作品タイトル不明
受付嬢三年目編・大会二日目
断じて、一緒が良かったとか落ち込んでるとかじゃないから、と否定に否定を重ねた私に、ロックマンはああそうですかと心底どーでもいいような顔をした。
ふん、初戦で負けちまえ。
なんて捨て台詞を吐きとっととその場を離れた私は、それから、無事に開会式が始まるもずっと券の販売受付に座っていた。
もしかしたらまだ来る人がいるかもしれないのと、あと警備要員でもある。受付の人間なのに警備もなのかと疑問に思うが、隣で一緒に座っているヤックリンさんと裁判院の人と暇ですねーなんて喋りながら過ごしていたので意外と楽しかった。先輩と他裁判院の二人は登録表を届けに裏方に回っている。
観客席で見れなかったのは残念だけど、ドーラン魔法開発研究所で作られた同時映写なる魔法道具が導入されたおかげで、この場外の受付でも競技場の中の様子が見られた。画面は部屋にある窓ガラスくらいの大きさで、動く絵本のようだった。念写の魔法を用いた技術らしいが、場面が切り替わったり式典の様子がはっきりと分かる。ここへ来られない国中の人にも見られるようにと、街の何ヵ所かにも設置されているらしい。盛大である。
式典では王のお言葉があり、魔物の増加が問題になっていることに言及した話があった。それに加え大陸外に新たに魔物が生息する大陸を発見したらしく、その話がされた時はさすがに競技場内がざわついているのが聞こえた。今後も危険なことがあるかもしれないという予感とともに、王様は、今こそこうして大陸中が一体となり親睦を深めたり協力や力を磨きあったりしていくことが大事なのだと話された。
その言葉に会場中が拍手で包まれていたが、冷静に考えてみれば誤魔化されたような気がしなくもない。もう少し深く考えなければならない事柄で、今もこうして大会を始めているわけだが、正体不明の魔物の件といい、色々不味いのではないかと思う。
優勝組だけが触れることを許される大きな白金の優勝杯は、王様の横に置かれていた。太陽の光を受けて輝くそれに、誰もが瞳を煌めかせただろう。
式典の中では劇も行われていた。物語集の第一章をもとに、有名な舞台作家でもあるロード・プィリングという作家が脚本を書いたようで、魔物役の人の演技も凄まじく、あの人も確か賞をもらったことのある演技派の舞台役者さんだった気がする。
裁判院の人は、あとでサインもらいに行ってもいいですかね、と隣で楽しみながら見ていた。
夜は他国から来た人達が宿をドーランにとっているため、街はいつも以上に賑やかになっていた。宿屋のおばさんやおじさん達はここぞとばかりに名産品を売り込んでいたり、踊り子を招いて食堂で催し物をしたりと張りきっている。先輩や大会に参加するゾゾさん達、チーナ含めた後輩達と所長や他の職員――ハーレに所属している全員――で貸し切った草食狼の店では、無礼講ということで皆で騒ぎ飲んでいた。ハーレに近く皆の行きつけである草食狼の女将さんには飲みすぎて二日酔いになるんじゃないよと注意を受けたが、その忠告を真剣に聞いていたのは試合に出る六人くらいであった。
「あなた達、いーい? 打倒・騎士団よ!!」
「はーい所長」
「もっとやる気のある返事をしてアルケス!!」
「まぁまぁ所長~」
ゾゾさん達は競技場の回りにある参加者達が寝泊まりする専用の宿で休むことになっていたため、食事も皆とそこそこに早めに解散する。私や先輩、ヤックリンさんや裁判院の人達も寝泊まりできる部屋を競技場の外に用意して貰えていたので、ゾゾさん達や所長達と別れたあとは二人と一緒に島へと戻り夜を明かした。
『こっちへおいで』
『足りない足りない』
『満たしておくれ』
その日の夜の夢は、いつもより一段と頭に響いた。
*
二日目を迎えた今日は、いよいよ試合が組まれる。
初戦とあってか、今日のほうがやはり入りは良い。
「五十ペガロです」
「たけーなぁ。えっと……はいよ」
「千百番の席にどうぞ」
仕事一日分の給料くらいの金額なので、そこそこ高い。観客から徴収したこのお金の一部が優勝者の賞金にもなるので、参加者達には観客達のためにも是非とも良い戦いを見せてほしいところである。
「オネサン、かぁみ、ちいさいの、おカネいくつか?」
「モジュステ ビアーノン?」
「オオ! ビアーノン!」
私達の使うテックル語とは少々違う言葉で話されたので、訛りかた的に大陸の西側の国々で使われているビアーノン語に近いものかと思い聞いてみれば、どうやら当たりだったようだ。他にも東側の国で使われているタタン語や、南で使われているチャイテ語など、色々ある。語学に関しては古代文字を学生の時に学んでいたが、受付につくならばもしものときがあるかもしれないので、と外国語もたくさん修得していた。ハーレにいても使うことはそれほどないけれど、たまに他国から出稼ぎに来たという外国の人もいるのでそれなりに役には立っている。
《競技者は中へお集まりください》
拡張の呪文を使ったのか、コロッセウム中にその案内の声が響き渡る。王様のお言葉のときや劇のときも使用していたので、試合中の実況も拡張呪文が使われることとなるだろう。
参加者は総勢360人、六十組の戦いとなる。
初戦はその半分以上を蹴落とすことになり、今日の試合では二十組にまで絞られる予定だ。
説明会ではその絞りかたまでは話されなかったので、どのようになるのかととても楽しみにしている。
「始まりますねー」
受付も一段落し、そろそろ会場内では参加者受付担当だった三人が全員の点呼をとっていることだろう。時間以内に集合できなかった組みはそこでもう失格だ。
受付の席に設置されている同時映写機を見ながら、こちらの受付三人は仕事をしつつも観覧を始める。
「お二人とも飲み物どうぞ」
「ありがとう、ヘル」
「ありがとうございますヘルさん、あっ、ドーラン王国騎士団とハーレが映ってますよ」
城の人から喉が渇いたら自由に飲んでもいいと渡された樽から、冷たい紅茶を杯に注いで二人に渡すと、裁判院の人が映写機を指さしてそう言った。
ほんとだ。ゾゾさんやアルケスさんが映ってる。
それに騎士団が映ると会場中がドーランの人達のせいか「頑張れー」「負けんなよ!」と声援が聞こえてきていた。コロッセウムの上のほうにいる人達にもよく見えるようにと、観客席のところにも映写機があるため、例により奴、ロックマンが画面に映し出されると、
「アルウェス様ー!」
などと黄色い声がそこら中から上がるのだった。