作品タイトル不明
62話 亜人狩り
テイマーのエレンによって、犯罪ギルド 六眼(りくがん) が壊滅に追いやられた。
その数日後。
そこは、鬼族が暮らす深い森の中。
族長の屋敷にて。
鬼族達をまとめる長、 紫音(しおん) は、沈鬱な表情でつぶやく。
「ゆかりの消息は、未だ不明ってことなんだな……」
「申し訳ございません、 紫音(しおん) さま……」
彼女の前にひざまづく、部下達もまた意気消沈している。
「いや、気にすんな。しかたねえことだ。あたいら鬼族は、人間から嫌われてっからよ」
かつて鬼族は、人間達から【人食い鬼】と恐れられていた。
鬼のオスは身体も大きく見た目も厳つい。
メスは見た目麗しいが、紫音のように皆少々気性が荒い。
そのようなでまかせが広がってしまうのは、無理からぬこと。
しかし彼ら鬼族は人など口にしない。
「外は【亜人狩り】のヤツらもいる。人里をそう易々うろつけない以上、ゆかりを探すのは難しい。何の手がかりもねえんじゃ……しょうがねえよ……」
「紫音さま……」
ぽた……ぽた……と紫音の瞳から涙がこぼれる。
両親が死に、唯一残された肉親が妹だけなのだ。
彼女の胸の痛みは計り知れないほどだろう。
そのときだった。
「ここにいたか、醜い亜人種ども」
屋敷に入ってきたのは、法衣を身につけた男だった。
「鬼の血の匂い! 貴様! 何者だ! よもや同族を殺したのではなかろうなぁ!」
部下のひとりが、棍棒を持って立ち上がる。
「よ、よせ! あの胸から下げている十字のネックレスは、【神聖皇国】の【亜人狩り】だ!」
「うぉおおおおおおお!」
紫音が止めるまもなく、部下のひとりが亜人狩りの男に殴りかかる。
「薄汚い蛮族が」
男はパチンッ! と指を鳴らす。
たったそれだけで、部下はサイコロステーキ状に切り刻まれた。
「なっ!? なんだ今のは!」
「野郎! 同胞を殺しやがって! ぶっ殺してやる!」
鬼達が次々と襲いかかる。
だが男は余裕の笑みを崩さず、ただ指を鳴らす。
ザシュッ……! とつかみかかろうとした鬼達が、皆殺しにされた。
「だ、誰だてめえ!」
紫音は敵意をあらわにする。
だが内心では冷や汗をかいていた。
彼ら【亜人狩り】の脅威を、知っている。 両親を殺したやつらだからだ。
「私は【コミガス】。神聖皇国の上級・ 祓魔師(エクソシスト) 。対亜人種滅殺部隊の隊長だ。覚えておけよ蛮族ども」
「 祓魔師(エクソシスト) が何のようだ……! 悪魔でも追いかけてやがれ!」
「やれやれ、わかっていないようだから説明してやろう。神聖皇国の教えでは、創造主である神と、被造物の人間。それ以外は邪神が作ったまがい物の生命だと教わる」
「まがい物……だと……?」
歯ぎしりする紫音に、コミガスは醜悪に笑う。
「そうだ。悪魔、魔族……そして貴様ら亜人。全てが人間の敵であり、排除すべき邪悪だ。我々のコミガス部隊の任務は亜人種の殲滅。慈悲はかけぬぞ」
パチンッ、と指を鳴らす。
「うぎゃあああ!」「ひぁあああ!」
窓の外から、悲鳴が上がる。
紫音は慌てて窓から外を見やる。
「み、みんなっ!」
村が炎に包まれていた。
外で倒れ伏すのは、鬼族たち。
身体を切断され、みな虫の息だった。
「なんてことしやがるんだ! あたいらは平和に暮らしていただけなのに!」
「黙れ蛮族ども。貴様らが存在している、それは許されないことなのだ。即時退去願いたい」
「ふざけんじゃねええええええええ!」
紫音が刀を抜いて、斬りかかる。
鬼族の身体能力は人間を遙かに凌駕している。
超高速で接近し、紫音は刀を振り下ろす。
ガキンッ! と金属同士がぶつかり合う音。
「なっ!? なんだこりゃ!」
そこにいたのは、【天使】だった。
白い金属のボディ。
人の形をしてはいるものの、顔がなく、どことなく石像に近いフォルムだ。
天使の手には長剣が握られており、それで紫音の刀を受け止めていたのである。
「天使よ、言葉の通じぬ蛮族を切り捨てろ」
剣を振りかぶり、紫音の腹部を切りつける。
「ぐあぁああああ!」
深く腹を切り裂かれ、紫音はその場に倒れ伏す。
仲間達もこうやって、天使に攻撃されたのだろう。
「あ、あね……ご……」
倒れ伏す部下達が、重傷を引きずりながら、紫音の前に立ち塞がる。
「鬼族は再生力も桁外れ、だったか。まったく、つくづく気味の悪い能力だ」
コミガスはハンカチで口を覆って、鬼達をまるでゴミのように見下ろす。
「に、逃げて……くだせえ……」
「ばかやろう! てめえらを見捨てて逃げられっか!」
だが再生が間に合わず、動けない。
「姉御を守るんだ! ゆかりちゃんに絶対会わせるんだ!」
「「「うぉおおおおおお!」」」
死力を振り絞り、鬼達がコミガスに襲いかかる。
「虫以下の脳みそしか持たぬのだな、貴様らは」
天使が剣を一振りする。
それだけで、鬼族の部下達は消滅させられた。
「う、うわぁああああああ!」
涙を流しながら紫音は叫ぶ。
立ち上がろうとするが、天使の剣で、背中を串刺しにされる。
「ぎゃぁああああああああ!」
