軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

父と娘の絆。

リュールを交えて皆で話を終えた後、ロヴェルよりも一足早くエレンは精霊城へと帰された。

しかし、城へと帰るやいなや、大精霊達に囲まれて城の一室に連れて行かれた事にエレンは目を丸くした。

「ど、どうしたの? みんな」

「姫様、どうかこちらへ……」

理由は口にせず、大精霊達は何やら緊張した面持ちで周囲を警戒している。更に周囲に結界まで施していた。何かよくない事でも起きたのだろうかとエレンは心配になった。

「母様は? 大丈夫なの? 何が起きているの?」

妊娠中の母に何か良くない事でも起きたのだろうかと心配でならない。

困惑しながら、エレンは隣にいた水の大精霊に問うた。

「大丈夫で御座いますよ。オリジン様は問題御座いません。ただ、今は来客中なのです」

「お客様?」

「ええ」

「……私、隠れなきゃだめなの?」

見つかったらいけないという事なのだろうか。いや、もしかすると邪魔になるという事なのかもしれないと、エレンは部屋にあるソファーまで行って大人しく座った。

何だか邪魔者扱いされているようで悲しくなったエレンは、少しばかり落ち込んでしまって俯いた。

ロヴェルは未だに城から帰ってはいない。リュールからもたらされた情報を近衛長とサウヴェルが話し合い、王族を介抱していたロヴェルも後に合流して話し合いが行われるはずだった。

この段階になると、エレンは話し合いに参加できなくなっていた。

エレンの立ち会いを望んでいたのは王であるラヴィスエルである。陛下が不在の場に勝手に立ち会うわけにはいかなかった。

サウヴェルから詳しくは後で話すと、日が暮れてきたので帰されたのだ。

「…………」

テンバール城でも感じていた居心地の悪さを帰ってきても受けるとは思わなかった。

自分の見た目が幼いから、大人の会話に入れないのだろうか。

いや、現に幼いのだから仕方ないとエレンは溜息を吐いた。

「姫様……」

エレンの様子に周囲の大精霊達がおろおろとしている。彼等の様子から、決してエレンをのけ者にしたいわけじゃないと気持ちが伝わってくるのが分かって、エレンは苦笑した。

「大丈夫よ、ごめんなさい。考え事をしていたの」

「さようでございますか?」

「何かお飲み物でも……」

「お食事は如何なさいます?」

次から次へと世話を焼こうとしてくるので、呼ばれるまで部屋からは出ないからと暫く一人にして欲しいとお願いした。

考え事は色々とある。ヘルグナー王、アミエルとアギエルの思惑、これからのリュール。

リュールとローレは、テンバール国にとっての切り札となる。ヘルグナーにとっての国の象徴ともいうべきローレの存在は、これ以上とないものだろう。

陛下が倒れてしまったので、エレンは言いそびれてしまった。人間同士の争いに、これ以上精霊達を巻き込んで欲しくない、と。

テンバール城に残されたリュールも心配だ。協力を申し出てくれたとはいえ、彼は人質に他ならない。

「…………はぁ」

だがどう転んだとしても、確執の原因が精霊である以上、関わらずにはいられないだろう。

特にロヴェルがその筆頭となるのは明白だった。この国の英雄として祭り上げられている以上、人間達の期待も大きかった。

(……待って)

何かが引っかかった。

アミエルとアギエルの思惑。彼女達の狙い。

(父様……?)

だから隣国と手を組んで裏切ったというのだろうか。

そういえばサウヴェルが言っていた。陛下の見立てでは、ロヴェルとエレンが狙われていると。

(でもどうやって?)

己が狙われる経緯はリュールとローレの話で理解できてはいたが、人間とはいえど、半精霊のロヴェルをどうしようというのだろうか。

王族であるアミエルが人質になればどうこうできると浅はかな考えをもっていると陛下は言っていたが、もしかしたら確実な何かがあるのでは無いかという考えが過る。

(父様の存在はヘルグナー王にとって都合が悪いから手を組むのは分かるけど、アミエル達はどうやって父様を……?)

