軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

妹として

(一番古い記憶は路地裏で、一人寂しく寒さに震えているものだった)

一閃を放つ刹那、凜鳳は自分の過去を振り返る。

物心が付いた頃には、凜鳳は捨てられており両親の顔を知らなかった。

寂しくて辛くて、それでも死にたくないともがいていた。

(路地裏で暮らしていた大人たちには邪険にされたな)

路地裏を縄張りにするホームレスの大人たちは、自分たちの食糧が減るからと凜鳳たち子供に辛く当たっていた。

バンフィールド家の惑星とは違って、凜鳳たちが生まれた星は領民たちに酷く厳しかった。

皆が生きるために必死であり、捨てられた子供に同情する余裕などなかったのだろう。

(僕も生きるのに必死で――でも、寂しかったな)

そんな時に出会ったのが風華だ。

あの頃は互いに名前もなかった。

(あの泣き虫、動かないと死ぬって教えたのに泣き続けてさ。僕がいないと何も出来なかったのに、いつの間にか先に進むんだから嫌になるよ)

路地裏で生き残る術を風華に教えたのは凜鳳だった。

泣き虫で頼りない風華を見捨てられず、凜鳳は姉のように面倒を見ていた。

口では面倒だと言ってはいたが、本当は嬉しかった。

(二人になった時は――嬉しかったな。もう一人寂しく震える夜を過ごさなくていいと思ったら、空腹も我慢できたっけ)

少ない食べ物を二人で分けて食いつなぐ日々だった。

おかげで空腹だったが、寂しくはなかった。

(その後、師匠に拾われて――兄弟子もいるって教えられた。僕は一人じゃないって思えて嬉しかった。――家族がいるって思えたから)

そうして安士と出会い、育てられて家族の温かさを知った。

他にも兄弟子がいると聞かされ、自分には兄がいるのかと驚きもした。

路地裏で育ったために粗暴な言動は最後まで改められなかったが、本当は嬉しかった。

(そうか。僕は家族がほしかったのか)

強くなりたいと願い続けてきた凜鳳は、この刹那の瞬間に自分の本心に気が付く。

心の奥底に押し込めた本心に気が付くと、どうして自分が闇に堕ちてしまったのか察してしまう。

(寂しいのが怖くて、だから必死に家族を求めた――欲しがるばかりの僕は、兄弟子たちみたいに与える側に回れない)

闇を扱う自分と違い、リアムたちは光を操る。

貪欲に強さを――家族を求めた凜鳳には、そもそも与えるという考えがなかった。

本質と言ってもいい。

凜鳳は満たされないのに、求め続ける性だった。

対するリアムの持つ刀の刃には、小さな黄金の粒子が集まっているように見えた。

凜鳳の瞳にはリアムの本当の姿が見えていた。

(兄弟子――やっぱり綺麗だな。醜い僕とは大違いだ)

黄金の粒子がリアムの周囲に溢れ、輝きを放っていた。

安易に力を求めて闇に堕ちた自分とは違い、辛く苦しい道を進んで手に入れた正道を歩むリアムの姿に見惚れる。

最初から凜鳳はリアムに負けると思っていた。

(醜い僕は家族に必要ない。でも、ならせめて――兄弟子の糧になれれば)

視線が一瞬だけ恐怖に震えるエドワードに向けられた。

(ちゃんとその目に焼き付けろよ。恵まれたお前は、家族が素晴らしいって知るべきだ)

一閃流としては甥っ子のようなエドワードに、凜鳳はリアムの存在を見せ付けてやろうとしていた。

凜鳳が全力の一閃を放つと、リアムも一閃を放つ。

周囲を吹き飛ばすような威力を持つ凜鳳の一閃だが、対象を切断する前にリアムの一閃に打ち砕かれてしまった。

そのままリアムの一閃は凜鳳を斬り飛ばした。

胴体を斬り裂かれた凜鳳は、自分の体から血が噴き出すのを見ながらその場に崩れ落ちた。

その時の表情は満ち足りたものだった。

(兄弟子――何で悲しそうな顔をしているのさ。そこは僕を蔑むべきだろうに。――本当に甘すぎるよ――お兄ちゃん)

凜鳳を見るリアムの表情は、悩ましいような、それでいて心配するような顔をしていた。

凜鳳がその場に崩れ落ちると、俺は歩み寄って抱きかかえた。

「――どうして勝てないと知りながら挑んだ?」

問い掛けると、凜鳳は血を吐きながら答える。

「別にどうでもいいだろ? 挑むなら強い奴の方が面白いからだよ」

「嘘を吐け」

凜鳳が何を思って俺に挑んだのか正確にはわからない。

だが、予想くらいは付く。

「エドのためか? 一閃を放つ際に視線がそちらを見ていたぞ」

凜鳳は苦しそうに笑っていた。

どうやら、正直に話してくれる気になったらしい。

「――やっぱり駄目だね。気が散ってしまったみたいだ」

「どうしてこんなことをした?」

「別にエドワードのためじゃないよ。僕は弱い奴が嫌いだからね。でもさ――兄弟子のためになるかなって」

エドに一閃流の役目を自覚させるために、わざわざ俺に勝負を挑んだのか?

