軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

99話 色欲の力は勇者に通じない

ぼくたちが魔界に来てから、かなりの時間が経過した。

アウルさんの手引きで、魔界にすむ協力者さんのお屋敷を拠点にさせてもらっている。

彼女に案内してもらいながら旅をし、不死鳥の大翼で拠点と往復しつつ、少しずつ魔王の居城へ向かっていた。

ある日のこと。

ぼくたち【緋色の翼】は、渓谷を歩いていた。

左右を山に挟まれた道を歩いていたそのときだ。

「きゃー! 誰かぁー!」

「若様、この先で人が魔族に襲われておりまする」

ぼくは遠くから、ランの指す方を見やる。

熊の魔族が、フードをかぶった女性を襲っていた。

女性は足をくじいているのかその場から動けず、熊魔族は今まさに頭から丸かじりしようとしていた。

「【 不死鳥の火矢(フェニックス・アロー) 】!」

離れた位置からぼくは火矢を打ち込む。

矢は熊の魔族だけを射貫いた。

『お見事です若様! この距離からあんな正確な射撃をなさるとは! さすがでございます!』

ぼくらは急いで、女性の元へとやってきた。

フードを目深にかぶった女性は、その場にしゃがみ込んでいる。

「大丈夫ですかっ? お怪我はありませんか?」

「……ええ、足を少々」

ぼくが治療のために、彼女に近寄ろうとする。

「! エレン待って! 今の声……!」

「え? なに、ティナ……?」

エルフのティナが忠告した、そのときだ。

ガシッ……! と女性がぼくの腕を、乱暴に掴んできたのだ。

「相変わらずの正義バカね、愚かな勇者さん♡」

「あ、あなたはっ!?」

「姉さん!」

ティナの姉、ディーナだった。

彼女がどうしてここに……と若干パニックになっていると、ディーナが顔を近づける。

「さぁ! 色欲の力よ! この小さな勇者を私の忠実なる奴隷に変えなさい!」

突如、ディーナの体から甘ったるい香りが漂ってくる。

くらり、とぼくは意識を失いかける。

「これは魅了の力!? しかもこんな強力な……姉さん!? いったいどうしてこんな力を!?」

「魔王様からもらったのよ愚かな妹! 今はあなたの姉じゃない、魔王軍幹部のひとり、色欲のディーナ!」

「そ、そんな……」

「この色欲の力はどんな人間も私の愛の奴隷へと変える! 私からの命令は絶対遵守!」

「え、エレン! 目を覚まして!」

「あははっ! 無駄無駄ぁ……! 私の魅了からは絶対に逃れられないのよぉ……!」

勝ち誇るディーナに、ぼくは聖剣を手にして、斬りかかった。

ザシュッ……! と刃が彼女の肌を斬る。

「ひっ……! いぎゃぁあああああああああああああああああ!」

ディーナの肌から、黒い血が飛び散る。

前にティナから聞いた、黒血は魔族化の証拠だって。

「エレン! 無事だったのね!」

ティナが安堵の表情を浮かべて言う。

「なぜだぁああああ!? 私の魅了は完璧に効いたはず!? なのにどうして無事でいられるんだぁ……!!」

血走った目でディーナが言う。

『馬鹿者が。エレンは精霊の神子となり、精霊王の加護をその身に受けておる。どんな呪いをも受け付けぬ最強の体となっておるのじゃ。さすがはエレンじゃ!』

「そ、そんなバカなぁ! 魔王軍幹部クラスの最強の呪いすら効かないなんて! そんな化け物がこの世にいて良いはずがない!」

ぼくは聖剣を構えてディーナに言う。

「おとなしく降伏しろ!」

『若様。この女からは無数の人間の血のにおいを感じます。相当な数を殺してきたのでしょう。殺すのが妥当かと』

けど相手は女性だし、元とは言えパーティメンバーだ。

「騎士の元へ連れて行く。そして、きちんと罪を償うんだ!」

ギリッ……とディーナが歯がみする。

「人間風情が……情けをかけるなんて! 図に乗るなよサルがぁあああああ!」

ディーナは色欲の力を発動させる。

ぶわっ……! と甘ったるい匂いが周囲に広がった。

『ま、マズい! 匂いを……嗅いだら……わか……さま……』

がくん、とランがうつむく。

ティナをはじめとした、緋色の翼のメンバーたちが、ディーナの魅了にかかってしまう。

「きゃははっ! さぁあんたたちぃ! あの生意気な勇者を殺すのよぉ!」

ディーナの命令に従い、ティナ達がぼくの前に立ちはだかる。

「さぁどうするぅエレぇーン……いくらあんたが強くてもぉ、仲間を殺せるかしらぁ! きゃははははぁっ!」

