軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こん……?

「無理! ヤダ! 絶対! 無理!」

一つ一つ区切って強調させてくるロヴェルに、エレン達は呆れた。

「んもう、ロヴェルが申し込まれたわけじゃないでしょう?」

オリジンが溜息を吐きながらロヴェルに注意するが、ロヴェルはさらに嫌がった。

「い、や、だーー! あいつが身内とか嫌だーー! やっと解放されたっていうのに! エレンを嫁にやれるかーー! あいつは絶対嫌な舅になるぞ!!」

「それはロヴェルもでしょう?」

オリジンの突っ込みに周囲の者達も心の中で同意してしまう。

どうやらまた昔のトラウマがよみがえってしまったらしい。

それほどまでにロヴェルはラヴィスエルを嫌っていた。

ロヴェルが叫びまくるのを聞いていたエレンが、呆れながら言った。

「どうしてすぐ結婚という話になるのですか?」

確かに好きだと言われて交際を承諾した。

だがエレンは転生前の常識があったせいで、すぐに結婚という結びつきが分からなかった。

しかし人間界は貴族社会。さらにエレンも精霊界を統べる女王の娘。

この世界に結婚を約束していない「交際」という習慣は、婚約者が当たり前にいる貴族達にはほとんど無に等しい。

エレンの発言を受けて、周囲が驚愕した。

「……エレンは受け入れてくれたのだと思っていた」

ショックを受けているガディエルに、エレンはあれ? と首を傾げた。

(結婚の約束なんて……した?)

「エレンちゃん、エレンちゃん、おぼっちゃんの告白は承諾したのよね?」

ヴォールがエレンに確認しに来た。エレンは赤くなりながらも頷いた。

「え!? は、はい……」

エレンの様子に、ヴァールが「まさか……」と呟く。

「エレンちゃん、おぼっちゃんは人間の貴族だわ。交際というか、結婚が当たり前よ」

「え?」

「貴族の婚前のお付き合いというのは、結婚前提じゃなくって? 特に女性はそうじゃないと醜聞になっちゃうでしょう?」

「…………」

ここにきて、ようやくエレンの認識がいかにズレていたかを知る。

(隣に立つとか、共に歩くってそういう意味ーーーー!)

人間の王族と、いわば精霊の王族であるエレン。

結婚の約束もせずに付き合うというのが、そもそもできないのだ。

さらにエレンは、自らもロヴェル達にガディエルと共に歩くと言っている。

それはつまり、ガディエルと結婚しますと自ら宣言したようなものだった。

「エレン! 俺は君に愛していると伝えたはずだよ!?」

「ご、ごめんなさい……そういう習慣だと知らなかったの」

「え!? で、でも俺の気持ちには頷いてくれたよね? じゃあ、改めて言うよ」

精霊と人間の常識が違ったのかもしれないと、ガディエルはすぐに納得して急いでエレンにプロポーズをしようとした。

「ちょっと待ったーー!」

ガディエルの言葉を遮ったロヴェルは、「クックックッ」と黒い笑いをこぼしながらガディエルに向かって叫んだ。

「娘は嫁にはやらん!」

ビシッ! とガディエルに一指しを突き立てるロヴェルを無視して、ガディエルはエレンに向かって片膝になる。エレンの左手を取って、改めて気持ちを伝えた。

「エレン、俺と……」

「俺の話を聞けーー! 大体っ! お前! テンバールの王太子だろうがっ! 婚約者がいるくせにエレンに近寄るな!!」

ロヴェルの言葉に、エレンがカチーンと固まった。

「婚、約、者……? ガディエル、婚約者がいるの……?」

途端、エレンの周囲でバチバチと火花が飛ぶ。その様子にぎょっとする周囲の者達の焦りよりも、何よりガディエルが慌てていた。

「いないよ! 俺はエレンと出会った時からずっと好きだったから……!」

「嘘吐けーー! 俺でさえ十歳で問答無用であの女と婚約させられたんだぞ! 絶対一人や二人いるだろ! 候補を入れたら五人はいるはずだ!! こいつは一国の王子なんだからな!」

