軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五章エピローグ

帝国の首都星。

リアムが利用している高級ホテルに、一人の少女がやって来た。

名前をシエル――クルトの妹だ。

シエルは一度深呼吸をしてから、ホテルの敷地内へと足を踏み入れる。

何故なら、父も兄も――上機嫌だからだ。

「いや~、伯爵も気前がいいな。シエルをこんなに早く受け入れてくれるなんて」

「父上、それではシエルを早く手放したかったみたいに聞こえますよ」

「ち、違うぞ。早く一人前のレディになって欲しいだけだ。ほら、うちだと婚約者を探すのも苦労するからな。伯爵様の側にいれば、出会いの機会も多いから」

チラチラと父が自分を見てくるので、シエルは肯定する。

「そうですね。素敵な殿方と出会いたいものです。伯爵以外の素敵な殿方、とね」

内心ではそんなことは考えてもいなかった。

何しろ、シエルにとって憧れの男性は――兄のクルトだったのだ。

父が肩を落とす。

「そ、そうか。伯爵に失礼がないようにするんだぞ。伯爵も悪くないと思うんだが」

本当は側室の一人に押し込みたいのだろうが、シエルはそれだけは拒否した。

何しろ、シエルにとってリアムは――敵だ。

クルトも残念そうにしている。

「リアムは厳しいからね。少し前にも、領内で好き勝手にしていた寄子の跡取りを斬り捨ててしまうほどだよ」

父が思い出したのか、感心していた。

「付き合いがあるとどうしても手心を加えるからな。伯爵は貴族として高潔だ。シエル、お前も気を付けなさい」

シエルはそれを疑っていた。

かつて、リアムがエクスナー男爵領に来た時――そのような高潔な人物には見えなかったのだ。

みんな騙されていると思っていた。

クルトが残念そうにしている。

「リアムはまだ戻ってきていないから、僕はまだ会えないんだよ。しばらく任務で離れるから、次に会えるのはいつになるか」

男に会えないことを残念そうにしている兄を見て、シエルは思うのだ。

(お労しや、お兄様――リアムに騙されてしまって。待っていてください、お兄様。私がお兄様の目を覚まして差し上げますわ!)

ホテルのロビーにやって来ると、待っていたのはロゼッタだった。

「エクスナー男爵、お待ちしておりました」

「伯爵の奥方に出迎えてもらえるなんて光栄ですね。ほら、二人とも挨拶を」

クルトはロゼッタを見て驚いていた。

「久しぶりだね、ロゼッタ。それにしても、以前とは見違えたよ。以前のとげとげしさがまるでない」

「恥ずかしいからその話は止してよ。クルトも相変わらずね。でも、その軍服は似合っているわ」

「ありがとう」

にこやかに会話を楽しんでいる三人を見ているシエルに、ロゼッタが話しかけてくる。

「貴方がシエルさんね。今後はバンフィールド家で修行を開始するわ。その際は、男爵の娘としてではなく、一人の使用人として扱います。いいわね?」

態度は厳しいが、優しそうな女性だった。

シエルはこれがリアムの婚約者かと思いながら、お辞儀をする。

「よろしくお願いいたします」

「今日のところはゆっくりして。本格的な修行は明日からよ。本当ならダーリンにも紹介したいのだけれど、今は領地に戻っているの」

私も戻りたかったのに~、と言っているロゼッタを見ながら、シエルは考える。

(今の内にこの人の信用を勝ち取って、リアムに近付いてやる。必ず化けの皮を剥いでやるから、覚悟しておくのね!)

