軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100話 愚者ディーナの惨めな末路

テイマーのエレンの手により、色欲のディーナは撃退された。

話はその数時間後。

人間界にて。

「ぜぇ……はぁ……な、なんで、生きてるの……私……?」

ディーナは気づくと、人間の世界にある、森の中にいた。

自分は完全に、エレンの手によって消し飛ばされたはずだった。

「は、ははっ! 元パーティメンバーの女だからって、手を抜いたのねぇ! 甘いのよぉエレーン!」

ディーナはこのとき、エレンが手心を加えたから助かったのだと勘違いした。

だが、実際は違う。

上位存在の手によって、即死を免れただけだった。

だが彼女を知覚できないディーナは、エレンの甘さが招いた結果だと思ったのだと、馬鹿にしたように笑う。

「その甘さが命取りだぜぇえエレーン!」

すでにディーナの心は、完全に魔に沈んでいた。

今の彼女は 人間(エレン) に対する復讐心が燃えたぎっているばかりだ。

「あんたに色欲の力が効かないのはよーくわかったぁ! なら、あんたのいない人間界の 人間(サル) どもならどうかなぁあああ!?」

エレンを直接狙わず、人間界にいる無辜の民をターゲットにする。

奇しくもザックと同じ手法をとっていた。

だがその結果ザックがどうなったか、ディーナが知るよしもない。

愚かなる元賢者は、破滅に向かって自ら進んでいく。

ダンッ……! とディーナは天高く飛ぶ。

魔族が持つ 闘気(オーラ) を活用し、空中に浮く。

「見なさい! これが色欲の権能、最大出力よぉおお!」

ディーナは腕を大きく振り上げる。

彼女の持つ色欲の力、それは特殊なフェロモンを放出することで、老若男女を愛の奴隷へと変える禁断の技。

目で見えるほどの高濃度のフェロモンは、風に乗って人間界へ広がっていく。

「数日もあればこの世界の人間全員がこの私の支配下よぉ!」

腹を抱えて笑うその姿は、とてももとエルフの美女とは思えないほど、醜悪極まるものだった。

「ディーナさまぁ!」「色欲の魔女さまぁ!」

さっそく色欲の権能で虜になった人間達が、眼下に集まってくる。

ドドドドッ! と土埃を立てながら、大量の男達が、ディーナを求めてやってきた。

「はーっはっはぁあああああ! すげえ! マジですげええよおぉおおお! こんな大量の人間を支配下におくとかさぁああああああ! やっぱ私は天才だぜぇえええええええええええ!」

空中でゲラゲラと、ディーナは下品に笑う。

「待ってろエレぇン! てめえの大事な人間達を、私の支配下において、人間界をめちゃくちゃにしてやるからよぉおおおおおおおお!」

……と、ディーナが調子乗っていられたのも、ここまでだった。

ガツンッ……!

「痛っ! な、なに……?」

額に鋭い痛みを感じ、触れてみると手が血でぬれていた。

「血? な、なんで……?」

ガツンッ! とまた衝撃を感じ、何事かと思って眼下を見やる。

「降りてこいディーナてめぇえええ!」

「な、なに……? なんで、あいつら怒ってるの……?」

色欲の権能で集められた大量の人間達は、みな、憤怒の表情を浮かべていた。

その手には石が握られており、ディーナめがけて投げつけてくる。

1つ1つの攻撃力なんてたかが知れている。

しかし大人数で、しかも怒りを込めて投げられた石は、凶器となっていた。

全身を強打され、ディーナは地上へと落下する。

「ぶべっ! な、なにするのよぉお!」

だが倒れ伏すディーナに、人間達は激しい怒りをぶつけてくる。

「てめえディーナ! おまえはおれの女だろ!」

色欲で愛の奴隷となったはずの男が、ディーナに向かってこんなことを言う。

「こんなにたくさんのやつと浮気しやがって……!」

「は、はぁ!? 何言って……」

「ディーナの愛はおれだけのもののはずだろ!?」

「ふざけんな! ディーナの愛はぼくだけのものだ! そうだろうディーナ!?」

ディーナは現状を理解できていなかった。

「みんな愛の奴隷になるはずなのに……なんで怒りをぶつけられなきゃいけないのよ……?」

「やいディーナ! 結局、誰のことを愛してるんだよ!」

遅まきながら、ディーナは理解する。

色欲の力が、暴走しているのだと。

愛情を強制的に抱かせるこの力。

それが何らかの原因で暴走し、ディーナへの愛が独占欲に変貌していた。

つまり、彼らはみなディーナを深く愛している。

ゆえに、ディーナが他の人間と愛し合っていることを、許せないのだ。

「おれのディーナが他の男と付き合った、おれのことを裏切ったんだ!」

「ゆるせねええ! このビッチがぁ!」

ビキッ! とディーナの額に青筋が浮かぶ。

「ちょ、調子に乗るんじゃないわよ!」

彼女は男達に軽蔑のまなざしを向けていう。

「私はあんたたちのことなんてこれーーーーーっぽっちも愛してないわよ!」

ディーナは男達を見下しながら言う。

「あんたらは私のただの奴隷なの! カースト底辺のクズなのよ! それが色欲の力を得てさらに美しくなったエルフのディーナ様と付き合う? 愛してもらえる? ハッ! 鏡見て言えよブサイクどもぉ!」

