軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

125話 キンマン、信者たちから復讐される

勇者エレンによって、邪神教団の支部長キンマンは撃退された。

その数日後の夜。

騎士の詰め所へと移送途中で、キンマンは逃げ出した。

「はぁ……! ふぅ……ふごっ! ち、ちくしょう……!」

全身汗だくになりながら、丸い腹を抱えて走る。

その姿はさながら醜い 豚鬼(オーク) のようであった。

「あのガキめ……! わたくしの理想郷を、物の数秒で破壊しやがって……!」

ギリリと歯がみしながら、キンマンが逃げる。

「カダス様がお告げでおっしゃっていたことは本当だったのだ。あれが……【厄災の勇者】!」

キンマンは邪神教徒。

その力の源泉は、彼らが信仰する邪神たち。

ある日夢枕に、邪神カダスが出て言ったのだ。

まもなく我ら邪神たちに、災いをもたらす勇者が訪れるだろうと。

それこそが、勇者エレン。

邪神教団を潰すだろう、【厄災の勇者】として、警告を受けていたのだ。

「よもや真っ先にわたくしのところにくるとは……くそ! なんてついてないのだ……!」

キンマンが夜の森を抜けると、人里にたどり着いた。

「とりあえず、体制を立て直すのだ。なぁに、邪神様からいただいた【洗脳】の力があれば、何度だってやり直せるのだぁ」

邪悪に笑うキンマンは……気づいていない。

とっくに、邪神の力が、より上位の存在によって剥奪されていることを。

キンマンが向かったのは、小規模な村だった。

「ん? だれだいあんた?」

村の入り口を守っていた若い女が、キンマンに声をかけてくる。

粗末な着物を身につけている。

その体つきはなかなかのものであり、じゅるり……とキンマンは舌なめずりをする。

「くくく……手始めにチミを、わたくしの女にしてやろうぅ~……」

キンマンは邪神から得た力を使い、教団の支部に信者達を集めた。

そして女は犯し、男は労働力としてこき使っていた。

この村の人々も、そうしてやろう……と思っていたのだが。

「きっしょ……なにこいつ……きもちわる」

「くくく……すぐにそんな態度も取れなくなるよぉ~」

バッ……とキンマンは両手で彼女の頭を掴む。

「【洗脳】!」

しーん……。

「なっ!? なぜだっ! なぜスキルが発動しない……!」

「きゃー! 痴漢よぉ! 誰かぁー!」

彼女が大きな声を張り上げると、村人がぞろぞろと出てきて、キンマンたちのもとへやってきた。

「どうした?」

「この豚がいきなりセクハラしてきたのっ!」

村人達が不快そうに顔をしかめる。

一方でキンマンは焦っていた。

「な、なぜ!? い、いや! なにかの手違いだ。邪神様の力が発動しないなんてことは、ありえない……!」

「おい、なにブツブツ言ってるんだてめえ?」

さっきの女の彼氏らしき村人が、乱暴にキンマンの胸ぐらを掴む。

「人の女になに手を出してるんだごら? あぁ!?」

「く、この! 【洗脳】! 離せ! 頭を垂れて跪け!」

「なにごちゃごちゃ意味不明なこと言ってるんだボケがぁ……!」

バキッ……! と男に殴り飛ばされ、キンマンは地面に倒れ伏す。

「お、おかしい……! 【洗脳】! わたくしの奴隷となれ愚民ども! 【洗脳】! 【洗脳】! せんのぉおおおおおお!」

……だがいくらスキルを発動させようとしても、いっこうに村人達が洗脳に掛かっている様子はない。

村人達はキンマンを、気味の悪そうな目で見やる。

「やべえよ、近づかないでおこう」

「そうだな。こんな頭のいかれた可哀想なひとなんだよ」

村人達から白い目で見られる。

「み、見るなぁ……! そんな目でわたくしを見るんじゃあない……!」

と、そのときだった。

「ちょっと待って!」

誰かが声を張り上げる。

「なんだ、洗脳に掛かった村人もちゃんといたのか……って、げえ……! お、おまえは……!」

そう、エレンが最初に助けた女の子だった。

女の子はキンマンに気づくと、ビシッと指を差す。

「こいつだ! こいつがお父さんとお母さんをおかしくした、悪いやつだ!」

女の子の両親も、キンマンの元へやってくる。

彼らだけでない、元信者たちが、ぞろぞろとやってきたのだ。

「げぇ……! なんでおまえらがここに……!」

信者は各地から集められた。

その一部が、この村の出身だったのだ。

