軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53話 愚かな皇子

テイマーのエレンと、聖女クレアが邂逅した、一方その頃。

皇帝の息子、第3王子グスオ=フォン=マデューカス。

17歳。

彼は新しい婚約者にして聖女のベラドンナとともに、私室で過ごしていた。

「あの邪魔な田舎女はこれでいなくなったよ。ベラ、もう君しか見えない」

「グスオ……アタシもよ。大好き♡」

ちゅっちゅっ、とキスを交わす。

「あの芋クサい女はどこへ追いやったの?」

「毒竜の出没するという森に捨ててやった。今頃毒に苦しみもだえて死んだだろう」

「まぁ、グスオは優しいのね。騎士に暗殺させるとか、谷から突き落とすとか方法はいくらでもあったでしょうに」

「それじゃあ苦しみは一瞬じゃあないか。じわじわ毒で苦しみながら、この僕を騙していたという罪を悔い改めながら死ねば良いのさ」

「まぁ♡ グスオったら悪い人」

「悪い僕もまた素敵だろ?」

「ええ、かっこいいわぁ♡」

色ボケカップルがいちゃついていた……そのときだ。

コンコン……と部屋のドアがノックされる。

「誰だ?」

「……わたくしめにございます」

がちゃ、と扉が開く。

そこにいたのは、黒いフードで身体をすっぽり覆った人物だ。

「【ふくろう】か。何のようだ」

ふくろうと呼ばれた黒フードの人物は、グスオの近くまでやってきて、頭を垂れる。

「……お暇をいただきたく存じまして、ご挨拶を申し上げます」

「そうか。好きにしろ」

グスオは立ち上がり、机の引き出しから、金貨の入った袋を取り出す。

「これは謝礼だ。偽りの聖女を見抜き、真の聖女を見いだしたな」

ひょいっ、とそれを放り投げる。

ふくろうはそれを受け取ると、頭を下げた。

「……これにて失礼いたします」

そう言って、黒フードの人物は部屋から出て行った。

「ねえグスオ。あいつって誰なのぉ?」

「ふくろうと名乗る、鑑定スキル持ちだ。素性は知らん」

グスオはベラドンナの元へ戻り、またいちゃつきだす。

「だがやつの鑑定スキルは強力だ。他の鑑定士どもをあざむくほど、高度な隠蔽術を使っていたあのゲス女の陰謀を、あざやかに見抜いたからな」

……しかし、あくまでグスオがそう思い込んでいるだけだ。

そもそも、彼はクレアとの婚約に納得がいっていなかった。

あんな胸の薄い、愛想の悪い女よりも、豊満で笑顔が素敵なベラドンナの方が万倍良かった。

グスオは婚約解消を父である皇帝に何度も申し出た。

しかし毒竜の生息地が各地に存在する帝国にとって、聖女の存在は必要不可欠だ。

ゆえにクレアとの婚約解消は許されず、もんもんとしていたところに、ふくろうがやってきて真実を暴いてくれたのだ。

……無論。

ふくろうが鑑定結果を【偽っていた】かも知れない。

だが人は、信じたいものだけを信じる。

グスオにとって、クレアが偽の聖女であってほしいと願っていた。

だからふくろうの素性も、鑑定結果の真偽も、よくよく確認せずにクレアを放り出したのだ。

「ああ! あの田舎のブス女がいなくなってせいせいする! ベラ、君を愛する、一生君を愛し続けると誓おう!」

……グスオがきちんと、ふくろうを疑い調べれば、未来は変わったかも知れない。

★☆★

ある日のこと。

グスオは新しい聖女ベラドンナとともに、毒の浄化を行いに向かった。

帝国は 毒竜(ヒュドラ) の生息地が各地にある。

そのため定期的に、聖女は毒で犯された大地へ赴き、浄化作業を行っていたのだ。

「ちょっとぉグスオ~。まだつかないのぉ~。アタシちょーたいくつなんですけど~?」

目的地までの道中、馬車に乗っているグスオとベラドンナ。

「おい御者! ベラが退屈しだしたじゃないか! もっとスピードを上げろ!」

「こ、これ以上は無理でございます……」

御者が消え入りそうな声で言う。

「あー、グスオ。こいつアタシたちに刃向かったわ。クビにして」

「了解だ。おい、おまえ今すぐ馬車を降りろ。クビだ」

「そ、そんなぁ! ご無体な!」

御者は青ざめ、泣きそうな声音で言う。

「病気がちな妻に子供もいるのです! 職を失うわけにはいかぬのです! なにとぞ、なにとぞ!」

御者は何度も頭を下げる。

その間も馬車を操り続けたのだ、見上げたプロ意識である。

「この僕に逆らうのかこの無礼者! クビだクビ! 今すぐ馬車を降りろ! ただし、新しい御者はおまえが用意しろよ」

「なっ!?」

「当然だろ? 仕事を辞めるのだ。ならば業務を引き継ぐものを探すのも、前任者の役割だろ?」

「こ、この……」

「なんだ? 逆らうのか? 別に良いが、父上に言って一族郎党皆殺しにしてもらうが?」

ぐぐ、と歯がみすると、御者は諦めたように肩を落とす。

近くの街に立ち寄って、新しい御者を手配し、馬車が再び動き出す。

ややあって。

ヒュドラの毒に侵された森まで、やってきた。

「ベラ、すまないが力を貸してくれないか。君の浄化スキルで森を治してくれ」

「えーやだー。だるーい」

「頼むよ。毒を浄化するのは聖女のお役目なのだ」

ぶーぶーと文句を言うベラを、グスオがなだめる。

いくら彼女の肩を持つからとはいえ、皇帝から命じられた公務。

