格好で来ているのだ、かかとの細い履き物で山を登ろうなど自分の身を痛め付けるようなものである。さすがに今はそんなか弱いものを履いている場合ではないと悟ったのか、先生から支給された彼女達にしてはごつごつの足元を覆われた靴を履いて歩いてはいるが。
「足の傷は痛くならないよう治してあげるから大丈夫だよ」
ところでそんな中、私の隣の席で一緒の班となっているあのアルウェス・ロックマンはというと、気分が落ち込み歩みが遅くなっている同じ教室の女の子達に「大丈夫?」「ゆっくりでいいから、一緒に行こう」「あともう少しだよ」とあたたかな声で紳士的に引っ張っていた。
本当によくやるものだ。
他の男子もそれを見て負けじと女の子達に声をかけたりするが、ハァハァと自分の体力が追い付いていないのか声をかけている内に女の子より歩みが遅くなってしまうという残念なことになっていた。ロックマンに応援をされた女の子達は逆に元気になったのか、崖のお花が綺麗なんですって、昼食は一緒に食べましょう、空が青いわぁ、など楽しそうな会話が聞こえてきていた。
無惨にも女の子達に置いていかれた男子たちは悔しそうにその場でしゃがみこみ拳で地面を叩いている。
私はその姿を横目で見送りながら、黙々と歩いていった。
*
「ではまず、班で遺跡をまわってもらおう。昼になったら山のふもとまで使い魔で戻ってこいよ」
ボードン先生が軽食を片手に私達へ指示を出す。
なぜ先生は軽食を持っているのだと生徒から質問されていたが、どうやら朝食を食べていなかったそうでお腹がへってしまっていたらしい。自由な教師だ。
本日から三日間、私達五年生は泊まりがけで歴史自然学習に勤しむこととなっている。学校内だけでは経験できないものを経験するため、自然とふれあい、また王国の歴史を肌で感じようということらしい。
学習、とはいうものの学校の外に出ているせいか勉強をしているという感覚にはならない。
緩やかな山の頂上付近には神殿などの遺跡があり、まだ魔法使いという言葉さえなかった時代の文字盤や住居などが集まっていた。ドーラン王国内にはここ以外にも遺跡や古い建造物があるところは何ヵ所かあるが、唯一これほどまで広範囲に歴史的建造物が残っているのはハリョウ山のみである。
「王子とラスはどこをまわりますか? 私は岩場の先を見に行こうかと思います」
同じ班の二人に向き直って選択肢を聞いてみる。
遠くにベンジャミン達の姿が見えたので声をかけたかったが、今は班での行動が最重要だ。
それに夜は同じ部屋で寝ることになっているのでその時に話し込めばいい。
「なら俺達も一緒に行こう」
「あ……それなのですが殿下、私はあそこの草原のほうに行こうかと」
「草原か、わかった。班でふもとに降りれば問題ないな。それぞれ昼になったらここで集まるようにしよう」
同じ班の生徒である男爵子息のラス・ユルゲイが花の咲いている見渡しの良い草原に行きたいとのことなので、ここは二手にわかれることにする。
自然の生体、感じたこと、風景、などを自由に紙に書き出すというのが今日一日目の課題だ。ラスは絵が上手いので風景画を描くのかもしれない。
もう一人の子はロックマンと一緒にいるのか、女の子達の側から離れず課題を行うようだった。
ここまで来るともはや班の意味はまったくない。
「アルウェス様ー! こちらにいらっしゃいませんの?」
「つまりませんわぁ」
ぶーぶーとふて腐れたような貴族女子達の声が聞こえた。
「課題はちゃんと班でやるから勝手に行かないでくれ」
「ええ、一緒にやるの!?」
急に後ろに現れたロックマンにこれでもかというほど不躾な視線を送る。
勝手な行動をしていたのはそっちのほうなのだがと、女の子達のほうから離れてこちらに近づいてきたロックマンに悪態をつきたくなるが、多くの女性を苦しみから助けていたのもまた事実なので言葉をのみこむ。
もう一人の男子生徒はそのまま女の子達と課題をするそうなので怒るならばそっちであるが、登山のおかげでもうそんな気力はない。
とにかく課題を終わらせよう。
「王子、足元に気をつけてくださいね」
少しぬかるんだ地面を踏みしめながら、三人で紙と筆を片手に岩場まで歩く。山頂は王の島ほどではないがとても涼しい。細い小川をぴょんと跨いだ先には大きな岩場がある。
先生の話では確かこの先にマージンという私の背丈と同じくらいの木々がひしめく場所があるはずだった。マージンの木には美容に効果があるという甘い小さな果実がなっているというのであわよくばひと粒持ち帰りたいと思っている。
他の教室の友人達にもマージンを勧めてみたが、景色の良い草原のほうがやはり人気なようで岩場には誰も興味を持ってはくれなかった。
「はは、心配するな。これでも卒業後は騎士団だからな」
「ヘルこそそこのぬかるみに――」
「うわっ!」
「もうハマってる」
岩場を越えると、赤い実がたくさんなりたマージンの木が見えた。
赤い実が太陽に照らされてキラキラと宝石のように輝いている。
範囲は分からないが、見る限りは広い範囲でマージンの木が続いていた。
本当に小さい木で、まるでここに小人でも住んでいるかのような不思議な錯覚に陥る。
地面にも普通に草が生えており、小花もちらほらと咲いている。
森の中に道が出来ていたので奥まで行ってみようとゼノン王子に提案すれば快く同意してもらえた。
川のせせらぎのような音が聞こえていたので、この先にまた違う川が流れているのかもしれないと冒険心がくすぐられる。
「ナナリー、木の実は良いのか? 食べたかったんだろう」
「帰りに布に包んでいきます。それと実はさっきひと粒食べちゃいました。美味しかったです」
「ひくほど食意地がはってるよね」
ブチっとおでこに青筋が浮いたような浮いていないような、……いやたぶん浮いた。
これとあと半日も過ごさなくてはいけないのかと思うと、頭が痛くなる私であった。
つづく。