軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

82話 勇者オロクァ

精霊王ルルイエのペナルティによって、第2王子セコンズが無限地獄に閉じ込められた。

話はその数日後のこと。

消し飛んだ元・魔王の領土に、ひとりの男がいた。

「おいおい、こいつぁ……いったいぜんたい、どーゆーことだぁ?」

鋭い目つきにナイフのようにとがった歯。

上半身は裸で、体中には爪や剣で切られた痕がある。

彼の名前は【オロクァ】。

最強の勇者と名高い男。

「ようやく魔王の結界が晴れたからよぉ、いよいよ魔王のやつぶっ殺してやろうとおもったらよぉ……なんだこの有様は」

眼前に広がるのは、巨大な隕石でも落ちたかのような窪地だ。

城下町は綺麗さっぱりなくなっていたのだ。

魔王城すらもなくなっている。

「くそが……くそがぁあああああ!」

オロクァは憤怒の形相で、その場で地団駄を踏む。

「せっかく調子乗った魔族どもを皆殺しにしてやろうと思ったのによぉおおおお! どこだぁあああああ! どこにいやがるぅううううううう!」

と、そのときだった。

「ひっ……」

「あ゛ー……?」

振り返ると、そこには魔族の女の子がいた。

まだ10歳にも満たない、幼い子どもだった。

「いるじゃねえか……ちょうど良いのがよぉ……」

にぃ……と邪悪に笑うと、オロクァは女の子に近づく。

「てめえよぉ……オレ様の名前を言ってみろやぁ……」

「し、知らない……」

「オレ様は勇者【オロクァ】。この世から魔族を一匹残らず駆逐してやる、人類の希望、最強の勇者様だよぉ……」

オロクァはパンッ、と柏手を打つ。

魔法陣が展開し、そこから彼の【聖剣】が出現する。

それは、シンプルな純白の剣だ。

鍔(つば) も、グリップもない。

刃だけの剣である。

だが彼が持つと、とたんに剣の形が変わる。

白から黒へ。

そして形状も、まがまがしく変化する。

美しい剣は、【モーニングスター】へと

変わった。

持ち手から鎖が伸びて、トゲのついた鉄球とくっついている。

「や、やめて……殺さない……で……」

涙を流して、少女が震える。

勇者の発する異様な雰囲気と、そして凶悪な武器を前に、完全に腰砕けになっていた。

「そいつぁ……無理な相談だなぁ゛ー……。オレ様の仕事は魔族の殲滅だからよお゛ー……」

ずり……ずり……と鉄球を引きずりながら、オロクァは少女に近づく。

「死ねやボケがぁ……!」

オロクァはモーニングスターを振り下ろす。

鉄球が少女の足をぐしゃりと潰した。

「いやあぁあああああああああ!」

「ぎゃははは! いいねぇ゛……! その悲鳴最高だぁ! ぎゃっはっはー!」

少女は涙を流し、痛む足を押さえながらもだえる。

「痛いよぉおお! 助けてぇええ! おかあさぁあああああああん!」

「ぎゃはははっ! いいぞもっと叫べ! ほら逆の足も潰してやるぞぇ!」

グシャッ……! と鉄球によって少女の足が潰れる。

「ぎゃぁあああああああ!」

「ギャハギャハッ! そぅら次は右腕! 左腕! 太ももぉ!」

オロクァは、やろうと思えば一撃で少女を殺せる。

だが彼はそうはせず、完全にいたぶって楽しんでいた。

「魔族は悪! オレ様勇者! つまり正義! 正義の味方は悪人をこらしめるものだよなぁああああああ!?」

その後もオロクァは魔族の少女を散々いたぶる。

「痛いよぉ……痛いよぉ……」

「魔族は最ッ高だよなぁ! 高い再生能力がある! なんども遊べてお得だぜぇ!」

ぐしゃっ、ぐしゃっ、とモーニングスターを振るっていた、そのときだ。

「やめろぉおお!」

背後から誰かに命令された。

振り返ると、そこには数名の魔族達がいた。

彼らは前回、セコンズによって城下町を吹き飛ばされたあと、行き場を亡くした住民達だ。

ゲートの力を使えぬ、低級の魔族達。

彼らは帰る場所を失って、この跡地の周辺に、難民キャンプを敷いていたのだ。

「ギャハッ……! いるじゃあねえか……ゴミどもがぁ゛……!」

オロクァが凶悪な笑みを浮かべる。

一方で、魔族達が少女を守るようにして立つ。

「いるねいるね蛆みたいに沸いてやがる! オレ様に殺されに来たかぁ……? なぁ……? そうだろそうだろぉ?」

勇者の放つ圧倒的な力の波動を前に、魔族達がたじろぐ。

だがそのなかの若者達が、数名前に躍り出る。

「ここはおれたちに任せるんだ! その子を連れて早く逃げろ!!」

女子供の魔族達が、倒れ伏す傷付いた女の子を抱えて離れる。

「 魔族(むし) のくせに仲間ごっこかぁ……? きっしょく悪いんだよう゛あぁか……!」

「みんな……いくぞ! 仲間を守るんだ!」

「「「おう!」」」

