作品タイトル不明
132話 アーカム、一般人以下になり果て敗北
勇者エレンによって、邪神アーカムは撃退された。
話しは数時間後の夜。
「はぁ……! はぁ……! ぶっねえ……とこだった……!」
先ほどの戦闘した街から、ほど近い森の中。
アーカムは木の幹によりかかり、荒い呼吸を繰り返す。
神となったエレンの一撃を、全力で回避したのだ。
「このオレ様が……まさか逃げる羽目になるとはなぁ……!」
常人離れした身体能力を駆使し、逃げることに徹した。
結果、死亡を免れて、今に至る。
「くそがぁ……! オレ様をここまで侮辱して……ただですむと思うなよ、勇者エレぇン……!」
アーカムの脳裏に、人間だった頃の苦い記憶がフラッシュバックする。
スキルも魔力も持たずに生まれた彼は、いつも周りから馬鹿にされ続けた。
彼らから逃げ、誰も居ない場所でこっそりと泣いていた。
「もうあの頃の弱い人間じゃねえ! オレ様は無能の邪神アーカム! 不幸(マイナス) を力に変えた、最強の邪神だぁ……!」
休んで体力を回復させたアーカムは、ふらりと立ち上がる。
「殺す! エレンも殺す! この世界にいる人間全員をぶっ殺してやる……!!!!」
凶暴な笑みを浮かべ、アーカムが向かうのは、先ほど戦闘を行った街だ。
「神格化したエレンには負けちまう。ならやつが精霊と一体化するまえにエレンを殺せば良いだけの話し……!」
街へと立ち入ると、そこには殺したはずの人々が、普通に生活を送っていた。
どうやらエレンが蘇生させたようだった。
「えれぇええええええええん! 出てこぉおおおおおおおおおおおおおい!」
声を荒らげるものの、しかしエレンが出てくる様子はない。
どうやらすでに立ち去った後のようだった。
「ひっ……! じゃ、邪神だぁ……!」
街の人たちがアーカムに気づき、青い顔をする。
「エレンがいないんじゃあ仕方ねえ……憂さ晴らしに、こいつらをまた皆殺しにするかぁ」
アーカムは邪悪な笑みを浮かべる。
「ゆ、勇者様に報告を……!」
「け、けどエレン様はもう旅立たれてるわ……!」
街の人たちが自分に恐怖している。
アーカムは愉悦の表情を浮かべる。
「いいねぇ~その表情。オレ様はてめえら人間が邪神に恐怖する顔がだぁいすきさ~……」
それは人間だった頃、虐げられてきたという悲しい過去があるゆえにだった。
「弱いことを知っているから誰かを守る? ちっげーだろぉバーカ! やっと弱者を踏みにじる側になれたんだ、やられたことをやり返すターンだろうがぁ……!」
ひゃはは! と笑いながらアーカムは拳を握りしめて、周りを見回す。
「お、いーところにガキ発見」
「お、おとーさぁん! 怖いよぉ……!」
小さな女の子が、アーカムを見て涙を流す。
その父親らしき男が、女の子を前に立ち塞がる。
「む、娘はやらせない! お、おれが相手だ!」
がくがく、と父親の膝が震えている。
「ぷっ! おいおい無理すんなよおっさん。安心しなぁ……2人まとめてあの世に葬り去ってやるぜぇ……! 今度は蘇生できないくらい、ぐちゃぐちゃにしてやんよぉ!」
アーカムは拳を握りしめ、父親に殴りかかる。
「く、くそぉおお!」
父親もまた拳を握りしめ、破れかぶれに一撃を与えようとする。
「はっ! バーカ! そんなんでこの無能の邪神がやられるわけねーだろぉ……! 死ねぇええええ!」
バキィ……!