「……何の罪のない人を操って、酷いことさせるなんて……あなたは、あなたはもう心まで悪魔になってしまったんですね」

「うるせぇえええええ! 殺せてめぇらぁあああああああああ!」

アスナさん達がぼくに攻撃してこようとしてくる。

「【 契約破棄(リリース) 】!」

ぼくは精霊の神子としての力を発動させる。

相手に掛かった 精霊(きせき) の力を、強制的に解除するワザだ。

「ハッ……! 何をしようと私の魅了の力は絶対なんだよぉ! 一度掛かれば死ぬまで絶対に解けることはないんだよぉおお!」

「う……わたしは、いったい……」

アスナさん達が、魅了から解けた様子だった。

「そ、そんなバカなぁああああああ!? 絶対無敵の魅了がどうして解けるのよぉおおお!」

『精霊の神子となれば、どんな強力な奇跡の力だって打ち消すことができるのじゃ。見事じゃエレン。さすがだ』

緋色の翼のみんなは、リリースの力によって正気に戻った。

「あり得ないあり得ないぃいいいい! こんなのあり得ていいわけがないのよぉおお!」

「もう許さないぞ! ぼくは……あなたを倒します!」

ぼくは聖剣を構えて言う。

「こ、こうなったら……出てきな! おまえたちぃいいいいい!」

崖の上に、大量の魔族達が姿を現す。

「こいつらは魅了の力でなく純粋な私の 崇拝者(ファン) ! 魅了をかけずとも私の言うことを聞く魔族達よぉ!」

勝ち誇った笑みを浮かべるディーナ。

「さぁ絶望なさい! この数を前に!」

「みんな、行こう!」

ぼくらはそれぞれの力を使う。

「せやぁあああああ!」

アスナさんは剣神の力で、斬撃を強化。軽く剣を振るだけで、大量の敵が舞い上がる。

「【 煉獄業火球(ノヴァ・ストライク) 】!」

ティナの強化された極大魔法は、崖ごと魔族達を破壊。

「砕け散りな!」

鬼の 紫音(しおん) さんが拳を強化して、地面をたたくと、崖が魔族ごと粉砕される。

「【 不死鳥の超新星矢(フェニックス・ノヴァ) 】!」

超強化された炎の矢が、残っていた魔族ごと消し飛ばす。

崖だったそこは……平地になっていた。

「なんて……ことなの。みんな……こんなに強くなってるなんて……」

「これがエレンの力よ。わたしたち、彼に強くしてもらったのよ、姉さん」

絶望の表情を浮かべる 姉(ディーナ) に、 妹(ティナ) がハッキリと告げる。

「……ずるい。ずるいずるいずるいぃいいいいいい!」

ディーナは憤怒の表情でティナを見上げていう。

「なんで!? どうしてあんたばっかりが! 強くなれるのよぉおおおお! 私だってエレンの仲間だったのにぃい! 強くしてもらえなかったわよぉ! 不公平なのよぉおおおおおおおお!」

ティナは冷静に首を振る。

「あなたが自己保身に走ってエレンをパーティから追放しなければ、姉さんにだってチャンスはあった。けどあなたは仲間をゴミのように捨てた」

ビシッ、とティナは姉に指を突きつける。

「 仲間(エレン) を大切にしなかった、あなたが全て悪いのよ!」

「だ、だまれぇえええええええええ!」

ディーナが拳に魔力をためて、ティナに殴りかかろうとする。

「やめろぉおお!」

ぼくはティナの前に素早く割り込んで、ディーナめがけて、聖剣を振る。

ずばあんっ! と強烈な一撃が、 魔王軍幹部(ディーナ) を消し飛ばす。

「ティナ! ケガはないっ?」

彼女はホッ……と安堵の表情を浮かべると、首を振る。

「助けてくれてありがとう、エレン」

「……お姉さんを、ごめんね」

「ううん、いいのよ。あれはもう、姉さんじゃ無かった。私の姉さんは、魔族に心を売ったときに……死んじゃったのよ」

だから気にしないで、とティナがフォローしてくれる。

「あなたは勇者のなすべきことをしたわ」

「うん……わかった。ありがとう、ティナ」

「こちらこそ、いつも守ってくれてありがとう。さすがエレン、私のかっこいい勇者様♡」

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ふっふーん♪ やっぱり僕のエレンは強くてかっこよくって、超最高だぜ! FU~♪

……さて、と。

今消し飛んだあの元賢者のディーナとかいうゴミには、ちゃあんと罰を与えないとね。

僕は優しいエレンと違って、敵に対して一切容赦しないから。

覚悟しておけよ、色欲の魔女め。

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