愚かにもディーナは言わずとも良いことを言って、踏まなくて良い地雷を踏み抜いてしまった。

「さぁ奴隷ども! 私の手足となって……」

男の一人がディーナの髪を乱暴に掴んで、その頬を強打する。

「いったぁい! なにすんの」

「黙れ!」

バシッ! とまた拳で殴りつける。

「よくもおれの愛を裏切りやがったぁ……! ディーナぁあああああああ!」

彼女への愛が完全に暴走していた。

愛情は憎悪へと変化し、いっせいにディーナへと帰ってくる。

色欲の権能で集められた大量の男達は、ディーナに暴力を振るっていく。

殴り、蹴り、腹を踏みつけ、顔面を石で殴打する。

「や、やめな……やめなさいよおぉおおおおおおお!」

「うるせえ! ビッチ!」

「よくもおれたちの気持ちを踏みにじりやがって!」

「何が愛の奴隷だばーか!」

強すぎる愛情は憎しみの炎を加速させる。

「こ、こうなったら色欲の力をか、解除する!」

しーん……。

「な!? か、解除! 解除! 解除ぉおおおおおお!」

色欲の呪いにかけられた男達は、暴力の手を止めない。

吐き出され続けるフェロモンによって、憎悪が留まることを知らない。

「なんでとまらないのよぉおおおおおお!」

……さもありなん。

奇跡の力のコントロール権を、失っているからである。

壊れた蛇口からは大量のフェロモンが排出され、憎しみの火は世界中に広がっていく。

みながディーナを愛し、一瞬で憎悪へ転じる。

「殺す!」「ディーナ殺す!」「ぶち殺してやるぅううううううううう!」

相手はたかが人間。

だがその気迫は、恐ろしいものだった。

愛情を踏みにじられた彼らは、鬼の形相をしていた。

「ひ、ぎやぁああああああああああ! 来ないでぇええええええええええ!」

ディーナは泣き叫びながら、男達から逃げる。

だが彼らの足は止まらない。

「待てぇええええええ!」「ゆるさねえぞクソ女ぁあああああああ!」

「ひぃいいいいいい! 来るな来るな来るなぁあああああああああああ!」

……その後ディーナは、四六時中、世界中の男達から追い回される。

なにせ人間界全ての人間が、ディーナへの愛を、そして憎しみを抱いているから。

寝ることも、休むこともディーナはできない。

立ち止まれば男達に捕まり、憎しみを込めた拳で殴られる。

ディーナは数日間、人間達から寝ずに逃げ回った。

そして……たどり着いたのは、高難易度のダンジョンだった。

ダンジョンならば一般人が立ち入ることは不可能。

高難易度となれば、入ってこれる【人間】の数は減る。

「ぜぇ……! はぁ……! くそっ! 何でこんな目に遭わなくちゃいけないのよぉおお!」

……とはいうものの、色欲の力を悪事に使おうとしたのはディーナだ。

相手を愛の奴隷に勝手に変えておいて、こちらから何の愛情も注がず、奴隷として手足のように使おうとしたのは、ディーナだ。

結局のところ、彼女の振るまいが巡り巡って、不幸となって降りかかっているだけだ。

……精霊王がアシストしているとは言え。

「お、覚えてなさいよエレン……! てめえのせいで私は酷い目に遭った……! 体制を整えたらあんたに復讐を……!」

と、そのときだった。

「グギャギャッ!」

「な、なに……? ひっ! お、 豚人(オーク) !?」

ディーナが潜んでいる周辺に、大量のオーク達が集まっていた。

しかも高ランクの、 上級豚人(ハイ・オーク) たちだ。

彼らは皆、目をギラギラと欲望に光らせている。

ディーナの体を、まるでなめるように見ていた。

「ま、まさか……? モンスターにまで、私の色欲のフェロモンが働いてるの……?」

その通りだった。

オーク達はいっせいに、ディーナに襲いかかる。

「いやぁ! 汚い! くさい! さわるなぁ! わ、私は誇り高きエルフの女! 豚風情が触って良い女じゃないのよぉおおおおおおお!」

だがオーク達に言葉は通じず、発情した彼らはディーナを慰み者にした。

最初は抵抗していたディーナだったが、絶え間なく組み敷かれていくうちに、精神力を削られていく。

「だ、ずげてぇ……! たすけてぇえ! エレぇええええええええン!」

ついには敵であるはずの、勇者の名前を呼ぶようになった。

「お願いよぉエレン! 助けて! 助けてエレン! 悪いモンスターに捕まって! 酷いことされてるのよぉおおおおお!」

ディーナの持つ色欲の権能は、たしかに強力無比である。

