軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

147話 守護天使、下界に追放される

勇者神エレンの手によって、守護天使ザドキエルは撃退された。

話しはその直後。

夜、森の中、湖の畔にて。

「なんてやつだ……天使としての力を奪うなんて……! くそっ! 覚えてろ! このままですむと思うなよぁ!」

腰につけた布袋を手にする。

中の液体を、湖に垂らす。

「創造主さまに力を再び与えてもらおう。そのときはエレン……! 貴様の命はそれまでだ! この星もろとも海に沈めてやるぅう!」

カッ……! と湖は光り輝くと、表面に映像を映し出した。

これは水を通して、天界(神々の住まう世界)と交信する魔法の水である。

『ザドキエルよ。どうしたのだ? エレンはもう倒したのだろうな?』

映し出されたのは主の姿。

ザドキエルはエレンとの戦闘の一部始終を報告する。

「このようにして戦略的撤退をしました。しかし敵の強さは把握したので、次こそは勝てるかと!」

『…………』

「ついては、私に再度天使の力をお与えいただきたく」

『もう良い。……恥さらしが』

吐き捨てるように、創造主がいう。

「あ、主さま……?」

『人間なんぞに負けよって。天使の面汚しが!』

『天使の力を奪われただと? 馬鹿なことを言うな』

創造主たる神々は、ザドキエルの言葉を全くもって信用していなかった。

「ほ、本当なのです! エレンはまさに神のごとき力を……」

『神、だとぉ! ふざけるなぁ……!』

神の怒気にふれ、ザドキエルは体を萎縮させる。

『貴様われら神と人間を同列に扱うとはどういう了見だ! 無礼者め!』

「ち、違います! 決してあなた様がたを馬鹿にするつもりなど……」

『黙れ役立たず! 大方、自らの敗北が認められず、そんな世迷いごとを言っているのだろう!?』

人間に負けた言い訳、と思われているようだった。

『もうよい、貴様のような雑魚は天使にふさわしくない。天界から追放する』

「そ、そんな! お待ちください! 創造主よ! もう一度! もう一度私にチャンスをおぉおおおおおおおお!」

湖面がゆらぐと、通信が切れてしまった。

「くそ……くそぉおおおおおおおお!」

ダンダンッ! とザドキエルは地面を叩く。

「ちくしょう! なぜ信じてくれぬのだ!? 私は真実を述べたのに! 一度負けたくらいで! クソッ! くそくそくそぉっ!」

天使の力を永久に失い、居場所すらも失ったザドキエルは……その怒りを地面を叩いて発散するしかなかった。

ややあって。

「こうなったら自力であの勇者を殺してやる……! 彼奴の死を手土産にすれば、きっとわたしを天界に連れ戻してくれるはず!」

こうしてザドキエルは、人間として、エレン抹殺を目指すことにした。

森をふらふらとさまよい歩く。

「くそっ! 腹が減った……のどが渇く……人間の体とは、こんなにも不便なのか……!」

数日間、飲まず食わずで森をさまよい歩いた。

「なぜだ……わたしはこんなにも自然を、星を愛しているのに……自然はわたしに何も恵んでくれぬ……!」

森で迷子になってしまったザドキエル。

食べれる果実を探すものの見つからない。

獣を狩る技術も無い。

ついでに言うと水場も見つからず、何も口にしない状態で歩き続けた。

……無論、【彼女】によって方向感覚を狂わされているからなのだが、それはさておき。

「む? なんだ……煙?」

しばらく歩いていると、森の中で人の気配を感じた。

近づいてみると、そこには、小さな村があった。

「しめた! これで食べ物にありつけるぞ!」

ザドキエルはふらつきながら、村に立ち寄る。

「おい人間ども! さっさと出迎えろ!」

かなり上から目線で物を言う。

天使は基本的に、人間達は自分たちを敬うものだ、と思っている。

それが常識だと思っている。

毛嫌いする人間が相手でも、今は腹を満たさねば死ぬからだ。

背に腹は代えられぬと、こうして人間の元へ来てやったのだ。

「わしらに何用ですかな……?」

村長らしき老人が、ザドキエルの前までやってきた。

