軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ナンバー5

ナイトナンバー「5」に任命された【クリスティアナ・レタ・ローズブレイア】は、ミドルネームから【セラ】を抜いて【レタ】に戻していた。

これは帝国騎士の称号を捨て、姫騎士と呼ばれていた頃の――故郷のミドルネームを選んだからだ。

マントには「5」の数字が凝らした刺繍がされている。

そんなクリスティアナ――ティアがいるのは、超弩級戦艦のブリッジだった。

初代総旗艦ヴァールであり、ティアの乗艦にされる際には改修を受けていた。

その方が安上がりだったのもあるが、既に運用されていた超弩級戦艦はクルーの確保が容易だった。

また、運用するクルーは高い練度を誇っている上に、ティアにしてみればリアムとの思い出もある艦だった。

そんなヴァールのブリッジにて、ティアは提督用のシートに座っている。

ティアの周囲には投影されたスクリーンが何枚も用意され、管理下の艦隊がどこに展開されているのか表示されていた。

ティアの艦隊だが、バンフィールド家の本星であるハイドラから随分と離れた場所に展開されている。

理由は――帝国首都星への道を用意するためだ。

「長距離ワープ装置を無事に確保できて嬉しいわ」

バンフィールド家の艦隊が、首都星攻略を容易にするためワープ装置を確保。

そのまま、ハイドラにあるワープ装置と繋ぐ作業が行われている。

ティアの副官を務めている【クローディア・ベルトラン】中将が、今回の作戦が成功したことに祝いの言葉を述べる。

「おめでとうございます、ティア様」

「ありがとう、クローディア。少々強引な作戦だったけれど、目的を無事に達成できて何よりだったわ」

「強引? ご冗談でしょう。征伐軍が物資を吸い上げた航路を辿り、予定通りの制圧でした。理想的とも言える作戦でした」

六百万という規模の征伐軍は、移動するだけで航路上にある惑星の物資を大量に吸い上げていた。

吸い上げられた物資が補充される前に、ティアたちは攻め込んでいた。

「あら? これでも強引なのよ。もう少し時間的に余裕があれば、もっとスマートに航路を確保できたわ」

ティアからすれば、鮮やかに見える手際も強引に過ぎた。

強引な手段に出たのは、帝国に時間を与えないためだ。

ティアはクローディアに今後の話をする。

本星――ハイドラとの打ち合わせ次第だが、このまま確保した航路の防衛がティアの理想だった。

「ハイドラに連絡しなさい。航路を確保したので補給物資を送ってほしい、とね。それから、一部の艦隊も本星に戻したいし、代わりの艦隊も送ってほしいわね」

次々に要望を出すティアに、クローディアは苦笑している。

勝手に敵地の奥深くに攻め込み、航路を確保したから物資と艦隊を送れ――ハイドラの官僚たちが聞けば、憤慨物の話だろう。

軍部にしても、勝手が過ぎると不満が出るはずだ。

「官僚ばかりか、軍まで敵に回してしまいそうな要望ですね」

ナイトナンバーを得たティアは、自前の軍隊を所持している立場にある。

つまり、バンフィールド家の私設軍から切り離されていた。

それなのに、あれこれ命令されては軍も腹立たしいだろう。

しかし、ティアは視線を険しくする。

「航路を確保したという価値を認められず、自尊心から憤慨する連中ならば必要ないわ。帝国に勝つためには必要な作戦よ」

既に並の星間国家よりも巨大になったバンフィールド家では、リアムだけの判断で動かす規模ではなくなっていた。

足りない部分は臣下がフォローしなければ、既に健全に回らない規模になっている。

むしろ、これまでよく一人で回せたものだと、ティアは感心していた。

クローディアもその辺りの事情を察しているらしい。

「ナイトナンバーズ――今にして思えば、タイミングは完璧でしたね」

随分前にリアムが自分の騎士たちに番号と格別な待遇を用意すると言ったのは、この時のためではないかと思えるほどだ。

ティアは目を閉じて微笑を浮かべる。

「どちらでも構わないわ。ここまで予測して用意していたなら能力が優れているし、偶然であれば天運に愛されている証拠よ」

自分が仕える主君は凄かった、という理由が一つ二つ増える程度だ。

クローディアがティアの意見に賛同する。

「騎士や軍人であれば、天運に選ばれた主君は大歓迎ですよ」

運が悪ければ簡単に死んでしまうような世界で、運に恵まれているというのは他の何よりも価値があった。

雑談しながらも、クローディアはティアの要望をまとめてハイドラに送信する。

長距離ワープゲートを手に入れた事で、ハイドラへの通信も容易になっていた。

「本星に連絡しました。どのような判断が下されるのか楽しみですね」

クローディアの報告に、ティアは笑みを浮かべる。

「艦隊を再編して周辺惑星の制圧を開始するわよ。今の帝国に、私たちに構っている余裕はないわ。精々、暴れてやりましょう」

ティアが思い浮かべていたのは、リアムを裏切ったクレオだった。

(廃嫡されて処分されたという情報はない。生きているのか、それとも死んでいるのか――どちらでも構わないけれど、リアム様を裏切った代償は帝国に支払わせるとしましょう)

