軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空からの捜索

イルク村に滞在することになった母メーアは、精神的にも肉体的にもかなり消耗していたようだ。

ユルトを用意してやると気絶したように眠り……翌日の昼になってようやく目覚めると、慣れない環境に困惑したのかユルトを飛び出してきて……しばらくの間、周囲を見回し、そうすることで眠る前の出来事を思い出したのか、安堵した様子でホッと溜息を吐き出す。

たまたまユルトの側を通りがかっていた私が、そんな母メーアを見かけてどう対応すべきかと悩んでいると……何処からか軽快な足音をさせながらメーアの六つ子達が駆け寄ってきて、目を細めての笑顔でメァメァと声を上げて母メーアを歓迎する態度を見せる。

すると母メーアは、六つ子達の可愛さに頬が緩んだのか……それとも六つ子達がそんな風に駆け回れる環境であることを知って安堵したのか、柔らかな笑みを浮かべる。

「あ、起きたんですね、おはようございます。

私はあなたの世話係のシェップ氏族の者です、こちら朝摘みの白い草ですよ、お水も汲みたてのを用意しますから待っててくださいね」

六つ子に続いて両手いっぱいに白い草を抱えたシェップ氏族が駆け寄り、声をかける。

彼女は去年の秋に出産した母親の一人で……出産のことに詳しく、メーアの世話にも詳しいので適任だと思って母メーアの世話を昨夜のうちに頼んでいた。

「メ、メァー……メァ」

まだ言葉全てが分からないのか、どこか不安そうに母メーアが返すと、世話係の女性はにっこりと微笑んで、ゆっくりと言葉を教えるようにあれこれと語りかけながら世話を開始する。

食事をさせたら水をたっぷりと飲ませて、それからブラッシングをして……ブラッシングをしながら怪我がないかの確認をし、大きく膨らむお腹に耳を当ててお腹の中の子供に問題がないかの確認もする。

「んー……元気な鼓動ですから問題なさそうですけど、ディアス様に頼んで絨毯の上に乗っておきましょうね。

え? 絨毯が分からない? えぇっと……怪我が治る不思議な絨毯ですよ、お腹の子が怪我とかしていた場合でも綺麗に治してくれるはずですよ。

その後はアルナー様、セナイ様アイハン様に頼んで薬湯も飲んでおきましょうね、それが終わったらお散歩をしてまたブラッシング、それから昼寝といきましょう」

犬人族にしては珍しく饒舌というか、どんどん喋る女性で……母メーアは少しだけ気圧されながらも、自分のことを真剣に考えてくれていることを理解しているのだろう、コクコクと頷いて同意を示す。

ならば早速絨毯を使うかと、倉庫の方に足を進めようとすると、大きな翼の音が聞こえてきて……サーヒィ、ではなく鷹人族の誰かがこちらへとやってきて、降りてくる。

腕を出してそれを受け止めると、初めて見る顔の鷹人族がクチバシを大きく開けて元気な声を上げてくる。

「お初にお目にかかります、メーアバダル公!

話はサーヒィから聞きました! 身重の女性が伴侶と離れ離れになるなど悲劇そのもの! これは一刻も早く解決すべき事件だということで鷹人族総出で旦那さんの捜索をすることになりましたので、今日中に草原の隅から隅までを見回り、一族の誇りにかけて旦那さんを発見してみせましょう!

つきましては発見した者には、功労金ということでいくらかの銀貨金貨をいただければと思うのですが!」

早口でハキハキとそう言う鷹人族に、私は首を傾げながら言葉を返す。

「それはもちろん構わないが……一族総出で探してくれるというなら、皆に相応の賃金を支払うぞ?

母メーアからは滞在費ということで、相応のメーア毛をもらうことになっているし、それなりの金額を用意出来るしなぁ」

「いえ! 一族総出でというのは、あくまでこちらが勝手にやったこと! 今回の件は人助けでもある訳ですし、功労金をいただければそれで十分です!

功労金もあれば皆のやる気が上がって、発見が早くなるだろうと考えてのことですので……程々の金額をいただければそれで十分です!」

「そうか……助かるよ。

その代わりといっては何だが、鷹人族が困った時は力になるから遠慮なく言ってくれ」

「公にそう言って頂けるとは嬉しい限りです!