ここまで考えれば方法は一つだけだと分かった。まさかという思いが沸き起こった瞬間、それは突如真横から聞こえた。

「その通りよ、エレンちゃん。このままでは良くない事になるの」

「……え?」

己が座っているソファーの真横に、突如豊満な美女がいた。初めて見るその顔立ちは、非常に母に似ている。

金の髪を優雅に掻き上げて、美女は自己紹介をした。

「会いたかったわ、エレンちゃん。わたくし、ヴォールよ」

「わたしくはヴァールよ」

横にいたヴォールに見入っていたエレンは、背後から聞こえてきた声に驚いてまた振り向く。

気付けば左右を二人の美女に挟まれていたのだ。

「母様の……むぎゅう!」

「あ~~ん、エレンちゃーん!! 会いたかったわぁ!!」

「なんて可愛いの!! 小さな頃のオリジンちゃんにそっくりじゃないーー!!」

大きな谷間に周囲を挟まれてあっぷあっぷと溺れていると、「そこまでです!!」とヴィントの叫び声がした。

「油断も隙も無い!! お前達、早くロヴェル様をお呼びしろ!!」

「は、はい!!」

「あらぁ。バレちゃったわぁ」

「やだわぁ。五月蠅いのが増えるわぁ」

ぶうぶうと不満を漏らす双女神にエレンは目を丸くしていた。

「く、くるしい……」

「ああ! ごめんなさいねぇ」

二人ともすんなりとエレンを解放してくれたのでエレンはようやく一息吐いた。

「えっと……あの、お客様って……」

「それはねぇ、招かざる客って意味よぉ~」

「ふふふ、エレンちゃんを隠しても無駄よ。わたくし達には全て見えているのだもの。エレンちゃんを隠す事ができるのは、オリジンちゃんの力を直接分け与えられたロヴェルだけよぉ~」

おほほほほと笑う双女神に、部屋にいた大精霊達は青ざめている。

ようやくエレンは気付いた。大精霊達は双女神に見つからないようにとエレンを隠そうとしたのだと。

「えっと……初めまして、母様の娘のエレンです」

「きゃ~~ん!!」

「ムギュ!!」

可愛い可愛いと二人から挟まれる。

またもやあわあわと溺れていると、今度はロヴェルの声がした。

「エレンを離さないか!!」

「父様!!」

助けてと手を伸ばそうとして、目が合った途端、ロヴェルの顔が強張った。

「あ……」

「……父様?」

エレンの手を掴もうとして、ロヴェルが躊躇している。

これにエレンは驚いて固まってしまった。困惑しながらも再度呼ぶと、ロヴェルの顔が悲痛に歪んだ。

「父、様……?」

エレンに伸ばした手が震えていた。

掴むのを堪えるように拳を握り、自分の顔を覆う。

「……すまない。少し一人にさせてくれ」

転移して消えたロヴェルの姿に驚いたエレンは、思わず後を追おうとした。

「駄目よ、エレンちゃん」

ヴァールが優しく肩を掴んで止める。その声色は、先程まで明るかった色では無かった。

「お前達、席を外しなさい」

ヴォールの言葉で、部屋にいた大精霊達が一斉に消えた。

何が起きているのかエレンには分からない。不安そうな顔をして、双女神を見上げるしかできなかった。

「エレンちゃん、とても大切なお話があるの」

「それはロヴェルも関係しているお話よ。それを聞いてから、ロヴェルの元へ向かってちょうだい」

「……どういう事ですか?」

「ロヴェルにはもう伝えたわ。だから様子がおかしいの。まあ、それはこれから話す事とはまた別だけど。先に重要なものから話すわね」

「…………」

「エレンちゃん、先程気付いたのでしょう?」

「あの王族が裏切って何をしようとしているのか。気付いたわね?」

「あ……」

「このままではロヴェルが危ないの。だから、お願いがあるのよ」

「そんな……まさか……」

「ロヴェルが切っ掛けになって、エレンちゃんは決断するわ。しなければいけなくなる。それに気付いてしまったのでしょう?」

「……ッ!!」

全身が震えて呼吸が浅くなる。そうだ。先程気付いたアミエル達の思惑。

もし陛下と同じように、呪いの力を使ってロヴェルを無力化しようとしたら。

「あの女達の呪いだけ、他の者達の呪いとは違って変質してしまっているのよ。その力はロヴェルでは防ぎきれないわ」

「そんな……!!」

「あの女達の歪んだ想いが呪いに影響しているの。別の者には別の影響があったように、彼らの想いは呪いに影響を与えたわ。今まで何事も無かったのは、想いの矛先が精霊では無かったから。精霊の呪いだとも知らなかったからよ」