しかし直接的な戦闘力を持つわけでも、身体能力を強化するわけでもない。

体力も腕力も通常のエルフと同等なのだ、発情したオーク達の猛攻に、精神が耐えられるわけがない。

「だずげでぇ! おねがいじまずぅう! エレンさまぁ! たすけてくだざぁあああああああい!」

色欲の魔女は、すっかり弱ってしまい、 他者(エレン) に助けを呼ぶことしかできなかった。

だがいくら叫んでもエレンが助けに来ることはない。

「どうしてよぉおおおおお! ティナは助けたじゃない! 他の女たちだってピンチの時には颯爽と現れて助けてきたじゃない! なんで! なんで私だけは助けてくれないのよぉおおおおおおおお!」

エレンが魔界にいて、彼女の声が届かないから。

だがそれだけが理由ではない。

勇者が手を差し伸べるのは、弱者が理不尽な暴力によって蹂躙されているときだけだ。

弱きを助け、悪を斬るのが勇者。

私欲をむさぼり、自分が困ったときだけ救いをもとめる悪党に……差し伸べる手など持ち合わせていないのである。

「ごめんなさいエレン! 助けてください! 反省します! 今までのこと全部謝罪します! パーティ追放したことも! 冷たくあしらってきたことも! 人間を殺しまくったことも全部全部あやまりますからぁああああああああ!」

必死になってディーナは訴える。

だがエレンが来て、オーク達を蹴散らす展開は……こない。

ディーナは日中通しでオーク達に体をむさぼられた。

体も、心も、すっかりすり減っていった。

「なんでよぉ~……どうして、こんな目に、あわなきゃいけないのよぉ~……」

オーク達に無遠慮に体をむさぼられた結果、酷い有様をしていた。

髪の毛は引き抜かれ、体中に歯形がつき、全身をぶたれて体が膨れ上がり変色している。

「この……エレン……の、クソ野郎、クソ野郎がぁああああああああ!」

ディーナはエレンへ怒りと憎悪をぶつけていた。

「これだけ謝ってるのに助けに来ねえとかどうなってるんだよ! くそ! ティナは助けたくせに! ふざけんな! 死ね! 死ね! しねえ!」

と、やってこない勇者に対して、呪詛をまき散らしていた……そのときだった。

「ぶぎっ?」「ブギャギャッ!」「ブギーッ!」

オーク達が青ざめた顔をして、その場から一目散に逃げて行くではないか。

まるで、何かに怯えている様子だった。

「やっとエレンが来たのか!? おっせえんだよバカ勇者がぁああああああ!」

否。

ガサッ……ガサガサガサ……!

と大量の【虫】が地面を這いつくばって、こちらにやってくるではないか。

「あ、あぁあああ【 鋼鉄蟻(アイアン・アント) 】ぉおおおおおお!?」

ダンジョンに潜む、強力なモンスターだ。

鋭い鋼鉄の歯をもった蟻たちの群れが、ディーナめがけて一直線にやってくる。

この蟻たちもまた、ディーナの発した強力なフェロモンによって呼び寄せられたのだ。

だが、オークと違って、蟻に性欲は持ち合わせていない。

なら、蟻たちはなぜディーナの元へやってきたのかというと……。

ガリッ! と蟻の1匹が、彼女の腕にかみついた。

「いやぁ! 離してぇええ!」

ガリッ! ガリッ! と蟻たちが彼女の体にかみついて、肉を喰らっている。

……そう、ディーナの発しているフェロモンは、オスを興奮させるものだけじゃなかった。

美味そうな果実と同じ匂いを発してる。

それは蟻たちにとっての、エサの匂いだった。

「嫌! いやよ! こんな薄暗い場所で! 蟻に食われて死ぬなんて! 嫌! イヤァあああああああああああ!」

ディーナの体に無数の蟻たちが群がる。

「だずげでぇ! エレン! エレン! えれぇええええええええええええええん!」

魔族の再生能力があって、しばらくは肉を喰らわれ、再生してという地獄を味わった。

それでも限りはあり、ついには再生の能力が衰えて、ディーナは蟻に食い殺された。

……最期まで彼女が呼び続け、すがりつこうとしたのは、自分が追い出した少年だけだった。

……もしも、ダンジョンでエレンを置き去りにしなかったら。

もしもきちんと、ティナと和解していたら。

彼女はエレンのパーティを支える、2人目の賢者として輝かしい人生を送れたものの。

「地の底で蟻に食われるという惨めな最期を迎えたのは、君が自分のことしか考えない、愚かな女だったからだよ、ディーナ」

ディーナが死亡したことで、色欲の洗脳は解かれた。

骨すら食われてしまったので、ディーナはこの世に何一つ残せぬまま、死んだのだった。