作品タイトル不明
111話 大貴族サイトー、力も金も全部失う
勇者エレンが大貴族サイトーを退けた、数日後の深夜。
サイトーの所有する屋敷、その寝室にて。
「クソッ……! なんなんでち、あのガキは……!」
彼はエレンへの怒りを募らせる。
「平民のガキの分際で、大貴族サイトー様に逆らいやがって! 覚えてろ……復讐してやるでち……!」
……ちなみに現在エレンは身分を隠し、しかも見た目も魔法で変化させている。
サイトーは、戦った相手が勇者エレンであることを知らない。
コンコン、と寝室のドアがノックされる。
「サイトー様。失礼いたします」
彼の信頼する部下が入ってくる。
「ご指示通り、腕の立つゴロツキ冒険者どもを集めて参りました」
「おお、でかしたでち」
一度エレンに敗北しているサイトー。
彼に勝つために、部下に命令して冒険者を雇わせたのだ。
「数は100そろえてきました。みな戦闘力は高いものの、素行に問題があって、低ランクでくすぶっていた屑どもです」
「よくやったでち。くく……バカなガキめ。大人に逆らうとどうなるか、教えてやるでち……!」
邪悪に笑うサイトーに、部下は言う。
「彼らに支払う報酬の件ですが、内容が内容ですし、それに100人もいるのでかなりの額になるかと」
「ふん! 問題ないでち。ボキの【能力】を使えばね。おい、金貨を寄越すでち」
サイトーは部下から金貨を1枚、受け取る。
右手で金貨を握りしめて念じる。
「さぁ、ボキの無敵の能力よ……金貨をふやすでち!」
ぱぁ……! と右手が輝くと、1枚だった金貨が2枚、3枚とどんどんと増えていく。
高速で金貨は増えていき、それは目の前に金の山を作り上げた。
「お見事でございます、1枚の金貨をここまで増やすなんて!」
「ふふん、これぞボキのチート能力【複製】! 手で包み込んだものを無限に複製する能力でち……!」
山となった金貨を前に、サイトーは誇らしげな表情で言う。
「いつ見ても見事な偽造金貨、偽物と本物の区別が全くつかないでございますなぁ」
「これをバカな冒険者どもに配ってくるでち」
「かしこまりました」
部下は頭を下げると、複数人で金貨を運び出す。
……転生者・斉藤幹久は、こちらの世界にきたあと、複製の力を悪用して偽造金貨を作りまくった。
金の力を使って、権力者としてのし上がったのである。
「そう、金があればなんでもできるでち。金こそが正義なんでち」
サイトーはソファに座り、テーブルに置いてあった飲みかけのワインをのむ。
「ボキはなんでも金で手に入れてきた。この世界での地位も、名誉も。……だというのに、あの田舎娘め。どうしてボキとの結婚を断ったでち……!」
一度だけ泊まったことのある旅館、そこの女将の娘に一目惚れをしたサイトー。
しかしプロポーズをしたが断られてしまった。
「なぜでち? 女は金持ちの男が好きなんじゃないのでち? ……くそっ! 今思い返しても腹がたつでち……!」
サイトーは偽造した金貨を、手のひらの中で転がしながら言う。
「覚えてろでち……。ボキのものにならないのだったら、あの旅館を潰してやるでち」
くくく……とサイトーは邪悪に笑う。
「金さえあれば気に入らないものだって、簡単に潰せる! ああ、異世界はなんて最高なんでち……!」
……と、彼が調子乗っていられたのは、ここまでだった。
ふと、サイトーは気づく。
「ん? ボキが持っていた金貨が消えたでち。どこへいったでち?」
偽装金貨がいつの間にか、手のひらからなくなっていたのだ。
机の下を見てみるが落ちている様子はない。
「ま、ベッドの下にでも転がっていったんでちな。また作れば良いでち。無敵の複製の力があれば、何千枚でも金貨が作れるんでちからな……!」
そのときだった。
「た、大変でございます! サイトー様!」
信頼している部下が、慌てた様子で部屋に入ってきた。
「なんでち? 騒々しい」
「じ、実は……き、金貨が」
「金貨が? ボキの作った偽装金貨がどうしたでち?」
「す、すべて……消えてしまいましたッ!」
部下からの報告を聞いて、サイトーは呆れたように言う。
「おまえ……もっと金が欲しいなら、素直に言えでち。いくらでも作ってやるでち」
彼は金ほしさに嘘をついているのだと、最初は思ったのだ。
「ち、違います! 本当に消えたんです!」
「あー、はいはい。もういいでち。100枚くらいでいいでちか?」
ポケットから金貨を取り出し、ぎゅっと握る。
……だが。
「なっ!? ど、どうなってるでち!? 金貨が増えない……!」
驚愕の表情を浮かべていると、そこへドアが乱暴に開く。
