軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

六百三十話 宝箱の中身

裕太の命令で迷宮探索に乗り出したジーナ達は、四十九層で金色の宝箱を発見した。だが、その宝箱に仕掛けられた罠が解除できず、最終的にディーネの登場となった。そして失敗した。トラップが発動して集まってくるアサルトドラゴンとワイバーンの集団。それを惨殺するディーネ。見ていることしかできないジーナ達の未来は……。

……あー、とりあえず収納するか。

この後のことを考えると頭が痛くなるが、考えてもどうしようもないことは理解できる。それなら、目の前で惨殺されている魔物達を収納し、無駄にしないことの方が大切だろう。

これでもスラムに近い貧乏食堂の娘だ。食材になるものをゴミに貶めるのは主義に反する。

「ジーナねえちゃん!」

マルコ達も空間から出てきてしまったか。子供に見せる光景ではないが……今更だな。

死の大地に住んで頻繁にアンデッドと対面しているんだ。驚きはするだろうが、これくらいでショックを受けるほどやわな精神はしていない。

アンデッドは単体でも気持ち悪いのに、集団になると洒落にならないほど気持ち悪いからな。目の前のドラゴンの惨殺死体など、それに比べたら悪趣味なオブジェ程度の物だ。

「ディーネ姉さん。守ってくれてありがとうございます」

「あっ、そうだった。ディーネねえちゃんありがと!」

「でぃーねおねえちゃん、ありがと」

「ディーネお姉さん、守ってくれてありがとうございます」

サラ達と一緒に空間から出てきたディーネ姉さんにお礼を言うと、サラ達も次々とディーネ姉さんに向かってお礼を言う。

助けてもらったらお礼を言う。当たり前のことだが大切な師匠の教えだ。

欲を言えば騒ぎにならないように助けてくれたら最高だったが……それを望むのは贅沢を通り越して不敬だろう。

相手は神のごとき力を持つ大精霊。しかも、あたし達と契約している訳でもなく、ただ師匠の縁とディーネ姉さんの慈悲で助けられたのだから。

まあ、その神のごとき力を持つ大精霊様は、サラ達にお礼を言われて、あたし達の契約精霊にも称えられているっぽいから、たぶん胸を張って師匠が言うドヤ顔という表情をしているっぽいけどな。

「あー、みんな。ディーネ姉さんに感謝を伝え足りないのは分かるが、とりあえず魔物の死骸を収納してからにしよう」

山ほど魔物の死骸があるが、幸い師匠があたし達全員に魔法の鞄を持たせてくれている。どれもこれも一級品の魔法の鞄で、大容量に加え時間の遅延効果も付与されている。協力すれば全てを収納できるだろう。

「ようやくおわったー」

「たくさんだった」

マルコとキッカの会話の通り、数が多くて大変だった。集まってきた数が多かったのはもちろんだが、ディーネ姉さんが景気よく切断していたから手間も増えた。

どうすれば水でドラゴンがあれほど綺麗に切断できるのか、切断面を接触させればそのまま復活しそうなくらいに生々しくも綺麗な切断面だったな。

「ジーナお姉さん」

「ん? どうしたサラ、疲れたか?」

「いえ、宝箱はどうします?」

「……ああ、そうだった。そもそも宝箱が原因でこんな騒ぎになったんだったな。すっかり忘れてたよ」

たぶんサラ以外は精霊も含めて宝箱の存在を忘れていたな。

「そうだった、たからばこ!」

「たからばこー」

「あっ、コラ、マルコ、キッカ、見るのは構わないが触るなよ!」

サラの忠告で宝箱のことを思い出したマルコとキッカが走り出したので慌てて追いかける。

宝箱の中身に興味津々だった二人だからしょうがないが、中に入っているお宝によっては危険なことも呪われている可能性もなくはない。

まあ、これだけの騒ぎを起こした宝箱の宝物が呪われていたら、理不尽にもほどがあるがな。

もし呪われていたら、マルコとキッカを師匠に泣きつかせて、迷宮のコアに説教してもらおう。

師匠達の話を聞くに、師匠は迷宮のコアから恐れられている様子だから、あたし達の不満をぶつけることも可能だろう。

「なんかしょぼい」

「たからもの?」

宝箱を覗き込んだマルコとキッカのリアクションが薄い。

二人の上から宝箱を覗き込む……たしかにショボいな。小汚いとまでは言わないがちょっと貧相に見える金属の箱。迷宮の四十九層の金の宝箱からでる外見ではない。でも……。

「師匠が宝箱から一つしか物が出ない時、逆に凄い魔道具の可能性があるって言ってたな」

ラノベのテンプレだと意味が分からないことも言っていたが、そういう時に高性能な魔法の鞄や精霊樹の果実を手に入れたと言っていたからあながち間違いではないだろう。

そうなると、目の前の貧相な箱は凄い魔道具なのかもしれない。

「みせでうっている箱よりきたないけど、すごいのか?」

「ほんと?」

そんな疑わし気な目で見ないでくれ。あたしだって師匠の聞きかじりなんだ。まあ、そこらの店で捨て値で売っていても買わない箱だから無理もないけどな。

「金の宝箱から出たんです。お師匠様も驚く宝物かもしれませんよ。戻ったら見てもらいましょう。ジーナお姉さん、収納をお願いします」

「ああ、そうだな。師匠に見てもらってからのお楽しみだ」

魔道具の可能性を説明してもマルコとキッカはすさまじくガッカリしたままだ。

二人にとっては金銀財宝のような分かりやすいお宝が出てきた方が喜んだかもしれない。そう思いながら箱に触れると、魔力が急激に箱に吸われ始める。

「なんだ、呪いの箱だったのか! みんな、離れろ!」

呪いの可能性も考えていたのに迂闊に触れてしまった。普段自分では使わない魔力がごっそり減ったのを感覚で理解する。何が起こる?

