軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

経済制裁

宮廷では騒ぎが起きていた。

宰相がわざわざ足を運んだのは、ライナスのいる部屋だ。

「ライナス殿下、ご自身が何をしたのか分かっているのですか?」

ライナスは窓の外を見ている。

そこに映し出されるライナスの顔は、笑っていた。

「宰相はバンフィールド伯爵を高く評価していたな。だが、そのために 依怙贔屓(えこひいき) はいけないよ」

「自派閥に与しなかったからと、制裁を行うのが殿下のやり方ですかな?」

宰相は帝国でもかなりの力を持っている。

しかし、それを良く思わない勢力もいた。

それがライナスだ。

「貴族たちからも不満の声が上がっていてね。バンフィールド家には少しお仕置きが必要だ。レアメタルの買い付けは少し様子を見ようと言っているだけさ」

帝国だけではなく、ライナスが関わっている商会も買い取りを控えていた。

これに便乗する形で、カルヴァンたちも買い取りを控えている。

宰相はこれ以上言っても無理だと諦める。

「――殿下、時として運を味方にした者が生まれます。その者が運に見放されない限り、戦うのは賢明な判断とは言えませんね」

ライナスが宰相に振り返った。

「皇族に生まれ、そして皇太子の地位に手が届く私に運がないと? 辺境生まれの田舎貴族に、私が負けるというのかな?」

宰相は首を横に振る。

「勝負を挑まれたのは殿下です。私からは何も言いますまい。ですが、勝負に負けるという意味を忘れてはいませんか?」

「忘れるものか。私はいつも自分の命をかけているのだよ」

後継者争いで死にかけたことは一度や二度ではない。

ライナスにも自信があった。

「私を脅かせる程度に強いのなら、今度はこちらが頭を下げてでも取り込みにかかるさ」

「――忠告はしましたぞ」

宰相は部屋を出ると、すぐにバンフィールド家に忍ばせていたセリーナに連絡を送るのだった。

クレオ殿下との面会日。

儀礼用の衣装に身を包み、騎士たちを引き連れてやって来た場所は後宮のすぐ近くにある面会用の施設だった。

後宮には皇族と関係ない男子は立ち入り禁止であるため、何か用があれば監視付きの施設で面会することになる。

そこで待っていると、俺の護衛であるクラウスが何やら慌てていた。

この男、天城が推薦してきた騎士である。

地味だが仕事をする職人タイプの騎士であり、天城の評価が高かった。

流石の俺も天城の推薦を無下には出来ず、ナイスガイな騎士を側に置いた。

代わりに、容姿で選んだチェンシーとかいう騎士も呼び寄せている。

美人の女騎士は必須だ。

バランスって大事だよね。

むさいオッサンばかりが護衛だと萎える。

「リアム様、領地から緊急の連絡が入ったそうです」

「緊急?」

待合室で優雅に紅茶を飲んでいた俺に、クラウスが報告してきたのは面倒事だった。

「はい。宮廷が中心となり、バンフィールド家に経済制裁を行うという噂があります。ほとんど決定事項であり、事実だそうです」

「――内容は?」

「バンフィールド家のレアメタルの買い付けの制限です」

簡単に言ってしまえば「お前のところからレアメタルは買わないよ!」と、言われたようなものだ。

御用商人を仲介して取引しても、莫大な関税を取るとも言ってきている。

帝国内でレアメタルの取引が出来なくなるという意味だった。

「そうか。――誰が犯人だ?」

「ライナス殿下とのことです」

「あぁ、あいつか。皇位継承権第二位だったか? 俺が派閥入りを断った仕返しだろうな」

クラウスが緊張した様子だった。

だが、俺は慌てない。

案内人の加護のある俺は負けないし、そもそもこの程度でどうにかなる俺ではないのだ。

「どうされますか?」

「今はクレオ殿下との面会が最優先だ。戻ったら対策を考えるとして――まぁ、御用商人共を呼び出しておくか」

やってくれたな、ライナス殿下。

俺を蹴落とすつもりだろうが、そうはいかない。

しかし、これでライナスは俺の敵だとハッキリした。

「本気でライナス殿下と争うつもりですか?」

「クラウス、お前は何も分かっていないな。喧嘩を売ってきたのは向こうだ」

「い、いえ、喧嘩を売ったのはこちらになるかと。何しろ、ライナス殿下の誘いを蹴った形になりますし」

そもそもそこが間違いだ。

周囲には監視の目もあるため、俺はクラウスに顔を近付けるように言うと小声で話をする。

「俺を呼びつけておいて、頭を下げさせるのが気に入らない。まぁ、ライナス殿下が次の皇帝陛下なら喜んで頭を垂れてやるがな」

「――有力候補ですよ」

「候補であって決定ではないよ。それから、クラウス――俺が次期皇帝陛下の誘いを蹴ったんじゃない。俺が選ぶ人間が皇帝になるんだ。そこを間違えるな」

俺の協力を得たいなら、相応のやり方というものがある。

呼びつけておいて、参加させてくださいと頭を下げさせる奴がいるのか?

