軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

79話 魔王子、被造物に反旗を翻される

テイマーのエレンによって、第1魔王子ファウストが撃退された。

魔王の領土、魔王城の謁見の間にて。

ファウストは父の前に立っていた。

「この、愚か者がぁあああああああああ!」

父は憤怒の表情を浮かべると、手に持った錫杖でファウストをたたく。

「人間ごときに敗北するなど! 魔族の恥さらしだ! わしの名前に泥を塗りおって!」

「も、申し訳ございません、父上……」

頭を下げながら、ファウストは内心で首をかしげる。

(なぜだ!? なぜこうも早く、敗北した事実を父上が把握しているのだ!?)

エレンに負けたのは、つい数十分前のこと。

部下たちには敗北を口外しないよう厳命したはずだ。

魔王の息子が人間に負けることなど、あってはならない。

しかも相手が勇者ではなく、ただの少年とあっては、父に面汚しとののしられても反論できない。

(誰かが父上に敗北を吹き込んだのだな!? おのれ! 裏切り者には死を与えてやる!)

「聞いておるのかファウスト!」

「はっ! 申し訳ございません!」

魔王は血管を浮かびあがらせ、手に持った錫杖で息子を叩き付ける。

「制裁!」

雷の魔法が発動し、ファウストの体に激しい電流が流れる。

「うぎゃぁあああああああ!」

「制裁! 制裁! 制裁ぃいい!」

何度も雷の魔法を使って、息子を痛めつける。

無論殺すつもりは毛頭なく、魔王は手加減したはずだ。

……しかし。

「うぎゃぁ! ぎぃいやぁあああああああああ!」

ファウストの体には、すさまじいダメージが入った。

さもありなん、今の彼は、 魔核(イビル・エレメント) を失って、人間へと格下げされているのだ。

それを魔王も、そしてファウスト自身も知らない。

「父上ぇえええ! やめてください! 死んでしまいますぅうう!」

「この程度で何を音をあげている! 軟弱! 制裁! 制裁! 制裁!!!!」

父は息子を殺す意図はなかった。

自覚なくファウストを死へと追いやろうとしている。

ややあって。

「すぐにあのエレンとかいうガキを始末しろ!」

黒こげになったファウストにそう吐き捨てて、魔王が出て行く。

「ち、くしょぉ……父上め。今に見てろよ……!」

傷ついた体を引きずりながら、彼は【研究室】へと向かう。

「ファウスト室長、ど、どうしたのですか?」

研究員をぎろり、とにらみつけると、蹴り飛ばす。

「あっ!」

「うるさい! 私に気易く話しかけるな! 人間のくせに!」

「も、申し訳ありません……」

今蹴った研究員は、人間界から連れてきた男だ。

高い知能をファウストに買われ、ここで強制労働させられている。

「それより、実験の方はどうなっている! さっさとデータを持ってこいこの屑が!」

研究員は立ち上がると、タブレットを手渡す。

そこには、【改造魔族≪魔人≫計画】とあった。

簡単に言えば、魔物と人間を合体させることで、より強力な兵士である【魔人】を作り出す計画だ。

「よし、魔人作成のノウハウは完璧に確立できたな。あとは量産だけだ。……おい、 人間(サル) を連れて来い」

ファウストは護衛の部下に命令する。

「あ、あの……ファウストさま」

「なんだ、人間?」

研究員が沈んだ顔で言う。

「この実験は、人道に反します。人間と魔物をくっつけて、無理やり化け物に変えてしまうなど……」

びきっ! とファウストは血管を浮かびあがらせる。

「私に意見をするな! 黙ってろくそ猿の分際で!」

研究員の頬を殴り飛ばす。

「貴様は自分が生かされていることを理解せよ! その頭脳がなければ今頃貴様もあの装置に入れられたところなんだぞ!」

ファウストが指さす先には、3つの巨大なカプセルがあった。