「おいサイトーさんよぉ! こりゃどーゆーことだよぉ……!」
「な、なんでち! 君らは!?」
ドカドカと入ってきたのは、柄の悪い冒険者の一団だった。
「てめーからもらった金貨がよぉ、煙のように消えやがったんだが、どーゆーつもりだゴラァ……!」
ガンッ……! と冒険者が机を蹴り、ワイングラスが落ちる。
「ひっ……!」
「てめぇ、おれらに偽物掴ませたのか? あぁ!?」
彼らが殺気だった表情で、サイトーを睨みつける。
「ち、ちがうでち!」
「んじゃさっさと金寄越せよ」
「偽金だったらただじゃおかねえぞゴラァ……!」
サイトーは内心かなりビビっていた。
この転生者は、複製という比類なき力を持ってはいるが、戦闘力は皆無だ。
異世界へ転生してきてから今日まで、金の力でのし上がってきた。
裏を返せば、金以外の力を何も持っていないのである。
「み、見ていろでち! 野蛮人ども! ぼ、ボキが神の奇跡をここにみせてやるでち!」
焦りながらもサイトーは、手に持った金貨を握りしめる。
「ふんっ! ふんっ! ふぅううううん!」
……だが、いくら念じても、複製スキルが発動することはなかった。
「ど、どうなってるでち!? おい! 発動しろよ! おい!」
「おれらをおちょくってるのか、あぁあ!?」
ゴロツキ冒険者どもが額に血管を浮かせながら、サイトーに詰め寄ってくる。
「ち、違うでち! 今金は用意するでち……! おい、金庫の金を持ってくるでち!」
信頼を置く部下に命令する。
が、彼は青ざめた顔で首を振る。
「さ、サイトー様! 金庫の金も全て消えておりました!」
「な、なんだってぇえええええええ!?」
……金庫に保管していたのも、サイトーが複製して作った金貨だった。
彼は精霊王によってスキル使用権限を奪われた。
複製を行うことも、そして複製物すらも、失ったのである。
要するに、彼は持っていた金を全て失ったのと同義。
「金がねえだぁ……!?」
ゴロツキの一人がサイトーの襟首を掴むと、バキッ……! と殴り飛ばす。
「ぐぇえええええ!」
地面に顔面から落ちたサイトーに、ゴロツキどもがにじり寄る。
「大金もらえるから来てやったのによぉ……!」
「おれらを馬鹿にしたツケ……たっぷり払ってもらおうか!」
バキッ! ドガッ! とゴロツキどもによるリンチが始まった。
「や、やめるでち! おい! 助けろ! ボキを、助けるでちーーーーー!」
信頼していた部下は、サイトーをまるでゴミを見るような目で見下ろす。
「ふんっ! 嫌だね。金のないあんたに、何の価値もないんだよ!」
「そ、そんなぁ~……」
部下はゴロツキどもと一緒になって、サイトーをボコボコにする。
「ち、ちくしょぉ! 女神の野郎……どうなってるんだぁ……! スキルを戻せ、戻せよぉおおおおおお!」
……だが、スキルを管理しているのは女神ではなく精霊王。
彼女に嫌われた今、サイトーが複製スキルを取り戻すことは不可能。
そうやってボコボコにされていたそのときだ。
「全員動くな……!」
鎧を着込んだ騎士達が、サイトーたちの部屋に入ってきたのだ。
「や、やべっ! 騎士だ!」
「クソッ……!」
ゴロツキ達は逃げようとするが、あっさりと騎士達に逮捕されてしまう。
「ははっ! ばーか! ボキに逆らった天罰でちー!」
ふらふらと立ち上がって、サイトーは血走った目で彼らを見て言う。
だが、そんなサイトーのもとに、騎士達がやってきた。
「ボキが暴行を受けているというのに来るのが遅いでち! このノロマ! いったいどれだけの税金を国に払ってると思ってるでち!」
騎士の一人がロープを取り出し、あっという間にサイトーを捕縛する。
「こ、これはどういうことでちっ!?」
「サイトー公爵、あなたには金貨偽造の疑いがかけられています」
「なっ!? そんな……どうして!?」
金貨を偽造していることは、サイトーしか知らない。
しかしなぜかその情報が、誰かによってリークされていたのだ。
「詳しい話は詰め所で聞きます。おい、連れて行け」
騎士はうなずくと、サイトーほかゴロツキ達を連行する。
「い、いやだ……! ボキは大貴族サイトー様だぞ! 離せ! 離せよぉ!」
「残念ですがこの国の法律では、たとえ貴族様であろうと金貨の偽造は重罪です。きっちりと裁きを受けてください」
以前ならば、不祥事も金の力でねじ伏せることができた。
だが、複製の力を失ったサイトーでは、金を使った悪事はもう行えない。
「くそっ! 異世界に来たらやりたい放題できるって思ってたのに……! ちくしょう……! ちくしょぉおおおおおおお!」
……その後、転生者サイトーが日の目を見ることは、二度とないのだった。