軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49話 妖精王は人に堕ちる

テイマーのエレンが、世界蛇を討伐した後。

「はぁ……! はぁ……くそぉおおお!」

妖精王マーダオスは、妖精の国へと帰還していた。

王城の、謁見の間にて。

「この私が……! 誇り高き妖精の私が! よもや人間ごときに恐れをなすなどぉお!」

世界蛇を殺された後。

マーダオスは、恐れた。

剣聖の少女でも、エルフの少女でもない。

あの、不思議な力を使う少年・エレンにだ。

「あり得るわけがない! 世界蛇(ヨルムンガンド) は世界を滅ぼせるほどの強力な神獣だぞ!? なぜ人間が殺せる!?」

通常、神獣は神の獣、つまり神と同格の存在だ。

「人間が神に触れることすらできぬというのに……あの子供、神に近い力を使えるのか……? そ、そんなのもはや人間ではないではないか!」

そのときだった。

ボゴンッ! と大きな音がして、王城の天井に穴が空いた。

そこから降りてきたのは、炎の翼をまといし少年と、妖精の姫君アンジェリカだ。

「見つけた! もう逃がさないぞ!」

ビキッ……! とマーダオスの額に、青筋が浮かぶ。

「逃がさ……ない? 逃げた……? この私が、たかが……人間ごときに?」

怒りで目の前が真っ白になった。

「この誇り高き妖精の王を……侮辱したな貴様ぁあああああああ!」

バッ……! と彼が手を前に出す。

「死にさらせ、極大魔法【 煉獄業火球(ノヴァ・ストライク) 】!」

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精霊使いへの敵対行動を関知しました。

マーダオスから精霊の加護を剥奪します。

→【魔法行使権限】を剥奪します。

→【妖精の 精霊核(エレメンタル) 】を剥奪します。

→etc.……

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しーん……。

「なっ!? ば、バカな! 極大魔法が……使えぬ!? 魔力切れ!? そんなバカなぁ!」

妖精は精霊の血が混じっているため、莫大な量の魔力を保有しているはずである。

「なぜだ!? なぜ魔法が使えぬ!」

「それはマーダオス。あなたがもう、妖精ではないからです!」

アンジェリカが、妙なことを言う。

「妖精ではないぃ~? なにを世迷いごとを! この私は誇り高き妖精の王であるぞ! その証拠にこの妖精の翅が……」

……そう、気づいてしまった。

「は、はれ? はれれぇ~? 翅が、ない……?」

自分の背中から出ていたはずの、妖精の証たる翅が、消え失せていることに。

「どこ……ねえ……私の翅ぇ……どこにあるのぉ~……?」

背中をかきむしるが、しかしどこにも翅が生えていなかった。

「愚か者。気づかなかったのですか? この御方が、いったい何者であるかを……」

アンジェリカが隣に立つ少年を、熱っぽい目で見上げる。

「わたくしにはわかる。エレン様は精霊使い様ですわ」

「せっ、精霊使いだとぉおおおお!?」

聞いたことがある。

精霊の王の寵愛を一身に受けた、最強無比の存在のことを。

そのものを怒らせることは精霊王の不興を買うことと同義。

妖精の力の根源は、半分流れる精霊の力。

つまり……精霊使いを怒らせれば、その精霊の力を奪われてしまう。

では、妖精から精霊の力が失われると、あとにはなにが残るのか。

「ま、まさか……まさか、わ、私は……に、人間に……堕ちたのか……?」

「その通りです。あなたが一番忌み嫌っていた人間へと、生まれ変わったのです」

じょぼ……じょぼぼぼ……とマーダオスの股間から、大量の小便が漏れる。

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だぁああああああ!!!!!」