それに、だ。

傀儡にするなら、クレオ殿下の方が扱いやすそうだ。

今なら派閥で最大の支援者は俺だ。

クレオ殿下も俺に対して強気には出られない。

皇帝にするなら、やっぱりクレオだ。

そして、俺の真の敵――その可能性がある、皇帝、カルヴァン、ライナス――この三人には消えてもらうしかない。

そうしなければ、俺の平穏な生活が遠のくからだ。

そのために、三人を何としても排除するつもりだ。

真の敵ではない残り二人は巻き添えだろうが、そんなことは知ったことではない。

俺の平穏を脅かす奴はみんな敵だ!

待っていると、後宮を守る騎士たちがやって来た。

「バンフィールド伯爵、クレオ殿下がお待ちです。それから、武器をこちらに預けてからゲートをお通りください」

厳重な警戒をしているが、皇族ともなれば当然だった。

俺の護衛である騎士たちが緊張している。

後宮内で闇討ち、などという事件もあるからだ。

「ようやくクレオ殿下と面会できるな」

そう言って武器を預けた俺は、検査を受けた後にゲートをくぐってクレオ殿下と対面するのだった。

リアムが去った待合室。

護衛である騎士たちは、後宮警備隊の騎士たちに囲まれ緊張した様子だった。

隊長のクラウスも同様だ。

(このような場で、堂々と不敬になることを言われる。大物なのか、それともただの馬鹿なのか――私では判断がつかないな)

これまでの実績を考えれば、間違いなく大物だろう。

そんなリアムについていくと決めた騎士は多い。

だが、一人だけドン引きするような笑顔を見せる騎士がいた。

チェンシーだ。

「――いいわ。ゾクゾクしちゃう」

興奮して頬を赤らめているチェンシーは、リアムが側にいると言うだけでウズウズしていた。

下手をすれば、この場でリアムに斬りかかっていたかもしれない。

そんな騎士を、リアムは指名してこの場に連れてきた。

(本当に勘弁してくださいよ、リアム様! 何でよりにもよって、こんな大事な日にこいつを連れてきたんですかぁぁぁ!!)

胃が痛いクラウスは、我慢しながら背筋を伸ばして立っていた。

クレオにとって、リアムとの初対面は衝撃的だった。

「はじめまして、殿下」

「――会いたかったよ、伯爵」

皇族として色んな人間を見てきたクレオだが、リアムの雰囲気やオーラに一瞬声を詰まらせた。

時折“持っている人間”というのがいる。

優れた能力や、強運、そして常人では理解できない何か、だ。

その一つでも持っていれば成功は約束されたようなものだが、目の前のリアムは全てを持っていた。

クレオも鍛えているからすぐに理解する。

(冗談でも剣を抜けば、その瞬間に殺されるな)

自分の護衛であるリシテアを見れば、表情は凜々しいが焦っているのが分かる。

リアムが椅子に座って話し始めるが、その態度は皇族に向けるには少々荒っぽかった。

「本来なら挨拶と世間話をするのですが、俺も時間がありません。手短にいきましょうか。――何が欲しいですか?」

いきなり何が欲しいのかと問われたクレオは、まるで自分が物乞いみたいじゃないかと憤慨する。

ただ、すぐに冷静になった。

(まぁ、物乞いなのだろうな。今の俺には伯爵に返せるものがない)

クレオも椅子に座ると、長女の【セシリア・ノーア・アルバレイト】が給仕を務めてお茶を用意する。

それをリアムは疑いもせずに口にしていた。

「伯爵は肝が据わっているな」

それを聞いたリアムは笑うのだった。

「この程度で驚いてどうします?」

その物言いは、まるでクレオなど恐れるまでもないと言っているように聞こえる。

事実、そうなのだろう。

リシテアが少しだけ気に入らないと思ったようだが、会話に割り込んでは来なかった。

「忙しい伯爵をいつまでも拘束できないな。ならば、俺からの提案だ。俺の派閥に入り、俺を支援して欲しい。――見返り、俺が皇帝になれば望むままに。だが、空手形に終わる可能性が高いがね」

そんなクレオの態度に、セシリアもリシテアも驚いていた。

リアムは表情を変えない。

(さぁ、どうする? ここで怒って帰るならそれもいいが)