宝箱から距離を取り警戒するが、しばらく経っても何も起きない。なんだったんだ?

「……ディーネ姉さん、申し訳ないけど危険な時はお願いします」

念のためにディーネ姉さんに声をかけ、おそるおそる宝箱の中をのぞく。何も変わっていない……ん? なんか箱の中に先程までなかった金色の砂粒がポツポツと。

箱に触れないようにそっと砂粒を取り出す。

「……もしかして金?」

金なんかと縁のない生活をしていたが、師匠と共に行動するようになってからは金貨や財宝を含め、頻繁に見るようになった金の輝きに似ている。

もしかして箱に触れる時にマルコとキッカが金銀財宝の方が喜んだとか考えていたから、魔力を吸って金を生み出した?

うわー。もしそうだったら凄いお宝であることは間違いないな。同時に存在が明らかになれば厄介この上ないタイプのお宝だけど。

あたしの魔力をごっそり持って行って砂金が数粒。でも、魔力さえ用意できれば……。

うん。師匠に丸投げしよう。

金のことを考えなければ大丈夫かと、できるだけ無心な気持ちで箱を突く。今度は魔力を吸われない。

詳しいことは分からないがとりあえず無心で宝箱を魔法の鞄に収める。鑑定が終わるまでマルコとキッカにもこのことは内緒にしておくか。

うっかり外で話してしまったら事だ。

……疲れた。

「なんとかなったし、今日はもう疲れたから、野営の準備をしようか」

当初の目的の野営地は見つかったんだ。あとは休んでから考えよう。

***

「さて、なんか色々あったけど本来の目的を果たすぞ。今回の狙いはアサルトドラゴン。師匠に習ったことを忘れずに戦うぞ」

ゆっくり休んで食事も摂ったおかげで気力も回復した。

各自の魔法の鞄の中に大量のアサルトドラゴンが詰め込まれていることを考えると、今更アサルトドラゴンの討伐に意味があるのか疑問になってくるが、師匠に与えられた課題なのでしっかり熟さないといけない。

サラ達のやる気のある返事と共に、宝箱があった空間から外に出る。

「えー……あー……なにか用だろうか?」

外に出るとかなり遠目に冒険者達に囲まれていた。

普通は囲まれたら危機感を覚えるはずなのだが、囲んでいる冒険者達の方が怯えている様子なので危機感が薄い。

おそらく、いや、間違いなく昨日の件についてだろうが、もしかして一晩警戒させてしまったか?

あの後、早々に休んでしまったが、砦に一報くらい入れておくべきだったかもしれない。

いや、一晩待機するくらいなら、声をかければいいよな。どういう状況だ?

「分かっていると思うが、昨日のことについて質問がある!」

それは予想通りだが、なんで大声で叫ぶ必要があるんだ?

「遠くでは話し辛い、あたし達がそっちに行くか、そちらがこっちに来てくれないか?」

喉がかれそうな大声で会話する趣味はないぞ。

「昨晩、俺達が近付いたら水に叩きのめされた! 近づいても大丈夫なのか?」

契約精霊に見張りは頼んでいたが、その前にディーネ姉さんが守ってくれていたらしい。

でも、なんで問答無用に撃退を……あっ、師匠がディーネ姉さんに、不用意にあたし達に近づく男は危険だから注意するように言っていたな。

師匠。師匠はディーネ姉さんが予想外の行動をするって知っているんだから、もう少しちゃんと指示を出してくれよ。

「あたし達が起きている間なら問題ない!」

あたしの返事を聞いて、おそるおそる冒険者達が寄ってくる。ここに居るのだから一流の冒険者なはずなのにビビるなよと思ったが、何人かボロボロな冒険者が確認できた。

うん。ビビるのもしょうがないかもしれない。なんかごめん。

「それで、昨日のことだが、いったい何があった? お前達が出てきたのは迷宮の隠し部屋だよな?」

砦の責任者らしき男が、分かっていることを確認するように聞いてくる。

できれば内密にしたかったが、昨日あれだけ派手に騒いでしまっては仕方がない。

「ああ、隠し部屋だ。その中で宝箱の罠の解除を失敗したのが騒ぎの原因だな」

隠し部屋に宝箱がないというのもウソっぽいので正直に告げる。

「本当か。何が入ってた!」

別の冒険者が食いついてきた。冒険者にとって宝箱はロマンとやらだそうなので仕方がないが、直球過ぎる気がする。

「宝箱の中身まで報告する義務はないはずだが?」

危険すぎて師匠に丸投げするまで表に出せねえよ。

中身を聞いてきた冒険者が不満気に言葉を続けようとして、他の冒険者に止められる。

ん? 欲望に任せた冒険者はともかく、他の冷静な冒険者達はあたし達をかなり警戒している?

そうか、師匠とディーネ姉さんのおかげだな……色々と聞かれることになるだろうと悩んでいたが、もしかして強気で対応すれば楽に切り抜けられるかもしれない。

師匠、その悪名、お借りします。