魔族の青年達が、オロクァに襲いかかる。

だが彼はニヤニヤと笑いながら、モーニングスターの持ち手を軽く動かす。

ジャラジャラ! と鎖がヘビのように動き、若者達の身体を縛り上げた。

「この武器は特別製でよぉ……神聖属性が付与されてんだ。つまりどういうことか、わかるかゴミどもォ……?」

じゅううぅ……と、肉の焦げる音がする。

「うぎゃぁああああああ!」

「ぎゃはぎゃは! よぉく味わえよぉ! 聖なる力の味をよぉ!」

魔族達の身体が焦げていく。

聖なる鎖が魔族の身体を焼いているのだ。

ぐいっ、と持ち手を引っ張る。

すると、彼らを縛る鎖が縮んで、身体をバラバラにする。

切断された肉片達は、しかし元に戻らない。

「この鎖はよぉ……魔族の再生能力を中和するんだ。つまり再生はできねえっつーことだ!」

物言わぬ死体となった青年達を、ゴミのように踏みつける。

「さぁ……て。あとはあいつらか……!」

ゆっくりと、オロクァは歩く。

獅子のごとき風格を漂わせながら、悠然とだ。

「やだぁ! 死にたくなぁいよぉ!」

「逃げるんだ! とにかく走れ!」

魔族達は必死の形相で、勇者から逃げる。

立ち向かうものたちはいない。

女に子供、年老いた魔族。

彼らはただ、城下で暮らしていただけだ。

魔族が全員、人間への悪意を持っているわけではない。

だというのに、オロクァは殺す。

「魔族は殺す。魔族だから殺す。例外はねえ。それが勇者だからなぁ゛ぁあああ!」

モーニングスターを振りかぶり、勢いよく下ろす。

鉄球は途中でぐぐっ……と大きくなり、それは魔族の集団を飲み込むほどに巨大化する。

グシャッ……! とまるで大量のトマトを一気に潰したかのように、辺り一面に血の池ができる。

「ぎゃははっ! そらそら苦しめもっと苦しめぇええええ!」

何度も、何度も、執拗なまでに魔族を叩き潰した。

……そして、難民キャンプにいた魔族達は全滅した。

「あ゛ーくそ! つまんねえつまねえつまんねぇええええええええ!」

返り血で真っ赤になったオロクァは、苛立ちげに叫ぶ。

「せっかく魔王っつー、骨のある相手とやれると思ったのによぉ! くそっ! 不完全燃焼だ! もっと強い 魔族(むし) とやり合いたいぜぇ!」

と、そのときだった。

「……勇者様」

「あ゛ー……? 【ふくろう】じゃねーか。てめなんのようだぁー……?」

マントでからだをすっぽりと覆った人物が、近づいてくる。

「……どうやら魔王は魔界へ逃げた様子です」

「チッ……! 魔界か。めんどくせえ。ゲートがなきゃいけねえじゃねえか」

オロクァの不満はたまっていく。

彼が望むのは魔族を殺すこと。

それも、強ければ強いほど良い。

潰したときの快感が大きくなるからだ。

「おいふくろう、てめえ情報ねえか? 強そうな魔族のよぉ……」

「……それでしたら、魔王の子供なんてどうでしょう?」

「魔王の子供? いいじゃねえか……! さっさと居場所教えろよぉ……!」

ふくろうから地図をもらう。

そして、写真を1枚。

「トーカの街、ここにいんだな? それと……なんだこのガキはよぉ……?」

「……彼は人間のくせに、魔王の子供の味方をしているのです」

「なるほどぉ……つまり、敵っつーこったなぁ?」

にぃ……とオロクァが邪悪に笑う。

「……お気をつけなさってください。彼、エレンはなかなかの手練れです」

「ハッ……! 関係ねえ。邪魔者はぶっ殺すだけよぉ……」

凶悪な笑みを浮かべると、オロクァは来た道を戻っていく。

さて、ひとりになったふくろうのもとに、精霊王が現れる。

「なんのつもりだい、ふくろう?」

「……ルルイエ様。ご機嫌麗しゅう」

しかしルルイエから圧倒的なまでの、殺意の波動が感じられた。

大地を削るほどのオーラだ。

「勇者がエレンを傷つけたらどうする?」

「……そうすれば、大義名分ができるかと。あのものから勇者の力を剥奪する」

「だから……ハッ! そういうことか!」

怒りから一転、ルルイエは輝く笑みを浮かべる。

「あの愚か者が勇者でなくなれば、魔王を倒す役が、特S級のエレンに回ってくる……!」

「……左様でございます。勇者の代わりにエレン様が魔王を倒せば」

「彼は人々からの信頼を集めた超凄い存在になるわけだね! なるほどぉおおお!」

喜色満面となって、ルルイエがその場でウキウキとダンシングする。

「……ご理解いただけたでしょうか?」

「仕方ない、君をなぶり殺すのはまた今度にしてあげよう」

ふくろうは慇懃に頭を下げる。

「さぁって、忙しくなるぞぅ♡ まずはさっきの愚かな勇者から力を剥奪して……」

まるで遠足を翌日に控えた子供のように、ルルイエはウキウキとしながら、奇跡を起こすのだった。