ティアの瞳の奥に、怪しい光が宿っていた。

屋敷の執務室にて会議を開いていた。

参加するのはホログラムの軍関係者たちだ。

数十人規模の会議なので、本来は会議室に赴きたいのだが――俺は忙しいので、リモートで参加していた。

前世の仕事を思い出してしまうな。

そして、今回の議題はティアの勝手な振る舞いについてだった。

『ナイトナンバーズの中でも、クリスティアナ様の振る舞いは目に余ります』

『本部の命令を無視して勝手な行動を繰り返し、補給物資と艦隊を派遣しろというのはあまりにも増長が過ぎます』

『すぐに帰還命令を出すべきです』

軍の中核を担っている連中は、ティアの行動に頭に来ているらしい。

その理由も理解できる。

何故ならば、艦隊の再編に忙殺される中、勝手なことを言い出す奴が現われたのだから。

しかし、半数以上の意見は好意的でもあった。

『――認めたくはありませんが、ワープゲートの確保は今後を考えると最善手でした』

『予定を変更することになりますが、補給物資と艦隊を派遣するべきです』

『可能ならば軍事基地の確保も優先するべきでしょう』

苦々しい顔をしながらも、今後を考えて受け入れるべきという意見が大半だった。

反対した連中も、否定する意見を述べて満足したのかそれ以上は何も言わない。

忙殺されている部下たちの不満くらい許してやるべきだろう。

俺は参加者に拍手を送る。

「橋頭堡の確保とは素晴らしいな。ついでに、お前たちの判断もよかったぞ。ワープゲートを放棄するよう言い出したら、全員を降格処分にしていたところだ」

上機嫌の俺に対して、将軍たちが判断に困っているような顔をしていた。

俺が冗談を言っているのか、不機嫌になっているのか――その判断に困っている。

神経をすり減らす部下たちを見ているのも楽しいが、あまりいじめては艦隊の再編に支障が出るのでここで止めておこう。

「不平不満、大いに結構。その上で、最善を選んだお前たちを高く評価してやる。それにしても、ティアの行動には驚かされた」

戻ってこないと思えば、敵地深くに潜り込んでワープゲートの確保とは恐れ入った。

「――実に俺好みだ。補給物資も艦隊も大量に送ってやろうじゃないか」

俺の判断を聞いて、将軍たちが困惑していた。

『再編計画に支障が出ますが?』

「俺は個人的に補給物資を備蓄している。親衛隊に運ばせるから、お前たちは派遣する艦隊を用意してやれ」

『さ、再編したばかりの艦隊は、配属先が決まっています。今後再編される艦隊も、提督たちが奪い合っている状況でして、大量に送れば他から不満が出ますが?』

将軍の一人が申し訳なさそうにしながら、派遣する艦隊は大量に用意できない理由を述べる。

それくらい俺も知っていた。

何しろ、再編が終わった艦隊を提督たちが奪い合って問題まで起きていた。

自艦隊の戦力充実は最優先だから仕方ない。

多少強引な手を使ってでも、戦力確保が提督の勤めでもあるのだから。

「誰が再編の終わった艦隊を送れと言った? 丁度いいから、ティアの奴にも再編を手伝わせてやれ。要塞級を数隻送って、現地で再編と訓練をさせろ」

将軍同士が目配せを交わし、そして俺の言いたいことを理解して笑みを浮かべていた。

つまり、忙しい仕事をティアに丸投げしていい、と俺がお墨付きを与えたわけだ。

『クリスティアナ様に送る艦隊ですが、このままであれば数十万隻規模になってしまいそうですね』

「そこまで送ってくれるとは、お前たちの判断に感謝しないといけないな。だが、これでティアの要望を叶えてやれそうだ。お前たちには苦労をかけて申し訳なく思う」

言葉ばかりの謝罪をすると、将軍たちが笑っていた。

『これも臣の勤めであれば、お気になされる必要はございません』

ティアに余計な仕事を与える形になったが、あいつは放置しているとそのまま周辺に手を伸ばしてしまうだろう。

悪くはないが、やり過ぎてしまうのも考えものだ。

