軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四百八十四話 いつの間にか芽が……

新築祝いなのか『うな丼』のお披露目会なのか微妙に判断がし辛かった宴会も無事に終わり、シルフィとディーネのもめ事も一件落着した。

シルフィとディーネに言われるままに生きている大地に向かい水路に魚も増やしたし、ルビー達は新たに知ったカレーとうな丼の改良に夢中になっている。

自分の家を手に入れたシルフィ達大精霊も、自分のプライベートスペースを豊かにするべく行動し、家具の配置や自分の属性に合わせたコーディネートに余念がない。

醤油が素晴らしい調味料であることは(俺にとって)疑いようのない事実だが、たった数軒の家が増えて新しい調味料が参入しただけで、穏やかな楽園に活気が生まれたように感じるのはなんだか面白い。

そんな楽園の中、少し離れた場所で遊んでいるベル達や、訓練をしているジーナ達を見守りながら、次なる野望を成就するために俺は計画を練る。

そう、味噌汁作成計画だ。

オークの生姜焼きとかなり迷いはしたが、オークの生姜焼きを定食で食べると考えるなら、まずは味噌汁だろうという結論で落ち着いた。

それに、味噌汁さえ完成すれば、焼き魚とホカホカの白ご飯、これだけでも美味しいけど味噌汁があればもっと……なんて悲しみを背負わずに済む。

味噌が完成した以上、味噌汁を作るために必要な素材は、出汁と具材。だがそれもある程度の目途がついている。

出汁は煮干しと昆布。具材はシンプルにワカメと長ネギだ。

ちょっとだけ具沢山の豚汁やキノコを入れた味噌汁なんかにも惹かれたけど、最初はシンプルな味噌汁を楽しむべきだと思う。その次は豆腐を一から作って豆腐の味噌汁だな。

醤油が完成したから冷奴や揚げ出し豆腐なんかにも手を出せる。夢が広がりまくりだ。しばらくは日本食にどっぷり浸かろう。

「あっ」

自分でも頬が緩みまくっていることを自覚しながら幸せな未来を妄想していると、マルコが何かを思い出したような声をあげてこちらに走ってきた。

「マルコ、どうしたの? 何かあった?」

「あった。ごめん師匠、リー先生からあとでつたえておけっていわれてたの、わすれてた」

リー先生ってマルコの体術の先生のリーさんのことだよな? リーさんとはそんなに親しい訳じゃないし、どんな伝言があるのか想像がつかない。

ヤバい、なんだか緊張してきた。子供の三者面談とかこんな気持ちなんだろうか?

「えーっと、何かな、緊急?」

迷宮都市から戻ってきてしばらくたつから、緊急だったら結構不味いぞ。

「きんきゅう? ちがうとおもう。えーっと、師匠って精霊術師のひょうばんをあげるのがもくてきでおれたちをでしにしたんだよな?」

「う、うん。そうだけど?」

今更聞くこと?

「それがしっぱいしそう?」

なんですと? マルコがケモミミをピコピコさせながら首を傾げていて何気に可愛いが、言っていることが結構ショックな内容なんですけど?

えっ? 俺が精霊術師として目立っているし、ジーナ達も迷宮の最前線で活躍している。精霊術師の評判は上がっているはずだよね? どういうこと?

マルコに詳しく話を聞いてみると、結構面倒な感じになっていた。

俺達の活躍で迷宮都市の冒険者ギルドでは精霊術師の株は上がっていたらしい。それと同時に、俺は危険人物扱いされているみたいだけど、まあ、この際それは置いておこう。

俺だけじゃなく子供なマルコ達が活躍したこともあって、迷宮都市の冒険者達も精霊術師を仲間に迎え入れることが増えたんだそうだ。

それで、仲間に迎え入れた冒険者達も精霊術師の危険性は認識しているから、精霊術師を育てるつもりで失敗を許しながら一緒に行動しているらしい。とてもいいことだ。

このまま順調に精霊術師が成長して大活躍すれば、素晴らしいハートフルストーリーが生まれて大団円って感じなんだけど、そう上手く事は運んでくれない。

仲間の協力のおかげで精霊術師のレベルが上がっても、精霊とのコミュニケーションが間違っているから、失敗は無くならない。

その結果、やっぱり精霊術師って使えないんじゃ? って疑惑が微妙に生まれているらしい。

まだ疑惑の段階で精霊術師がパーティーから切り捨てられている訳じゃないが、今の状況が更に続けば切り捨てられるのも時間の問題らしい。

俺達が活躍しているし精霊術師の評判も徐々に上がっていくよねってのんびりしていたら、知らないところで精霊術師が再評価されていて、更に再度不遇職の烙印を押されようとしていた。

再評価して期待して手間を掛けて育てて結局落第……そんなことになったらただでさえ地を這っていた精霊術師の評価が、地面の下までのめり込んでしまう。

マルコ、いや、リーさんの話だとまだ様子見の段階みたいだけど、このままだとどう考えても不味いよね。

本来なら精霊術師の才能がある人を人柄で選別して、一から育てた方が信頼ができるんだけど、そんな時間もなく上がった評判が急降下させられそうだし、既存の精霊術師の教育も考えないといけなさそうだ。

