軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「何が悪徳領主になる、だ。他人の利益を奪うならまだしも、自分の利益を奪われて気付きもしない。エドには悪党の才能がないな」

エドには悪徳領主として必要な、自分の利益を追求するという信念が欠けていた。

部下たちにいいように利用されていたのも情けない。

俺が執務室で嘆いていると、仕事の補佐をしてくれる天城がこちらにチラリと視線を向けた。

「不確定な情報をもとにした私の推測ですが、遺伝かもしれませんね」

親に資質がなかったと言われて納得する。

俺の頭に思い浮かんだのは、善人であるロゼッタだ。

「天城の意見には賛成だ。エドワードはロゼッタの血を濃く引いたな。俺の血が強ければ、悪党としてもっと才能があったはずだ」

転生して百年以上の時が過ぎた。

異世界にてバンフィールド家の当主となった俺は、今も悪徳領主として邁進している。

そんな俺の息子が善人というのが笑える話だと思った。

気が付けば、天城が露骨に驚いていた。

俺でなくとも気付ける程度に目を見開き、その後にジト目を向けてくる。

「私は旦那様の遺伝子だと申し上げたかったのですが」

「俺の!? いや、それはないだろ。絶対にロゼッタ似だ」

エドワードが俺に似ている?

今の話の流れで言えば、つまり俺に悪党の才能がないという意味になる。

そんなのあり得ない!

断固として否定する構えを見せた俺に、天城も説得を諦めたのか視線を逸らした。

「――そうですか」

「お前が納得してくれたようで何よりだ」

「納得はしていませんが、この話を続けても意味がないと判断しました」

「――怒ってる?」

今日の天城はご機嫌斜めだな。

俺が天城の様子をうかがっていると、赤い瞳をこちらに向けてきた。

「怒っていません」

「そ、そうか」

天城の口調から、腹を立ててはいないというのは本当らしい。

呆れているだけだろう。

俺としては納得出来ないが、これ以上この話題を続けて天城を怒らせたくもない。

「ともかく、エドの教育方針を変更する。これまで甘やかしすぎたから、今後は少し厳しくする」

エレンが無事に子爵家の惑星を手に入れたら、エドに丸投げして様子を見よう。

あいつがどれだけ失敗したとしても、バンフィールド家には何の影響もないからな。

憐れなのは子爵家の領民たちだけだ。

俺の発言に、今度は天城が首を傾げる。

「少し厳しく、ですか? 惑星一つの統治をさせるのは、今のエドワード様にとって酷だと判断しますが?」

「深く考える必要はない。今後のための練習だ。――子爵家が管理していた惑星だぞ? 荒れ果てようと俺には関係ないからな」

俺は意味ありげに口角を持ち上げて笑みを作った。

天城に向けて「どうだ? 俺は悪徳領主だろ?」というアピールだ。

実際に今回の判断は 顰蹙(ひんしゅく) ものだろう。

領地経営の基礎くらいは教育カプセルで叩き込んだが、実績どころか何の経験も積んでいない子供に惑星一つを任せるのだから。

エド次第だが、一つの判断ミスで大勢が死ぬことになる。

天城が僅かに目を細めていた。

「エドワード様の年齢や立場を考慮すれば、責任が重すぎます」

「俺は五歳の頃から当主をやっていた。――まぁ、俺にはお前がいたけどな」

エドよりも幼い頃からバンフィールド家を仕切ってきたが、俺の場合は天城という裏切らない存在がいた。

これは大きな違いだ。

「エドの奴も、ハーレムを用意するくらいならお前のようなメイドロボを買えばよかったんだ。あの馬鹿息子が」

腕を組んで一人頷くと、天城の視線が険しくなった。

「旦那様の場合は、ハーレムを築くと言って百年以上の時が過ぎましたけどね。エドワード様が健全とは申しませんが、旦那様も人のことは言えませんよ」

未だにハーレムを築かない俺に対して、何か思うところがあるらしい。

だが、俺にだって言い分がある。

「お前とロゼッタがいるからハーレムだ。二人以上は複数であり、ハーレムと言って間違いない」

「私を数に入れてはいけないと、何度も申し上げているのですけどね」

僅かに呆れた顔をする天城だったが、急に無表情になると右耳に手を当てた。

その数秒後に、俺に報告してくる。

「旦那様、そろそろお時間です」

「――わかった」

察した俺は席を立つと、そのままロゼッタのもとに向かった。

ロゼッタの部屋の前には、ブライアンとマリーの姿があった。

二人とも第二子の出産を前にソワソワしており、全く落ち着きがない。

ブライアンは執事であり、バンフィールド家の広大な屋敷を管理する立場だ。

そして、マリーはバンフィールド家を支えてきた騎士である。

そんな二人が落ち着かない様子を見せれば、周囲にも影響が出てしまう。

控えている医師や看護師も落ち着きを失い、使用人たちも緊張していた。

護衛の騎士たちは静かなものだが、内心はどうだろうか?