片方には、Dランクモンスターのゴブリンが入れられている。

これは合体装置だ。

「い、いやだ! 放せ! 放せぇええええ!」

ちょうど、部下が人間を連れてきた。

実験のために拉致してきたモルモットである。

部下は空いている方のカプセルに、人間を放り込む。

「出してくれ! ここから出してくれぇええええ!」

「おい、さっさと合体を開始しろ」

研究員はふらつきながら、操作盤の前まで移動する。

「…………」

「どうしたさっさと動かせ!」

「は、はい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

彼がボタンを押すと、カプセルの下に魔法陣が展開する。

「いやだ! 助けて! 助けてぇえええええ!」

2つのカプセルが、カッ! と光り輝く。

その瞬間、中に入っていた生物の体が、どろどろに溶ける。

「うぎゃぁあああああ…………」

汚泥がカプセルを満たし、それは上部についたパイプを通じて、中央のカプセルへと移動する。

左右のカプセルから排出された泥は、中央のカプセル内で混ざり合う。

そこへ外部から魔法薬を投入される。

すると、泥は形を変えて、別のものへと変わる。

【ギャギャギャァアアアアアアアア!】

そこにいたのは、異形の化け物。

3メートルはある、緑色の肌をした巨人だ。

「やったぞ! ついに魔人の完成だ!」

手元のタブレットには、完成したばかりの異形なるものの、 能力値(ステータス) が表示されている。

「見ろ! 上級魔族に匹敵する数値だ! 人間と低級モンスターを組み合わせただけでこの強さ! やはり私の確立した理論は素晴らしい! まさに歴史に名を遺す偉業だ!」

狂喜乱舞するファウストをよそに、研究員はカプセルに近づく。

【グロォオオオオオ! グロロォオオオオオ!】

「ああ……すまない……わたしのせいで、こんな化け物にしてしまって……」

ぽたぽたと涙を流す研究員に、ファウストは顔をしかめる。

彼に近づいて、蹴とばす。

「私のこの偉大なる研究成果を、言うに事欠いて化け物だと! 私を愚弄する気か!」

「なにが、偉大な研究だ! 命を理不尽にもてあそんで、神様にでもなったつもりか!?」

研究員は声を荒らげて言う。

「おまえの危険な実験で、今まで何百、何千人が、みじめな化け物の姿になって二度と戻らなくなったと思っているんだ!?」

「ふんっ! 私の偉大な研究の糧となれたのだ、むしろ光栄に思ってほしいくらいだな」

にぃ……とファウストが邪悪に笑う。

「これで無敵の魔人軍団を作り上げるんだ。人間界を征服し、いずれ魔王の座すらもこの私のもの……!」

「そんなくだらない野望の為に死んでいった人たちに、心を痛めないのかおまえは!?」

研究員と魔人を見て、ふんっ! とファウストは鼻を鳴らす。

「思わんな、人間は等しく魔族の家畜。実験動物となれたことを感謝してほしいものだ。しかしおまえ……随分と調子に乗ってくれたなぁ」

ファウストが残忍な笑みを浮かべる。

「ちょうどいい、魔人の性能をテストするか。そこのモルモットを使ってなぁ」

研究員を見て、ファウストが笑う。

「魔人よ! そこの男を殺せ! そいつはもう用済みだ。研究資料はここにあるからなぁ」

「ひっ……!」

魔人ににらまれ、研究員はその場にへたり込む。

カプセルの壁が下がり、魔人が解放される。

【ふぅううう! ふぅううううう!】

見上げるほどの巨体を怒りで揺らす。

魔人の眼には、明確な殺意があった。

「さぁ殺せ魔人よ!」

「く、来るな! 来るなぁああ!」

研究員は泣きわめきながら言う。

「無駄だぁ! こいつは私の持つ【従魔支配】のスキルによって完璧に制御されている! 私の言うことのみを絶対に聞く忠実なる兵士! 貴様なんぞサルの言葉に耳など貸さぬわぁああ! わーはっはっはぁ!」