再編を手伝わせつつ、橋頭堡として最前線の基地を用意させればいい。

普通の騎士なら過労死する仕事量になるだろうが、あいつなら大丈夫だろう。

「そうであれば、ティアが俺のために忙殺されても仕方がないことだな?」

『勿論でございます!』

将軍たちの返事が一斉に重なり、適度な一体感を得られて俺は満足した。

会議を終え、その後に執務を終わらせたら夜中を過ぎていた。

この辺りで眠ろう――などと休んでいる暇はない。

屋敷を飛び出して向かった先は、旧第七兵器工場だ。

一部施設を帝国に返還した第七兵器工場だったが、採掘の終わった小惑星を運び込んで連結させている。

施設の拡張を行いながら、バンフィールド家の艦艇や機動騎士――その他諸々を大急ぎで用意させていた。

引き渡し予定の艦艇と機動騎士は、旧第三兵器工場と共同開発された物である。

性能だけでなく、生産性と整備性、そして拡張性を求めた品だ。

完成品を前に俺は上機嫌になり、両手を広げてしまった。

ある種の感動だろうか? あれだけ俺を困らせてきた第七兵器工場が、第三兵器工場の協力を得たとは言え、リテイクなしで満足する兵器を用意してくれたのだから。

「お前たちもやれば出来るじゃないか!」

「どういう意味ですか?」

目の下に隈を作ったニアスが、恨みがましい視線を俺に向けてくる。

忙しすぎて寝る暇もないのだろう。

「大急ぎで用意させたにしては、完成度の高い艦艇と機動騎士だな。再編された艦隊に引き渡したが、評判はよかったぞ」

カタログスペックも優秀だったが、問題なのは現場で受け入れられるかどうかだ。

高すぎる性能を所持していても、使えない兵器は現場に嫌われる。

それがなかった、というのは成功と言っていいだろう。

ニアスが深いため息を吐いていた。

「こっちだって必死になりますよ。リアム様が負けたら、私たちだって終わりですからね」

一蓮托生というわけか。

実際は兵器工場も裏切り者を多く出したらしいが、征伐軍を退けたおかげで落ち着きを取り戻したらしい。

「それで――兵器の質という点で、帝国軍の最精鋭に勝てるか?」

問い掛けると、ニアスは即座に答える。

「無理ですね。こちらが所持している技術は、既にあちらも所持しています。それに、こちらが持っていない技術も使い放題ですから」

技術面では負けているため、装備の質では帝国軍に軍配が上がった。

「それもそうか」

納得して受け入れる俺に、ニアスは仕事を続けながら問い掛けてくる。

「本当に勝てるんですか? 帝国は今まで首都星に攻め込まれたことはありませんよ。記録だけでも、二千年前に内乱で騒ぎが起きただけですよ」

「二千年前?」

「もっと詳しく言えば二千百年以上前、ですけどね」

何かと聞く機会が多いな。

二千年前と言えば、今よりも皇位継承権争いで血が流れた凄惨な時代らしい。

ロゼッタの実家も関わっていたし、マリーなど当事者だ。

ウォーレスからも度々聞く時代だが……まさかな。

「それなら俺が一番乗りだ」

「その自信過剰なところ、子供の頃から変わりませんね。もっとも、あの頃のリアム様はもっと可愛げがありましたよ」

「お前もな」

「私は今でも可愛いですよ」

何を言っているのだ? と本気で思っているような顔をしたニアスは、確かに出会った頃とほとんど変わらない。

それがいいのか、悪いのか。

「思うだけなら自由だ。好きにしろ」

「その言い方、本当に可愛くありませんね。あ~あ、昔のリアム様の方がよかったな~」

そう言って、ニアスが俺の子供時代の画像を見せてくる。

それも何枚も。

――何でこいつ、おれの子供時代の画像を沢山持っているの?

「可愛げならエドの奴に求めてやれ。可愛い盛りだぞ」

「あの方は将来的にちょっと不安ですね。女遊びで痛い目を見れば、少しは反省してまともになると思いますけど」

「あいつは女遊びが下手そうだからな」

「――え?」

そう思って頷くと、ニアスが目を見開いて驚いていた。