作品タイトル不明
そもそも隠していない。
「あのう、ヘル先輩」
ベンジャミン、ニケと中庭でお菓子を食べようと約束をしていたので(お菓子は食堂にあったもの)向かっていると、教室から少し離れた階段の手前でそう声をかけられた。
足を止めて振り返ると、一学年下の女の子二人がもじもじしながらうつ向いている姿が目に入る。見かけたことのある顔だ。
何か用事でもあるのかとどうしたの? と聞いてみたがもじもじが続き答えが返ってこない。若干頬が桃色になっていることに気づきながらも、どうしてそんな顔になっているのか検討もつかないため再度どうしたのかと質問する。
「あの、ヘル先輩って」
「サタナース先輩と付き合っているんですか?」
今度はちゃんと答えてくれたが、吹っ切れたのか思いきり顔を近づけてきて力みぎみに言われる。
サタナースと?
付き合っているか?
「ないないないない!!」
首をブンブンもげてしまいそうなくらい振って全力で否定した。
なんでそんなことになるんだ。もしそうなったらベンジャミンに尋問されるどころかビンタをされてしまう。
女の子達は私の反応に良かったぁとひと安心したような素振りを見せ、それからサタナース先輩に恋人はいるのかという話になり、それもいないと言えば最初のもじもじが嘘だったかのように明るく元気になりお礼を言われて颯爽と去っていった。
まさかあの子達、サタナースを好きだなんてことを言うのでは。
「ヘル先ぱぁい、サタナース先輩とぉ~付き合ってぇ~いるんですかぁ~?」
背中のほうで陽気なアホっぽい声調で誰かがあおってくる。見なくてもわかる。
肩ごしに後ろを見ればサタナースが口に手をあてて眉尻を下げながら、それでも面白そうに瞳を輝かせてこちらを見ていた。サタナースの両隣にはさらにゼノン王子とアルウェス・ロックマンがいて、いやなぜお前はその真ん中に堂々といるんだと場違いにも突っ込みそうになった。
「見てたの?! いたなら出てきて自分で否定してよ」
「風型の授業で一緒の子達だな。いやぁ俺地味にモテるからさ~」
「でれっでれするな馬鹿、迷惑」
お菓子を片手に冷ややかな視線を送る。
「君らよく一緒に教室移動していたしね。付き合ってるの?」
「ないわよ!!」
疲れるやりとりだ。
「ナナリーが男子生徒の中で一番仲が良いのが、こいつであることには変わらんからな」
「王子まで……」
そりゃそうだろうとでも言うようにゼノン王子までもが納得の表情で頷いた。
*
全学年交えての魔法型別の授業では氷型の生徒が少ないため技を濃く学べる時間でもあったが、同時に別学年同士の触れあいも濃くなる時間となっていた。
氷型の先生はトミル・アーデという女の先生で、学年ごとの時は一人になる私に一対一で手取り足取り細かく小さな知識から大きな技まで色々教えてくれる、教室担当の先生の次によくお世話になっている先生だ。対抗戦の時に使用したプロスト(霜の鎧)の魔法も、私は何かと炎の攻撃に身体をやられがちだから、防御できる策はないのかなぁと溢したら、先生にこれはどうかと勧められたのがきっかけで得たのものだ。薄い霜を操るのは繊細な作業で、下手したら皮膚の内側を凍らせ兼ねない。そんな魔法を先生は私に時間をかけて丁寧に教えてくれた。
魔法型に分かれて行う授業ではいつも一人だったので、ゆえに先生とは毎回二人きり。
一人というのは心ぼそかったけど、その分じっくりと教えてもらえたので、今になれば一人で良かったとも思っている。
「対抗戦おめでとうございます!」
「女子で一位だったんですよね!」
校舎の三階には雪の結晶の絵が真ん中に描かれた木製の扉がある。その扉を開ければ天井の高い、小さめの競技場のような空間があり、どんな衝撃がきてもヒビが入らない氷宝石と呼ばれる丈夫な石の床が広がっていた。
ここは氷型専用の教室である。
ついこの間対抗戦を終えたばかりの私がそこへ入ると、そのことについてお祝いの言葉が飛び交った。校内の掲示板に今年の対抗戦の優勝者の名前がでかでかと掲示されているので、誰が話さずともみんな結果を知っていた。恥ずかしいが褒められることは嫌いではなく寧ろ好きなので後ろ首をかきながらへへへとだらしない顔でありがとうと返す。
一学年から五学年まで氷型の生徒は全員で五人。六学年には誰もいないので、実質私が一番年上となっている。
これは氷型の特徴なのか微妙なところだが、皆の肌はそろって白く透き通るような、瞳も灰色に近いなど色素が薄い傾向にある。一番年下であるノースという女の子は髪の毛が真っ白で、雪の妖精みたいだと氷型内では一番年下ということもあり可愛がられている。
「そうだ、噂のサタナース先輩に告白した子がいるんですけど、やっぱりダメだったみたいで」
「やっぱり?」
「好きな人がいるらしいんですよ~」
噂のとはなんだと問いかけると、ヘル先輩と付き合ってるって噂ですとこの間の子達と同じことを言われた。
だからなぜ私とあれがそういうことにならなくてはならないのだ。とんでもない勘違いである。
氷型の子達はそれを分かっているので笑い飛ばしているので、くれぐれも周りのその勘違いを正していってもらいたい。
「でもその子によるとフェルティーナっていう人のこと、いつも楽しそうに嬉しそうに見てるそうで」
「その人のことが好きなんですかって聞いたら」
「聞いたら?」
『そんなに顔に出てる?』
「って笑って言われたそうです」
「……」
へぇ~へ~へぇぇ~。そうでしたかそうでしたか、顔に出てるの認めてたんですかへぇぇ~。
ニマニマしている私の顔を見て後輩達がひいているのが分かる。
それから季節は巡り。
「サタナぁぁあース!!」
「でね~、……え、あ?」
「お前にはこの黒い花をくれてやるわぁぁあ!!」
ドーラン王国の花神祭。
街で見かけた男にめがけ魔法で氷の固い黒の花を作り、あのナンパ野郎に渇と言う名の飛び蹴りをしに行く。
「なんでいんだよナナリー!! ちくしょう!」
「このエロ魔人!」
あれから数年も経つがまったく彼女になびく素振りを見せないので、晴れて恋人同士になり結婚までした暁には絶対にベンジャミンにチクってやろうと決意を固めている。