軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受付嬢三年目・魔法世界のほんとう

姉上の娘。マイティア王子の言うことはつまり、私の母がその姉上だということになる。でも母は人間だし、実は母ではなかったと言われても、私は親せきも認めるくらい母似なので遺伝的にも母が母で間違いはないはずだ。

ニケやベンジャミン達が目を点にして私とマイティア王子を見ている。

「あのそれはつまり、ナナリーは海王の孫娘ってことですか?」

「そうだ。こいつは僕の姪となるわけだが……まぁこの際、姪を嫁に貰っても良いかもな」

「気持ち悪ぃなこの王子」

ベンジャミンの質問に答えたマイティア王子の発言に、サタナースが顔を青くして私を見てくる。

それよりも母についての話だが、にわかには信じがたい。

国王様がそれはまことかと私に確認をとってくるが、すぐに頷けるわけがなくどう反応して良いのか迷い動揺が走る。

私は裕福ではないごく普通の家庭で育ち、母は他国に行くこともあるが父もドーランで働いている。大人になるまで海というものを見たことがなかった私は、セレイナに行ってあのとき本当に初めてあの光景を見て感動したのだ。

『おじいさまと、呼んでみてはくれまいか』

「あ、」

「えっ何か思いあたることあるの!?」

声を漏らした私にベンジャミンが詰め寄る。

「あそこで氷漬けになっている不様な奴は、少し勘づいていたようだったがな」

氷に覆われているロックマンを見て吐き捨てるように言い放ち、マイティア王子は唇をぶるると震わせた。

けれどマイティア王子ら魚人、人魚は絶対に嘘をつかないと話していたことを思い出す。嘘を吐いたら自分に魔法がかかってしまい、自分を見失うのだと。それが本当ならばわざわざそんな危険を犯して私に嘘を吐く必要もないし、王子には得もない。

嘘をつかない。嘘をつかない。

『嘘はついちゃいけません』

母も昔からそう言っていた。嘘は吐いていけないのだと。

母方の祖父母には会ったことがない。なんでも、家出同然に出てきたからだと。

父のほうの親戚しかいない。それは珍しいことでもない。

母の魔法型は知らない。知らないことは珍しいことでもない。

けれどそれがもし、そういう理由だったのなら。

「いいか、一撃必殺だ。魔力を全てぶつけろ」

「え? え、ちょっと待ってください。母って」

「お前の言う通り、大きな力があの怪物を倒す手段になる。姉上は深海に隠されていた氷の始祖の力で人間へと変貌したのだ。そしてその氷の力は姉上の中に宿り、今はお前の中に宿っている」

「私の中に……」

理解が追いつかないまま話は進むが、無理やり理解させて考えるとすると、私の母は実は海の王女様で、母は深海に隠されていたその氷の始祖の力で人間になり晴れて私の父と結婚し私が生まれた、と。

そしてその子供である私には氷の始祖の力があり、それをシュテーダルは狙っている、と。

「でも私がその海の王女の娘だと、なんで分かるんです? いくら海王様が全てを見通す力を持っているからと言っても、そんなに深くまで分かるはずはないと思いますが」

「お前が海の王国へ来たことによって、お前の過去現在未来が、手に取るように海王には分かったのだろう。そして姉上のことも、最初から最後までお見通しだったのだ」

これはもし無事に事が収まったら、母に問い詰める必要がありそうだ。

「この者は確実に海王の血を持ち、その身に氷の始祖の力を宿している。この者についていける奴は協力をしてやれ。ここまでやっても倒せなければ、他にアレを倒す方法など誰も持ち合わせていないのだからな」

この場にいる人達に言い聞かせるようにそうマイティア王子は話した。海王の血縁者、氷の始祖の力を持つ者、と私を見る目がさっきまでと打って変わり希望に満ち溢れたものになる。

「海王ってあの伝説のか!?」

「本当にいたんだ……」

「あの子は海のお姫様ってことなの?」

現金な反応だと流石に思うものの、そういう確信がなければ乗れる話にも乗れないのは私でも分かることだった。それに関してはマイティア王子に感謝しなくては。

「僕は外に出て仲間と民間人を守っといてやる。怖がるなよ」

「ありがとうございます」

私は希望してくれた人だけを連れて、競技場の端に移動する。

共に来てくれるのはゾゾさんとアルケスさん、ニケにゼノン王子、ベンジャミンとサタナース、に騎士五人ほどだった。十分な数である。

ゾゾさんはこれが本当に最後の攻撃なら、行かない他ないわねと手を上げて付いてきてくれ、アルケスさんもその流れで一緒にきてくれた。マイティア王子の話に触れることはせずただ二人は、倒れる時は一緒の方が怖くないでしょ、とあっけらかんと言い放ってくれた。