そのときだった。

魔人の瞳が、研究員ではなく、ファウストに向いたのだ。

「ど、どうした? 早くその男を殺せ! 私の言うことを聞けよこののろまぁ!」

【グロォオオオオオオオオオオ!】

雄たけびを上げると、魔人はファウストに向かって走って来る。

「な、なぜだ!? くそっ! 被造物ごときが創造主に逆らいよって! 廃棄処分にしてくれる!」

バッ! とファウストが手を伸ばす。

こいつを壊しても、また新しい魔人を作るだけだ。

だが、魔法は発動しなかった。

「ど、どうなっているんだ!? ま、魔法が!」

【グロォオオオアアアア!】

魔人は足を振り上げると、思い切り、ファウストの腹部を蹴り上げた。

「ぐぇええええええええええええええ!」

コマのようにクルクル回りながら、ファウストは宙を舞う。

ぐしゃり、と倒れたところに、魔人が再び踏みつける。

「がっ! げっ! や、やめ! やめろ! やめろぉおお!」

魔人は怒りの形相を浮かべながら、ファウストをまるでゴミくずのように、何度も踏みつける。

「魔人が怒っているんだ……自我はなくとも、怒りの感情が魂に刻まれてるんだ……しかしなぜ、スキルで支配できないんだ?」

精霊王によって、ファウストのスキルはすべて、剥奪されている。

魔人を縛る力が無い以上、彼を止めることはできないのだ。

「やべ、やべ……でぐれぇ……」

ぼろぞうきんとなったファウストを、魔人が持ち上げる。

「な、にを……する……?」

魔人は合成カプセルのもとへと向かい、逆側にファウストを突っ込む。

「ま、まさか……! や、やめろぉ!」

そのとき、なぜか反対のカプセルに、モンスターが【偶然】にも

入っていた。

カプセル内のモンスターはスライム。

まごうことなき、最弱の魔物だ。

【グロォオオオオオオ!!】

魔人は怒りの雄たけびを上げると、操作盤まで移動する。

「ま、まさか魔人は、ファウストをスライムと合成させようとしているのか?」

「うわぁああああああ! やめろぉおおおおおお!」

だがファウストの制止もむなしく、合体開始のスイッチが押される。

その瞬間、魔王子の体はドロドロに溶けて、スライムの体と共に混ぜ合わせられる。

ほどなくして、新たなる魔人が完成した。

「な、なんだこの……醜い姿は……」

一言で言えば肉の塊だ。

ピンク色の肉片が集まり、スライムのよう固まっているだけ。

内臓が透けて見え、目球が一つだけある。

口らしきものはあるが、体と同じくらいの大きさだった。

異形の存在となったファウストは、カプセルの壁に映る自分の姿を見て、声を震わせる。

「こ、これが……私? 高貴なる、特級の魔族の私が……こんな、醜悪な、化け物……だと……?」

「合体が失敗したんだ。魔人作成のノウハウは確立されたはず、失敗の確率は0.01パーセント未満のはずなのに」

呆然とつぶやく研究員は、無論ファウストから精霊の加護が失われたことを知らない。

運やツキというものは、精霊がもたらす奇跡の一つ。

精霊の加護がなくなれば、それらに見放されるのは必定。

結果、超低確率の合体事故を起こしたという次第だ。

「い、いやだ……戻せ、もとの、姿に……」

研究員は冷たい表情で首を振る。

「合成された魔人を元に戻すことは絶対不可能です。まじりあったコーヒーとミルクをそれぞれに分離することができないように。あなたが、一番よく分かっているでしょう?」

研究員の言葉に、ファウストは絶望して、言葉を失う。

「元凶がこうなった以上、不幸はもう起きない。けど……」

研究員は、魔人と、そして数多の失敗作たちを見やる。

合体事故を起こし、失敗した化け物たちが、研究室内にはたくさんいる。

「彼らはもう、戻らないんだ。神の奇跡が起きない限り……」

と、そのときだった。

「どうやら、お困りのようだね」

いずこより女性の声がした。

合成カプセルの上に、とてつもなく美しい女が座っていた。

「あ、あなたは?」

「僕はルルイエ。エレン・バーンズの使いのものさ」

ふっ、と彼女が一瞬で消えて、研究員の隣に出現する。

「僕は君の願いをかなえるために、エレンに言われてここにやってきたんだ」

「ね、願いとは……まさか! この不幸な人々を、元に戻してくれるというのか!?」

ルルイエはほほえみながら、しっかりとうなずく。

「そ、そんなことできるはずがない!」

「いいや、できる。エレンの力に不可能はないのだよ」

「ま、まさか……絶対に戻すことのできない彼らを人間に戻すなんて、そんなの、できるとしたら、もはや神業じゃないか……」

呆然とする研究員に、ルルイエは優しく語り掛ける。

「どうする? キミがエレンに奇跡を祈るのならば、エレンは彼らを戻してあげるよ」

こんな世迷い事、全く科学的ではない。

しかしルルイエから発せられる余裕はなんだ? と研究員は困惑する。

「頼む……できるなら、やってくれ」

「んー? 声が小さいなぁ」

「頼む! 彼らを戻してくれ、エレン様!」

「もっと大きな声で!」

「エレン様! 助けてください!!!!!」

にぃ、とルルイエが笑う。

ぱちんっ、と指を鳴らした。

その瞬間、奇跡が起こる。

異形の姿となっていた人々が、元に戻ったのだ。

「う、うそ……」「信じられない、戻った、戻ったんだ!」

「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!」」」

人間の姿となった彼らは、感涙の涙を流す。

「さぁ! キミたちを治してくださった御方に、感謝をささげるんだ!」

「「「ありがとうございます、エレン様ぁああああああ!」」」

研究室から湧き上がる大歓声。

奇跡によって元の姿に戻った彼らは、全員がエレンに深く深く感謝する。

「いいかい、君たちを治したのはエレン・バーンズ! 奇跡の体現者の名前を、子々孫々にまで広めるんだ! それが奇跡の対価だよ!」

「「「わかりました、エレン様ぁあああああ!」」」

熱狂がその場に渦巻いている。

その一方で、体を震わせるものが一名。

「さぁて、みんな。あれを見てごらん?」

ルルイエが指さす先にいるのは、未だ異形の姿のファウストだ。

「君たちを虐げた男が、みじめな姿で震えているよ! なんて滑稽なのだろうか!」

集まった人間たちの眼が、ファウストに向く。

その目は、復讐に燃え滾っていた。

「や、やめて……ころさないで……」

だが人間たちの怒りは収まらない。

誰に命令されたわけでもなく、ファウストを殴り殺す。

「ふふ、ほらまた君の信者がたくさん増えた。こうやってファンを増やして、君の偉業を広めていくよ」

実に嬉しそうに、彼女がつぶやく。

「布教活動は、 信者(ファン) としての当然の義務だからね!」

狂信者(ルルイエ) は自分の体をだいて、熱っぽく言う。

「ふふっ、エレン、喜んでくれるだろーなぁー♡ えへへ、えへへへ♡」