「馬鹿なことをする」

「堕ちた僕には丁度いい役目でしょ。――ねぇ、兄弟子。僕はみんなの役に立てたかな?」

左手で俺の服を握りしめてくる凜鳳は、もう覚悟を決めているようだ。

手加減して一閃を放ったため、凜鳳は治療が間に合う状態だ。

しかし、本人はここで終わるのを望んでいた。

一閃流の剣士として、自分の役目は終わったと判断したのだろう。

「――あぁ」

死ぬなと言うのは簡単だが、それは一人前の剣士である凜鳳の覚悟を汚す行為だ。

人外の化け物を屠る俺たちが、その化け物側に堕ちては意味がない。

今の凜鳳は、一閃流にとって敵だ。

最悪の裏切り行為をしたわけだ。

思い悩む俺を見て、凜鳳が口角を上げた。

「別に気にしなくていいよ。ここに来る前に風華とやりあって、本気で殺そうとしたんだ。安幸に止められなかったら、多分殺していたかな? だから、兄弟子に止めてもらって助かったよ」

姉妹を殺そうとしたのは、闇に堕ちた影響だろう。

このまま放置すれば、凜鳳はファラバルと同じ存在に成ってしまう。

本来は俺の手で止めを刺すべきだ。

凜鳳もそれを望んでいた。

「悪いけど、苦しいから止めを刺してくれないかな? 兄弟子なら、楽に殺してくれそうで安心だよ」

「――お前は本当に手間のかかる妹だよ」

妹と呼んでやると、凜鳳が涙を流した。

「へへ、兄弟子にそう言われるなんて嬉しいな」

エレンの刀で止めを刺そうとすると、俺の腕が止まる。

こんな時に情が出て躊躇ってしまった。

すぐに凜鳳を楽にしてやろうと思っていると――瓦礫の中を歩いて現われるのは、安幸君に連れられてやって来た師匠だった。

「し、師匠」

俺がそちらに顔を向けると、包帯だらけの風華の姿もあった。

凜鳳が狼狽する。

「あ、ああっ!?」

今の自分を師匠に見られたくなかったのか、凜鳳は涙を流して俺の後ろに隠れようとしていた。

情けないその姿に、俺は下唇を噛みしめて――師匠の前で土下座をした。

「師匠! 凜鳳の面倒は俺が見ます。だから――どうか、この場は見逃してもらえないでしょうか! 何卒!」

一閃流の役割を放棄するような俺の申し出に、凜鳳が驚いていた。

「あ、兄弟子? や、止めてよ。そんなことしないでよ。僕は――ここで死んだ方がいいんだ。じゃないと、家族に迷惑がかかるから」

泣き出す凜鳳に、風華が歩み寄ってくる。

そして、俺の隣に来ると――そのまま土下座をする。

「頼むよ、師匠。俺からもお願いだ。凜鳳を――大事な姉妹を失いたくないんだよ」

風華が泣いて凜鳳の助命を嘆願すると、師匠は腕を組んで目を閉じていた。

その横で安幸君が必死に事情を説明している。

きっと凜鳳を助けたいのだろう。

「父上、あのですね。凜鳳姉さんは闇? に堕ちたみたいです。一閃流の剣士としては駄目な行為だったそうですが、お二人は凜鳳姉さんの面倒を見るので助命してほしいと願っているわけでして。えっと――人外の化け物でしたか? 凜鳳姉さんはそちら側なので、一閃流としては討たなければならないんですよね?」

たどたどしい説明になっているが、一閃流を学んでいない安幸君から見れば理解できないことも多いのだろう。

師匠は腕を組んだまま目を閉じていた。

安士は息子の説明を聞いて焦っていた。

(ここに来るまでに爆発とか花火とか色々とあったが、まさかその中心がこいつらだとは思わなかった。そもそも、剣術で周囲を吹き飛ばすとか何なの? 俺からすればお前たち全員が人外だよ!! みんな揃って化け物だよ!!)