「腹が減っている、飯を用意しろ!」

不遜な態度に、ほかの村人達が顔をしかめる。

「なんだこいつ、突然偉そうに」

「何様だよほんと」

若い村人達が不満をあらわにする一方で、村長は「まあまあ」と彼らをなだめる。

「人間、いつ自分が困るかわからぬ。そのときに手を差し伸べてもらえるよう、普段から気をつけねばならぬと、わしらの【神さま】もおっしゃっていたではないか」

「ふんっ! わかっているではないか村長。神々の教えが、こんな辺境のボロい村にまで伝わっているとはな」

「ええもちろん、我らが神、【エレン様】を、みな信仰しておりますゆえ」

ザドキエルは目を剥いて言う。

「え、エレン様……だとぉお!?」

「ええ、勇者神エレン様。かつてわしらの村をモンスターが襲った際、無償で助けてくださったのであります」

エレンが助けた村の一つだったのだ。

モンスター退治だけでなく、壊れた村の復興支援、炊き出しなど、すべて無償でやってくれた。

それ以降、村の人間はみな 勇者神(エレン) を神としてあがめているのである。

「ぶ、ぶ、無礼ものがぁああああああ!」

ザドキエルは顔を真っ赤にすると、村人達に対して声を荒らげる。

「どうかしましたかな……?」

「ふざけるな! あんなガキを神とあがめるだと!? 神を愚弄するな痴れ者どもがぁ!」

ザドキエルが怒りをあらわにする一方で、村人達の顔から、スッ……と表情が消えた。

「神と言えば私たち天使を、貴様ら人間を作った創造主たる天界の神々に決まっているだろうが! たかが人間ごときを神とあがめるだと、頭が腐っているのか貴様ら……ぐげっ!」

ガンッ……! とザドキエルは後頭部を殴られた。

「な、なにをするのだ……! ぶべっ!」

気づけば、無数の村人達が、農具を手に集まっていた。

みな、殺意をみなぎらせている。

「貴様こそ……エレン様を愚弄するな」

「祈っても何もしてくれない神々と違い、エレン様はわれらに救いの手を差し伸べてくれた!」

「あんな役立たずの神々と一緒にするな!」

村人達全員が、エレンに対して深い感謝の念を抱いていた。

……そして、勇者神をあがめる、エレン教徒でもあった。

帝都以外でも、エレンを神とみなすものは多いのである。

「よ、よせ……何をするのだ……貴様ら……?」

怯えるザドキエルを、村人達が取り囲む。

「そう言えば精霊王様からお触れがあったな。……エレン様に刃向かった馬鹿な天使がいると」

精霊王ルルイエは、エレンを神とあがめるものたちの脳内に直接語りかけ、ザドキエルの情報を流していたのだ。

「ということは、先日我らを海に沈めたのもこやつということか……?」

「ゆるせない……! やはりエレン様が悪と見なしたやつは、みんな悪いやつなんだ……!」

村人達の醸し出す、憤怒のオーラに気おされるザドキエル。

普段ならば問題なかったが、今は人間の体となって弱体化している。

「エレン様に代わって……われらが制裁を加えねば!」

「「「おう!」」」

農具を手に、ザドキエルに押し寄せる。

「ま、待て! 話しを聞け! わたしは天使だ……ぐぇえええええええええ!」

村人達は怒りをこめて、元天使に暴力を振るった。

力を失ったザドキエルが抵抗することもできず……気を失う。

「う……うう……こ、ここは……?」

気づけば村の外に、磔にされていた。

木で作った十字架に、手足や体をロープで縛り付けられている。

「う、動けない! ほどけ! ほどいてくれ! 頼む!」

だが誰ひとりとして、ザドキエルの声に耳を傾けるものはいない。

彼は、敵と認定されたのだ。

そのまま数日放置させられた。

季節は真冬だ。

朝夜の寒さに、吹き付ける凍える風。

「頼む……だれか……だれかぁ……たすけてくれぇ……」

飢えに渇き、そして大自然の驚異は……ザドキエルから体力を容赦なく奪っていく。

「なぜだぁ……神々よ……母なる自然よ……なぜ、われの声を聞きとどけてくれない……これだけ祈っても……なぜ……なにもしてくれないのだぁ~……」

やがてザドキエルは、完全に事切れるのだった。