軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

首都星陥落の日

「敵艦隊が崩れ始めた? 何か変化が起きたとすれば……リアム様のご様子は!?」

敵左翼艦隊と交戦していたティアは、この戦いを左右する何かが起きたと察するとすぐに確認を取らせる。

ブリッジクルーたちが慌てて状況確認を急いでいると、通信士の一人が顔を振り向かせて報告してくる。

「リアム様がアルゴスに帰還されました! アヴィドの損害は軽微、リアム様本人は怪我もなくブリッジに戻られたそうです!」

それを聞いてティアは胸を撫で下ろした。

「流石はリアム様……と言いたいところだけれど、今回ばかりは肝が冷えました」

安堵から張り詰めていた緊張から解放されたティアは、ドッと疲れが押し寄せていた。

クローディアが側にフォローをする。

「大変な気苦労だったと思いますが、まだ我々の敵は抵抗を続けております。気を抜かれるのは早計かと」

「えぇ、そうね。クローディアの言う通りだわ」

ティアは深呼吸をすると表情を引き締め、ブリッジクルーたちに問う。

「状況把握を急ぎなさい。他の艦隊にも動きがあるはずよ」

リアムが無事に戻ってきたのならば、決着がついたということだ。

この影響が他にも波及していてもおかしくない。

案の定、他の艦隊から吉報が入る。

「本隊より情報が入りました! 後方に回ったナイトナンバー4の艦隊を率いたクラウス閣下が、味方と敵本隊を挟撃に成功!」

「左翼艦隊、敵の追撃を開始しています!」

「ナイトナンバー3の艦隊が、クラウス閣下率いる艦隊の合流……いえ、共闘しています」

この報告にティアは苦々しい顔をする。

その理由は左翼艦隊を率いるマリーにあった。

自分たちが敵左翼艦隊を率いるエルジンを崩せずにいる間、マリーは敵将を討ち取って追撃まで開始していたからだ。

加えて、クラウスは敵本隊を挟撃して倒そうとしている。

結果だけを見れば、ティアの率いる艦隊の一番武功が少ない。

「クラウス殿はともかく、マリーにも負けたというのが悔しいわね」

クローディアはティアの側で、エルジンに関する資料を表示しながら言う。

「艦隊指揮に特化した騎士のようですし、ここまで追い込んだだけでも大戦果かと」

敵は帝国の歴史に残るような騎士である。

そんな相手に勝とうとしているティアは、歴史に名を刻む偉人と同レベルだ、と言われても本人は納得していなかった。

「それは他の連中にも当てはまるわ」

さて、エルジンを崩すにはどうしたものかと悩み始めるティアだったが、通信士からの報告に眉をひそめる。

「ティア様、敵左翼艦隊を率いている司令官が、降伏を申し出てきています」

それを聞いて、ティアは小さくため息を吐いた。

「……いい判断だわ。降伏を受け入れなさい。ただし! 少しでも抵抗を見せる艦があれば、即座に撃破するように伝えなさい。気を抜いては駄目よ」

ティアの判断にクローディアが口を挟む。

「徹底的に叩かれないので?」

「相手は帝国軍であって、宇宙海賊共ではないのよ。あまりやり過ぎれば遺恨となるわ」

今後は国境を守っている帝国軍を取り込む必要があり、ここで徹底的に叩いて降伏を認めなかったという情報が出回ればバンフィールド家にとって痛手となる。

ティアはエルジンの降伏を快く受け入れるが、味方に気を抜かないよう注意も忘れなかった。

クローディアもこの判断を支持していたようだが、念のために確認したらしい。

「いつもの冷静なティア様で安心しました。宇宙海賊同様に対処されるのではないか、と少し心配していた物ですから」

「これが宇宙海賊共なら殲滅したんだけどね……今後は旧帝国全土で宇宙海賊狩りをしないと」

ティアの瞳が怪しい輝きを放っていた。

帝国の全ての領地を奪い取った暁には、宇宙海賊共は一人残らず殲滅すると誓うティアだった。

「皇帝陛下はいずこに居られるのか!」

首都星の宮殿では、宰相が声を荒げて近衛騎士に詰め寄っていた。

しかし、近衛騎士たちは無表情で宰相に応対する。

「皇帝陛下は神聖な用事があるため誰も近付けるな、とのご命令です。我々はあなたであろうと皇帝陛下の居場所を伝えるわけにはいきません」

近衛騎士の反応に宰相は頬を引きずらせた。

「馬鹿な……帝国が敗北しようとしているこの時に、神聖な用事とは何だ? すぐに皇帝陛下をお連れせよ! このまま首都星に残れば、バンフィールド家に捕えられて本当に帝国は滅ぶことになるのだぞ!」

最初は皇帝バグラーダを連れて首都星を脱出し、どこかの惑星で再起を図るつもりだった。

そうすれば、帝国中に散らばっている味方を集め、再びバンフィールド家と戦える。

宰相の中では、まだ帝国は負けていなかったのだが……バグラーダがいなければ無意味だった。

「もうよい! お前たちには頼らぬ」

(もしや、このような時にもあの場所に?)