マリーが扉の前で廊下を何往復もしている。

「あぁ、心配だわ。ロゼッタ様の身に何かあれば、あたくしは――あたくしは――」

そんなマリーを見て、ブライアンは自分の汗を白いハンカチで拭き取りながら言う。

「心配はいりませんぞ、マリー殿。ロゼッタ様の出産は万全を期しておりますからな」

「そう言う執事殿も落ち着いているように見えませんが?」

マリーに言い返されたブライアンが、ハッと驚いてから――本音を漏らす。

「リアム様の第二子が誕生すると思うと落ち着かないのです。何しろ、バンフィールド家が望んでいたのですから」

リアムの跡を継ぐ候補が、エドワード一人というのは心許ない。

星間国家規模ともなれば、誰がいつ、どんな理由で死ぬのかわからないからだ。

戦争は勿論だが、事故だってあり得る。

二人目がいる、というのは大きな安心に繋がるが――バンフィールド家の規模を考えると、まだ足りないくらいだ。

マリーもブライアンの意見に頷いて同意する。

「騎士団の意見も同じですわよ。もっとも、あまりに多すぎればお家騒動の種になりますけどね」

「……一度お家騒動を起こした張本人が言うと、説得力が違いますね」

(あなたがそれを言うのはどうかと思いますぞ)

