軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リアム様のご計画

「思っていたよりも手強いな」

クレオ殿下や御用商人たちとの面会を終えた俺は、ホテルの部屋で少し考えていた。

成人したばかりのボンボンだと思っていたクレオ殿下だが、こちらが砕けた態度を見せても動じなかった。

眉一つ動かさず、受け入れてしまった。

少し苛立ってくれれば、実力の差を思い知らせてやったのに残念である。

それにしても、元は女だからか中性的な美形だったな。

それでも骨格は男なのだが、どこか女を感じてしまう。

性転換も完璧ではないのだろうか?

一人考え込んでいるところに、ドアを開けてロゼッタがやって来る。

「ダーリン、ライナス殿下がバンフィールド家に圧力をかけているって聞いたわ! 本当なの!?」

慌てているロゼッタを見て、俺は落ち込んでしまう。

鋼の女が地に落ちて、俺にデレデレになってしまった姿は見るに堪えない。

見ているとムズムズして恥ずかしい。

「――別に問題ない」

「大問題よ! バンフィールド家の財政を支えているレアメタルの取引が出来ないのよ!」

手を振り回してアワアワしているロゼッタは、見ている分には楽しいな。

からかってやろう。

「そうだな。どこにも売れないレアメタルを抱えて貧乏暮らしだ。その内、弱みにつけ込まれて安く買い叩かれていくんだろうな。俺を捨てて逃げるか?」

試してやると、ロゼッタが俺の顔を真剣に見つめてくる。

「――ダーリンが貧乏になっても私はついていくわ。ダーリンが稼げなくても、私が養ってみせる!」

――そんな返しは期待していない。

本当に残念チョロインである。

「嘘だよ。そもそも、取引先に困っていない。その気になれば、外国に売りつけてもいいからな」

「外国って――それって下手をすると犯罪じゃない」

「喧嘩を売ってきたのはライナス殿下だ。その落とし前は付けさせる。それに、レアメタルが取引できなくても問題ない稼ぎはあるからな」

まぁ、俺には切り札の錬金箱がある。

こいつでレアメタル――帝国が輸出規制を行っている金属以外を量産し、売りつけてしまえば何の問題もない。

それすら規制するなら、もっと他の手段もある。

というか、うちってレアメタルの取引額が大きすぎて目立たないだけで、他の商売もそれなりに儲けている。

レアメタルを抜きにしても、伯爵家規模の稼ぎは出しているのだ。

リスクの分散は基本である。

「ただ、これを機に外国と手を結ぶのも悪くないな」

笑みを浮かべている俺を見て、ロゼッタが隣に腰を下ろしてきた。

「外国と? 独自のパイプを作るという意味かしら?」

「俺は俺に利がある方に味方する。それが敵だろうと関係ない」

ロゼッタが俺の本音を聞いて絶句している。

真面目ちゃんには少々きつかったか?

まぁ、この程度で驚いているようでは、悪徳領主の妻は務まらないだろう。

待てよ? こいつは俺を勘違いしている気がするし、この際だから俺が悪人である事をもっとアピールするべきではないだろうか?

「覚えておけ、ロゼッタ。真の悪党は敵と手を結んで味方を殺すのさ」

ロゼッタは俺の言葉を聞いて驚いていた。

帝国の不利益になろうと関係ない。

俺は自分の幸せのみを追い求めてやる!

ホテルの廊下を歩き、自室へと戻る途中のロゼッタは呟く。

「真の悪党――いったい誰の事かしら?」

真の悪党とリアムを結びつけることは、ロゼッタには難しかった。

何しろ、リアムはロゼッタから見ると善人だからだ。

きっとその真の悪党に対して憤慨しているのだろう、と考える。

リアムのこれまでの行動を考えると、ここまで極端な動きは珍しくない。

だが、カルヴァンやライナスの差し出された手を払いのけ、もっとも皇帝の椅子から遠い皇子を支援している。

これに何の意味があるのだろうか?

