作品タイトル不明
第1話:風の神様の加護を受けた子
「あっ、村長さんこんにちは」
「おう、フーカか。こんにちは。いつも元気じゃの」
ナグ村の村長はフーカの姿を認めると目を細めた。
フーカは幼い頃からちょこまかと動き回る、活発な女の子だった。
いつも機嫌よくニコニコしていて、気さくに話しかけてくる。
手がすいていれば誰をも手伝おうとする子だった。
弟二人の面倒をよくみるからという、長女気質があったせいかもしれない。
ナグ村の皆から可愛がられていた。
「あれっ? 村長さん、随分と荷物多くない? 少し持つよ」
「うむ、ではお願いしようかの」
「いいんだよ。よいしょっと」
「すまんの」
フーカは頼られることに喜びを感じることのできる子だった。
村長は思ったものだ。
フーカのような性格のいい子は、きっと幸せになるのだろうな、と。
「村長さん、最近出かけてたって聞いた。どこへ行ってたの?」
「ロセナじゃぞ」
ナグ村はクドナック王国の端っこも端っこ。
いわゆる辺境と呼ばれる地域にあった。
ロセナは辺境の中では中心となっている大きな町だ。
ナグ村からは歩いて一日くらいの距離に位置する。
村の産物を出荷したり、ナグ村では手に入りにくいようなものを買うために出かけることがある。
「ロセナって人がたくさん住んでいるんでしょ?」
「そうじゃな。ナグ村の一〇倍以上は住んでいるじゃろうの」
「すごおい!」
「フーカはロセナへ行ったことはなかったか?」
「ないなあ」
ナグ村は平和な村だった。
土地も肥えているので食うに困らない。
辺境地域の開発が遅れているのは、魔物がいるというのも原因の一つだ。
が、ナグ村は魔物の生息域から少し外れていたので、住民も皆のんびりしていた。
「あたしもいつかロセナへ行ってみたいなあ」
「ふぉっふぉっ。子供は皆ロセナへ行きたがるの。やはり大きな町には魅力を感じるかの?」
「人の多いところは、お手伝いできることもたくさんあると思うから」
村長は目を見張った。
フーカの価値観に少し驚いたのだ。
同時にフーカらしいとも思った
勤労精神が旺盛なのは大したものだ。
「しかしロセナには危ないこともあるのじゃぞ」
「聞いたことがある。魔物がいるんでしょ?」
村長が頷く。
魔物は邪気を持ち、人間を襲う動植物や霊体などの総称だ。
ほぼ全ての魔物は気が荒く、人を確認すると襲ってくるので。戦う術を持たない一般人にとっては脅威なのだ。
「魔物は怖いねえ」
「確かにの。しかしナグ村からロセナへの道筋で魔物が出たという話はとんと聞かぬ」
「冒険者達が警戒しているから?」
「そうじゃろうの」
魔物退治は冒険者と呼ばれる一種のハンター達の生業となっている。
簡単に言えば魔物は金になるのだ。
魔獣の毛皮や肉はもちろんのこと、特定の魔物からとれる素材が珍重されることもある。
またどんな魔物も魔石と呼ばれる魔力の塊を持つことが知られており、この魔石は利用価値が多いため市場が確立されているのだ。
ロセナには辺境唯一の冒険者ギルドがあり、人々の生活を魔物から守っているとともに、経済を回している。
「あたしも冒険者になれば役に立つかなあ?」
「さ、それは……」
村長は思う。
フーカは体力も運動神経もあるから、冒険者に向いていないとは思わない。
しかし魔物を相手にするのは危険な仕事だ。
ロセナだけでも年間何人も死亡者が出るほどの。
「フーカには他にピッタリの職業があるのではないか? フーカは何でも器用にこなすではないか」
「そうか、そうだね」
「将来のことをずいぶん考えているのだの」
「あたし今年洗礼式だからさ」
「む、そうじゃったか」
「まだどこで働くか決めてないの」
洗礼式は一二歳になる年に行われる、半分大人だと認められる儀式だ。