ブライアンは、内心でマリーにお前が言うな! と思いつつ、ロゼッタがいる部屋の扉に視線を向けた。

すると、騎士たちが一斉に姿勢を正した。

振り返ると、天城を連れたリアムがやって来る。

「リアム様!?」

ブライアンが駆け寄ると、リアムは状況を確認する。

「ロゼッタの様子は?」

「まだ出産中でございます」

「――そうか」

「隣の部屋を控え室にしております。リアム様はそちらに」

「ここでいい。椅子を持ってこい」

廊下に椅子を持ってこいと言って、リアムは廊下にある柱を背にして扉を見ていた。

控え室から椅子を持って来るのは、ナイトナンバーに任命されたマリーだ。

「リアム様、こちらに」

「おう」

ナイトナンバーを小間使いのように扱うリアムだが、マリーの方はお世話が出来て嬉しいという様子だった。

そのまま無言の時間が過ぎていくのだが、リアムの側に立ったマリーがエドワードの件を問い掛ける。

「リアム様、エドワード様の件ですが」

「お前らしいな」

マリーに問われたリアムの表情は、こいつなら聞きたがるだろうな、と理解していたような顔をしていた。

「一部ですが、エドワード様の資質に疑問を持つ愚か者共が騒いでおります」

娯楽施設の件で、エドワードに当主の資質がないと騒ぎ立てる者たちが出始めた。

マリーはそのことを危険視しているのだろう。

「新たに獲得した惑星の統治を任せるのも、廃嫡されるのではないかと邪推しております。あまり放置されては面倒になるかと」

「まぁ、そう言う奴らも出て来るか」

リアムがマリーの意見に耳を傾けていると、ブライアンが険しい表情になる。

マリーに鋭い視線を向けた。

「マリー殿、お家の問題に口を挟むのは騎士として如何なものかと思いますが?」

ブライアンからすれば、バンフィールド家の問題に口を出してほしくない。

しかし、マリーは大袈裟に肩をすくめて見せた。

「ナイトナンバーを与えられた騎士として、お家のことを考えての発言でしてよ」

リアムとロゼッタの息子であるエドワードを支援したい、という思惑が丸見えだった。

ブライアンがリアムに進言する。

「エドワード様の件は、当主であるリアム様の判断が最優先でございます。他の者の意見に左右されてはなりませんぞ」

ブライアンに詰め寄られたリアムは、苦笑して答える。

「あの程度の騒ぎで廃嫡云々騒ぐつもりはない。――だが、俺の意見を無視して廃嫡など騒ぐのも面倒だ。軽はずみな発言はするなと徹底させろ」

リアムの表情が険しくなると、ブライアンもマリーも姿勢を正した。

リアムのおかげで場の空気が引き締まったわけだが、ロゼッタの部屋の扉が開かれたことで雰囲気が変わった。

医師がロゼッタの出産という重圧から解放され、精も根も尽き果てたという顔で言う。

「お、お生まれになりました。母子共に無事でございます」

扉が開かれたことで、中から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

ブライアンは目頭が熱くなった。

リアムに振り返る。

「旦那様、おめでとうございま――あ、あれ!?」

既にリアムは席を立っていた。

天城がブライアンに言う。

「既にロゼッタ様の部屋に入りましたよ」

「速っ!?」

気が付いた時には、リアムはロゼッタの部屋に入っていた。

部屋の中からはリアムとロゼッタの会話が聞こえてくる。

「――大丈夫か?」

不器用なリアムの声を聞いて、ブライアンはハンカチで涙を拭った。

興味のないふりをしていたが、やはり心配だったのだ、と。

「このブライアン、リアム様が成長されて本当に嬉しく思いますぞ。もう、思い残すことは何も――何も――いえ、沢山ありましたな」

帝国との決戦も迫っているし、エドワードの件もある。

バンフィールド家は問題だらけだ。

だが、そばにいた天城は――。

「――本当に大きくなられました」

――嬉しそうにしながらも、どこか寂しそうに呟いていた。

その日、凜鳳と風華は退院の報告もあってバンフィールド家の屋敷に訪れていた。

報告と言っても凜鳳が迷惑をかけたので、改めて謝罪に来たのだが――。

「ち、小さい」

――二人が通された部屋は、ロゼッタの部屋だった。

赤ん坊を抱きかかえているロゼッタを、凜鳳と風華が珍しそうに見ていた。

ロゼッタが二人の様子に微笑んでいる。

「可愛いでしょ? 女の子なの」

風華は側にいたリアムに顔を向けた。

「兄弟子、この子も一閃流の弟子にするのか?」

リアムは娘を前に考え込んでいる。

「才能があったら弟子にしたいが、俺はしばらく教えてやれそうにない」

自分では育てられないと言うリアムに、風華がアピールする。

「だったら俺は? 俺が弟子にしたい!」

産まれたばかりの赤ん坊を弟子にしたいという風華に、リアムは悩ましい顔をしていた。

「それもいいかもな。エレンにこれ以上の負担はかけられないからな」

ロゼッタは苦笑している。

「気が早いわ。それに、剣術に興味があるとは限らないわよ」

それもそうか、と納得した風華は少し残念そうにする。

「兄弟子の子なら才能があると思うんだけどなぁ」

三人があれこれ話をしている中、凜鳳は赤ん坊に手を伸ばして――触れられずにいた。

血で汚れた手で触ってはいけない、という気持ちがあったからだ。

(僕が触ったら駄目だよね。あ~あ、赤ん坊なんて見ない方がよかった。こういうのを見ていると、剣士としての覚悟が鈍っちゃうよ)

手を引っ込めようとすると――小さな手が凜鳳の指を掴む。

偶然だったのかもしれない。

「え? あ、あれ?」

だが、それが凜鳳にはとても運命的な気がしてならなかった。

何故か「この子に剣を教えるのは自分の役目だ」という気がしてならない。

戸惑っている凜鳳を見て、ロゼッタが優しく微笑む。

「この子は凜鳳ちゃんが気に入ったのかしら?」

「ぼ、僕に!?」

どうしたらいいのか困っていると、リアムが凜鳳と赤ん坊を交互に見て――それから、風華に言う。

「もしも一閃流に興味を示したら、この子は凜鳳の弟子になるかもしれないな」

リアムも直感めいたものが働いたのだろう。

それは風華も同じだったようだ。

「先に弟子を持つのは凜鳳かよ。あ~あ、俺も弟子がほしいな~」

残念そうにしながらも、凜鳳に弟子候補が誕生したのを喜んでもいるようだ。

凜鳳は唇を噛みしめる。

「駄目だよ。僕の剣はこの子に似合わない。それに――いつ暴走するかわからない僕が、弟子なんて持てないよ」

リアムたちとは違う道に進んでしまった自分の剣は、この子には相応しくない、と凜鳳は弟子にするのを拒む。

そんな凜鳳の肩にリアムが手を置いた。

「この子が育つまでに鍛えればいい。そのためなら手伝ってやる」

風華も凜鳳の背中に手を当てる。

「そうなると、あと五年くらいしか時間がないよな? 俺も手伝ってやるから、一緒に頑張ろうぜ」

「ふ、風華?」

凜鳳は赤ん坊の顔を食い入るように見つめる。

「――この子の名前は?」

尋ねると、ロゼッタが優しい声色で教えてくれる。

「アイナ――藍那よ。ダーリンが考えてくれたの」

凜鳳は藍那に向かって言う。

「――藍那、一閃流に興味が出たら僕が色々と教えるよ。まだ頼りない僕だけど、必ず立派な師匠になるから。だから――もう少しだけ待っていてね」

気が付いたら凜鳳は涙を流していた。

それを握られた手とは反対側の手で拭っていると、風華がリアムと話をしていた。

「漢字? エドワードとは違うのな」

「――反省して今回は漢字にしたんだよ」

何を反省したのか知らないが、凜鳳にはどうでもよかった。

「藍那、元気に育ちなよ。将来君は、僕の一番弟子になるかもしれないんだから」