軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

歴代最強の騎士

エルジン率いる帝国軍左翼の艦隊は、バンフィールド家の猛攻に苦戦を強いられていた。

左翼旗艦のブリッジにて、エルジンは対するクリスティアナの戦術に目を見開いている。

魅入っていると言ってもいいだろう。

「現代戦も頭に叩き込んではいたが、ここまでの妙技を見せられては敵わないな。まさか、この時代にこんなに優れた指揮官がいるとは、やはり宇宙は広い」

感心する素振りは見せても、エルジンは負けるつもりは一切なかった。

「出来れば一度面会したかったが……今更だな」

相手は帝国に牙をむいた謀反人たちだ。

自分が対面するとしても、それは鉄格子越しだろう。

「艦列を変更して戦い方を変えよう。それはそうと、本隊と右翼の動きが悪いな……コーネリアス殿もディーディーも遊んでいるのか?」

エルジンが他の味方艦隊の動きを不審に思っていると、ブリッジに一人の兵士が駆け込んできた。

制服のワッペンを見れば右翼艦隊所属の兵士らしい。

わざわざ情報を持って報告に来たのは、正確な情報を知らせるためだ。

通信機器も発展しているが、戦場であるために誤情報まで広まりやすい。

また、敵が通信妨害をした場合を考慮して、このような古臭い手段に一部回帰していた。

「エルジン閣下に報告いたします! 右翼艦隊を率いる旗艦が敵に撃破されました! ディーディー様は行方不明でありますが、直前に機動騎士に乗られて反応がロストしたことまでは確認済みです!」

焦りを感じているだろう兵士の顔を見て、エルジンは小さくため息を吐いた。

行方不明とは言っているが、報告している本人も撃破されて戦死したと八割くらいは思っているのだろう。

残り二割は、ディーディーならば生き残っているかもしれない、という期待だ。

エルジンは状況把握を優先し、ディーディーの安否には触れない。

「次席指揮官に指揮権は移行しているか?」

「はい。ですが、隙を突かれて接近を許してしまい損害が出ております。立て直しはしましたが、厳しい状況です」

「コーネリアス殿には報せたか? ……いや、今は何を言っても無駄か」

敵の総大将と一騎討ちに興じているらしいコーネリアスに、こんな報せを届けたら水を差されたと激怒して爆殺される可能性が高い。

兵士もそれは理解しているらしい。

「指揮権を預かった代理の将軍に報告はしております」

「……今指揮を執っている将軍たちと連携を取る」

エルジンが全体の指揮を執ると判断すると、報告しに来た兵士は安堵した顔をしていた。

しかし、エルジンの内心は落ち着いてなどいられない。

(強敵を目の前に他の艦隊も指揮するのか……コーネリアス殿が戻って来てくれればいいが、予想よりも時間がかかっているな)

敵の総大将であるリアムが、意外にも粘っていると内心では驚き、そして僅かに苛立たされる。

(……予想していたよりも被害が大きい。これは、今後の活動に支障が出るぞ)

この戦いに勝利した後は、バンフィールド家を滅ぼし、三騎士は各地の国境に送られて他の星間国家を相手に戦う予定だった。

その計画が崩れようとしている。

エルジンは嫌な予感がする。

(万が一にでもコーネリアス殿が負けた場合は……もう劣勢を覆すのは不可能だろうな)

