軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

邪道

バンフィールド家の領地に近しい場所にある惑星。

そこを支配する子爵家は、バンフィールド家とは敵対関係にあった。

だが、征伐軍が敗北したとあって、家中は荒れに荒れていた。

「バンフィールド公爵に敵対するべきではなかったのだ!」

「今更それを言うのか? 征伐軍に協力すると満場一致で可決した後だぞ」

「そもそも、六百万の大軍勢が敗北するなど誰に予想できた?」

騎士や軍人、そして官僚たちの会議を聞いていた子爵は覇気のない顔をしていた。

帝国貴族としてバンフィールド家に協力することはあり得ない。

だが、積極的にクレオに支援する気もなかった。

嵐が通り過ぎるのを待つように、大人しくしていたのが子爵だ。

「征伐軍には随分と物資を融通してやったが、この結果とは実に情けない限りだ。リアムのいないクレオ殿下はこの程度ということか」

子爵の言葉に、周囲が恐れ多いと静かになった。

「皇太子殿下に対してあまりにも無礼すぎます。領主様、発言にはお気を付けください」

騎士が注意してくるが、子爵は鼻で笑う。

「大敗したクレオに次があるとは思えない。今頃は首都星で次の皇太子を選んでいる最中ではないかな?」

首都星の情報など得ていないのに、自分の頭の中で出した結論が正しいと今後を予想していた。

「帝国はしばらく混乱するだろうな。そうなれば、バンフィールド家が動き出して私の惑星にも手を伸ばすかもしれない」

実際に精力的に動いており、ナイトナンバーの「5」を得たクリスティアナが獅子奮迅の活躍で敵対した周辺領主たちを滅ぼしていた。

自分たちの惑星が狙われてもおかしくはない。

子爵は小さくため息を吐いた。

「ここはしばらくバンフィールド家に従い、帝国が力を取り戻した後に情報を流して協力するとしよう」

子爵の発案に会議に出ていた者たちが唖然としていた。

一人の騎士がすぐにその考えを改めるよう進言する。

「最後に裏切ると? その策は領主様の信用を落とします」

「信用よりも生き残るのが優先だ。それに、リアムとて余力は少ないはずだ。子爵家を無傷で従えられるのなら、受け入れるしかあるまい」

征伐軍との激戦の後である。

多少問題があったとしても、自分たちを受け入れるしかない、と。

子爵が命令を出す。

「すぐに使者を出せ。バンフィールド家が欲しがる物資も届けてやれば、話くらいは聞いてもらえるはずだ。まずはそこから――」

段階を踏んで懐に潜り込む――そんな作戦だったのだが、実行されることはなかった。

会議室の大きな両開きのドアが斬り刻まれ、破片が室内に散らばった。

子爵の前に騎士たちが飛び出し、武器を構えた。

「何事か!」

一人の騎士がそう言うと、子爵は会議室の惨状に眉をひそめる。

破片で怪我をした官僚たち。

軍人たちも無傷ではない。

騎士や、騎士に守られた子爵は無事だったのだが――侵入者を見てゾッとした。

「お前は――確か一閃流の!?」

バンフィールド領に近いため、子爵もそれなりに情報収集はしていた。

だが、それはあくまでも表面的な情報ばかりだ。

その中には一閃流の剣士に関わる情報もあった。

鞘を捨てて抜いた刀を担いで現われたのは、禍々しい雰囲気をまとっている凜鳳だった。

薄らと笑いながら現われた凜鳳に、騎士たちがガタガタと震え出す。

「ば、化け物――」

一瞬にして格の違いを理解させられたのか、何人かの騎士が武器を捨ててしまった。

子爵の側にいる騎士が、部下たちの不甲斐ない行動に険しい表情を見せた。

「馬鹿共が」

だが、次の瞬間には――武器を捨てた部下たちから血しぶきを上げて斬り刻まれて吹き飛ばされた。

「なっ!?」

一瞬の出来事に全員が目を丸くしていると、ニヤニヤした凜鳳がカツカツと音を立てながら子爵に近付いてくる。

「――お前は僕の敵だよね?」

最初に子爵が思ったのは「こいつは何を言っているのか?」だった。

リアムが自分に妹弟子を刺客として送り込んできたと思った。