「うぎゃぁ……!」
ドサッ……! と倒れた。
ただし、父親が、ではない。
「「え……?」」
地面に倒れていたのは、アーカムだった。
殴った方も、殴られた方も、呆然としている。
「な、なんだ……ど、どうなってやがる!」
「と、とにかくチャンスだ! よくもみんなを!」
だっ! と父親が近づいてきて、アーカムの顔面めがけて蹴りを放ってくる。
「こんなの容易く避けられほげぇえええええええええええ!」
蹴りがクリーンヒットし、くるくるとアーカムは回転しながら、倒れる。
「なんだ!? どうして!? お、オレ様は神を殺して邪神の力を得た! 身体能力は人間を超越している! なのになぜ! こんなモブキャラの攻撃がこんなにも通じるんだ!」
困惑している一方で、殴った側である父親が声を荒らげる。
「みんなぁあああ! 力を貸してくれぇえ! この邪神、弱ってるぞぉおお!」
……弱っている?
確かに、非力な人間の一撃で、かなりの大ダメージが入っていた。
「弱る? なぜだ!? お、オレ様は何も持っていない。これ以上弱くなることはない! なのにどうして!?」
戸惑うアーカムをよそに、街の冒険者たちが集まってくる。
「【 火球(ファイア・ボール) 】!」
冒険者のひとりが、初級の火属性魔法を放ってきた。
こぶし大の炎の球を飛ばすだけの魔法。
「はっ! こんなザコ魔法! オレ様の無能の力で消し飛ばしてやる!」
アーカムが火の玉めがけて拳を振るう。
ボッ……!
「あっちぃいいいいいいいいいいい!」
炎が全身に回り、アーカムはその場でゴロゴロと転がる。
「なんでだぁあああああ!?」
「チャンスだおまえら! いくぞぉお!」
冒険者達が炎を、氷を、雷を、アーカムに放つ。
それらはすべて打ち消されることなくヒット。
「いでぇえ! いでぇええええよぉお!」
「さっきはよくもやりやがったな! ぜぇやぁ!」
スキルを使った攻撃を受ける。
「!? ス、スキルも無効化できない……くそ! くそぉおお!」
冒険者にタコ殴りにされながら、アーカムは命からがら逃げ出す。
「待てごらぁ!」
息を切らしながらアーカムは逃げる。
頭の中では疑問符で埋め尽くされていた。
ややあって。
「はぁ……! はあ……! ど、どうなってやがるんだよぉ!」
人気のない裏路地までやってきて、アーカムはしゃがみ込む。
肌は剣や魔法でズタズタに引き裂かれ、流血していた。
「無能の力は!? 邪神の力は!? いったいどこいったんだよぉ!」
と、そのときだった。
「その問いに、答えてあげよう、ルルイエが」
建物の屋根の上に、白髪の美しい女性……精霊王が座っていた。
「てめえ……! どうなってんだよこれはよぉ!?」
「なに、簡単な理屈さ。君のその【無能体質】を、改善してあげただけだよ」
「なっ!? 体質の改善……だと!?」
ルルイエはにぃと笑う。
「ちょっと気になって君の力の正体を調べてみたんだ。そしたら興味深い事実が判明してね」
彼女は教師のように指を立てていう。
「端的に言えば、あれは呪いだったんだ」
「呪い……?」
「君、どうやら前世でものすっごい悪人だったみたいだよ。何十、何百、何千と殺した大罪人だった。殺された人たちの怨念が君の魂に取り付いていた。結果、怨霊たちが精霊の干渉を拒んでいたわけだね」
「な、なんでそんなことわかるんだよ」
「君には教えなーい。ま、エレンになら教えてもいいけどね~♡」
とにかく、とルルイエ。
「なら話しは単純。怨霊を成仏させて呪いを解けば、君のその 奇跡殺し(ルール・ブレイカー) は効果を発揮しなくなるって寸法」
「で、でもそれだと、オレ様が一般人にパワーで負けた説明がつかねえじゃねえか!」
「後は単純な理屈さ。きみにいっぱいスキルを与えてあげたんだよ♡ ただし……マイナススキルをね」