洗礼式を受けたあとに見習いとして働き始めることが多い。
家業を継ぐ者もまた、本格的に修行に入る時期と言える。
「ふむ? フーカならばあちこちで引っ張りだこじゃろう?」
「うん。うちへ来ないかって誘われることはあるんだよ。でもピンと来なくて」
「洗礼式で勧誘されることも多いのじゃぞ」
「そうなの?」
「うむ。今日のこの荷物も、洗礼式関係のものじゃ」
「あっ、そうだったのか。じゃああたしの今後も洗礼式で決まりそうだね」
村長は頷きつつも思うのだった。
フーカに合う職業とは何なのだろうなあと。
◇
「な、何と! 君はゼフノボレロスの加護を受けておる!」
「ぜふの……えっ?」
洗礼式の日、フーカはポカンとしていたが、加護判別のオーブを覗いた司祭は興奮していた。
極めて稀なことであるが、洗礼式では神から力を授かることがあり、これを一般に神の加護と言うのだ。
フーカは風の神ゼフノボレロスの加護を受けた。
「君は神から力をいただいたのだ」
「そうなの?」
「ああ。その力を有効に使うことこそ、神の望みと知りたまえ」
「わかった。司祭様ありがとう!」
神の加護を得た者なんて、ナグ村の歴史でもちろん初めてだった。
滅多にないことだからそりゃあ皆が驚いた。
でもフーカがいい子であることは、ナグ村の全員が認めることだったから。
ああ、神様の加護を受けるのはああいう子なんだねと、皆が納得したものだ。
「ねえ、村長さん。あたしどうしたら神様の意向に沿うのかなあ?」
フーカはすごく考えた。
一つの結論を出したが、両親に相談したら危ないんじゃないか、もっと他のことをやればいいんじゃないかと言われたのだ。
村で一番の物知りである村長の判断を仰ぐことにした。
「どんな職に就くのがいいかという意味じゃな?」
「うん」
「フーカ自身はどう考えておる?」
「あたし、冒険者になりたいの」
フーカは自分が風の神から加護をいただいた時から、そう考えていた。
これはある意味当然の考えだった。
何故なら今は暑い時に風を吹かせて涼んだり、あるいは落ち葉を吹き散らしたりくらいの力しかなくても、レベルが上がればもっと多くのことができると聞いたからだ。
せっかく加護を授かったのだから、フーカはそれを有効に使いたいと思った。
一般にレベルを上げるには、魔物を倒して経験値を得るのが近道。
冒険者は打って付けだ。
「洗礼式前もそのようなことをチラッと言っていたの」
「でもお父ちゃんとお母ちゃんに反対されちゃった。危ないからって」
「よくわかる」
平和なナグ村で暮らしていくならば、危険な冒険者になる必要などないから。
しかし……。
「どうすればいいかなあ? 村長さんはどう思うか、意見を聞きたいの」
「ふむ、フーカは神の意向に沿いたいのじゃな? そのためにはレベルを上げることが重要だと考えていると」
「うん。それがいいことだと思うし、皆のためになることだと思うから。レベルを上げるとなれば冒険者が一番いいんだよね?」
フーカの言うことは理に適っていた。
「成功できるなら冒険者がベストじゃろうの。よし、フーカの思うようにやってみよ。両親の説得は手伝ってやろう」
「村長さん、ありがとう! あたし頑張るね」
「しかしフーカは冒険者にならねばならないという理由は、必ずしもないのじゃ。ムリだと判断したら別の道を模索するがよい」
フーカは頷いた。
フーカは賢い子だからムリはしないだろう、と村長は思った。
「冒険者になるためには、ギルドに所属せねばならん。大きな町に行くのが必須じゃが……」
王都に行く手が有力であるし、それとも近隣では最も大きな町ロセナにも冒険者ギルドはある。
フーカは一二歳になると故郷ナグ村の皆に別れを告げ、ロセナを目指した。
フーカの波乱万丈な人生はここから始まる。