今のリアムの実力は帝国でも無視できない程だ。

そのリアムが味方をすれば、後継者争いで負けているライナスにすら勝ち目が見える。

ライナスに恩を売り、バンフィールド家を更に飛躍させるのも可能なはずだ。

そして、それはカルヴァンにも当てはまる。

ライナスほどではないにしろ、継承権争いで大きくリードするのは確実だろう。

「ダーリンは有力貴族だから、それを取り込みたい二人は待遇だってよくするはず。それを断って第三皇子に――そうなると」

なりふり構わないリアムの行動に、ロゼッタは何かあると深読みしてしまう。

「カルヴァン皇子とライナス皇子が敵と内通している?」

独自に外国との繋がりを求めて積極的に動いているリアムには、自分では知り得ない情報があるのではないか?

それを教えないのは、知ってしまえば危険だからでは?

ロゼッタは背筋が寒くなった。

「――帝国の闇というやつかしら?」

今まで自分が知らなかったが、帝国というのはとても闇が深いようだ。

そんな中でリアムは生きていると思うと、ロゼッタは素直に凄いと感心する。

自国の皇子が敵と内通し、帝国の不利益になろうとしている中でリアムが一人戦っているように感じられた。

青い顔をするロゼッタのもとに、マリーがやって来る。

「ここにおられましたか、ロゼッタ様」

「マリー? 帰ってきていたのね」

「実はリアム様より命令を受けまして。少しばかり帝国を離れることになりました。その前にご挨拶を、と考えていたのですが――何やらお悩みですか?」

「――マリー、帝国を離れるとはどこに向かうのですか?」

外国――リアムの指示で、他国へと派遣されるのだろう。

ロゼッタは、マリーに詳しい内容を聞くのだった。

マリーは少し戸惑うが、話しても良いだろうと告げる。

「ルストワールですよ。統合と呼ばれている星間国家に、商人たちの護衛として傭兵に扮して潜り込みます」

パトリスの護衛に選ばれたのは、マリーだった。

「統合政府? ――ダーリンから何か聞いている?」

「直接は聞いておりませんが、リアム様は統合政府に独自のコネを作るつもりです。私も要人たちと接触するつもりですよ。何やら、あちらは内輪揉めに忙しいようですから、その調査も兼ねています」

(やっぱり!)