宰相の中でバグラーダがいた場所が思い浮かび、自然と足が向かおうとすると近衛騎士たちが立ちはだかった。

宰相は取り囲まれる。

「何をするか!」

「皇帝陛下の邪魔はさせません」

宰相はそのまま、近衛騎士たちに連れて行かれるのだった。

「忠誠心だけの馬鹿共が! 今がどれだけ危機的状況であるか理解しておらんのか!」

宰相の叫び声が、豪奢な宮殿の廊下に響き渡っていた。

その頃、宮殿内でも激しい戦いが起きていた。

ある建物の屋上には、似たような二つの集団が相対していた。

一つはククリ率いるバンフィールド家の暗部……もう一つは、グレアムを長年支えてきた暗部の集団だ。

ククリは興味深そうに、同族たちの姿を見ていた。

「ふむ……我々の技だけを盗んだ集団とは違いますね。ここに来るまで何度か戦いましたが、非常に苦戦させられましたし……もしや、同族の方々ではありませんか?」

殺し合いをしている中で、一人だけ普段と変わらない口調のククリは妙に目立っていた。

対する敵側の統領……ククリ……今代の統領が言う。

「二千年も前に封印されたお前たちと違って、我らの先祖はグレアム様に忠誠を誓ったのだ。そして、今代のククリは私だよ」

ククリというのは統領が代々受け継ぐ名だ。

ククリは指先の長い爪で頭をかく。

「それは困りましたね。代替わりを行ったつもりはないので、今でも私は現役のつもりなのですよ。ククリという名を名乗らせては、私の沽券に関わってしまう」

クツクツと笑うククリを前に、今代の頭領が武器を構える。

「お前たちは暴れすぎたのだ。影は影に徹すればいいものを、派手に暴れて我らの名を表社会に知らしめていた……今度は封印などせず、ここで全員を処分する」

言われたククリは、自分の部下たちに視線を向けて肩をすくめる。

今代の頭領が言っている話に、身に覚えがないためだ。

「おやおや、随分と悪者にされてしまいましたねぇ~」

側にいたクナイも笑っている。

「我らの名を広めたのは、他でもない我々を多用してきたグレアムの責任だと思いますが」

他の部下たちもケラケラと笑っていた。

ククリが今代の頭領に向かって構える。

「あなた方に同族を裏切った罪を償わせるのは酷というものですが……あの愚物に味方し、今も皇帝に仕えているなら殺すしかありませんね。あ、ご安心を。遺体は今代の同族がどのような技術を身につけていたのか、徹底的に調査するため弄んだりはしませんよ」