酷薄に笑いながら、ルルイエが言う。
「この世には人に良い効果をもたらすプラスのスキルと、足を引っ張るようなマイナスのスキルというものが存在する。君はスキルを受け付ける体になったんだ。だから考え得る限りのマイナススキルを、君にプレゼントしたのさ♡」
腕力下降、防御力低下など、本来は相手に付与することで効果を発揮するマイナススキル。
それらをルルイエは、アーカムに付与したのだ。
「良かったね♡ 念願のスキルを山ほど手に入れたんだ。どうだい、普通になれた感想は?」
「い、いらねえよ! こんな力! 外しやがれ!」
くすくす、とルルイエが笑う。
「嫌だね♡ そんなに嫌いなら、奇跡殺しの力で消せば良いじゃないか。あ、もうできないんだっけ♡」
「く、くそがぁあああああ!」
屋根の上にジャンプして飛び乗ろうとする。
だが脚力がスキルによって低下しており、一般人並にまで落ちている。
「邪神の身体能力を一般人並にするために、君には4925兆9165億2611万0643個のマイナススキルをプレゼントしたよ」
「な、なんだそのふざけた数のマイナススキルはぁあああ!?」
改めて、アーカムはルルイエに格の違いを見せつけられた。
「こんなのほんの一部さ。僕が望めば限りなく力を与えることができる。プラスもマイナスもね」
「こんなのいらねえ! いらねえんだよぉ!」
ルルイエはため息をつき首を振る。
「やれやれわがままだね君は。人間だった頃はスキルを寄越せと言い、今はスキルが要らないと言うなんて」
「うるせえ! さっさと戻せ!」
「やなこった。けどそんな騒いでていいの~? ほら、来ちゃったよ」
冒険者達が裏路地の前後を封鎖した。
「くそっ! 挟まれた!」
以前なら飛んで逃げることも可能だった。
だが跳躍力低下をつけられているため、それもできない。
「さぁみんな! 君たちを生き返らせてくれたエレンのために、この邪神を倒そうじゃないか!」
「「「おう!」」」
ルルイエに扇動され、冒険者達がアーカムに襲いかかる。
「【火炎連弾】」
「うぎゃぁあああああ!」
「【回天斬り】」
「ふげぇええええええ!」
膨大な量のマイナススキルのせいで、アーカムの力は一般人以下だ。
「く、くそぉ! おい邪神どもぉ! 撤退だぁ! オレ様を助けろぉ!」
だが、仲間の邪神からの応答はない。
「おい! ふげっ! なにやって! ほぎゃっ! さっさと連れ帰れ!」
『断る。貴様はもう、邪神ではない』
最年長の邪神から通信が入る。
『あれほどまでに我らに不遜な態度をとっておきながら、いざ自分がピンチになったら助けろ? 少々虫が良すぎないかな?』
「そ、それは……ふぎゃっ!」
ドサッ、とアーカムが倒れる。
『いい気味だ。そのまま死ね』
邪神達からの通信が完全に途絶える。
アーカムは地面を虫けらのように這いつくばってにげようとする。
「ぢ、ぐじょぉ~……ぢぐじょ~……」
だが冒険者達に囲まれており、逃げ出すことができない。
「よこせぇ~……プラススキル、よこせよぉ~……」
「哀れだねアーカム。結局君は、力に頼っていただけのザコだったんだよ」
ルルイエは見下ろしながら言う。
「君は 奇跡(スキル) に頼る人たちを馬鹿にしていたけど、君も【無能】という力に頼っていたじゃないか」
「くそぉ~……くそぉお~……」
冒険者達が邪神を取り囲んで、ボコボコにする。
ルルイエはその様を見てつぶやく。
「エレンの言うとおり、その無能の力を人助けに使ってれば、こんなことにならなかったのにね。それに気づけないんだから、本当の意味で君は無能だったってわけだ」
そして、邪神アーカムは敗北し、この世から退場した。
勇者というビックネームではなく、名前も知らない 冒険者(いっぱんじん) たちに倒されるという。
雑魚モンスターと同じような末路をとげたのだった。