シエルの戦いがこうして始まろうとしていた。

領地から首都星へと向かう日が来た。

超弩級の戦艦に乗り込む俺は、側にエレンを連れている。

チョコチョコとついてくる弟子は、俺の刀を持っていた。

いや、エレンに与えたあの刀だ。

豪奢な刀をエレンは抱きしめて持ち運んでいる。

「エレン、俺はしばらく忙しい」

「はい、師匠!」

師匠と呼ばれると色々と複雑な気分だ。

俺のような未熟者が弟子を取っていいのか? そんな気持ちにさせられるが、師匠――安士師匠が三人は弟子を育てろと言っていた。

エレンが強くなれるか分からないが、俺は一閃流の存続のために弟子を育てなくてはならない。

師匠との約束なので、悪徳領主だろうがこの約束だけは守らねばならないのだ。

俺は一閃流だけには損得勘定抜きで尽くすと決めている。

「首都星に到着したら、お前を教育カプセルに放り込む」

「はい!」

「カプセルから出たら、基礎を教えてやる」

「一閃流の基礎――が、頑張ります!」

どうやら一閃流が気に入ったらしい。

俺も師匠を真似して、最初に奥義を見せてやった。

あの頃の俺は、安士師匠がどれだけ凄いのか正確に理解していなかったな。

今の俺は剣聖を倒したが、あの人にはまったく追いつける気がしない。

まるで刀を本当に抜いていないかのような動きで、静かに丸太を斬っていた。

俺の荒々しい斬撃が、あの境地に辿り着くのはいつになるだろうか?

エレンは見送りに来た使用人たちを見ていた。

その中に、エレンの母親の姿がある。

エレンはその姿を見ていた。

「何だ、母親が恋しいのか?」

まだ幼いエレンは、母子家庭で育っていた。

エレンが俺の弟子になったので、母親は屋敷で使用人として雇うことになったのだ。

「だ、大丈夫です」

甘えたい盛りだろうに、気丈に振る舞っている。

ただの子供は嫌いだが、エレンは俺の大事な弟子――そして、一閃流を受け継ぐ大事な存在だ。

気を使うべきだろう。

「俺の貴族としての修行が終われば、すぐに戻ってこられる。そこから本格的な修行を開始するから、覚悟しておけ――そうすれば、母親とも近くに住める」

「はい!」

――まぁ、母親の教育が終わったら、首都星に呼び出してもいいだろう。

だが、今は黙っておく。

後で喜ばせてやるためだ。

戦艦に乗り込むと騎士たちが整列していた。

その中にチェンシーの姿もある。

俺が立ち止まってその顔を見ると、堂々としていた。

「怪我はもう治ったようだな」

「はい」

「まだ俺を狙うか?」

チェンシーはまったく心が折れていなかった。

むしろ、微笑んでいる。

「――もちろんです」

周囲は緊張した様子だったが、俺は噴き出してしまった。

「いいな、お前! また手柄を立てたら相手をしてやる。精々、俺のために働くことだ」

「えぇ、いずれ――また必ず」

俺が離れると、エレンが俺の後ろを付いてくる。

「あ、あの、師匠」

「何だ?」

「あの人、何だか怖いですよ」

立ち止まった俺は、エレンに言うのだ。

「そうだろうな。俺の命を狙っている女だからな」

「え?」

「――お前が大きくなったら、色々と教えてやる。さっさと来い。首都星につくまでは、艦内でも基礎を教えてやる。俺の弟子が、弱いなど許されないからな」

「は、はい!」

いい感じの弟子が手に入った。

真面目で、一閃流を受け継ぐに相応しいのかは今後次第だが――悪くないと感じている。

素養よりも、一閃流に興味を持った感性が素晴らしい。

この子はきっと伸びる。いや、伸ばす!

弟子の件もそうだが、その他にも色々とうまくいって――いや、いきすぎだな。

普通なら奇跡と言われるだろうが、俺は奇跡なんて信じない。

日頃の行いが悪いのに、俺は幸運に見守られている。

これもきっと、案内人のおかげだろう。

歩きながら俺はどこにいるのか分からない案内人に、感謝の気持ちを送るのだった。

「この感謝の気持ちが届くように祈ろう」

「師匠?」

「ん? あぁ、お前との出会いに感謝していたところだ。お前も祈れ」

「え? あ、はい」

真面目に弟子のエレンも祈りはじめる。

案内人――届いているか?

俺たち師弟の感謝の気持ちよ――どこかにいる案内人に届け!