投げ出すことはおろか、失敗することすらも許されない。

そんなふたりを、離れたところで護衛の騎士が言う。

「……あの女、ほんと文句ばっかりだな」

「……前の聖女様はとてもいい人だった。何一つ文句を言わずに浄化作業を行ってくれてさ」

「……おれなんていつもご苦労様ですって言って、クッキーまでくれたんだぜ。あーあ、クレア様、帰ってこないかなぁ」

ベラの周囲の評判は最低最悪なものだった。

彼女の身勝手な性格を考慮すれば、そうなって当然だろう。

一方でクレアは外見的な華やかさにかけるものの、優しく気立ての良い女であった。

しかしいくら性格的に優れていても、聖女のスキルがなければ不要と断じられる。

それほどまでに、スキルがもたらす価値は大きい。

裏を返せば、ベラドンナは聖女のスキルがあるというだけで、聖女と認識されているに過ぎない。

……もし、そんな彼女から聖女のスキルが失われれば?

「さて、じゃあベラ。お願いするよ」

「はいはい。まったく、聖女も楽じゃないわね」

スッ……とベラドンナが手を前にかざす。

眼前には毒に侵された森が広がっている。

「あ、あれ……?」

「どうしたんだい、ハニー?」

「え、ううん。なんでもないわ。えいっ、えいっ!」

しかしいくらやっても、浄化スキルが発動することはない。

グスオも、周囲の騎士達も、不審がって近づいてきた。

「ど、どうしたのだ? ベラ」

「ちょ、ちょっと調子が悪いみたい。少し寝るわ」

だが、仮眠を取った後も、浄化スキルは発動せず……。

「どうなってるのよ!? スキルが発動しないわ!」

ベラが目をむいて、自分の両手を見やる。

前は、念じるだけで簡単に浄化スキルが発動したはずなのに……。

さもありなん。

この場の誰も知らない。

精霊に愛されし少年に、嫌われてしまったことを。

それゆえに、スキルを剥奪されてしまったことを。

「くそっ! このっ! なんで! 浄化しなさいよ! ばかこのっ!」

「べ、ベラ……? なにをふざけてるんだい?」

「はぁ!? ふざけてなんて無いですけどぉ!?」

……結局いくら頑張っても、浄化は行えなかった。

★☆★

数日後。

皇帝のいる城にて。

「グスオ、このばかもんがぁあああ!」

ばきぃっ、と父である皇帝に、グスオは殴り飛ばされる。

「な、なにをするのですか父上……」

「貴様自分が何をしたのかわかっているのか!?」

皇帝は顔を真っ赤にして叫ぶ。

「わ、わかりません」

「グスオ貴様、新しい聖女が浄化を行えなかったことを、なぜ隠していた!?」

森から帰還した後、グスオは皇帝に今回の失敗を報告しなかったのだ。

理由は至極単純。

「だ、だって……ベラが言うなって、言うから……」

ベラドンナの意図は単純明快だ。

浄化の行えない聖女に価値はない。

となれば城を追い出されてしまうことは必定。

贅沢三昧な日々が失われてしまう。

ゆえにベラドンナは、今回のことを皇帝には黙っておけと命じたのである。

「どこまでバカなのだ貴様はぁあああ!」

皇帝は立ち上がると、息子であるグスオを遠慮無く殴りつけた。

「女に言われたから黙っていただと? ふざけるのも大概にしろ!」

「し、しかし……ベラは僕の愛する人だし……嫌われたら……」

「黙れ! このクズ! よいかグスオ、今すぐあのベラドンナとか言う女をここへ連れてこい。今すぐにだ!」

「は、はい……」

ふらつきながら、グスオは慌てて、ベラドンナの部屋へと向かう。

しかし……そこで待っていたのは……彼女ではなく非情な現実だった。

「なっ!? べ、ベラ!? どこだ!? どこにいる! ベラ、ベラー!」

ベラドンナは忽然と姿を消していた。

それだけじゃない。

部屋にあった調度品や、城の中にあった高価な金品も、ありったけをかっさらって逃げていったのだ。

失意のグスオは、ふらつきながら父の元へ行って報告する。

「この……このばか息子がぁあああああ!」

思い切り、皇帝に殴りつけられる。

「ぐええええええ!」

ずしゃっ、と倒れるグスオに、皇帝は何度も踏みつける。

「全部貴様の責任だぞ! どこからか得体の知れぬ鑑定士と偽の聖女を連れてきよって!!」

「ぐす……ごめんなさい……ごめんなざい……」

不幸が続き、グスオは涙を流す。

「あのベラドンナとかいう盗人の捜査はこちらでやっておく。捕まえ罪をきっちり清算してくれよう。グスオ、おまえはクレアを連れ戻してこい」

「な、なぜですか!? どうして僕があんな偽の聖女を……」

びきっ、と額に青筋を浮かべて、皇帝が再度殴り飛ばす。

「どこまでバカなのだ! 偽物はベラドンナだったのだ! そんなこともわからぬのか貴様ぁ!」

殴られ、蹴飛ばされた後、皇帝が言う。

「クレアに土下座でもなんでもして戻ってこさせろ! 良いな!?」

「は、はい……」

怒り心頭の皇帝が、部屋を出て行く。

一人残されたグスオは、つぶやく。

「ちくしょぉ……なんでこんな最低な目に会わないといけないんだ……」

だがグスオ【たち】へのペナルティは、終わっていない。始まってすらいない。

精霊使いに嫌われることがどういう意味を持つのか。

色ボケカップルたちは、身をもって知ることとなる。