子爵はその時の立場で敵味方などいくらでも変化すると考えており、短絡的な思考の持ち主が嫌いだった。

「確かに以前は敵だったが、今の我々はバンフィールド家に従う準備をしていた。簡単に言えば敵ではないよ」

凜鳳は子爵の言い訳を聞くと、少し考える素振りを見せた後に――ニヤッと笑みを浮かべた。

その後に子爵以外の全員に一閃を放って殺害し、会議室を血で染め上げた。

その際の凜鳳だが、少しも刀を振るう素振りを見せなかった。

子爵の体には、側にいた騎士たちの返り血がかかる。

「な、何故だ!? 私はもう敵ではないのだぞ!!」

凜鳳は鼻歌を歌いながら地面を蹴って跳んだ。

子爵との間には数十メートル以上もあったが、跳んで距離を詰める。

そのまま子爵の首に刃を押し当てた。

「どっちでもいいんだよ」

小難しいことなど関係ないと言って、凜鳳は子爵の首を斬り飛ばした。

小型宇宙船に乗って子爵の惑星を脱出した凜鳳は、船内で服を脱ぎ捨てて自分の愛刀を抱き締めていた。

体のあちこちに包帯を巻いた姿をしていた。

「今回もつまらなかったな」

ハイドラを飛び出し、そして敵地の惑星に飛び込んでは貴族の首を斬り落としてきた。

多くの軍人や騎士と戦い、自分の刀で斬り捨ててきた。

しかし、今の凜鳳はこれまでにない充実感を得ていた。

「でも、今が一番幸せかな。とても自分らしくいられる」

これまで目を背けて生きてきた。

「師匠たちには悪いけど、僕はこういう生き方しか出来ないみたいだ」

リアムたちが日の当たる場所の住人ならば、自分は日陰側で生きる人間だと凜鳳は理解してしまった。

チェンシーに諭された際は受け入れきれなかった。

しかし、受け入れてからは早かった。

凜鳳は自分の左手を見る。

目に見えるのは紫色のオーラのような何か。

リアムたちのように光の粒子が集まるのではなく、ドロドロした負のエネルギーを操っていた。

――日に日に力が増してくるのが、凜鳳にも感じ取れていた。

「僕には僕の生き方があった。師匠たちとは一緒に歩けないけど――強くなるのはいいよね。このままどこまでも強くなれそう」

禍々しい雰囲気をまとい、凜鳳は口を三日月の形にして笑った。

「邪道だろうと僕の道だ。僕はこのまま強くなってみせる。――そのためならどこまでも堕ちて、戦い続けてやるさ」

凜鳳は、リアムたちとは違う道を歩み出した。

惑星ハイドラのお屋敷近くに、取り壊しが進められている建物があった。

新しいオーナーが視察に来ているのだが、設計図を持った作業者が顔を強張らせている。

「ほ、本当によろしいのですか? 予定している施設ですが、この区画では許可が下りない類いのものですよ」

オーナーは幼い子供であり、派手な格好で飴を舐めていた。

サングラスを外した子供が現場責任者に言う。

「この僕が許可を出すんだ。父上だって否定なんかするものか」

オーナーはエドワードだった。

現場責任者が視線をさまよわせる。

「一応、政庁に確認をさせてください」

そんな現場責任者の意見を聞いたエドワードは、周囲にいた強面の護衛たちにアゴで合図を送った。

黒服の護衛たちが、現場責任者を抱えて連れて行く。

「待ってください!! どこに連れて行くんですか!?」

連れ去られていく現場責任者を見ながら、エドワードは言う。

「僕の機嫌を損ねた罰だ。特注の拷問器具を味合わせてやる。母上のグリグリを再現した特別製だぞ」

現場責任者がトラックに運ばれると、そこで椅子に座らされて頭部に人の拳をもした道具を両サイドから押し当てられた。

そのまま拳が回転して――。

「止めてぇぇぇ!!」

――現場責任者の悲痛な声が響き渡った。

作業員たちが何とも言えない表情をして、エドワードを見ていた。

エドワードは言う。

「僕に逆らったらグリグリの刑だ。お前たちはさっさと僕の考えた遊園地を完成させろ」

エドワードが屋敷の近くに用意しようとしたのは遊園地だった。

エドワードの取り巻きである子供たちが、楽しそうにしている。

「近くに遊園地が出来るなんて最高ですね、エドワード様!」