それはつまり、帝国の敗北を意味する。

ただ、逆にコーネリアスが勝てば状況は一変して帝国軍に大きく傾く。

「……この規模の戦争が、一騎討ちの結果に左右されるなど悪夢だな」

エルジンはそう呟いた。

その頃、アルゴスのブリッジではクラウスが指揮を執っていた。

ただ、率いているのはアルゴスと護衛艦のみ。

エレンやエマが率いる艦隊には、ナイトナンバーズの特権もあり命令も出来ない。

出来るのはお願いだけだ。

クラウスはリアムの安否を気にかけている。

「リアム様はまだ生きているのだな?」

「は、はい! それは間違いありません」

ブリッジクルーたちは、アルゴスの性能を全て使ってリアムとコーネリアスの戦いを見守っていた。

コーネリアスに近付いた機動騎士や戦艦は、見えない攻撃を受けたのか爆発してしまった。

不用意に近付けないばかりか、リアムに来るなとまで命令を受けている。

これでは手出しが出来ない。

クラウスは届いた映像……数分前の物を確認しながら言う。

「随分と派手に戦っているが、これは機動騎士同士の戦いには見えないぞ」

コーネリアスの機動騎士が発生させている大爆発は、戦艦すら容易に呑み込む規模だ。

それが連続で発生している中を、アヴィドが逃げ回っている。

時折、反撃をしているらしいが……コーネリアスも回避していた。

戦況を観測しているクルーが言う。

「敵艦隊も近付いていません。機動騎士も向かわせておらず、静観の構えです」

それを受けてのクラウスの感想は……。

(あの爆発の中に飛び込む勇気がない、というわけではなさそうだな。自分たちの大将を信じているのか? それとも命令で近付けないだけか……いや、これは信じ切っているな)

クラウスが敵艦隊の動きを見ていると、エレン率いる艦隊に猛攻を受けながらも立ち直りつつあった。

それは、コーネリアスが現われた影響なのだろう。

十万隻の艦隊が三万隻程度まで減少していたが、艦列を整えて抵抗を見せ始めている。

クラウスは一つ思い付く。

「艦隊による一斉射での援護は?」

「無理です。二機とも戦場を激しく移動しているため、主砲による一斉射が当たるとは思えません」

即座に否定する部下に、クラウスは頭を振る。

「違う。援護するのは我々の前方だ」

「前方? ……敵本隊を直接狙われるのですか!?」

クラウスはこの場にいてエレンのフォローに回ったエマの艦隊に目を付ける。

「ナイトナンバー4の艦隊に協力を要請する。我々はこのまま敵本隊の背後を突き、早期にこの戦いを終わらせる」

(そもそも、今はこれくらいしか出来ないし……)

派手に大爆発を連発しているコーネリアスの雰囲気が変わった。

『……敵艦隊の動きが変わった? 私の艦隊を挟撃するつもりか? 煩わしいことをしてくれる』

別働隊十万隻が崩れ、残りはエレンの艦隊が対処していた。

その隙を突こうと、クラウスはエマ率いる艦隊に協力を求めて味方本隊と戦闘をしている敵本隊を挟撃するつもりらしい。

「俺の自慢の右腕だ。お前たちは終わりだな」

アヴィドの中から戦況を見ているが、どうやらこちらに優位な状況に傾きつつあるらしい。

そして、クラウスが動いたのならば艦隊戦はこちらが勝つ! という自信があった。

コーネリアスは不満そうにしながらも、どこか楽しそうにも見える。

『一騎討ちに水を差されてしまったが、確かに最善ではある……今代の最強は、私を楽しませてくれるじゃないか』

まだ自分の方が上だと思い込んでいるコーネリアスに、俺は言う。

「いつまでも最強が自分だと思っているように聞こえるな。いい加減に認めたらどうだ? お前は艦隊戦でクラウスに及ばないとな」

こんな会話をしている最中だが、コーネリアスは爆発魔法を放ち続けていた。

そして、俺は逃げ回ったままだ。

『減らず口を叩くものだ。しかし、最強の騎士として機動騎士での戦闘は私が勝利するだろう。そして、この戦いが終われば、私がお前の艦隊を蹂躙して勝てばいい。それだけの話だ』

確かに今のコーネリアスならば、俺の艦隊に大打撃を与えることは可能だろう。

機動騎士で増幅しているのかもしれないが、爆発魔法でアヴィドにこれだけの被害を与えるのだから……最早、人外である。

外付けで魔力を貯め込んでいるにしても、人の魔法がここまで機動騎士戦で活躍するなど常識から逸脱し過ぎである。

「そうだな。だが、それは俺も同じだ。ここでお前を倒して敵の戦意を削いだ後は、お前の艦隊に襲いかかって蹂躙してやる……そうすれば、帝国の守りはなくなり、首都星は丸裸だ!」