リアムが乗り込んだ戦艦のミサイル発射口が開いた。

出現するのは黄金のミサイルであり、それを見守っているのは犬の姿をした何か、だ。

その犬が遠吠えを行うと、黄金のミサイルは誰にも気付かれないままに飛び出す。

リアムと――リアムに感謝するエレンの気持ちが込められた惑星間弾道ミサイルが、大空へと打ち上がった。

それだけでは案内人に届かないので、ミサイルの進む先にワープゲートが出現する。

戦艦のブリッジでは、クルーたちが慌てていた。

「おい、ミサイルの発射口が開いているぞ!」

「僅かにワープ反応もあるな」

「早く調べろ! リアム様が乗られているんだぞ!」

何事かと軍人たちがすぐに調べるが、すぐに何事もなかったかのようにミサイルの発射口も閉じてワープゲートの反応も消えてしまった。

犬はそのまま消えてしまった。

帝国を離れ、外国で暗躍する案内人はスキップしていた。

「う~ん、ここならリアムの感謝の気持ちも届かずに快適だ。ちょっとジクジクと痛むが、激痛よりはマシだな」

外国で負の感情を集め、火種を見つければ燃料を投下して回る。

なんとも迷惑な案内人だった。

「この調子で力を蓄え、リアムを帝国ごと押しつぶすために――おや? 何か見えるな」

スキップしていた案内人が立ち止まると、遠くに光が見えた。

ワープゲートだ。

そこから黄金のミサイルが飛んでくるのが見えた。

「金色とは悪趣味な! 見ているだけで苛々してくる」

リアムの感謝の気持ちは、黄金好きなのが影響してか金色が多い。

そのため、案内人は黄金が嫌いだ。

いったい、どこの悪趣味な野郎の持ち物だ? ついでに不幸にしてやると考えていると、ミサイルは案内人の方に向かってくる。

「何かの事故か? まったく、迷惑なことだ」

さっさとその場から移動すると、案内人は別の惑星へと辿り着いた。

さて、これからドンドン負の感情を集めるぞ! そう思っていたら――また、ワープゲートが近くに開いた。

「え?」

案内人はここで気が付く。

「ま、まさか――悪趣味なあの黄金のミサイルは――リアムかぁぁぁ!!」

驚いた案内人がすぐに逃げようとするが、ミサイルがすぐ近くまで迫っていた。

案内人の近くに着弾すると、そのまま爆発に巻き込まれる。

「いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!! あ、熱い! 焼ける! 感謝の気持ちが――ふ、二人分だとぉぉぉ!! 今回は何もしていないのにぃぃぃ!」

普段のリアムの感謝の気持ちに加えて、純粋無垢な子供の感謝の気持ちまで乗せてきていた。

案内人は感謝の気持ちが大嫌いだ。

感謝の気持ちが燃え広がり、案内人を焼く。

これでもかと焼き、そして黒く焼け焦げてボロボロになった案内人がその場に倒れていた。

ため込んだ力を使って何とか生き残ったが、各国を歩き回って集めた負の感情がリセットされゼロになる。

案内人は泣いていた。

「許さない。許さないぞ、リアム――私がどれだけ苦労してここまで――くそぉぉぉ!! 必ず殺してやるからな!」

立ち上がって叫ぶ案内人だが、そんな彼の前に電子新聞が風に揺られて目の前に落ちた。

案内人が視線を落とすと、そこにはルストワール統合政府とリアムのバンフィールド家が取引を行ったことが書かれている。

案内人は一瞬何が起きたのか分からず、固まった後――すぐに電子新聞を手に取った。

そこに書かれている内容を読み、リアムが経済制裁を受けたこと。

その窮地を乗り切れたのが、まさか自分が反乱を起こさせた統合政府が理由とのことまで知ってしまう。

「わ、私は何もしてなかったのにぃぃぃ!」

唖然として座り込む案内人。

まさか、知らず知らずの内にリアムを援護していたのが、かなりのショックだったようだ。

そんな案内人の様子を草葉の陰から見ていたのは、電子新聞を複数咥えた犬だった。

わざと案内人が見るように仕向けていた。

案内人の姿を見て満足したのか、どこかへと去って行く。

案内人が泣きながら地面を叩く。

「こんなのあんまりだぁぁぁ!」