軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

話し合い。

その日はさすがにエレンは精霊城に戻るのをためらわずにはいられなかった。

そんなエレンに気付いた双女神が気を利かせ、ガディエルの目が正常に見えるまで境界にいてもいいと言う。

エレンは目を瞬かせた。

「……いいんですか?」

「いいわよ。ただ、オリジンちゃん達が心配するといけないからちゃんと連絡はしてもらうけれど」

「あと、泊まる場所はわたくし達の所ね。おぼっちゃんには別の場所を用意するわ」

「はい。ありがとうございます!」

「おぼっちゃんの目は明日にも見えるようになるわ。でも一日と言わず、ずっといてくれてもいいのよ?」

ヴォールがそう言いながらウインクをしてくれた。

その言葉に救われる。今はとにかく頭を冷やしたかった。

「でもあまり遅くなると、もっと帰りづらくなりそうなので……」

ロヴェルとはきちんと話さなくてはいけない。長居してしまうと、その決心が揺らいでしまいそうだった。

「実はロヴェルからの念話がさっきからうるさいの。早くエレンちゃんを帰せって」

「えっ」

「おぼっちゃんとお泊まりが許せないみたいよ」

そう言ってヴォールは大笑いした。

「あら、わたくし達がいるのをロヴェルは忘れているの?」

どうやら、双女神の境界では手出しができないため、エレンだけでも帰すようにと何度も連絡してきているらしい。

保護者がいるのだと連絡しても聞く耳をもたないようだ。

「直接エレンちゃんに言えばいいのに本当に仕方のない子。でもまあ、これで変れるでしょう」

「本当ね、あれだけ忠告したのに子離れできないんですもの。子供が生まれても変わらないんだから、ある意味すごいわ」

「それは多分、ロヴェルにそっくりだったからよ……。今度は逆にオリジンちゃんが過保護になりそうで危ないわ」

二人がため息を吐いている横で、それを聞いていたエレンは申し訳なくなった。

ロヴェルが過保護になってしまった原因は、間違いなくエレンが原因なのだ。

昔から過保護ではあったものの、ここ数年だけでエレンは何度も無理をして倒れてしまった。

学院の時はアークが魂を戻してくれなければ、エレンは死んでいたかもしれない。だから余計に目の届く範囲にいなければ不安になってしまうのだろう。

エレンにとって、今はガディエルが同じ立場にいる。

目を離した隙にいつ殺されるか分からない。だから側にいたい。そう思ってしまうのだ。

そう考えてしまったら、今度はロヴェルの事も気になりだしてしまった。

「あ、あの……私も父様に甘えてたから……」

「エレンちゃんも親離れしなきゃってこと?」

「そうなんですけど、えっと……」

なんと言えばいいのだろうか。

そう言葉に悩んでいると、見透かしたヴォールに「ダメよ」と頬をつんと人差し指で優しく突かれた。

「今、ロヴェルを甘やかしてはいけないわ。これはエレンちゃんにとっても大事なことなの。分かるわね?」

「…………」

「大丈夫よ、一日でも大分落ち着くはずだから」

「はい……」

その後、念話でオリジンに双女神の境界に泊まると伝えると、オリジンに「ゆっくりしていらっしゃい」と言われてホッとした。

(母様はすごいなぁ……)

あれだけの事があろうとも全く動じない、いつもと同じ軽い調子に救われる。

(明日に備えて気合いを入れ直さなきゃ……!)