いったいリアムが何を求めているのか分からない。

それが一番怖かった。

ただ、リアムはクレオの正直さに興味を持ったようだ。

「いいね。下手に絵空事を言わないのが気に入った。そうだな。今のクレオ殿下には俺に見返りを用意できないだろう」

クレオから砕けた会話を求めたのだ。

リアムの無礼を咎めるつもりはない。

「事実だよ。俺には何の力もない。そんな俺に何を求め、支援するのか聞いておきたい」

「簡単な答えです。貴方を皇帝にするためだ」

「何?」

こいつ本気なのか? クレオは驚いてリアムをマジマジと見た。

相当な自信があるのか、リアムは少しも動じていない。

「正気か? 俺の立場は特殊だぞ」

「聞いていますよ。だからこそ、俺は貴方を選んだ。貴方が俺を選んだのではなく、俺が貴方を選んだ。ここ、重要ですよ」

その傲慢な態度には呆れを通り越して、尊敬すらしてしまいそうだった。

「随分と強気だな」

「こちらはもう、ライナス殿下と争いはじめていましてね。後には退けませんよ」

そう言いながらも、リアムは余裕そうだった。

「兄上と?」

「こちらは本気で支援します。クレオ殿下も遠慮せずに、何でも俺に申しつけてください。本気で皇帝になるために必要なものを、ね」

麒麟児(きりんじ) とは聞いていたが、噂以上の男だった。

クレオは久しぶりに心が熱くなるのを感じた。

(面白い男だな。宮廷にも自信のある男はいるが、ここまで揺るがない自信を持つ人間はいなかった。あのライナス兄上ですら、皇帝になれるかどうか不安がっているのに)

クレオはリアムに、自分の人生を賭けてみることにした。

「先程の答えを言おうか、伯爵。俺が欲しいのはほとんど全てだ。資金、人材、そして軍事力だ」

クレオの発言力を高めるためには、莫大な資金だけではなく人手も必要だ。

そして、バンフィールド家の軍事力は絶対に必要だった。

リアムは紅茶を飲みつつ答える。

「俺が首都星にいる間は、三千隻が近くの惑星に待機しています。今すぐとなると、それだけの艦隊を動かせますね」

三千と聞いて、リシテアがその多さに驚く。

常時三千隻を自由に出来るなど、今のクレオにとっては破格の話だからだ。

「三千!? い、いや、失礼した」

慌てて口を閉じるリシテアを見て、リアムは面白がっていた。

「おや、少ないですか? では、一万二千隻を呼び寄せますよ。クレオ殿下の武威を示すために、存分にお使いください」

その数を聞いて、リシテアはもう何も言えなかった。

クレオも同様だ。

「――感謝する。だが、それだけの数を俺が使いこなせるだろうか?」

「使いこなしてもらわないと困りますね。あぁ、丁度良い。今は暇そうな騎士がいましてね。一人を殿下のお側に置きましょう。俺との連絡役にも使えますし」

リアムが自分の騎士をクレオの側に置くと言い出すと、空中に映像が浮かび上がった。

二人の騎士の顔が浮かび上がり、その内の一つをリアムが選ぶ。

「名前はクリスティアナ。性格はともかく、優秀な騎士ですのでこき使ってください」

クリスティアナの名前を聞いて、驚いたのはリシテアだ。

「クリスティアナ? クリスティアナ准将か!?」

クレオがリシテアを見ると、恥ずかしそうに口を閉じていた。

「――有名人なのですか、姉上?」

クレオは会話の邪魔をしてくる姉に声をかける。

リアムも気にした様子がない。

むしろ、面白がってみていた。

「う、うむ。士官学校でもずば抜けた成績で卒業した女性騎士だ。文官としての評価も高く、帝国の直臣にと何度も声がかかっていたはずだ」

そのような人材を簡単にクレオの側に置く。

それはつまり、リアムが抱える人材は優秀な者が多いということだ。

「そのような騎士を手放してもいいのですかな?」

クレオがそう聞けば、リアムは興味なさげに答える。

「構いませんよ。他にも用意しましょうか?」

莫大な資金。

そして優秀な人材。

最後に軍事力――そして、これらを活用できる人材まで寄越してきた。

クレオは背筋が震えた。

(麒麟児と呼ばれるだけはある。だが、俺が皇帝になったとして、この男はその後に何を求めてくるのか?)

「将来の話はあまりしたくないが、伯爵への恩には何を持って報いるべきかな?」

クレオの言葉に、リアムは笑みを浮かべた。

これだけの支援をするのだ。

当然のように見返りを求めてくるだろう。

帝国の重要なポストか?

それとも――。

「俺は地元で好き勝手にやりたいのでね。それを認めてくれるのなら、あんたを皇帝にしてやるよ」

――クレオは首をかしげる。

「それだけか? 本当にそれだけのために、伯爵は俺に力を貸すと?」

「当然だ。もちろん、甘い汁も吸わせてもらうけどね。お互いに協力して、うまくやっていこうじゃないか」

はぐらかしている。

クレオはそう感じると、今後に不安を覚えるのだった。

(帝国を裏で牛耳るつもりか? だが、それも悪くないのだろうな。これほどの男だ。俺よりもよっぽどうまくやるだろうさ)

簡単に調べただけでも、リアムの名君ぶりはすぐに出てくる。

任せてみないと分からないが、自分が統治するよりもはるかにいい国になるだろう。

「――まずは生き残ることが先決だな。伯爵、褒美に関してはその後に話し合おう」

(どの道、生き残ってしまえばこの男の思い通りになるのだ。今の段階で褒美を決めても無駄だろうな)

リアムはお茶を飲み干すと立ち上がった。

「そうしましょうか。クレオ殿下、また会いましょう」

去って行くリアムの背中を見て、クレオは身震いした。

(――兄上たちを恐れて助けを求めたが、とんでもない男を継承権争いに巻き込んでしまったかもしれないな)