「うるさいぞ蛮族」
コミガスは近づいてくる。
しゃがみ込んで、髪の毛を掴んで持ち上げる。
「あたいたちが……なにしたっていうんだ……」
「なにもしてない。生きてるだけだな。だがそれがどうした? 貴様らは生きていることが罪なのだ」
紫音の顔を、遠慮無く殴りつける。
「われわれ亜人狩りは! 人間以外の存在を許さない! 亜人は殺す! 皆殺しだ!」
「ガッ! ぐへっ! ぶっ!」
何度も顔を殴られて、紫音の顔が膨れ上がる。
「そこに……正義が……あるのかよ……」
「あるとも。神こそが正義。我ら神に仕える存在も正義。それ以外が悪。実に、わかりやすい」
ぱっ……と手を離す。
「平穏に……暮らしてる鬼を殺す……てめえらが……悪魔だろうが……」
「言ってろ、蛮族。天使よ、その女を殺せ」
天使が長剣をもう一本取り出して、振りかぶる。
「……ゆかり。ごめんねぇ」
剣を振り下ろした、そのときだ。
ボッ……! と天使の剣が消し飛んだのである。
「なっ!?」
入り口に立っていたのは、小柄な男だった。
これといった特徴の無い、柔和そうな顔つきの少年。
その肩には、炎の鳥を乗せている。
「おねぇちゃん!」
「ゆ、かり……?」
奇跡だと、思った。
少年の隣にいたのは、連れて行かれた妹ゆかりだったのだ。
「おねーちゃん! おねーちゃーん!」
たたっ、とゆかりが駆け寄ってきて、姉に抱きつく。
「ゆかり……良かった……生きて、たんだね」
「うん! エレンおにいちゃんが、助けてくれて、ここまで連れてきてくれたんだお!」
少年……エレンが紫音を見やる。
そして、コミガスに敵意を向ける。
「あなた方は、なにをやってるのですか?」
静かに、エレンが尋ねる。
「見てわからんかね? 世にはびこるゴミどもを排除して、世界をクリーンにしているのではないか」
「ゴミ……ですって……?」
「ああ。人間以外は皆ゴミクズ同然。ゆえに殺した」
ぎりっ、とエレンが歯がみする。
「ゆかりちゃんから……聞きました。鬼族は、みんな優しいって。誰にも迷惑をかけず、里でひっそり暮らしてると」
「らしいな。だがそれがどうした? 亜人は悪だ。悪は排除する。それが我らの崇高なる使命……」
「ふざけるな! おまえらのやってることは人殺しだ! この悪魔!」
ふんっ、とコミガスが鼻で笑う。
「道理を理解せぬガキが。我らに刃向かったことはすなわち神に楯突いたことと同義。天使よ、殺せ」
天使が長剣をかまえて、エレンに斬りかかろうとする。
「あ、あぶない! 逃げろエレン!」
「ハッ……! 無駄だ。天使の攻撃は絶対に当たる。逃げられるものは世界に存在しない!」
だが天使の剣が届く前に、エレンが叫ぶ。
「【 契約破棄(リリース) 】!」
それだけだ。
叫んだだけで、天使が跡形もなく消え去ったのだ。
「なっ!? なにぃいいいいい!?」
コミガスが驚愕の表情を浮かべる。
「天使を消し去っただと!? ばかな! 貴様何をしたんだ!?」
「あなたの質問に答える義理はない」
コミガスは焦る。
天使は人間達よりも遙か上位の存在。
魔族を一撃で倒し、しかし極大魔法を受けてもびくともしない頑丈さを持つ。
人の身で天使を破壊するのは不可能……なはずだ。
予想外の展開に、コミガスは焦る。
「くそっ! おい外にいるヤツらはなにしてる! 殺せ!」
「無駄よ」
女騎士とエルフの魔法使いが入ってくる。
「みんな鎮圧させてもらったわ」
窓から見やると、部下達が全員ノックアウトしていた。
「くそっ! 役立たずどもが!」
「村から出て行け! 二度と彼女たちの前にくるな!」
エレンに言われて、コミガスはビキッ! と血管を浮かび上がらせる。
「調子に乗るなよクソがきがぁ! 中級天使を召喚できる、この私に刃向かうことがいかに愚かか教えてやろう!」
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精霊使いへの敵対行動を関知しました。
コミガスから【祓魔師の精霊核】を剥奪します。
→スキル【天使召喚】を剥奪します。
→etc.……。
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「いでよ、中級天使!」
しーん……。
「なっ!? そんなバカな! どうなってる!」
「おとなしく降参しろ!」
「くっ!こ、このぉおおおお!」
コミガスが怒って殴りかかってくる。
エレンはそのパンチをかわすと、土手っ腹に拳をたたきつける。
「ぶぎゃぁああああああああああああ!」
木の葉のようにクルクル舞うと、壁を突き破って地面に激突する。
「部下を連れて帰れ!」
「く、くそぉ……おぼえてろよぉ……」
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精霊使いへの敵対行動を関知しました。
祓魔師コミガスにペナルティを実行します。
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