高笑いしてやれば、コーネリアスの表情が変わった。

笑みを浮かべているが、目だけが笑っていない。

『帝国首都星は皇帝陛下の住まわれる場所……強者であろうとも皇帝陛下への不敬は許されない』

「そろそろお前との戦いも飽きてきた頃だ。ここで終わらせてやる」

『逃げ回っているだけのお前に、この私が倒せるかな?』

「やってみるさ」

アヴィドの操縦桿を握り直し、フットペダルを踏み込む。

機体が震えるほどの加速を行うと、コーネリアスの機体も追従してくる。

性能はほとんど互角らしい。

『お前のアヴィドはレアメタルの塊らしいが、それはこちらとて同じこと。いや、むしろ、そちらの性能以上を目指して建造された機動騎士だ。性能差で押し切るのは不可能だぞ』

アヴィドを超える機動騎士を用意した、にしては性能が足りていない。

俺から見ればほとんど互角である。

その差を埋めているのは、きっとアヴィドに与えたマシンハートなのだろう。

「悪いが、お前の機動騎士では俺のアヴィドに及ばないな」

『機体に愛着を持つタイプか? 理解できないな。機動騎士などしょせんは道具だ。より優秀な道具に乗り換える方が効率的だ』

「理解されなくて結構だ」

アヴィドがその性能を全力で発揮し、コーネリアスの機動騎士を突き放すと体の向きを変えた。

居合いを放つような構えを取った瞬間、コーネリアスが勝利を確信した笑い声を出す。

『最後は自慢の一閃頼りか? だが、そこは既に私の間合いだ!』

言い終わった直後に起きるのは、アヴィドに襲いかかろうとする爆発……その前兆だった。

奴が爆発を起こすポイントには、膨大な魔力が発生する瞬間があった。

本当に短く、一秒もないその瞬間を俺は待っていた。

「俺が今まで逃げ回っていただけだと思うのか? 一閃流は元来化け物を屠るための剣。お前たちを狩るために存在している」

人とは思えない魔力量を持つコーネリアスは、禍々しい気配を放っているため既に人外だ。

こいつは一閃流の剣士としても、この場で倒しておかねばならない。

アヴィドが一閃を放つと、コーネリアスの魔法が斬られて不発に終わる。

それを見てコーネリアスが目をむいていた。

『……馬鹿な。ブラストが発生する前に斬ったとでもいうのか?』

アヴィドが血を払う可能に刀を一振りし、そして肩に担いだ。

「一閃流を舐めるな。それとな……斬ったのは魔法だけじゃないんだよ」

俺が言うと、コーネリアスも気付いたのだろう。

自分の胸を押さえ、そして口の端から血を流す。

そのまま俺を見ながら言う。

『歴代最強の騎士としての座を譲る時が来たが、まさか相手が謀反人の上に化け物とは……皇帝陛下、申し訳ありません』

コーネリアスが口から血を吐くと、その体は竹を割ったように両断された。

アヴィドのコックピットから見えるコーネリアスの機体も、同じように両断されて左右に分れると数秒後に爆発する。

ただ、俺はコーネリアスに一言言ってやりたかった。

「本物の化け物であるお前と、この俺を一緒にするな」

その頃、案内人は頭を抱えて地面を転がるように、宇宙空間で悶えていた。

「化け物はどう考えてもお前の方だよ! 何だよ、発生前の魔法を斬る、って!? もうこんなの卑怯だろ! 反則だろ!? よくも私のコーネリアス君を殺してくれたな! 私がどれだけ支援してきたと思っているんだ!」

コーネリアスを全力で支援していた案内人の体は既にボロボロで、更に戦場に渦巻く負の感情は吸い尽くしていた。

今も負の感情は発生しているが、一度ゼロになったため案内人の傷を癒すには足りなかった。

「……負の感情が足りない。こうなれば、首都星に入って体を癒さなければ……また、リアムに勝つために力を蓄えなければ……」

案内人はフラフラと首都星を目指すのだった。