しょうがない、いつの間にか育っていた芽が潰れないように対策を練ろう。まずは……シルフィ達を集めて会議だな。

あーあ、せっかく食生活を豊かにすることに没頭できそうだったのに……。

***

「という訳なんだけど、どうしたらいいと思う?」

シルフィ達を呼び寄せてリーさんの話を説明し、意見を求める。経験豊富な大精霊達は頼りがいがあって素敵だよね。

「なるほどね。たしかにそのまま放っておくのはもったいないわね」

「そうねー、浮遊精霊の子達の成長する機会が減っちゃうのはもったいないわよねー」

シルフィとディーネも俺と同意見のようだ。

「前に、精霊術師のクランだかなんだかを作って精霊術師を育てるとか言っておらんかったか? ならそれをすればええじゃろう」

ノモスが俺が前に言っていたことを覚えていたようだ。たしかにその通りではあるんだけど……。

「前にそう思ったのは事実なんだけど、弟子はジーナ達で手一杯なんだ。今は忙しいしクランを作る余裕はないよ」

できないことはないけど、クランを作って精霊術師を育てるだけに時間を費やすのは嫌だ。できれば味噌と醤油の有効活用に時間を割きたい。

最終的には一人前になったジーナ達が精霊術師をバンバン育ててくれたらいいな、とか思っている。

「面倒なだけではないのか?」

「うっ……いや、それもちょっとはあるし、楽園に居る間なら余裕はあるけど、迷宮都市ではなんだかんだで忙しいのは本当だよ」

ノモスが地味に厳しいツッコミを入れてくる。でも、忙しいのは本当だもん。

俺だって迷宮都市でものんびりしたいのに、元々の用事に加えてなぜかなにかしらやらなきゃいけないことが増えてしまう。

事実、次に迷宮都市に行く時だって、マリーさんにお説教をする用事が増えている。こんな状態なのにクランを作る余裕なんか無いよね。

「まあ、裕太が忙しいのかどうかは置いておいて、精霊術師を育てることを考えた方がいいんじゃないかな?」

ヴィータまで俺の忙しさを疑っている。たしかに迷宮都市で何もせずに一日が終わることもないことはない。でも、それは自分で休日を設定したからであって、無意味にさぼっている訳じゃないんだ。

人間は働き過ぎたら死んでしまうから、休暇は大切なんだよ! まあ、ヴィータが居るから過労死なんてありえない気もするけど……。

とはいえ、ヴィータの言う通り育てるしかないんだろうな。ジーナ達みたいに付きっ切りで育てるんじゃなくて、簡単な講習みたいなのを開く感じでいいだろう。

「コミュニケーションの方法を教えるとして、簡単な方法だから広まらないように制限を付けないと駄目だったよね? どうするんだっけ?」

精霊達、特に浮遊精霊や下級精霊は純粋だから、簡単に力を借りられる方法が広まると悪用される恐れがある。それはさすがに許容できない。

前にも、もし秘密を洩らしたら契約が解除されるとか、精霊王様にお願いするとか色々と方法を考えたんだけど、これだ! ていう方法は思いつかなかったんだよね。

「そうね……急場ですべての人間に秘密を守らせるのは難しいわね。なら、人間を教育するんじゃなくて精霊術師と契約している精霊を教育したほうが安全かもしれないわね」

人間の評価が低くてちょっと切ない。でもまあ、色々とやらかしちゃっているし、しょうがないかもな。

しかし、精霊を教育か。シルフィがブツブツと呟きながら考えこんじゃったけど、どうするつもりなんだろう?

「裕太。基本的な攻撃と防御に合わせる無駄な詠唱と、それに合わせた大げさな身振りを考えてちょうだい。そうね、ベルでいったら風弾、風刃、風壁ってところかしら? 最低でもその三つが使えるなら、まったくの役立たずってことにはならないでしょう」

ん? 詠唱はカモフラージュで、ジェスチャーで精霊にどうするのか伝えるってことかな? そして、その動きを精霊達に覚えさせて誤爆を防ぐのか。

不必要な詠唱や大げさなジェスチャーは、精霊達の力を乱用し辛くする安全弁ってところかもな。

「でも、それだとジーナ達と行動が違い過ぎるし、その詠唱や動きが広まっても精霊に覚えさせることができないんだから、後々問題にならない? あと、自意識がほとんど無い浮遊精霊と契約していたらどうするの?」

俺の講習で覚えた技術を受講生が他で教えた時、同じ結果にならないなら問題になる気がする。

「ジーナ達のは直弟子用の秘伝だとでも言っておけばいいわ。詠唱や動きは繰り返しお手本を見せていれば勝手に覚える精霊も居るんじゃないかしら?」

シルフィ、適当だな。迷宮都市に居る精霊術師の評判を下げないことだけを考えているからかな?

まあ、時間もないし、迷宮都市の評判が下がらないだけでも御の字か。

「自意識が無い精霊の場合は?」

「裕太が初めて会った風の浮遊精霊だと、元々意識が無さすぎて契約すらできないわ。契約しているってことは、最低でも動物の子供くらいの意識はあるから、繰り返し覚えさせるしかないわね」

あぁ、あのマリモみたいな浮遊精霊か。たしかにあの子は難しいだろうな。

動物の子供くらいの意識……子犬にお手を覚えさせるような作業か? 時間が掛かりそうなんですけど……。

「覚えられなかったら?」

「諦めさせるしかないんじゃない? でもまあ、誤爆とはいえ術が発動できているなら、それなりの意識はあるだろうからなんとかなるわよ」

なるほど、意識レベルが契約ギリギリとかなら術の発動すら難しいのか。パーティーに迎え入れてもらえて育ててもらえるレベルの精霊術師なら、契約精霊の意識も問題なさそうだ。

「分かった。それなら詠唱や動きをいくつか考えてみるよ」

どうせ俺は使わないんだし、ちょっと厨二っぽい詠唱や動きを考えるのも面白いかもしれない。いや、冒険者は命がけなんだし、悪ふざけは止めておいた方がいいかな?

「あっ、ちょっといいですか?」

だいたいの目途が付いたと思ったら、今まで黙っていたドリーが手を挙げて会話に入ってきた。何か考えが足りない部分でもあったかな?