ロヴェルの言葉はもっともだ。ガディエルはすでに成人している。王太子なのに、婚約者がいない方がおかしいだろう。

「ガディエル……婚約者がいるのに……」

「違う! エレン、俺の話を聞いて! 陛下に確認を取ってもいい! 女神に誓っていないよ!!」

人の話が聞けなくなってしまった三人を余所に、オリジン達は「あらあら」と事の成り行きを見守っていた。

「わたくし達がいるのを忘れているのかしら……」

「おぼっちゃんに婚約者がいたらわたくしが断罪していてよ?」

「聞こえていないみたいねぇ……」

ぎゃーぎゃー言い合うのはロヴェルとガディエルで、エレンはショックのあまりにガディエルの声が聞こえていないようだ。静かに怒りに震え、火花を散らしている。

その様子に溜息を吐きながらも、オリジンはどこかホッとした様子だった。

「エレンちゃんは自覚が薄いから流されているんじゃないかと心配だったけど、おぼっちゃんに女の影があると知ったらあんなに怒るのね」

微笑ましい娘の様子に、オリジンがきゃっきゃっとはしゃいでいた。

「お嬢様の婚約者候補は、ロヴェル様がことごとく潰してきましたからね。あの王族の末裔というのは荒れるかとは思いますが、同胞の魂を浄化させたのならば、まあ認められるでしょう」

「エレンちゃんの力と繋がるから、おぼっちゃんの力もきっと“浄化”でしょうね。勝手に浄化しないように釘を刺しておかないといけないわねぇ」

「なんでえ、まだだったのか。結婚すると思って言いふらしちまった」

「母上、当分の間はお酒を控えて下され」

「やだね」

エレンの発言から、てっきり周囲の者達も結婚するのだと思っていた。

その発言の直後にお泊まりだと聞かされれば、既成事実を作ってしまおうと行動していると取られても仕方がない。

だからこれほどまでにたった一日でロヴェルが憔悴しきっていたのだ。

「じゃああいつに聞いてやろう! どうせお前の知らないところで婚約者を十人は用意しているに決まっている!」

「なぜどんどん増えているのですか!? 一人もいないと申し上げているでしょう! ぜひ陛下へ聞いて頂きたい!」

ロヴェルとガディエルもお互いが譲らず、バチバチと火花を散らしていた。

きちんと話をするというから精霊城に戻ってきたというのに、どこにいってしまったというのか。双女神の二人はお互いの顔を見合わせて肩をすくめた。

「あいつの所へ行くぞ!」

ロヴェルがエレンとガディエルの腕を取って転移した。

即行動。それほどまでにエレンを嫁に出したくないらしい。

消えた三人を見送ったオリジン達は呆れた。

「あらあら……」

「ロヴェルはせっかちねぇ」

そんな会話をしていると、ヴォールの肩がビクリと跳ね、途端に笑い出した。

「やだわーー! 何これーー! アハハハハ!!」

「あら、どうしたの?」

「ちょっとロヴェルが面白いことになるわ! 直接見に行きましょ!」

そう言ってヴォールまでヴァールの手を取って転移した。どうやらテンバール城へと向かったらしい。

これから起こることを見通して、大笑いするようなことがあったらしい。

オリジンもヴィント達と顔を見合わせた。

「面白そうだからアタシも行ってみよ」

うきうきと転移したアウストルを見て、ヴァンが溜息を吐く。

「母上……」

「アウストルが行くなら私も行きますよ!?」

そう言ってヴィント達も転移した。

残されたオリジンは、一拍遅れて叫んだ。

「わたくしも~~~~~!」

そんな理由で、テンバールのラヴィスエルの所へ女神と大精霊達が押しかけたのだった。