安幸の説明に感謝しつつ、安士はこの場を乗り切る方法を考える。

(そもそも闇って何? 今頃になって成長期途中の痛い時期が来たの? 俺も色々とやらかしたけど、お前たちほど周囲に迷惑はかけていないからな!)

いわゆる厨二病を患っていた安士は、過去の自分を振り返って恥ずかしくなってくる。

今の凜鳳を見ていると、その頃の自分を見せ付けられているようで痛かった。

というか、胴体を深く斬り裂かれているので痛々しい。

傷を見るのが怖くて目を閉じていた。

(そもそも、どうして俺が凜鳳を殺す前提なの? 人外の化け物? そういえば前にそういう話をしたけどさ。そっち側になったとか意味不明だよ)

混乱する安士は、とりあえずシンプルに考えることにした。

(落ち着け、安士。俺は口先でピンチを乗り越えてきた男だろ)

その口先で後戻りできない今の状況に陥っているので、乗り越えたとは言えない。

ギリギリの綱渡りを繰り返す羽目になったので、失敗だろう。

(リアムと風華は、凜鳳を殺すしかないと考えている。だが、二人に凜鳳を殺させるとどうなる? 口では取り繕っても関係は悪化するよな?)

ここで凜鳳を殺せというのが、一閃流としては正しいのだろう。

しかし、それをさせたら人間関係に問題が出るのではないか? 安士は当然の疑問を考慮していた。

(殺させないのが穏便だが、問題はこいつらが納得するかどうかだ。俺が軽いノリでいいんじゃない? と言えば、俺の言動を疑うかもしれない。ここはいかにして、それっぽい雰囲気で乗り切るかが重要だな)

リアムたちが納得する理由が必要だろう。

安士はいかにして、リアムたちを丸め込むかを考え――結論を出した。

目を開けて空を見上げる。

「闇……いいではないか」

安士の反応にリアムと風華が困惑していた。

「よ、よろしいのですか?」

「師匠が許してくれるなら嬉しいけどさ。でも、凜鳳は――」

闇とか人外とか、安士にはどうでもいい話だ。

いかに軟着陸させるかが重要なのである。

安士は顔を怯えている凜鳳に向けた。

「強い光があるからこそ、濃い影が差す。その逆もしかり。両者は敵対しているのではなく、共存する関係でもあるのだ」

風華が首を傾げる。

「え? 共存するなら、人外の化け物たちも倒さなくていいんじゃないの?」

素直な質問に安士は焦りながらも、それを悟らせないように返答する。

「共存するのは難しいのだ。闇は光を滅ぼそうと躍起となっている。だが、我らとて敵を滅ぼすばかりでは同じ事ではないか? 互いに手を取り、歩めるならそれに越したことはない」

安士の発言をリアムが好意的に解釈する。

「戦うばかりでなく、共存の道も模索する――素晴らしいお考えです!」

「うむ!」

(よし、うまく騙されてくれたな!)

しかし、凜鳳の方は納得していなかった。

「で、でも、僕は風華を殺そうとした。このままだと自分を保てなくなって、いつか家族にだって手を出すし」

安士は内心で呆れ果てる。

(どうせ数年もしない内に、今の言動を後悔する日が来るさ)

凜鳳の反応をどこまでも厨二病と捉える安士だった。

(いっそここで調子を合わせて、正気に戻った時にからかってやろうか? あの頃は話を合わせてやった~的な?)

安士とは小さい男である。

将来の話のタネに、凜鳳をからかうことにした。

「凜鳳、お前は闇に堕ちたのではない。闇を操る一閃流の剣士になったのだ。今後の修行では精神力を中心に鍛えなさい。闇に飲まれず、その力を操る術を得た時こそ次の段階に進めるのだ」

(自分で言っていて恥ずかしくなってきたな)

過去の自分を思い出し、身悶えしたくなった安士はリアムたちに背を向けて歩き出す。

「それよりも早く治療を済ませて家に戻りなさい。拙者は先に戻っているぞ」

(おそらく妻が不機嫌になっているだろうし、一人で相手にしたくないんだよ)

ギャンブルで大負けした安士は、一人でニナの相手をしたくなかっただけだ。

ただ、戻ってこいと言われた凜鳳は大泣きする。

「う、うん。僕は絶対に帰るよ。師匠の家に帰るから!」

風華も泣きじゃくっていた。

「よかったな、凜鳳!」

風華は力の限り、凜鳳に抱きついた。

「や、止めろ。抱きつくな――臓物が飛び出る!?」