きちんとロヴェルと話し合うのだと、エレンは活を入れるために自分の両頬をぱちんと叩いた。

***

同時刻の精霊城では、あの仲睦まじいロヴェルとエレンが親子喧嘩をしたと衝撃が走っていた。

さらにはロヴェルに怒って家出をしたエレンを心配した精霊達の事実確認によって、明るみになったその理由がより大きな混乱を生むこととなる。

親子喧嘩をした理由が、精霊達を虐殺したテンバール王族の末裔が半精霊化したことにあると知った精霊達に激震が走った。

仇とも言える人間の末裔が、どうして半精霊化することになったのか。

どうしてそれを女王が許したのか。

ヘルグナーに同席していた大精霊達がガディエルが同胞の魂を浄化したこと、エレンを庇って倒れた事を語ったことによって、たった一日で精霊城に瞬く間に広がったのだった。

***

ヴォールの言うとおり、ガディエルの目は一夜明けると問題なく見えるようになった。

だが時折きょろきょろと周囲を見回している。新しく見えているものに視線を取られるのだろう。

一応、保護者として双女神も一緒に精霊城へと帰ることになった。

気合いを入れて精霊城にある水鏡の間に転移すると、そこにはオリジンとロヴェルを始め、宰相のヴィント、アウストル、ヴァンが待機していた。

「エレン!」

ロヴェルが叫んで近付こうとするが、エレンはキッとロヴェルを睨んだ。

「う……」

途端、ロヴェルの足が止まる。その表情は悲しそうで、弱々しかった。

たった一日だというのに、ロヴェルは変わり果てていた。

目の下には隈を作っており、エレンが境界に泊まったと聞いて眠れずにいたのだろう。

それでもエレンはヴォールに言われた通り、ロヴェルを甘やかしてはいけないとお腹にぐっと力を入れた。

「父様」

「エレン……その、とーさまが悪かったから帰っておいで?」

「父様」

「……はい」

「どんなに怒りの感情を抱いたとしても、人を殺そうとしてはいけません」

「はい……」

「ガディエルはテンバールの王族です。ヴァンクライフト領にいる者達の迷惑を考えて下さい」

「はい……」

無表情にロヴェルを見ているエレンに、周囲の者たちはたじろいだ。

「怒りにまかせてガディエルを殺そうとする父様なんて……」

だんだんと低い声になっていくエレンに、ロヴェルは青ざめていった。

「大っっっっっ嫌いです」

ためにためた、大っ嫌いの言葉にエレンの本気を知る。

ロヴェルの顔色は真っ白になってふらりと倒れそうになった。

「きゃ~! ロヴェル!」

慌ててオリジンがロヴェルを抱き留めた。ふらふらになっているのは眠っていないのも理由にあると思われるが、それにしても何だか弱々しい。

「エレンちゃん、おぼっちゃんの事ならもう大丈夫よ」

「……どうしてそう言い切れますか?」

「おぼっちゃんの事が噂になっているの。エレンちゃんが家出したと大騒ぎになって、精霊達が真相を聞きたがってね」

「い、家出? いつの間にそんなことに……」

「だって~。ロヴェルがエレンちゃんに怒られる事はしょっちゅうだったけど、二人で対立した事なんてなかったでしょう? どうせロヴェルが何かしたんだろうと精霊達が事情を聞きに来たら……おぼっちゃんの事がばれたのよ」

オリジンがアウストルの方を見ながらそう言った。

「あ~すまん、酔った勢いでしゃべっちまった!」

あはははは! とアウストルが笑っている。

だがテンバールの王族の末裔が半精霊化したという事実は、精霊達にとってとんでもない事だった。

ヴィントが鋭い目をしながらガディエルに聞いた。

「あなたが、お嬢様を助けて下さったのですか?」

「……はい。ガディエル・ラル・テンバールと申します」

ガディエルが自己紹介をして頭を下げた。

ヴィントが一歩前に出て、ガディエルをじろじろと見る。目を細めながら「呪われていない……」と呟きながら、ガディエルの目を見て酷く驚いた。

「その目……お嬢様と契約したのですか!?」

未だに信じられないという目でガディエルを見る。

それはヴァンも同じだったようで、ヴァンもじろじろとガディエルを見ていた。

「へえ。じゃあアンタと姫さんが結婚すんの?」

アウストルが平然と言う。

その言葉に、場は一瞬静まりかえった。

「とーさまはゆるしませええええんん!!」

ロヴェルの絶叫が木霊したのだった。