軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの序章

――――イルク村 ディアス

全身を毛皮で覆い、戦斧を肩に担いで、灯りと暖を確保するために篝火を各所に設置して……日が沈んで夜となったイルク村を行ったり来たりして巡回する。

まだ寒波というほどには寒くなく、モンスターの気配もなく、イルク村にはいつも通りの静かな夜が広がっていて……そんな中で唯一、集会所だけが騒がしい空気に包まれていた。

陣痛が始まったのか、出産が始まったのか……状況がどうなっているのかは分からないが、ユルトの外布に映り込む影の動きを見る限り、相当に慌ただしいことになっているようだ。

アルナーと思われる影がユルトの中を行ったり来たり、休む暇なく動き回っていて……その影を見ていると、私も頑張らなければという思いが湧き出てくる。

出産という場において全くの役立たずだからこそ、この腕と戦斧で頑張りたいというか、挽回したいというか……生まれてくる赤ん坊達の為にも何でも良いから、どんな形でも良いから役に立ちたいのだ。

そうして気合を入れ直す意味でしっかりと戦斧を担ぎ直した私は、フランソワ達が安心して出産出来るようにと、見逃しのないようにくまなく、目を皿にし耳を澄ませながら巡回を再開させるのだった。

――――草原北部、仮設ユルト クラウス

「見張りは最低限で良いぞ! 草原全部なんかは見張りきれないし、多少の見逃しがあってもアルナー様の魔法があるからな!

とにかく村を守ることを最優先に、村に近付こうとするやつだけに意識を向ける!

そしてそういう奴がいたらまずは威嚇だ、次に足を狙って攻撃して、動けなくしたら放置で良いし、逃げてくれるなら追い打ちをする必要は無い!」

防具を身につけ槍をしっかりと握り、仮設のユルトの中でそう訓示するクラウスに対し、同じく装備を身につけたマスティ氏族達が、わふわふと口を動かしながら鼻息を荒くする。

その目には絶対に自分達の村を守ると、生まれてくる新たな命を守るとの意志が強く宿っていて……その目をじっと見つめながらクラウスは、誇らしさと心強さを覚えながら訓示を続けていく。

「それとな、俺は指揮の為に寝ないが、皆は交代でしっかりと睡眠と食事をとって英気を養うように。

……実戦は想像以上に消耗が激しいものだ、休める時に休んでおかないと後で響いてくるぞ。

……うん? 俺はどうなんだって?

あのディアス様と一緒に……何年も一緒に戦って来たんだぞ? 二日三日の徹夜なんて訳ないさ。

突然の行軍で一週間休み無しなんてのもザラだったしなぁ……それに比べれば全然だよ、うん。

いや、もう、本当にあの人は疲れ知らずでガンガン動けちゃうからついていくのが大変でなぁ。

どんな場所でも寝れちゃうし、どんな不味い飯でもいけちゃうしで、本当に何なんだろうなぁ、あの人は……。

……うん、まぁ、視界の通る昼間になって余裕がありそうならその時に休むから、皆は気にせず休んでくれ!!」

遠くを見て、何かを思い出し……虚ろな目となったクラウスにそう言われて、マスティ氏族達は素直に頷き「わふん!」と整然とした返事をするのだった。

――――マーハティ領、西部の街メラーンガル、領主屋敷の寝室 エルダン

「まさか逃げられてしまうとは……。

マイザーを見くびっていたというか、油断していたであるの……」

自室に用意された寝床で横たわりながら、そんなことを呟くエルダン。

もう何度目かも分からないその愚痴に、エルダンの妻達は何も言わずに、ただ耳を傾ける。

これが相談であれば答えを返したことだろうし、何か提案を求められているのであれば懸命に頭をひねり出来る限りの案を絞り出したであろうが、これはあくまで愚痴……領主ではなく、個人としての泣き言の類だ。静かに受け止めるのが一番だろうと考えてのことだった。

妻達のそんな想いを知ってか知らでか、エルダンはぼつぼつと言葉を続ける。

「王都に向かった様子も、メーアバダル……ディアス殿の所に向かった様子も無いのは幸いだったであるの。

そのどちらに行かれたとしても、ややこしいことになっていたに違いないであるの。

……しかし、領外に逃げることなくここに残ったということは、それだけここのことを……僕達のことを甘く見ている訳で、なんとも複雑な気持ちであるの」

そう言ってエルダンは寝返りを打って大きなため息を吐き出す。

「まぁ……こっちを甘く見ているというのならそれは、付け入ることの出来る大きな隙でもあるはず……。

鼠人族達だけでなく、諜報隊を総動員してやってやるであるの……いざとなれば僕自身が出張ってでも……」

そこから更に言葉を続けようとするエルダンだったが、言葉よりも先に小さなあくびが口から出てきて、そのあくびが強い眠気を誘って……そうしてエルダンは深い眠りへと落ちていくのだった。

――――???? マイザー

「―――という訳で、お前達の希望通り帝国のあのアホ共は排除しておいたぞ。

脅しをかけて来た時点で許す気はなかったが……まさかこんなに上手くいくとはな」

とある商家の一室で、上等な造りの椅子にどかりと腰掛け、上等な作りのグラスを傾けながらそう言うマイザーに対し……マイザーの前に立つ男、商家の主が言葉を返す。

「それはそれは……お手数をおかけしました。

ここは人間の国であり、私共の国である。……それを分かっていない連中はどうにも目障りで耐え難かったのですよ。

とはいえ、ただの商家である私共が手を下すのはどうにも憚られますし……」

「ただの商家……ねぇ。

漂う匂い、荷箱の木材、そこらに置いてある目録のクセ字……随分と物騒な連中と取引をしているのにか?」

「これはこれは……まさかそんなことからお見抜きになられるとは。

……とても参考になりました、これからはその辺りにも気を配ると致しましょう」

「襲撃に関する情報を流してくれた奴らと言い、お前達と言い……エルダンは随分と敵が多いようだな」

マイザーがそう言うと、商家の主は満面の笑みを浮かべながら両手を振って、否定の意を示す。

「まさかまさか、とんでもない。

エルダン様に思う所なんてございませんとも……エルダン様のおかげでこうして儲けさせて頂いておりますし、お甘いところも含めて私共はエルダン様を歓迎しております。

……ただ、問題があるとするならば、エルダン様の周囲に群れる連中のことでして……」

「……まったく、商人なら商売にだけ邁進していればいいものを。

神殿もお前等も、そんなに奴らのことが気になるかねぇ……」

「驚きましたな。

マイザー様は奴らを奴隷として扱うことに賛成しているとばかり……」

「奴隷として売り払うことには賛成しているさ、金になるならな。

ただエルダンがやったように奴らを市民に仕上げることで「客」の数を増やして市場の規模を拡大するってのも悪くない策だと考えている。

何しろ結果がこの好景気だからな……否も無いさ。

……それにな、俺は獣だけではなく、人も商品になると考えているからな」

そう言い放って、グラスの中身を空にするマイザーのことを、商家の主は目を細めながら……静かに見つめ続けるのだった。