もっとも、キンマンは彼らひとりひとりのプロフィールを知ろうとしなかった。

だから、のこのこと、元信者のいるこの村を訪れてしまったのだ。

「こいつは酷いヤツだ! おれたちを洗脳し、好き放題しやがった悪いやつなんだ!」

「ち、ちがう……! わ、わたくしはなぁ……おまえら迷える子羊たちを救おうとした、いわば救世主だろうがぁ……!」

「何が救世主だこのデブ! 我らの本当の救世主は勇者エレン様だ……!」

うんうん、と元信者たちはうなずいた、そのときだった。

「その通り! 良いこと言うねぇ君たち」

白髪の美女が、空中から優雅に降りてきたのだ。

「だ、だれだ!?」

「僕はルルイエ。エレンに力を与えた……ま、女神みたいなものだよ」

おお……! と村人達が歓声を上げる。

「だ、騙されるなおまえらぁ……!」

一方でキンマンは、青い顔をして叫ぶ。

「こ、こやつは【災禍の魔女ルルイエ】だぞぉ……!」

キンマンたち邪神教徒は、カダスから要注意人物を知らされていた。

ひとりは厄災の勇者。

そしてもうひとりは、災禍の魔女ルルイエ。

この世で最も恐ろしい存在である、とカダスから注意するように言われていたのだ。

……ちなみに。

邪神達はルルイエに対してあまり好感を抱いていない。

ルルイエに心酔しているのは、主たるイグだけだった。

「僕のことをどう呼ぼうとどうでもいいけど……僕のエレンを厄災だって? ふざけるなよ、豚が」

不愉快そうにルルイエが顔をしかめる。

「ルルイエ様っ。エレン様は、わたしたちの恩人さまはお元気でしょうかっ」

エレンに救われた女の子が、ルルイエに笑顔で尋ねる。

ルルイエはしゃがみ込んで、ほほえみながら、女の子の頭をなでる。

その姿はなるほど、慈母の女神に見えなくもない。

もっとも、その本質は邪悪極まるのだが……。

「ああ。エレンは今日もどこかで悪を倒しているさ」

「すごい! エレン様かっこいー!」

そうだろうそうだろう! とご満悦のルルイエ。

「でもね、エレンも多忙の身だ。こぼれ落ちた悪人の処理まで手が回らないんだ」

「そうなんだー」

「じゃあどうすればいいかな?」

村人達がジッ……キンマンを見やる。

全員の目には、彼に対する怒りと憎しみが浮かんでいた。

「よくもおれたちを騙したな、この豚野郎……!」

「人を騙して私腹を肥やす悪鬼め……!」

「正義の使者エレン様にかわって、我らが鉄槌を下す!」

元信者以外の村人達も、いっせいにキンマンを取り囲んで、リンチしだす。

ボゴッ! ドゴッ! と殴る蹴るの暴行を加えられる。

「や、やめろぉ……! くそっ! せ、洗脳! 洗脳ぅ!」

ボゴッ! どすっ! ドガッ!

「や、やべ……やべで……なぐら、ないで……」

ドガッ! ドゴッ! ガッ!

「ずびばぜんでじだ……! ごべんなざい……!」

だがいくら謝っても、村人達が殴る手を辞めない。

「散々悪いことしておいてなにがごめんなさいだ!」

「エレン様は悪を絶対にお許しにならない!」

「勇者様に代わって制裁を! これは正義の行いなのだぁ……!」

キンマンは抵抗しようにも、邪神による力はルルイエによって剥奪されている。

信者だった頃の彼らは、スキルによって強制的にキンマンを尊敬する人間と思い込まされていただけ。

しかし、今の彼らはスキルではなく、勇者エレンに心から心酔していた。

だから、 正義(エレン) の名のもとに、自らの意思で、キンマンに制裁を加えているのである。

「みんなやっちゃえー! エレン様のためにー!」

「うんうん、みんな良い 信者(こ) だね♡」

ルルイエは笑顔で女の子の頭をなでる。

村人達がエレンを尊敬している以上、彼らと自分は仲間だと思っているのだ。

「そんな……の、洗脳、じゃないかぁ! わたくしが、やっていたのと、なにが違う……!」

スッ……とルルイエが冷めた目でキンマンを見下ろす。

「黙れ豚。僕たちのエレンへの愛と、おまえの気持ちの悪い行為とを一緒にするな」

「そうだそうだ!」「あの御方と一緒にするんじゃあねえ!」「失礼だろうが豚ぁ!」「二度とそんな口聞けないようにしてやるぅ!」

村人達はより一層に暴力を振るう。

拳の雨あられを受けながら、キンマンは理解した。

邪神が言っていたことは本当だったのだと。

邪神をも凌駕する、 厄災(エレン) と 災禍(ルルイエ) は、実在するのだと……。