「想い……?」

「ロヴェルが捕まれば……後は分かるわね?」

ヴァールの言葉で、エレンは涙を目に溜めてこくんと頷いた。

そうなってしまえば、決断しなければならなかった。

人間を「敵」として。

「うっ……」

ぼろぼろと零れ出す涙をヴォールがそっと拭ってくれた。

「泣かないでエレンちゃん。そうなることは、わたくし達も望んでいないのよ」

精霊を虐殺した事を赦していない大精霊達は、人間を嫌っている者が殆どだった。

人間と契約する精霊達は、生まれたばかりの赤子と言って良い程ものを知らない。

ただ、興味本位という感情だけで、人間と契約を結ぶのだ。結んでそこから自我が芽生える者も多かった。

大精霊達を説得していたのはロヴェルとエレンだ。

ただでさえエレンを狙うヘルグナー王のせいで、大精霊達は爆発寸前の怒りを弾丸に込めている。

ロヴェルが捕まるということは、その引き金を引くのと同義だった。

更にロヴェルに何かあれば、全ての女王であるオリジンの怒りを買うのは明白だ。

「どうにかできるのですか……?」

「それが出来るのが、エレンちゃんだけなのよ」

「え……?」

「お願いがあるの、エレンちゃん。これは人間と精霊を天秤にかける事の無い、エレンちゃんにしか出来ないわ」

「半精霊と生まれ変わった時に、ロヴェルは既に決断しているわ。だからロヴェルには出来ない」

双女神の言葉を受け止める前に、エレンは思わずごくりと唾液を飲み込んだ。

身体が震えるのは止められないが、それに抵抗するように拳を握って我慢する。

「分かりました。お話し下さい」

覚悟を決めて前を見据えたエレンに、ヴォールとヴァールは少しだけ悲しそうな顔をしながらも、ありがとうと微笑んだ。

***

精霊城の最上階のバルコニーで、一人ロヴェルは遠くを見ていた。

自分のせいでエレンが成長できないと知った時の衝撃。

その原因を、まるで呪いのように言い聞かせていた自分。

ロヴェルにはそんなつもりなど微塵も無かったのだが、優しい娘は父の願いを無意識に叶えようとしていた。

「エレン……」

ロヴェルは両手で顔を覆って蹲った。

モンスターテンペストで全て諦めた己の人生。幸せなど掴む事など出来ないと思っていた。

唯一、傍で見守っていてくれたオリジンだけが、ロヴェルの救いだったのだ。

もう、術は残されていないと力を出し切る寸前、隣にいたオリジンに、その手を離す事を許して欲しいと言った。

全てが光に包まれて、まるで繋いだ手が離れるように、感覚が消えていくのを未だに覚えている。

それは、今までのしがらみから解放されるようでもあり、オリジンという唯一の存在が消えてしまうという恐怖でもあった。

そんな感覚も一瞬のことで、次に目覚めた先にいたのは、泣いているオリジンだった。

何故生きているのかと呆然としているロヴェルに謝りながら、離れたくないと縋ってくれたオリジンに、ロヴェルは全てを許し、人生を精霊に託す選択を選んだのだ。

それから時を経て、まるで彼等を祝福するように、人間と精霊からは決して産まれないはずのエレンが誕生した。

「エレン……」

自分の不甲斐なさでエレンが消えてしまったら。

そんな事になったら、ロヴェルはもう、耐えられない。

「~~~~……ッ」

ぎりりと歯を食いしばっていると、急に背中にドンッと衝撃が走った。

「!?」

何事かと背後を見ると、自分の背中にぴったりとくっつくエレンがいた。

「え、エレ……」

「と~さまなんて~~~……こうしてやるっ!!」

こしょこしょこしょと脇を擽られて、ロヴェルはうわああと情けない声を上げた。

「ふふふっ」

「え、エレン!! だ、だめだ、やめなさい……!!」

「降参したら止めますよ~」

「降参!! 降参するから!!」

「よ~し」

床にへばりついて荒い息を吐いているロヴェルを見下ろすように、ふんすと勝ち誇った笑みを浮かべるエレンに気付いた。

「……エレン」

「父様のお願いを無意識に叶えていたなんて、ほんっと~~に不本意です。なので、私は遠慮無く、これから一気に成長します!!」

まるで宣言するように勢いよく言い切ったエレンに、ロヴェルは目を丸くした。

「父様、私は父様の娘で幸せです」

にこっと笑って、エレンはロヴェルに抱きついた。

「~~……ッ」

ロヴェルの顔が歪む。大切な娘を抱きしめて、すまなかったと謝った。

「エレン、産まれてきてくれてありがとう。俺の娘でありがとう……」

「はい。私の父様でいてくれて、ありがとうございます」

嬉しそうに笑うエレンに、救われるように、ロヴェルも笑った。