今代の頭領がククリに返事する。

「二千年以上前の同族の遺体が手に入ったなら、標本として飾ってやる。光栄に思え」

二つの集団が一斉に動き出し、そして激しく戦い始めた。

宮殿の一室、そこにはメイドたちが集まっていた。

その中には私服姿のセリーナもおり、周囲のメイドたちから世話を受けている。

運ばれてきた高級な飲み物を口に含むと、セリーナが顔を上げてメイド長を見た。

「随分と腕を上げたじゃないか、カトレア」

「ありがとうございます、お婆さま」

一室に集まったメイドたちだが、全員が血縁者である。

ほとんどがセリーナの孫やひ孫たちであり、現役で宮殿のメイドをしている者たちだった。

中には年若い玄孫の見習たちまで。

まとめているのは年長で、メイド長を務めるカトレアだった。

カトレアは以前にロゼッタの教育係を務めており、バンフィールド家とも縁のある人物だ。

そして、セリーナは少し前までバンフィールド家にて礼儀作法を教えており、同時に宰相に情報を流していたスパイでもある。

セリーナは言う。

「それにしても、まさかこんな日を迎えることになるとは思わなかったわね。あのバンフィールド家が、帝国に牙をむくばかりか終焉を招くとは予想外だったわ」

深いため息を吐くセリーナは、周囲にいる沢山の孫やひ孫たちを前にして心苦しくなっていた。

メイドとしての心構えを徹底的に叩き込んだのはセリーナ本人であり、いざという時も最後まで主君に仕えて自分の仕事を果たせ、と何度も言ってきた。

その結果、孫やひ孫、玄孫までもが、宮殿に残ってしまった。

自分一人ならば逃げられるし、宰相にも「逃げなさい」と言われていた。

しかし、孫たちを置いて首都星を離れるわけにはいかなかった。

セリーナはカトレアに尋ねる。

「カトレア、私がお前たちに逃げろと言ったらどうするね?」

カトレアは不安そうな見習たちに視線を向けてから、セリーナの問い掛けに答える。

「見習たちは正式なメイドではありませんので、お婆さまが連れて逃げてくれれば幸いです」

「……結局、お前たちは残るのかい。どうやら、私は教育を間違えたらしいね」

自分一人が生き残っても、孫たちがいなくなれば意味がない。

セリーナは、帝国は滅びないと信じ切っていた自分を恥じる。

すると、ドアが乱暴に開け放たれた。

そこにいたのは、激しい戦闘を終えてばかりのような傷だらけの暗部と思われる者たちだ。

「おや? こんなところにメイドたちがいるぞ」

「戦闘員しか残っていないと思っていたが、避難していなかったのか?」

「負けると思っていなかった馬鹿共だ。斬り刻んでしまえ」

残虐性の高い暗部たちを前に、セリーナが立ち上がって前に出た。

「あなたたちの所属を聞かせてもらえるかい? ……念のためにね」

暗部の一人がケラケラと笑っている。

どうやらこちらも年若い者らしい。

「バンフィールド家の暗部を担う者たち、そういえば理解できるか? できたなら、俺たちの遊び相手になってくれよ」

「……あんたらが自由に動き回れる状況ってわけかい」

既にバンフィールド家の手の者が宮殿で自由に動き回っている。

これは、もうほとんど戦いが帝国の敗北で終わったことを意味していた。

武器を手に持った暗部たちが、セリーナに迫ろうとすると……天井から女性の暗部が降り立った。

天井をすり抜けて現われた女性の暗部は、片腕を失っており応急処理をした跡がある。

そして、年若い暗部たちを睨み付けた。

「この馬鹿共が、保護対象のリストくらい確認してから仕事をしろ。それから、非戦闘員での遊びはなしだと言ったはずだ」

女性に言われると年若い暗部たちが萎縮していた。

「クナイの姉御……」

「……セリーナとカトレアだ。保護対象に指定されている」

「じゃあ、他の連中は殺していいんよな? 一応、箒とか構えているから戦闘員判定で良くない?」

若者たちの反応にクナイは小さなため息を吐くと、セリーナの方を向いた。

「こちらが一方的に認識していた関係ですが、お久しぶりですね、セリーナ殿。あなたは丁寧に扱えと命令を受けております」

「……バンフィールド家の暗部の者だね? 話が通じそうな子がいて助かるよ。私はどうなってもいいが、この子たちは助けて欲しいと言ったらどうするね?」

スパイ活動をしていた自分はともかく、カトレアたちだけでも助けたかった。

クナイは年若い暗部たちを部屋から出るように視線で促し、そしてカトレアたちの処遇について話をする。

「ロゼッタ様から非戦闘員の命は奪わぬように、と命令を受けております。あなたも含め、こちらで用意した宇宙船で避難して頂きます」

「私も含めてかい。リアム・セラ・バンフィールドは甘い男だね。どうせ、ロゼッタ様に懇願されて、この老いぼれを許したのだろうさ」

その言葉にクナイは殺気を放つ。

「調子に乗るなよ、元教育係……お前を生かすと決めたのはリアム様ご本人だ。我々がスパイだったお前の殺害を願い出たが、それだけは認めてくださらなかった」

それを聞いてセリーナは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに冷静になった。

「……本当に甘い男だよ。そんな男を追い詰めて、帝国が滅ぼされるんだから皇太子殿下の罪は重いね」

自分を生かす程の甘さを持つリアムに、帝国打倒を決意させたクレオをセリーナは責めずにはいられなかった。

クナイは素っ気なく言う。

「死にたくなければさっさと来い。帝国が崩壊する様を、お前たちには特等席で見てもらう。よかったな……偉大な歴史の生き証人になれるぞ」