取り巻きのお世辞に、エドワードも気をよくしていた。

「ゲームセンターも用意するぞ。最新のゲームを沢山用意させる」

「流石はエドワード様!」

周囲が持ち上げる中、少し離れた位置にいたナタが遊園地の建設に待ったをかける。

「エドワード様、遊園地の類いはお屋敷にもございます。そちらで遊ばれた方がよろしいのではありませんか?」

当然の話をすると、エドワードはため息を吐いて首を横に振る。

「お前は何も理解していないな」

「そうでしょうか?」

「そうだ。屋敷の外に遊び場を用意すれば、領民との交流の場になるだろう?」

領民との交流――いずれは必要になるだろうが、今ではないとナタが否定する。

「あまりにも危険すぎます」

「大丈夫だ。交流する際は身分を隠して遊ぶからな。その方が、ナンパをするのも楽しそうだ」

エドワードが女性に対して積極的であるのはいいことだ、と思いながらもナタは先行きを不安に思うのだった。

バンフィールド家の屋敷では、朝食は家族一緒という取り決めがあった。

昼は夜には会食などがある場合も多く、家族で顔を合わせられる数少ない機会なので是非とも実現してほしい――というロゼッタの希望を叶えた結果だ。

そういうわけで朝食を摂る部屋に来たのだが、席に着いているのはロゼッタだけだった。

ロゼッタがお腹を抱き締めながら悲しそうにしていた。

「――ダーリン、エドが屋敷の外で朝食を食べると連絡が来たわ」

ロゼッタの言い方からするに、護衛の誰かが連絡してきたのだろう。

俺は席に着く。

鍛練を終えて汗を流し、腹も減っていたので食事を優先する。

「あいつもついに朝帰りをするようになったのか。時が経つのは早いな」

遊び呆けていられるのも短い間だけ――いや、この世界だったら十分に長いけども。

俺の反応には、朝食の場に控えていたブライアンも呆れていた。

「朝になっても戻られておりません。そもそも、リアム様の場合、もう少しエドワード様に厳しく接するべきではありませんか?」

厳しくしろと言われても、年齢的には高校生とかそれくらいだろ?

色々と無茶をしたい年頃ではないか。

周りに護衛もいるし、何を心配する必要があるのか?

「俺がエドと同じくらいの年齢の時は似たようなものだった」

俺の発言にロゼッタが驚く。

「そう、だったの? ダーリンってばワイルドだったのね」

ロゼッタは何故か嬉しそうにしていた。

「どこに喜ぶ要素がある? とにかく、エドは自由にさせてやれ。いずれは遊びたくても遊べなくなる」

ロゼッタも俺の言葉を受け入れたような顔をするが――天城とブライアンがヒソヒソと話をしていた。

「旦那様が今のエドワード様の年齢の頃、朝帰りをされた記録はありません」

「それどころか、リアム様は品行方正を絵に描いたような生活を送っておられましたな。このブライアンはもう少し遊んでほしいと、心配しておりました」

――俺が遊ばなかったのは、遊んでいる暇がなかったからだろうが!

だが、エドワードは違う。

遊べるなら遊んだ方がいいのだ。

俺が二人の話し声を故意に無視して食事を始めると、ロゼッタが天城に助けを求める視線を送っていた。

天城が俺に近付いてくる。

「旦那様」

「何だ? エドの話ならしばらくは遊ばせておけばいいと何度も――」

「そのエドワード様ですが、領内の法を破って違法建造物を用意しておりますよ。領民も遊べる施設を用意し、朝から晩まで入り浸って遊んでおります」

「――な、何?」

エドワードが俺の法を破った? それは少し叱らないと駄目か、と思っていたところにブライアンがぶち込んでくる。

「加えて、リアム様が長年築けなかったハーレムも手に入れたそうですぞ」

俺が長年築けなかったハーレムを、エドが築いた?

つまり、美女に囲まれているわけか?

エドが? まだ子供なのに?

いや、大人か? そうか――大人なのか? 姿は子供だよな?

それなのにハーレム? 俺だって天城とロゼッタしかないのに、エドワードがハーレム!?

俺は食事を中断して席を立った。

「エドワードォォォ!!」