ロゼッタは自分の中で何かが繋がった気がした。

「ロゼッタ様、どうかされましたか?」

マリーもロゼッタがリアムの妻であり、バンフィールド家の重要人物であるからここまで話した。

リアムから極秘とは言われていないため、詳しい事情を話している。

「ならば、私も予算を用意するから、出来るだけ統合政府の情報を集めてくれるかしら? 内輪揉めの原因に、帝国が関わっていないか調べて欲しいの」

マリーが目を細める。

「――承知しました」

マリーも裏で何かが起きていると感じ取り、ロゼッタの頼みを聞き入れるのだった。

『元特務参謀の馬鹿野郎ぉぉぉ!』

通信越しに罵ってくるのは、ウォーレスの兄であるセドリックだ。

皇族でありながら軍人として生きており、今は数千隻を率いる少将閣下である。

そんなやつの罵りを甘んじて受け入れているのは、こいつが俺の派閥だと周囲が認識したからだ。

「悪かったな。でも安心しろ。最新鋭の艦艇を送ってやるから」

『その程度で安心できるか! 俺は自分の力で生きようと決めて、宮廷のドロドロした争いには関わらないつもりだったのに!』

「まぁ、落ち着けよ。俺から資金を融通してやるからさ」

セドリックが俺に文句を言う理由だが、正規艦隊に配属されたのに急に冷遇されるようになったからだ。

艦隊を運用するための資金も減らされ、目に見えて冷遇されていた。

『しかもクレオって何だよ! 勝ち目ないじゃん! 助けるだけなら、極秘裏に逃がすとか色々とあるだろ!』

「それでは意味がない。俺はあいつを皇帝にすると決めた」

その方が俺の利益になるからな。

あと、皇帝や他の皇子たちは敵である可能性が高いし、ライナスはもう敵だ。

「セドリック、もう逃げ場はないんだ。大人しく、俺にしたがって艦隊を掌握しておけ。潤沢な予算と、最新鋭の兵器を回してやるから」

『――そこまでされれば、俺だって部下たちを抱き込めるさ。だけどよ、俺が動かせるのは一千隻程度だ。あんたの力になれると思わないけどな』

「問題ない。すぐに昇進させてやる」

『止めろよ! やっかみもあるんだ。俺は普通に功績を立てて昇進したいの!』

やる気があるようで何よりだ。

「ならば喜べ。活躍させてやるよ」

『え?』

使わない兵器に意味はない。

セドリックが正規艦隊で冷遇されているのなら、引き抜いて活躍できる場所に配置してやろう。

「実はクレオ――殿下のところに、陳状が来るようになった。海賊退治の依頼も多いが、俺の艦隊でも手に余る多さだ。お前にも働いてもらう」

『え!?』

「欲しいものをリストにまとめろ。それから、追加で一千隻を用意してやる。軍の冷や飯食らいをしている連中は沢山いるぞ! 声をかけたら集まってきた」

帝国には付け入る隙がいくらでもある!

そもそも、星間国家など隙だらけだ。

規模が大きすぎて、全体を管理するなど不可能である。

以前のパトロール艦隊でやり方は覚えた。

冷や飯ぐらいの連中をかき集めて、俺が有効活用してやろう。

「それから、知り合いの宇宙軍の司令官たちにはお前のことを話している。補給を受けたいなら、そっちの司令官たちを頼れ」

毎年の賄賂――ではなく、挨拶の贈り物はとても重要である。

快く引き受けてくれた。

『ちょっとま――』

通信を切る俺は、嬉々として次の手を考える。

「さて、次はどんな悪いことをしようかな!」

悪徳領主は楽しいな!

バンフィールド家の領地。

震えているブライアンは、侍女長であるセリーナと報告書を読んでいた。

「か、開発に全力を出すばかりではなく、軍隊まで総動員態勢ですと?」

現在、バンフィールド家は新しく手に入れた惑星の開発に大忙しだ。

入植も始まっており、そちらに莫大な予算と人手やら資源やらが投じられている。

その最中に、軍隊もほぼ全てに命令が出されていた。

再編成やら、訓練中の艦隊を除いて三万隻の艦隊が動き回っている。

残っている艦隊も、領内に分散配置されて守備には欠かせない。

セリーナも驚いていた。

「まるでノーガードで殴り合っているような状態だね。一つでも歯車が狂うと、そこから崩れてしまう危うさがあるよ」

何か一つでも失敗があると、そこで大きくつまずいてしまう。

下手をすればバンフィールド家が潰れてしまう危うさがあった。

「リアム様! どうして相談してくださらないのですか!」

ブライアンが泣いていると、セリーナが面白がるのだった。

「相談してきても私たちでは止められないよ。それにしても大博打だね。これは、成功したらクレオ殿下の皇帝も可能性として出てくるよ」

今までゼロだった可能性が、数パーセントくらいにはあり得る話になる。

リアムが本気でクレオを皇帝にしようとしていると感じるセリーナだが、ブライアンにはそんなことは関係ない。

「どうしていつも極端なのか! し、しかし、やはりリアム様ですね。この非常時にも、領民にはあまり負担がない」

領民を総動員することも可能だが、リアムはそれをしなかった。

それを優しさだとブライアンは感じ取る。

セリーナは首を横に振るのだ。

「甘ちゃんだが嫌いじゃないよ。それにしても、周辺国に目を向けるか――何かあるのかね? ブライアン、何か聞いていないのかい?」

「このブライアンは何も聞いておりませんね。まぁ、レアメタルの取引をしないのなら、犯罪ではありませんから問題ないでしょう」

「――そう、だね。本当にレアメタルを取り扱わないのなら、ね」

セリーナは随分と気にしている様子だった。

ブライアンは笑って答える。

「取り扱う品のリストは拝見しましたが、問題ないものばかりでしたぞ。セリーナも気にしすぎですな」

「そう願いたいね」