ハリス姉さんはボリズリーさんの傍で、騎士と一緒に皆を守ると言って残った。

「全員ぬかるなよ」

「おう!」

ゼノン王子の激に、サタナースはいつものようにおちゃらけて返事をする。

「いい? 呪文はフィーシャーよ」

「はい」

私はゾゾさんから制服の透明化の呪文を教わり皆から離れる。

『それに君には、まだやることが残ってる』

「言われなくても、分かってるわよ」

あいつの言葉を胸に、私は空へと上がっていった。

「またノコノコとやられに来たのか、諦めの悪さは弱さと等しいというにな」

凍った肩はそのままに高みの見物でもしていたのか、シュテーダルは魔物を大量に背後に集めて今にもこちらを襲おうとしていた。

「わざわざ待っててくれてたのかよ。良い奴じゃんシュテーダル」

「もう馬鹿なこと言わないでよナル君!」

サタナース達がシュテーダルを取り囲んで、呪文を唱え出す。

「あまねく神と血の精霊達よ、我がゼウスの名のもとに告げよう。いかづちは天を下り、天地を架ける光の橋となる。生きとし生ける全ての魂に轟き、地上を切り裂く嘆きの光は我らが血の破壊へと導くであろう」

「あまねく神と血の精霊たちよ、我がヘーラの名のもとに告げよう。地上を母なる水源で満たし、この世の生を生み出す。空海の狭間にあるものは唯一無二の魂、生きとし生ける全ての万物はその生を満たす血となるであろう」

ゼノン王子とニケ――

「あまねく神と血の精霊達よ、我がペルセウスの名のもとに告げよう。凪を許さぬ地上の風が、全ての命を吹き荒らす。生きとし生ける全てのものに映らぬその姿は――」

サタナース、ベンジャミン、次々と守護精の呪文が唱えられていく。皆の身体は光輝き、魔法の発動と共にその光が大きくなっていった。

ゴゴゴと竜巻でも起こるかのような風が吹きはじめ、それぞれが自らの中で最強の攻撃魔法を放ちだす。

「魔法を使えば魔力を取られると言っておるだろうが! 馬鹿にはほとほと呆れる!」

シュテーダルはそんなものは自分の身に何の傷も負わせられないと、真正面から全員の攻撃を受け止める。確かにロックマンの魔法を受けたときも、吹っ飛ばされただけで身体には私が付けた傷しか残っていなかった。今もあれだけの攻撃を受けながら、それを跳ね返そうとしてか体勢をずらしている。

効かない、そんなのは最初から分かっている。だから私は、隙さえ作れればいいのだと言ったのだ。

一瞬揺らいだ、その身体に。

「絶対零度」

「!?」

シュテーダルの背後に付いていた私は、その黒い鱗に覆われた身体に両腕でしがみついて魔法をかける。ゾゾさんの制服は魔力を察知されることもなく、存在を完全に消すことが出来る優れものだった。ララに乗ることはせず、動きにくい浮遊の魔法でゆっくりと移動していた甲斐もある。

守護精の呪文は皆が気を逸らしている間に唱え終わり、この魔法が私の全てを出せる最後の攻撃となる。

一緒に来てくれた皆は力尽きてしまい下へと落ちていくが、下でマイティア王子達が受け止めようとベラ王女と協力してくれているのが見えた。

ベンジャミン、ニケ、サタナース、ゼノン王子、ゾゾさん、アルケスさん、所長、騎士団長、ボリズリーさん、騎士の人達、そしてアルウェス・ロックマン。

皆のおかげでここまで来れた。

ゾゾさんが以前、仕事中に言っていたことがある。

『ナナリーは受付のお姉さんに憧れてハーレに来たの?』

『はい。お恥ずかしながら……』

『いいじゃないの~。そうだ、受付の本質ってなんだと思う?』

『本質?』

彼女はニッコリと笑って言った。

『繋げることよ』

『繋げる?』

首を捻る私を見て、またもや彼女は笑う。

『相手を受け入れて、繋げる。仕事と人を繋げる、人と人を繋げる、生活を繋げる、お金を繋げる、原点に戻れば私達の仕事は繋げることが仕事なの』

もちろん外仕事もそのためには必要なことだ。

『あなたとこうして会話して隣に座れているのも、その受付のお姉さんが繋げてくれたおかげなのかもね』

そう言って縁ってのは分からないものねー、と頭を撫でられた。

受付のお姉さんは、所長は繋げてくれた。きっかけは父に連れられてだったけれど、私とハーレを繋いだのは間違いなく憧れのお姉さんだった。

だから今度は、私が繋ぎたい。

「き、貴様は、氷と同じことをこの吾に、するつもりか! そんなことをしても、吸い取ってやる、吸い取ってやるぞ! この体にはなぁ、幾人もの人間から取り上げた清らかな氷の魔力、血が入っている! お前のその力、海の中へ隠されたものだと思っていたが、数奇なものだ! どちらにせよこのような運命をたどることになっていたのだから、氷が吾に会いたがっていることが、よぉく分かるぞ!!」

ピキ、パキ、と体の芯から破壊できるように意識を集中させる。

確かに凍らせているはずなのに、とても苦しいのはシュテーダルの言う通り力を吸われているせいなのだろうか。身体が重くなり怠くなってくる。

本当に私の中に氷の始祖の力があるというのならば、どうかもう少しだけ持ちこたえてほしい。

『大丈夫ですよ。そのままじっとしていなさい』

(え?)

そうして死をも覚悟しそうになった私の頭へ突如響いたのは――――優しげな女性の声だった。