マーダオスは泣きじゃくりながら、エレンに近づく。

その足にしがみついて、必死になってお願いをする。

「エレンさまぁああああ! 今までご無礼を働き誠に! 誠に申し訳ございませんでしたぁああああ!」

彼にとって妖精であることは、何よりも優先されるべきことだ。

力を持って生まれたマーダオスは、非力な存在を常に見下していた。

無力のくせに地上を闊歩している人間達を、のさばらせておくことが我慢できなかった。

そして人間界への干渉をかたくなに許さなかった、愚かな王族達の保守的な態度も……また。

しかしそれは、自分が妖精という圧倒的な強者だったが故に持っていた思想。

「お願いしますエレンさまぁ! どうか、どぉおおおかこのマーダオスに、精霊の力を戻してくださいましぃいいいい!」

精霊を失い、人間に堕ちたマーダオス。

彼にもはや矜持は存在しない。

人間というもっとも忌むべき下等な生物であることが、何よりも我慢できないからだ。

「断る!」

「靴でもおなめしましょうかぁああ!? それとも犬のように三遍回ってワンと言いますかぁああああああああ!」

だがいくらこびても、エレンの自分を見る冷ややかな目は変わらなかった。

彼は悟る。

精霊使い(エレン) に、精霊の王に、自分は完璧に嫌われてしまった……と。

「ふぎゃぁあああああああ! いやだぁああああああああああ!」

彼の腰にしがみついていやいやと、まるで赤ん坊のように泣きじゃくる。

だがエレンはその手を払って、力強く言う。

「君はその姿で一生過ごすんだ」

「あ……あぁ……」

がくん、とマーダオスは膝をつく。

一方でエレンは、彼の横を通り過ぎる。

玉座の裏には、完全に事切れた、元妖精の王がいた。

「お父様ッ!」

アンジェリカが父にすがりつくが、だが妖精王は動かない。

腹部に大きな傷口があり、そこから精霊の魔力が漏れ出ていた。

「お父様……ごめんなさい……なにもできなくて……」

「大丈夫、ぼくに任せて」

すっ、とエレンが両手を突き出す。

「へへ……あへぇああ……無駄無駄ぁ……妖精王はとっくにおっちんでるぜぇ~……ひゃっひゃっひゃー……」

せめて嫌がらせしてやろうと、マーダオスは狂ったように笑う。

「死んだ妖精を復活させられる人間が、いったいどこにいるんだよぉ? たとえ精霊使い様だろうとよぉ、そんなこと絶対不可能だろう?」

だが、マーダオスはひとつ、思い違いをしていた。

エレンは、ただの精霊使いではない。

【この世界唯一】の、精霊使いなのだ。

愛すべき血族の、最後の一人であるがゆえに。

精霊の王は、エレンに格別の寵愛をそそぐ。

それがたとえ、条理を超越せし事象だろうと……実現させてみせる。

エレンの手から、黄金の炎が漏れ出す。

それはアンジェリカの父の体をまるごと、優しく包み込む。

「綺麗……」

『なんということじゃ……わらわは今、奇跡を目の当たりにしておる……』

やがて、炎は収まる。

「う……うう……」

「お、お父……様?」

ゆっくりと、アンジェリカの父である、妖精の王が目を覚ます。

「わしは……いったい……?」

「お父様! お父様ぁあああああ!」

アンジェリカが父の復活に、涙を流して喜んだ。

「あ……あぁ……あ……あり、えない。死者の、蘇生だと……?」

一方で、マーダオスは信じられないものを見る目で、彼を見る。

『まぁ、正確には妖精の体内から失われていた精霊を補充したのじゃが。ま、驚異の蘇生行為じゃな。もっとも、人間相手では【まだ】できぬじゃろうが』

そして、彼はただしく理解した。

自分が敵対していたのは、人知を超えた……化け物であると。

その化け物から嫌われて、敵と見なされていると。

その末路は……わかりきっていた。

「うひゃ……ひゃひゃひゃ! あべびゃぁああああ! 私がわるぅうございましたぁああああ! エレン様に楯突いてすみませんでしたぁああああ!」