では、早速捜索を始めるつもりなのですが、その前に一つ、旦那のメーアさんには何か特徴とかあるのでしょうか? 無い場合は野生のメーアに手当たり次第、声をかけることになるのです……が、野生のメーアとの会話は難しいのですよね?

旦那さんかどうかを確認することも、奥さんをイルク村で保護していることを伝えることも出来ない訳で……どうしたら良いでしょうか?」

そう言って鷹人族が首を傾げて……私も同じく首を傾げる。

この草原にどれくらいの野生のメーアが居るかは分からないが、草原の広さから考えるにイルク村よりも鬼人族の村よりも、多くのメーアが暮らしているのだろう。

その中からどうやって旦那さんを見分けるのか、見分けたとしてどうやって母メーアのことを伝えるのか……二人で大きく首を傾げて、うんうんと唸り声を上げながら悩んでいると……母メーアと遊んでいたらしい六つ子の長男、フランが私の足元へとやってきて、声をかけてくる。

「メァメァ、メァー、メァッ」

「んん? フランが一緒に行って事情説明をするのか? フランなら野生のメーアとも会話が出来る?

いやまぁ、確かにメーアの誰かに行ってもらえれば話が早いのだろうが……フランである必要はないというか、まだまだ幼いフランをあちこち連れ回すというのも問題だろう。

ここはエゼルバルド辺りに頼んで、犬人族達の部隊を編成して空と地上から同時に捜索を―――」

「メァッ! メァメァッ! メァー!!」

私の言葉の途中でフランが大きな声を上げて「そうじゃないよ、違うよ、ボクも空に行くんだよ」と、そんなことを伝えてくる。

空に? フランが? いやいや、フランに翼は無いだろうとそう返そうとした折、フランが更に言葉を続けてくる。

「メァー、メァンメァー! メァメァ! メァーンメァーン」

ボクは体が小さくて軽い、だから鷹人族と一緒に飛べる、ボクを抱えてもらって一緒に空を飛べば、一緒に探せるし、見つけ次第すぐにお話が出来る。

フランのそんな言葉に、私も他の六つ子達も母メーアも、鷹人族や周囲を通りがかった犬人族までが驚きの余り硬直してしまう。

突然なんてことを言い出してしまったのか、メーアとは臆病な性格ではなかったのか、そんな危ないことさせられる訳が無いだろう。

そんな考えが私の内心を駆け巡り、皆も同じことを考えているのだろう、同じような表情でフランを見つめ……それでもフランは構うことなく、自分なら出来る、やってやるぞと自信満々な表情をし、ぐっと顎を上げて胸を張る。

そんなフランにどう対応したものかと私達が困り果てていると、家事を終えたアルナーがやってきて、私達の顔を見て首を傾げ……そんなアルナーに私が事情を説明する。

するとアルナーは「なるほど」と頷き、どこか嬉しそうに笑ってからフランの前に行き、しゃがみ込んでから声をかける。

「フランは勇気があるんだな……幼い頃から皆に守られているイルク村で育ったからか他のメーアとは少し違う考え方をしているようだ。

流石に抱きかかえられて空へ、というのは許可出来ないが、カゴを用意してその中に入って紐などでしっかり固定して、そのカゴを鷹人族に持ってもらう……という形なら問題は無いだろう。

あとは……いざ落下しても大丈夫なように、ナルバント達に何か仕掛けを作ってもらうとするか。ナルバント達なら何かこう、上手いことやってくれるだろう」

その発言はかなりとんでもないものだったのだが、フランはとても満足そうで、周囲の皆もアルナーがそう言うのならそれで問題ないのだろうという、そんな空気を作り出してしまう。

私としてはそれでも危ないだろうと反対したかったのだが、フランはもちろん鷹人族までやる気満々で、ナルバント達の仕掛けまであるとなると強く反対することが出来ず……そうして今回の捜索にフランは、空を初めて飛ぶ勇気あるメーアとして参加することになってしまうのだった。